探偵集合
――あなたは誰?
真っ暗な空間。そのなかに一人の男と一人の少女が立っていた。
『君を救う者だよ』
男は答えた。
――何でここに来たの。
少女が聞いた。
『君を、見つけるため』
男がそう答えた瞬間、空気が変わった。
――そう、あなたが。……じゃあ、死んでくれる?
彼女はそう言って、俺の胸にナイフを突き立てた。
――ああ、あなたはまだ運命の人にはなれない。またいつか、別の場所で会いましょう。
そう言って笑う、。否、恐らく笑っているであろう少女の顔は、まだ見えない。
――――――――――
「……うあぁぁぁっ!」
朝。いや、朝というには少し早い時間の午前4時頃に、今年で齢26の男、冴島 尚孝は自分の悲鳴と共に目覚めた。
「すうぅぅ……、はー」
呼吸を整える。少しでも気分を変えようと思い、冴島はベランダに出た。マンションの5階のベランダには、心地よい初夏の風が舞っていた。
「……今回の依頼は時間がかかりそうだな」
冴島は2時間ほどすると、そうこぼしながら、部屋に戻る。
冴島は5年前に一人で冴島探偵事務所を立ち上げ、探偵をしている。冴島の家は事務所そのものなのだが、いまは捜査依頼があるため、探偵仲間の家を借りていた。
「まったく、こんな写真一枚でどうやって探せと言うんだ」
「あんたの方もあんまり成果はないようね」
「なんだ、いたのか明美」
「いや、あんたさっき扉の音聞いてこっち見たでしょうが!」
「まあまあ、そうカッカッするな。……そういえば――」
冴島と話す女性。本名、花笠 明美、26歳。どうやら食料の買い出しから帰って来たらしい彼女は冴島の幼馴染み兼探偵仲間である。冴島は、花笠に惚れていた。実は花笠も冴島に惚れていたのだが、今はこの事はどうでもいいだろう。
「三人はどうした」
「心配しなくてもちゃんと無事に集まってるわよ」
「別に心配なんかしてないさ」
そう言うと、声が聞こえた。
「心配ぐらいしてくれよ尚孝!」
「そうだよ冴島さん、いくら中谷さんが刺されても死なない人だからって、可哀想ですよ」
「そうだよ尚孝君、可哀想だよー」
「いや、俺もさすがに刺されたら死ぬわ!」
コントを始めた探偵三人組。いじられ役の26歳、このマンションの持ち主の中谷 謙二。フォローしつつも中谷をいじる23歳、性格が真面目な山神 滝人。その滝人に便乗する21歳、滝人の妹の山神 琴音。
中谷は冴島の古くからの友人の好で、あとの二人、山神兄妹は最近作成した探偵募集の張り紙を見て、探偵をしてくれている。
「それはそうと、おかえり三人とも」
「ああただいま」
「ただいまです。冴島さん、花笠さん」
「ただいまー」
そう三人ともが返事をして、各々の席に座る。
「さあ」
冴島は4人の顔を見渡した。そして
「依頼会議を始めようか」
会議開始の合図をした。