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静かが好きな結界使い  作者: 蒼色
三章 氷精霊と魔法剣士
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焚火と細氷の記憶

大変遅れてすみません。とりあえず受験は済みましたので、週一回のペースには戻せるかなと思います。

来月から、活動報告に予定を載せるので、そちらのほうもよろしくお願いします。

「あ、名前を聞くなら先に名乗らないと、僕はレイ。君は?」


「...。フーラ。」


寒さでかじかんで動かなかった口が動くのを確認した後、私は彼の質問に答えた。

パチパチと焚火の音が静寂を少しの間だけ支配したのもつかの間に彼が口を開いた。


「フーラかいい名前だね。」


それがお世辞かどうかはわからなかったけれど、今まで言われたことのなかった言葉に心を躍らせつつも、無表情を保ちつつ言葉を返した。


「ありがと、えっと、ここは?」


どこかの洞穴とでもいうべき場所で、その入り口にはさっきまでちらちらと雪が舞っていただけなのに、今では吹雪いていた。なのに、寒さは微塵も感じないことに私は疑問を抱いた。


「んーと、リーラス山といえばいいのかな?それとも、家から少し離れた洞穴?」


リーラス山、本でしか見たことのない場所、当然ではあるが。


「あと、寒くない?一応けっ、じゃない、魔法であんまり寒くならないようにして焚火で暖をとったけど」


何かごまかそうとしたのはわかったけれど、せっかく助けてくれた相手にそれを追求するのは無粋だと思い、あえて無視することにした。


「ん、大丈夫。」


「そっか、ならよかった。」


そこからまた、焚火の音がこの場を支配する。だけど、その温かさとうるさくない程度の音は私の心に安心と落ち着きをもたらした。


少年は先程から何か作業をしているようで、私からは話しかけ難く、もう一度眠ってしまおうかと思い始めたときに作業を終えたのか少年が振り返った。


「そういえば、どうしてこんなところに来たの?上着の下の服装を見る限り、それなりの町に住んでいるみ たいだけど、あ!いやなら言わなくてもいいよ。」


確かにリーラス山は私たちが住んでいる町からはちょっとやそっとの距離ではなく、馬車でも最低一か月はかかるほど遠い場所だ。ミルにつれてこられたことをいうべきか少し迷ったけど、この少年がどんな反応をするかがなんとなく気になってミルの名前は伏せながらそのことを話した。


「それは...。大変だったね。家につけば何か暖かいものでもごちそうするよ。」


親身になって聞いてくれた彼には嘘ではないけれど、少し申し訳ないような気もした。けれど、それは私にとっては何よりも有り難くて、暖かかった。


「ねえ、もうしかしてその師匠っていうのはミルさん?」


「!?...。どうしてわかったの?」


「今朝、お母さんが客人が来るから薪割りしてきてって言われて、その客人がミルさんっていう名前だった からその人かな?って思ったんだ。」


あの自分勝手なミルが連絡してから動くとは思わなかった。私は意外なミルの行動に驚きつつも、客人がくるなら、何故彼がここにいるのかが気になった。私の時間の感覚が正しければちょうどお昼ごろのはずだ。


「もう薪は渡したの?もうすぐお昼のはずだけど...。」


「ミルさんには申し訳ないけど、暖炉の薪はあきらめてもらうしかないかな...。」


少年は苦笑いを浮かべながら、答えになっていないような言葉を返してきた。


「...もしかして、それが?」


「うん...。君のお師匠様には申し訳ないけどね。」


嘘がばれた子供のような笑みを浮かべた彼は少し清々しいようにも見えた。


「ありがと。」


誰かよりも優先されることのなかった私に、優先されるのいうことは弟が生まれて以来初めてだった。別に優越感を抱けたことによる嬉しさではなく、一人の人間として見てくれたことへの嬉しさだ。


「お、お礼なんていいよ!ほら、人助けは大事でしょ?」


照れているのか、そっぽを向きながら早口な彼。


「ふふ。」


自分でも自然すぎて気づかなかった笑い。彼のほうを見ると彼も笑っていた。そのあとは、お互いに夢中になって話をした。お互いの故郷のことだとか、好きなこと、好きな食べ物、最近の出来事。話題は次から次へと移り変わり、友達と話をするというのはなんて楽しいのだろう。


夢中に話をするうちに、焚火に使っていった薪は底をつきかけていた。


「んー、やっぱり大した量は集めれてなかったな~。」


「吹雪が止むまでは持つ?」


「ええと、温度を保つだけならある程度は大丈夫なんだけど、暖を取っておかないとフーラが危ないかなっ ておもってさ。もしかして、余計なお世話だった?」


心配そうに聞く私に彼は私のために焚火で暖を取ってくれていたことを話した。吹雪の風がほとんど入ってこないのは彼が何らかの方法で吹雪を防いでいるのだろう。だけど、そんなことをして彼の魔力が持つのかが私には心配だった。


「魔力は大丈夫なの?」


「魔力?ああ、そっちは十分に持つから気にしなくていいよ。」


私の心配は気鬱だったようで、彼は表情を変えることなく答えた。


「それにしても...。今回の吹雪は珍しく長いな。」


彼はふっとつぶやいた。


「長いと何かダメなの?」


「え?だって、君みたいな女の子をこんなところにずっと居させておくにはいかないでしょ。」


なんだか、少し顔が熱くなったのを感じた。


「え、あ、う、うん。」


自分でも、分かるぐらいしどろもどろになった。


「心配しなくてもいいよ。勘だけど、あと数分もすれば止むはずだから、現に勢いは減っているからね。」


私の顔が赤くなっていることは焚火を挟んで会話していたからか、気づかれずに済んだ。私は心の中で、焚火に感謝した。焚火はどういたしましてと答える代わりに、一層熱くなったような気がした。














「やっと止んだね~。」


「ん。」


猛威を振るっていた吹雪が止み、私たちは洞穴から抜け出した。天気は晴天だった。


「この天気ならあれが見れるかな?」


彼はしきりにあたりを見渡すと何かを見つけたのか急に駆け出した。


「来て!」


彼の興奮具合に私は疑問を抱きつつも、おとなしくついていった。そして、見晴らしのよさそうな場所まで来た彼は私のほうを振り返った。私は慣れない雪の積もった場所の移動に四苦八苦しながら、懸命に彼の姿を追いかけていた。彼の姿は遠かったため表情はわかりにくくはあったが気まずそうにしていた。


彼はゆっくりと来る私にしびれを切らしたのか雪のことなんて意に介していないかのようにスムーズに私のほうに来ると、私の手を握ってまた駆け出した。自分でも信じられないぐらいスムーズに走れたのは今でも覚えている。


だけど、その時の私は握られた手のことで頭がいっぱいだった。それは最近読む本の傾向が恋愛系だったことも関係していたのかもしれない。またもや顔が熱くなるのを感じた私はそれを隠すように下を向いていたため、彼が私を連れて行こうとしているところが何かに気づかなかった。


「見て!」


その声に私は反射的に顔を上げる。


そこに広がっていたのは、幻想的な光景だった。


何かの結晶のようなものが空気中を漂い、それらが太陽の光を反射してきらきらと輝いていた。こんな光景は本の中でも見たことがなかった。


木々が並んで、木漏れ日がさす場所では、木漏れ日がさしている部分の結晶のみが光を反射し、まさしく光の柱が出来上がっていた。


木々が並んでいない場所ではまぶしいぐらいに輝いていて、まるで光の精霊があたりを埋め尽くしているのかと疑うくらいには輝いていた。


「ねっ、奇麗でしょ?ダイヤモンドダストって名前なんだよ!」


いたずらが成功した子供の笑みを浮かべる彼の顔も私にはとても輝いて見えた。





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