氷の猛攻
しばらくは週一になります。
背中には、メディの羽が生えている。見た目的変化はそれだけだけど、能力は格段に増している。
「やはり君も精霊の契約していたのか、しかも、同一化が可能なほど。恐ろしいね、全く。」
イライオは僕に風魔法を放ってくるけど、[凍結結界]の前に何もできず凍り付いていく。
「[猛吹雪ノ舞]」
僕を取り囲む吹雪は荒れながら、イライオに襲い掛かる。僕も斬りかかる。
袈裟斬りから、急に切り返さず、曲線を描くようにして、舞う。鮮やかな五連撃と吹雪が止む。
その猛攻を受けたイライオは倒れることは無かったものの、苦しそうな表情をしている。
「イライオ!!」
さっき、僕に大打撃を与えたイライオの精霊がイライオのそばへと飛んでいく。
「大丈夫だよ、シルフィ。僕らも負けてられないね。行こうか、シルフィ。」
「うん!」
「させないよ!居合[刹那一閃]」
「[ダンシングウインド]![精霊同一化]」
僕の刀はイライオに届くことなく、虚空を通った。
イライオも、僕と同じように羽が生えている。なんだか気品あふれると言った感じだ。
「私とシルフィの絆を見せてあげよう。[疾風迅雷]」
唱えられたイライオたちの精霊魔法は、さっきの[ダウンバースト]並みの爆風と激しい落雷を生み出した。
だが、どちらも元は空気によるもの。
「[白銀世界]」
周りのすべてが凍てつく。空気が凍っているため、空気の摩擦も起きず、動きもしないため、風も落雷も止んだ。だが、イライオは同一化しているため、抵抗されて凍らなかったようだ。
「相変わらずの強さだね。同一化で、ここまでできるとは。」
イライオはうなりながらそう言った。確かにと思い苦笑いを浮かべる。真向から、イライオとシルフィの精霊魔法を受け、それを打ち破ったうえで、周りに効果を及ぼした。つまり、威力はこちらの方が上ということ。
「その口ぶりだと、その先を知っているの?」
完全な同一化。つまり、同じ器に精霊が宿る精霊同一化の上。魂までもが融合し、お互いの魂を染め切らないように、共同で使う。ややこしく聞こえるかもしれないけれど、お互いがお互いも知り合い、強度な絆を作ることが必要、それだけだ。
「君の噂は貴族組の方にも伝わっているのさ。」
「なるほど。」
納得した。フーラと共に戦ったあの時の模擬戦。
「とにかく、続けようか。[シルフィードダンス]!」
[ダンシングウインド]と似た精霊魔法。威力はその比では無い。防御に重点を置いている分、攻撃性はなさそうではあるけれど、[白銀世界]も防がれそうだ。
『ああいうのは一点突破に限るわね。』
メディからの助言。
「と言うことは...。[凍結砲]」
僕の手のひらに集められた高密度な神気と魔力。練り合わせ、イライオに向けて放つ。周りに冷気をまき散らしながら突き進む氷の線。
「これは!?[トルネード]!」
とっさに、シルフィードダンスの上から、トルネードを発動する。上級に近い中級魔法をとっさに無詠唱する。これは、ただならぬことの証明。しかい、突き進む氷の線は無慈悲で残酷だ。竜巻をものともせず突き進み、精霊魔法の壁をも突き進む。我が道は止められぬと言わんばかりの威力ろ速度だ。
「ぐああ!」
凍ることには抵抗したようで、凍ってはいないが、はじけ飛んで行ったイライオ。しかし、冷静さは欠いていないようで、壁にぶつかる前に、[ダンシングウインド]を発動させ、体勢を立て直す。
「しぶといね。」
結果は見えてきた。
「なぁに、まだまだ、これか「[刹那一閃]」ぐああ!」
僕は追い打ちをかける。イライオは自分の言葉を言い切ることなく吹き飛んで行った。
「粘るね。」
しかし、魔法でダメージを最小限に抑えることはしていた。
「貴族がこんな簡単に倒されるわけがなかろう。」
それはプライドからくるもの。それだけと言ってしまえばそれでおしまいだが、言い換えるなら、彼を戦わせているのは貴族であり、そして、そうであり続けようとする意志。それを証明するのは、ボロボロにもなりながらも、彼の二本の脚は直立していて、貴族らしいとも言えるさわやかな微笑を浮かべていることがそれを証明している。
「なら、今度こそ倒れてもらおうかな?」
まるで悪役だ。そう思いがら、僕が使える最大の精霊魔法を唱える。
「神よ、我は願う、この世を終わらす、終焉の流星を、全てを凍てつかせ、無慈悲な鉄槌を下す、神の怒り を。巫術[終焉 ノ氷塊]」
既にボロボロなイライオは魔法は打ってきたものの、威力は全然で、あらかじめ展開していた[魔結界]の前には無力だった。僕の頭上には幾何学模様が円を描く。そこから出てきたのは、巨大な、ドラゴンほどの大きさをもった氷の塊。
「さあ、どうする?貴族さん?」
『完璧に悪役じゃない。』
呆れた。と言わんばかりの声色。僕の頭の中には苦笑しているメディが思い浮かぶ。
『でも、たまにはいいわね。』
楽しそうな声が聞こえる。まるで共犯者のようだ。
『聞こえてるわよ。』
『ゴメン、ゴメン。』
『誠意が無いわよ。まあいいわ。さすがにこれを撃たれて無事に済むわけがないわ。実際の戦闘なら、どん な奇跡が起きても、五体満足ではいられない、それどころか、辺り一面は...。想像したくないわ。』
僕はイライオの方を見る。まだあきらめてはいないようだった。
「どうせなら、華やかに散る方がいいね。シルフィ。精霊武装を頼む。」
イライオの持つレイピアが光り輝く、光が収まると、神々しいレイピアが現れる。
『精霊武装ね。無駄でしかないけれど。』
そんなメディの声を聴きながら、イライオの方を見る。
「[エレメントバースト]![ソニックペネトレイト]!」
イライオのレイピアはさらに発光しだした。その後、風が渦巻きだす。
彼は弾丸の如く氷塊めがけて飛んでいく、ゴリゴリと削れる音が聞こえてくる。
「あれ相手にここまでやるか。」
しかし、それは長くは続かなかった。音は止み、氷塊は着弾し、魔力気力無効フィールドを砕いた。
ゴオオオォォォォォォン!!
爆音が辺りに響く。爆風も吹き荒れるけど、僕には効かないようになっているので、ボケーっと突っ立っている。
やがて、全て収まった。闘技場のにはほぼ全域に巨大なクレーターが出来上がっている。
『やり過ぎじゃない?』
『かもしれない。』
イライオは闘技場の外にいるようだった。殺してしまったかと思ってちょっと焦った。
この出来事は、初めて魔力気力無効フィールドが破壊されたこととして、広まった。これが原因でまた波乱を招くとは知らぬ、レイとメディだった。
*
「ふわああぁぁ。」
僕は大きなあくびをする。あの後は大変だった。祝勝会と称し、クラスで近くの店を貸し切り(僕のお金で)、グラン先生が。
「今日はレイと俺のおごりだ!遠慮せずたんと食べるんだぁぁ!!」
なんてこと言いだすから大変だった。しかも8割は僕の負担。お金に困っているわけじゃないから別にそれはいいけれど、酔いつぶれたメディに絡まれ、危うく公の場で失態を犯すところだったが、なんとか逃げ切った。しかし、今度は同じように酔いつぶれたフーラに絡まれ、と、精神的にも体力が奪われ、自分の部屋に戻ったころには、腕時計の針は4時を指していた。
ただ、グラン先生が何をしたかは知らないけれど、今日は、月の日、火の日、水の日、風の日、土の日の内の、主に学校がある日の内、風の日なわけだが、第五学年の授業は無しになっている。
『メディ。起きてる?』
『...。』
返事は無い。まあ、昨日あんなことをすれば、後から思い出して羞恥に悶えるのも分かる。
*
「レイぃ。どうぅしてぇ、あんたはゎ、そんなぁにどんかんなのぉ!」
体を擦り付けるように抱き着いてくるメディ。いつものワンピースは着崩れていて、メディのふくらみの谷間が見える。僕は、オトコノコなわけで、そんなものを見せられると、いろんな意味で困るし、気になりもする。
「ちょっと、メディ、落ち着けって、服が...。」
「レイにならぁ、いいのぉ!」
「ちょ!それ以上はヤバい!」
流石に見せられるような状態ではなくなりそうだったので、[隠密空間]で、存在を薄め、皆から見えないようにする。幸い、クラスメイト達は、何やらゲームをしていたようで、端にいる僕らがいないことに不信感を持っていない。
「ええと...。これだ!それっ!」
服が乱れて色々と見ちゃいけないところまで、具体的に言うのなら、水色の三角形のナニかが見えてしまっている。なので、服の内側に忍び込ませているレインコートをメディにかぶせる。
「なにぃ、するのよぉ!」
暴れるメディ。そんなメディにかぶせたレインコートでぐるぐるに巻き、担ぎ上げる。
「ちょっとぉ。おろしなさいぃ!」
わめくメディを無視して、自分の寮まで走って行って、ベッドに置いてきた。神気を使わない完全ロック式の結界で封印、こうすれば、メディも出られない。僕は決闘よりも疲れた体に鞭を打ち、店へと戻った。
「はあぁ。」
僕は大きくため息をついた。