二人の少女
しばらく何もお伝えできずすみません。
詳しくは日曜に活動報告でお伝えします。
「はぁ、はぁ、はぁ。...。まだ。やれる。」
フーラは立ち上がる。しかし、どう見ても限界なのが見て取れる。
「いいわねぇ、そうこなくっちゃ。どんどん行くわよ。」
ミルはそう言って魔法を唱える。
「授与[インビジブル]・[サンライトレイン]!」
ミルは手を上げ、その上げた手から一筋の光が空へと向かい、四散。
何かが飛び散ったように感じるが、何も見えない。しかし、魔力の扱いにたけたものなら、
おびただしい数の魔力の塊が降り注いでいることが分かるだろう。
「...相変わらず、非常識。」
そう言いつつもそれらをすべて避けるフーラも同類か、それに準ずるだろう。
「ふぅん、次ね。授与[インビジブル]・[ダイヤモンドダスト]」
放たれる細かい結晶。今度は避けるなんて不可能だ。
「授与[ファイア]・[剣の舞]」
フーラの細剣が炎を纏う。それを確認すると、目に負えない速さで駆け回る。
フーラは見えないが、炎を纏う細剣は見える。剣が剣自身で舞っているようだ。
「やっとね、それぐらいのエンチャントぐらいさっさとできるようになりなさいよ。」
「うるさい。」
乱暴に返したフーラは細かい結晶を吹き飛ばし、あるいは燃やしている。
「まあ、魔力感知能力が格段に上がっているのは中々ね。」
「...。」
フーラは何も言わず、襲い来る透明の魔法を躱し続ける。
「今度はエンチャントをさっさと習得してもらうわね。」
そう言うと、魔法を放つのは一度やめ、詠唱しだす。
フーラはじっとそれを見て、何が来てもいいように構えている。
「授与[トライ]。授与[ランダムエナジー]・[ウォール]」
ミルはツインエンチャントを用いて、無属性の魔力の壁を作る下級魔法、[ウォール]を使った。
本来、ウォールはただの時間稼ぎに使われるものだが、ミルは作り上げた壁をフーラに放った。
押し寄せるその三つの壁は、それぞれが違う色に変化した。手前から、赤、緑、青だ。
その壁は、フーラに避けさせる気が無い様で、フーラに近づくにつれ、どんどん大きくなっていく。
「まさか、割けないわよね?さあ、三つ全部相殺できるかしら?」
属性が、火、風、水の三つに分かれているので、相殺しようとすれば、連続で属性を変えないといけない。
「...。勿論。」
フーラは少し強がり、そして軽く深呼吸した。もう壁はすぐそこまで来ている。
「授与[ウォータ]・[五月雨突き]」
一つ目を得意の技で破壊する。二つ目はフーラの1フラット先にある。
その時、突然フーラの細剣が風を帯びる。無詠唱である。
風属性に対して有利な土属性のエンチャント、[ロック]はフーラには適性が無い様で、
仕方なく同じ風属性のエンチャント、[ウィンド]を使った。
「へぇ。やるじゃない。」
ミルは少し驚きながら、上機嫌に言った。娘のような存在が強くなっていくことを純粋に喜んでいる。
「[ストローク]」
最近フーラが習得した基本形の技。単発技だが、込めた気力による威力上昇が分かりやすく、使いやすい。
二つ目の壁を破壊したフーラは、無詠唱で、木属性のエンチャント、[ブランチ]を発動。
三つ目の壁はフーラに当たる寸前だったが、フーラは大きく後ろに飛ぶ。
「[スカイペネトレイト]!」
空中にいたフーラは気力を爆発させ、空中から急加速する。光を帯び、枝が巻き付いている細剣は、
いとも容易く壁を貫いた。エインの[流星]に近いが、威力では劣っていても、速度は勝っている。
「お見事!」
パチパチと拍手しながらフーラに近づくミル。
「ん。ありがと。」
フーラも嬉しそうだ。少し頬が緩んでいる。
「とりあえずそれだけ使えれば、あとは自分でできるから、もう大丈夫ね。」
「本当?」
「私が保証するわ。後はフーラ次第よ。頑張ってね☆」
最後にわざとらしい笑顔を見せたミルを殴りたくなったが、それをぐっととどめたフーラは頷く。
「授与のいい所は、低コストで様々な効果を得ること。威力面は魔法剣で何とかするしかないけどね。」
フーラは頷く。
「ツインエンチャントはまだ無理そうだけど、練習すればできるわ。」
「ん。ありがと。」
フーラは微笑んだ。
「いいのよこれくらい。あなたは、私の唯一の娘なんだから。」
ミルはフーラの頭を優しく撫でる。フーラは気持ちよさそうにして身をゆだねている。
「じゃ、頑張りなさい。フーラ。」
「うん!」
珍しく、元気よく返事をしたフーラ。ミルはすぐに転移魔法で姿を消した。
*
私は校舎に戻り、レイに声をかけた。
「レイ。」
「わ、フ、フーラか、びっくりさせないでよ。」
「ゴメン。」
「うん、いいよ。で、何か用でも?」
「私と、勝負してほしい。」
私は率直に頼んだ。
「え、どうして?」
首をかしげながらレイは私に問う。
「...。力試しかな?」
レイは少し不思議そうに首をかしげていたけれど、了承した。
「うん。分かった。せっかくのフーラの頼みだしね。」
私は少しほっとしながら、言葉を返す。
「ありがと。...。どうするの?」
無計画だったことを思い出して、レイに聞く。
「あ、考えてなかったの?」
「...。うん。」
私らしくない突発的な行動を振り返り、少し赤くなりながら返事をする。
「んー。グラン先生に聞いてみよう。」
「分かった。」
私はレイと一緒に職員室へと向かった。
*
フーラとの会話はあんな話の後ではドキドキではあったが、フーラらしくない一面を見たせいか変に冷静に動けた。
フーラらしくない、と言っても、五年もたてば、皆全然違っていて、フーラも女性らしい体つきになっている。グランはかなりごつくなっていたから、あの時は一瞬ビビった。
マナは、その、まな板ではないと本人の名誉のために言っておく。身長はフーラより伸びてはいる。
フーラが165フラだとすると、マナは170フラ、僕は178フラ、グランは190フラだ。
グランがうらやましいけど、僕はまだ伸びる余地があるので気にしない方向だ。
ちなみに昼ご飯を食べた後に戻ってきたのは、図書室に行こうとしたからだけど、
まさか、フーラとばったり会うとは思っていないかった。
フーラが無口なのもあるけれど、話題が見つからなくて、当たり障りのないことを聞いては、簡潔な答えが返ってきて、そこからしばらく無言と言ったのが繰り返されている。
そんなことを繰り返しながら職員室に着いた。
どうやらグラン先生は、明日僕とイライオの勝負と言うより決闘をするために、毎回、卒業生トーナメント
の予定地である訓練用闘技場館に行っているそうだ。
訓練用闘技場館はここから少し離れているので、また歩く訳だ。
まあ、そうなると、あの気まずい空間が...。
と思っていたのだけど、
『レイー!』
珍しく、メディからの念話が来た。おやっと思いつつ、念話を返す。
『ん?どうした?メディからなんて珍しいな。』
『そうだっけ?まあいいわ。えっと、フーラって女、どこにいるか知らない?』
『どこも何も、今横にいるけど。』
『なっ。ちょっと今から跳ぶからスペース作って!』
『落ち着け。一体どうした?』
『え、いや、ちょっと、用があって。その女に。』
『何隠してるんだ。』
メディはいい意味でも、悪い意味でも分かりやすい。それがあいつのいいところだけど、
隠すのが本当に下手だ。だから、僕はメディを問い詰める。
『べ、別に隠してなんかないわよ。』
明らかに怪しい。
『じゃあ、その、用ってのは何?」
『...。そのフーラっていうのと戦いたいだけよ。』
『ふーん。本当にそれだけなら構わないけど...。何も隠してないよね?』
ただそれだけの事なら、こんな隠すような言い方はしないだろうと思い、もう少し聞いてみる。
『ええ。勿論。』
『分かった。フーラに伝えるから少し待ってて。』
そう言って僕は念話を切る。
「フーラ。勝負の話なんだけど、うちのメディが戦いたいって言ってるから、一戦してもらってもいい?」
「メディ?」
「あ、僕の契約精霊のこと。」
「さっきの模擬戦の時の?」
「うん。」
僕は首を縦に振る。
「...。ん。分かった。」
『メディー。跳んでもいいよー。』
『了解。』
「よっと。」
いきなり出てきたメディに、フーラは大きく目を開く。
「...。あなたが、メディ?」
「ええ。そうよ。何か?」
「...。何も。」
いきなり雰囲気が悪くなったが、僕はそれを止めることはできなかった。
*
「グラン先生ーー。いますかー?」
僕たちはそれから10分ほどかけて訓練用闘技場に着いた。
「ん?なんだレイか、どうした?」
「ええと、ここで、すこし模擬戦をしてもいいですか?」
僕の問いにグラン先生は少し考えるそぶりを見せた。が、すぐに答えは返ってきた。
「ああ、いいぞ。丁度ここの魔力気力無効フィールドの強度を確認したかったしな。」
「ありがとうございます!」
「で、誰がやるんだ?」
「後ろ二人です。」
僕は振り返り、二人に両手で丸を作り、サインを送る。それを見て二人がこっちに歩いてきた。
「お、噂の氷精霊とフーラじゃねぇか、こいつは見物だな、待ってろ、フィールドを起動してくる。」
そう言って、グラン先生は走り去っていく。僕も、舞台を離れ、観客席へと行く。
「二人とも一に付いてて。いつでも、始めれるようにね。」
二人は5フラット程距離を取る。何か言っているみたいだけど、ここから舞台まではかなり距離があるので、聞き取ることはできなかった。
*
メディside
「あなたがフーラね。」
「...。何をいまさら。」
「再確認よ、私が気に入らない人かどうかのね。」
「気に入らない...。それは私も同じ。」
「あなたがレイを好いていることは認めるし、それを邪魔することはしないけど、
あなたではレイの足枷になることを自覚するべきね。それを今から証明してあげる。」
私はメディが言っていることに少し驚いた。
そして、彼女もレイの事が好きなのだと改めて思った。
「だから、だから私は少しでも近づけるように強くなってきた。
メディ、負ける気は全くない。負ける気もしない。...。でも、今は、ただ、勝敗が大事。それだけ。」
メディは少し目を見開いた。深呼吸をした後に明らかに雰囲気が変わった。
「そうね、勝負にこんなものはそれこそ足枷ね。いいわ。初めから全力でいくわ。」
「ん。勿論。」
「二人ともー!始めるぞー!」
その声を聴き。私は細剣を構える。そして、肌寒くなった。
「あれが落ちたらスタートだ。いい?」
レイが指さす方向を見ると、氷の塊が浮かんでいた。
「ええ!」
「分かった。」
「よし、じゃあ、落とすぞ。」
氷塊は真っすぐに私たちの間に落ちてくる。私は肩の力を抜き、メディを見据える。
そして、氷塊が、割れた。
私は真っすぐにメディへと走る。
「[ボンバー]!」
小手調べの一撃。火属性なので、有利な一手。
「私をなめているの?」
その声が聞こえると同時に爆発が凍り付いた。否。爆発しようとした魔力そのものが凍り付いた。
「全力。って言ったわよね?」
四方八方から、氷の礫が飛んでくる。
「授与[ファイア]・[剣の舞]」
ミルのダイヤモンドダストを防ぐのと同じ要領で、燃やしていく。
「意外とやるわね。[アイスソード]!」
メディは氷の剣を生み出し、私に斬りかかってくる。
余りうまいとは言えないけれども、氷の礫を防ぎながらでは分が悪い。私は大きくバックステップをして、
距離を稼ぐ。
「逃げられたと思っているのかしら?[白銀世界]!」
辺り一面が一瞬で氷に変わる。私は足を取られそうになりつつも、止まない氷の礫を防ぎ続ける。
そこにメディが氷の剣を持って攻撃してくる。さすがに防ぎきれず一撃をもらう。
その瞬間。私の体が鉛のように重くなった。
「驚いたかしら?この剣はね斬った相手の血液、魔力、気力の流れを遅くするの。
あまり長くは続かないけど、致命的よね?降参する?それともまだ続けるかしら?」
「勿論。授与[ブースト]」
私は自分の体の血液の流れを速くする。これによって体に酸素がいきわたらないことを回避する。
「へぇーそんな方法があったんだ。でも、それを使えば、炎は消えるようね。」
私はなにも返さず、メディに肉薄する。
「[氷壁]。」
私とメディの間にいきなり氷の壁が立ちはだかる。舌打ちしたい思いに駆られながらも、
再び細剣に[ファイア]を授与して突き破る。その先にはメディが剣を振りかぶっている姿。
「[ストローク]!」
反射的に[ストローク]を繰り出して氷の剣を防ぐ。が、氷の剣はいともたやすく壊れ
私の細剣は虚空を突いた。それによって大きな隙を見せてしまった。
また私は氷の剣に斬られ、体が重くなる。重くなった体に[ブースト]を掛けながら、細剣を構える。
「う~ん。決めきれないわね。」
メディは少し、悔しそうに私を見つめている。私からすれば、決める以前の問題なのに。
ここまで、大した攻撃が出来ていない。まさか、ここまで強いとは思わなかった。
だけど、突破口はある。それは、メディが私がツインエンチャントが可能なことを知らないこと。
だけど、覚えたばかりなので、可能ではあっても、威力を出せるかと言われれば、厳しい。
けど、やるしかない。
私は駆け出す。氷の礫は気にしない。ただ、真っすぐに駆け抜ける。
「言い度胸ね。[氷突]」
突如目の前に氷の槍か出てくる。それをすれすれで避けて、進もうとしたが、その先にも氷の槍があった。
私はそれをファイアを授与した細剣で燃やす。そうして次々と出てくる氷の槍を避けて、あるいは壊して、止まらず走り続ける。もうメディとの距離は1フラットを切った。
「[吹雪]」
しかし、強風と雪にのまれ吹き飛ばされる。
「[地吹雪]」
そして、上に打ち上げられる。それを逆に利用する。
「[スカイペネトレイト]!」
気力を爆発させて加速、メディを貫通しようとするぐらいの勢いで突きを繰り出す。
「っ![氷壁]」
流石にメディも驚いたようで、さっきと同じように立ちはだかる氷の壁。だけど、この勢いを止めるには、脆い。
「!」
今度は私が驚く番だった。氷の壁に隠されていたのは四つの氷の槍。四方向からくるその槍をすぐに防げる方法は私は持っていない。
なら、無視すればいい。
私はさらに加速する。無詠唱の[ブースト]を使って。
「やあああぁぁ!!!」
私はさらに加速した渾身の突きをメディに繰り出す。
そして、炎を纏った細剣はメディを貫いた。
*
「油断禁物。あなたの負けよ。」
貫いたはずだった。
私は氷の槍に貫かれていた。その槍を握っていったのはメディだった。
「な...ん...で。」
私が貫いていたメディは彫刻のように砕け散った。否。氷に変わり、砕け散った。
「なんで、って、私は氷精霊。こんなことぐらい簡単よ。」
そう言ってウインクしたメディを最後に、私は倒れた。