それぞれの思い 前編
思ったより長くなりそうだったので、一回ここで切り上げました。
フーラは次回に回します。
sideエイン
俺はエイン。ビュルンデル学校の第五学年だ。
自分で言うのもどうかと思うが平民のクラスではトップだと思っている。
一対一だと、フーラに負けるけどな。パーティなら俺たちが一番だ。
俺たちが三人なのには理由がある。思い出したくはないけど、
忘れてしまう訳にはいかないんだ。俺たちにとっても、あいつにとっても。
あいつが命を懸けてまでして、レッサードラゴンを倒してくれた。
その時にあいつと同じぐらい強ければみんな生き残れたはずだった。
だから俺たちはまた大切な誰かを失わないためにも、強くなることを決めた。
この前交流会として貴族組、5-1、5-2、5-3と模擬戦をした。
ここの実力なら俺たち三人の方が上だけど、向こうのトップのパーティは四人。
この一人の差は大きい。だけど、誰もレイの枠に入れるつもりはない。
これは俺たちにとってレイがきっと帰ってくることを願ったもの。
勿論、俺たちだってもうレイが帰ってこない可能性の方がはるかに大きいことは知っている。
だけど、俺はなぜかあいつが帰ってくる確信がある。
勿論口には出さない。今の俺たちにはレイに関する話はタブーだ。
これは俺とマナだ話し合って決めたことだ。この前のフーラの泣きっぷりを見て決めた。
恐らくフーラだって俺とマナが気遣っているのは分かっているだろう。
今の俺たちのブレインであるフーラなら。でも、フーラはそのうえでいつも道理ふるまう。
俺はそれが申し訳なくてたまらなかった。
昔、俺の親父が言っていた言葉、大切なものは、大切でより身近にあるものほど、
人はその大切さにはなかなか気づかず、失った時にそれを知る。
それ当時俺はそんなわけないと言った。だけど親父はこういった。
「まだお前には分からないだろうな。」
と言った後、さっきまでちびちび飲んでいたエールを飲み干すと。
「さて、ねるかぁ。」
と、立ち上げって寝室へと行ってしまって、答えを聞くことはできなかった。
だけど、今なら分かる。そして、そのぽっかり空いた穴は誰にも埋められないものだった。
*
もうすぐ最後の行事でもある、卒業生トーナメント。
厳密には卒業していないので、卒業生ではないが、だいたいこの時期になれば、
自分の進路はもう決まっているので、ほとんどの第五学年はやることは無い。俺もその一人だ。
このトーナメントは、表向きは例えば騎士団などが有望の生徒のスカウトに来させるみたいな感じだが、
実際はただの見世物に近い。賞品は毎年変わって、去年は魔法に耐性を持つマントだった。
俺はあまり勉強は得意じゃないし、第二学年のころから冒険者か、傭兵かで、だいたいは決まっていて、
冒険者の方が色々と以来の種類があって、稼げるかなって考えたけど、
自由に旅してみたい思いもあったし、傭兵を選んだ。
人を殺すことだって普通にある仕事だけど、そんなこと言ってたらやっていけない。
入る傭兵団はあらかた決めていて、特に何事もなく卒業出来たらそこに入るつもりだ。
休み明けの今日。なんだか体が重かったのでゆっくり支度を整えて部屋を出た。
「エイン。早くいかんとまにあわんぞ~。」
いつも男子寮を掃除しているおっちゃんが俺を急かしてくる。
「今日は体が重いんだ。ゆっくり行かしてくれ。」
俺はおっちゃんに手を振りその場を立ち去った。
おっちゃんの視界から俺が見えないであろう場所まで早歩きで歩いて立ち止まる。
「なんか忘れた気が...。」
鞄をごそごそとあさる。今日はすべて実技だ。だけど、魔物図鑑がいるはず。
「あ、あった。気のせいか。」
俺はまだ重く感じる体を動かし、教室へと向かった。
*
「よっ。マナ、元気か?」
「あ、エイン。おはよ。私はもちろん元気よ、今日は遅かったけど何かあった?」
「別に。体がなんか重かったんだ。」
説明としてはどうかと思うがそれ以上もそれ以下もない。
「相変わらずの分かりにくい説明ね。気持ちは分からなくもないけど。」
苦笑いをしながらそう言うと、マナは思い出したと言わんばかりに手を叩いた。
「そうそう、グラン先生が珍しく教室にいないのよね。この時間ならとっくにいるのに。」
言われてみれば、今日の俺の来た時間は遅刻ギリギリの時間、
もし先生がいたならドアの前で仁王立ちしていて、教室に来た俺を遅い!と怒鳴る。
だいたいグラン先生は職員室での朝礼を速やかに住まえて、すぐに教室に飛んでくる。
時刻で言えば、教室での朝礼が8時で、先生が来るのは7時40分。
勿論教室のカギを開けておかないといけないので、6時半には教室が開いているが、
そんな時間にだれが来るんだろう。俺なら寝ている。
「何かあったんじゃ?」
「かな~?」
マナはうんうんとうなずくと、フーラに声をかけた。
「フーラはどう思う?」
フーラは相変わらずの無表情。レイが谷に落ちたばかりの時よりははるかにましだし、
俺ら以外には滅多に表情を変えないが、これでも、回復はしている。
いなくなったときは俺たちもひどい落ち込み様だったが、フーラは一週間自分の部屋に引きこもり、
それからはかなりの鍛錬を積み、グラン先生に勝るほどの実力を手に入れた。
ただ、何らかの出来事であの出来事をふと思い出すと一週間以上はひきこもるようになった。
それは第三学年になるころにはなくなり少しずつ前と同じは出来ないが、それに近づくことは出来ている。
「...。調べた限りは編入生が来るらしい。」
「え、嘘!?こんな時期に?」
「そんなことあるのか?フーラ。」
俺は耳を疑った。ただ、ここの学校の水準は低くない。
編入試験もあるだろうし、そんな簡単に入れるはずがないと俺は思った。
「筆記はほぼ満点。実技は満点。実技の試験官をを務めたのはグラン先生だから、不正はないはず。」
筆記が満点と言うこと自体にもおかしいと思ったけど、
実技が満点ってことは、グラン先生を圧勝したって事か!?
おれも、グラン先生と互角ぐらいだけど、その時は実技は93だった。マナは97で、フーラは99。
フーラは普通に戦って隙を突いて勝った。圧勝とはいかないが苦戦はしていない。
それで、99だから、恐ろしく強いはず。
「おはよう!遅れてすまなかったな。」
ドアがいきなり開いて、グラン先生が入ってきた。
皆が口々に何があったかを尋ねる。
「そうだな、それについてはお楽しみにしておこうか。」
と言うと今日の連絡を何事もなかったかのように連絡をしていく。
俺は、恐らくドアの裏に気配を薄くだが感じるので、きっと、そいつが編入生だ。
俺は編入生に期待を抱きながら、先生の話を聞いた。
*
sideマナ
いつも通り教室に着いた私は持ってきた魔物図鑑を机にしまい鞄を自分のロッカーに入れる。
自分の席に戻って、隣にいるフーラに声をかける。
「おはよう。フーラ。」
「ん。おはよ。」
教室には私とフーラだけ、時刻は6時45分なので、当たり前とも言える。
フーラも、だんだんと無表情じゃないときが増えてきた。
そのせいで面倒くさいことも起きたけどね。
「ねぇ、フーラ。ベーカーは何もしてきてない?」
「ん。何も。」
「ならよかった。」
ベーカーは貴族組の奴だ。私はあいつをあまりよくは思っていない。
交流の時にいきなりプロポーズに近いことをする非常識な奴なんて...。
私はそれ以上思い出したくなかったので頭を振って忘れようとした。
「マナ。」
「何、フーラ?」
フーラから声をかけてくることは戦闘以外ではそこまで多くない。
「エインとはうまくいってる?」
「な、な、なによ急に!?」
いきなりの事だったので、思わずどもってしまった。
フーラがそんなことを言うと思わなかったので、無警戒だった。
「ふふっ。」
「笑わないで!もう!まあ、悪くは無いんじゃない?」
確かに私はエインの事を好きだという感情が自分にあることは理解している。
そこそこアタックはしているけど、あいつはかなり鈍感だった。
あいつの友達も鈍感だな~とか、言っているけど、本当に同意したい。
「まあ、頑張ってね。」
柔らかく微笑むフーラ、これで何人の男がつられたか、
普段は無表情な分、微笑んだりした時の破壊力はすごい。
「あ、ありがとう。」
私もぎこちなく笑みを返した。
「私も、乗り越えないとね。...。」
フーラはそう言うと、少し黙り込んだ。
自分で勝手に負傷しないでほしいけど、彼女なりに乗り越えようとしていることは分かっている。
レイを失ったことはとても彼女にとっては大きいのだろう。
レイも、罪だなと思う。こんなかわいい子を、ねぇ。
私も、あの話を聞いたけど、なんか、物語みたいだなぁって思った。
確か、フーラが階段を下りているときにたまたま躓いた。それをレイが受け止めた。
ざっくり言うとそれだけで、何故フーラが惚れたかは私も知らない。
詳しくは色々あったみたいだけど...。
あの時はフーラは学園長しか信頼できなかったらしい。
あの話は私もぐっと来た。才能が自らを陥れるなんて、と。
私とフーラは思い出話に花を咲かせているうちに時間はどんどん過ぎていった。
「あれ、今日は先生遅いね。」
いつもならこの時間にいるのにと私は首を傾げた。
「編入生がくるみたい...。」
「え!?本当!?でも、ここって、編入試験って難易度高いよね?」
確か筆記と実技で、筆記6割、実技7割で合格だったはず。
筆記は五割は地理や歴史。残り二割が計算。残り三割が解読など。
実技は七割なので、分かりやすく言えば、グラン先生に5回以上攻撃を当てれたらとか。
「ん。でも、実技は満点。筆記はほぼ満点。」
「そんなに...。その生徒貴族組?」
フーラは首を横に振った。
「平民でそんな人がいるなんて、世界は広いわね。」
フーラも首を縦に振った。
「もしかして...。意外とレイだったりして。そんなわけないわよね。」
「...。分からない。できればそうねがいたいなぁ。」
その後、遅刻ギリギリにやってきたエインと内心舞い上がりつつも、極めて普通にしゃべった。
グラン先生もすぐにやってきて、お楽しみがどうって言っていたし、
編入生は間違いないと確信したけど、それがレイなんて。世界は狭いわね。
次回は予定道理です。