懐かしきビュルンデル
僕は無事にピーナに一撃与えることができた。
旅立ち祝いも兼ねてその日の夕食がとても豪華になったのはさておき、
遂に荷物を持って、今、五年ほど暮らしたこの空白とも呼べる何もない真っ白な空間からも
遂に脱出することができる。それが僕が17歳の積雪の月の第二の陽の日の事。
*
僕は今、この真っ白な空間の中に作られたまるで紙に穴をあけられたかのような
空間の歪みの前にいる。メディとケリーと共に。
「色々とお世話になりました。」
深々とピーナにお辞儀をする。
「あ、ありがとうございました。」
つられるようにお辞儀をするメディ。
「ふわああぁぁ。眠いです....。」
そして眠たそうなケリー。まだ午前5時。仕方ないと言えば仕方ないけど...。
「いいよ、そんなに改まることなんて、そんなことよりまだ先だけど、魔王は頼んだよ。」
「「はい!」」
「むにゃむにゃ...。」
「さ、行った行った!」
「わ!?」
ピーナに押されて空間の歪みに入った僕。そして、吸い込まれるようにメディも後に続き、
メディに引っ張られてケリーも入る。
「クローズ」
空間の歪みが修復され、僕は静かに目を閉じた。
*
「眩し!」
目を開ければ久々すぎる太陽の光。
体に吹き付ける風も、体の中に入っていく新鮮な空気。
辺り一面は背の低い寝転がったら気持ちよさそうな草原。そう、レテル草原。
「と言うことは...。」
後ろを振り返ると、オレングスが遠くに見える。
「じゃああっちか。」
オレングスに背を向けるように進む。少し進めば街道見えてくるだろう。
「ゴメン、もう少し寝てていい?」
メディが眠たそうに眼をこすりながら聞いてくる。
「いいよ、お休みメディ。ケリーも寝てなよ。」
二人はそれぞれの寝床へと転移した。それを見届けてからゆっくりと歩きだす。
あの空間にいた時の買い物は、店に直接転移させてもらって、
買い終わったら即転移なので、外には出れていない。
僕は久しぶりすぎる新鮮な空気を楽しみながら、ビュルンデル方面へとのんびり歩いていく。
そういえば三人はうまくやっていけているかな?
多分大丈夫だろうけど、皆の顔を見るのが楽しみだな~。どれくらい強くなっただろう。
特にフーラはどう伸びたかがとても気になる。
魔法剣はピーナの話だと、僕の巫術のような古代種族の能力に匹敵する力を持つって聞いたし。
エインは一撃の威力を求めていたから、僕が苦戦したクリスタルタートルも倒せそうだ。
今の僕なら容易いけど。ただ、[流星]もあるし、早くて威力のある一撃はどこまで行ったんだろう。
マナは最上級の上にある魔法の真理に気付いたかどうか、これがどれだけ成長しているか
のカギになるはず。ひたすらに炎を追い求める彼女ならきっと、気づいているはず。
僕は期待に胸を膨らませながら歩みを進めていった。
*
一時間程歩くと街道が見え、そこからは走っていった。
すると40分程でビュルンデルに着いた。
「えーと、確かここにあったはず...。」
マジックポーチのサブポケットの方からビュルンデル学校の学生証を取り出す。
五年、正確には4年と9カ月ほどだが、大丈夫か心配になる。
暇だったので、ポーチに入れていた魔法書を取り出す。
僕が魔法を使えない理由は僕が鬼人族の血を引いていることらしくて、
ピーナが言うには。
「古代種族は魔法に特化された種族以外は使えないの、
代わりに強力な能力を持っているからね。鬼人族なら巫術とかね。」
「じゃあ、僕はどう頑張っても魔法を使えないの?」
「ええ。例外を除いてね。」
「例外?」
「魔法のさらなる力、生命魔法。その名の通り生命力、つまり、気力を消費する魔法。」
「魔力は使うの?」
「勿論。[魔法]だからね。これなら、一応使えるわ。威力は保証できないけど...。」
そんな話を聞き、魔法書を買ってみたけれど、何も使えない。
そもそも、生命魔法は危険なので魔法書には載っていない。
ピーナから教えてもらったのはブラストと言う生命魔法。
属性はなく、気力を爆発させて魔力を拡散させて物理的攻撃をする偽似的爆発魔法。
「こんなの使うなら巫術があるからな~。」
魔法を使いこなせるものが生命魔法を使えば既存の魔法を工夫して使えるが僕にはその基礎が無い。
身体強化は、巫術で事足りる。それだけ古代種族が強かったということ。
魔法に特化した古代種族は魔法と言う次元ではないので、結局種族固有の力みたいなものだ。
僕は、魔法書をなんとなくパラパラとめくっていく。
魔法自体を覚えておけば対処法も見つかるだろうと思いながら。
あ、[魔結界]がある。意味ないや。
*
学生証効果あったな...。
20分程待たされたが、学生証を見せると通れたが、こんな学生いたっけみたいな目で門番に見られた。
検査は無事通ったので、問題はない。はず。
「やっと帰ってきたな。」
ふと漏れた一言。すこし、うるんでしまった。
遠くに見えるビュルンデル学校へと足を進めつつ、
五年前とは少し違う店や、今も変わらぬ店を見ながら、時には買い食いをする。
とある串焼きやで、ふと耳にした話に僕は思わず耳を傾けた。
「おい、聞いたか?ここの学校の第五学年の話。」
「いいや、詳しくは知らねえ。でも、今年の卒業生トーナメントはヤバいってのは聞いたぜ。」
軽装の男は今買ったオーク肉の串を両手に二本ずつ持ち、
四本の内一本をあっという間に平らげ、そう答えた。
「なんでも、平民クラスの5-4の三班。フーラ、マナ、エインの三人がヤバいって聞いたんだ。」
「何がヤバいんだ?」
「それが、この前出現したストームドラゴンをあっという間に倒したらしいぜ。」
腰に二つの剣を携えた男は少し興奮しながら話す。
「はあ!?ストームドラゴンって☆8だったよな!?」
「ああ、下手すりゃ☆9にもなる。」
そんなに成長したのか、あの三人。
「あれ、ここの学校って四人で一つの班だったよな?なんで三人なんだ?」
そういえばそうだった。どうしてだろう。あ、串焼きが冷めてしまう、食べよう。
「それなんだけど、なんか、あの班第一学年の時に班の一人がレッサードラゴンに...な。」
「殺されたのか?」
「なんたらとなんたらの峡谷に落ちたとか。」
「天と地の峡谷か、災難だな、仕方ないとは言えるが。」
「もう、あれから五年近く経ってるし、もう帰ってこないだろうと学校が判断して
班に新しいメンバーを入れようとしたけど、断られたってさ。」
「断った?」
「三人をかばって相打ちの形で、守ってくれたのを忘れないためとかなんとか...。」
僕は食べていた肉がのどに詰まりかけた。店主から水をもらってそれを飲み干した。
「良い話だけど、悲しいな。」
「ああ。でも、逆に言えばそれを糧にしてあそこまで成長したからなぁ。」
「パーティなら☆9オーバーか。恐ろしいな。」
「教師側も学校長しかまともに戦えないってさ。」
「貴族の方も同じようなのいたよな。」
「ああ、こっちもパーティで☆8はあるが、少し劣るな、だが、人数が違うというのは致命的だな。」
「まだ分からないさ、個人個人は勝ってるんだし。」
「そうだな、どっちが勝つか見ものだな。」
「そうだな、そて、腹ごしらえも終えたしそろそろ行こうぜ。」
そう言うと、食べ終わった串四本をごみ箱に捨て、門の方へと歩いて行った。
「あいつら...。早く会ってやりたいな。」
三人に早く会いたいと思い、僕も食べ終わった串を捨てて、また、ビュルンデル学校へと歩きだした。
区切りがよかったのでここで、一回区切ります。
次回は予定道理になります