空白の答え
一応二章中編は終わりです。
「ふにゃ~。」
おなかがいっぱいになってぐっすり眠ってしまったケリー。この時を待っていた。
「そろそろ本題に入りませんか?ピーナさん。」
「ちょっと待っててね、予備取って来るから。」
僕がクッキーを食べれなかったのを気にしているのかそう言い残して小走りで台所へと走っていった。
暇だ。
「そういえば、これお守りとか言ってたけどなんかあるのかな?」
服に入れてあるネックレスを外に出す。紫色の宝石のようなものがはめられたそれは、
ネックレス自体の色が黒なので、少しだけ禍々しくも感じるし、不思議な力を感じる気がする。
「一応お守りって言ってたからなるべく肌身離さず持ってるけど...。」
「お待たせ~。はいっ、どうぞ♪。」
「あ、ありがとう。」
さっそく一つ口にする。個人的に甘いものは嫌いではないがいくつも食べれないけど、
これならいけそうだ。甘さがしつこくない。時々食べるぐらいが丁度いいかな。
「美味しいです。」
「満足してくれたならうれしいな。」
「それはともかく、僕をここに呼んだ理由は?」
「ん~。一つはここに迷い込む動物ってなかなかいないから。」
あんな硬いっていうレベルじゃない亀なんかが徘徊している洞窟の奥まで行くのは厳しいし、
あの謎ときみたいなのもたまたまケリーがいたから分かっただけだし。
あ、なかなかいないってことは迷い込んだ例は他にもあるんだ。
「二つ目はケリーちゃんの契約主だったこと。」
「もし、そうじゃなかったら?」
「ここには連れてこさせなかったけど、送り返すぐらいはしたわね。」
それはよかったというべきなのかな?
「最後は、恐らくあなたの親を除けば鬼人族の血を持つ”生存者”はいないこと。」
「!?」
「そ、そんなはず.....。」
「レイ君は見た感じハーフみたいだから、どちらかが鬼人族で、この見た目だともう片方は人族かしら。」
「う、うん。」
「鬼人族が住んでいたのはここと別大陸。ここはトータガイスト。
鬼人族が本来住んでいるのは隣のオータガイスト。そこでは鬼人族掃討作戦が行われているの。」
「鬼神のおとぎ話ってオータガイストで起きたことなの?」
「いえ、実話よ、勿論オータガイストで起きたこと。そのせいで今鬼人族はレイ君とその親だけ。」
「でも、どうして掃討作戦なんか....。」
「簡単な話よ、今のオータガイストの大陸王、ウルガイスが鬼神が生まれることを恐れたから。」
「大陸王なら、十分な兵力があるのに?」
「兵力があるからこそよ。今のうちに不安の種は摘み取っておこうって事ね。」
鬼神は一人で万の敵をなぎ倒せるほどの力を持っていると聞いた。だからか。
「でも、もし鬼人族がいなくなると、この世界で魔王に対抗可能なこの世界の住人がいなくなる。」
「ど、どういうこと?」
「鬼人族ってね古代種族の内に入るのよ。エルダーと同じでね。まさに生きる化石。」
古代種族...。そういえばそうだった。長生きするかららしいけど。
「古代種族って言うのはエルダーを除いて変異種のようなものがいてね。
どれも鬼神と同じくらいの力を持つのよ。だから、変異種が例外的なエルダーを除いて、
古代種族は恐れられて攻められ、次々と絶滅していった。だけど、皮肉なことに、
その恐れられる力がないと魔王に太刀打ちできない。だからレイ君をここに呼んだの。」
「僕を?」
「ええ。勿論これ自体にも異世界の勇者っていう例外的な方法ももちろんある。
だけど、それじゃあだめ、勇者は戦いなれていない人がほとんど、感情的にね。」
「それは分かります。」
あの時の勇者みたいなのか、死なないのにかたき討ちが~って。
「まあ、十分な力はあるんだけどね。でも、今までできたのは封印のみ。
今度こそ息の根を止めたいのよ。魔王ガロドゴスの息の根を。」
「...。」
その声にはとても重い何かが混ざっている気がして僕は言葉を返せなかった。
「あら、それ、レイ君の?」
ピーナさんが見つけたのは僕のお守りであるネックレス。
「はい。僕の恩人がくれたネックレスです。」
「それはね魔王がいつもつけているの。とても困った効果を持っていてね。
でも、それがレイ君の手にある今、この戦いで終わらせるチャンスね。」
魔王がいつも?ちょっと待てよ、ガロ、魔王ガロドゴス。これは偶然だろうか。
でも、これを魔王が持っているから倒されていないわけで、じゃあ何故...。
「レイ君にお願いがあるの。」
椅子に座りなおしたピーナさんはそう言った。
「どんなお願いですか?」
「単刀直入に言うわ。魔王を倒してほしいの。」
「....。そうですか。でも、僕には無理です。鬼人化を短時間しか維持できない僕には。」
もともとの存在である鬼の人の身に10分程しかなれないんだから、
そんなんじゃ鬼神化なんて夢のまた夢だ。だから僕には無理。
「それは分かっているわ。私はこの世界を管理する存在。でも、力はもうほとんど残ってはいない。
だから、少しでも力が発揮できるこの場所で勇者を呼んだり、精霊の監視もしている。
それゆえにここを離れるわけにはいかない。だけどこの場所でならレイ君を、
”存分”に鍛えれる。だから、手伝ってくれないかしら。この世界の為、いや、君の仲間の為。」
「最後にそんなこと言われちゃ断れないですよピーナさん。分かりました。引き受けます。」
「ありがとうレイ君。まずはレイ君の契約精霊ちゃんを呼ばないとね。」
「はい!僕はメディをって、ここで念話って通じますか?」
「ちょっと待ってね。....。はいっ、今なら通じるわよ。」
「ありがとうございます!」
もう回復しているはず。だけど精霊の回復スピードは知らないのでどうなっているかは分からない。
『メディ!聞こえるー?』
『レ、レイ!!どこにいるの?転移ができないしレイの気配も分からないの。』
「ピーナさんお願いします。」
「言われると思って今終わらせたわ。」
『今ならいける。転移してみて。』
『え、ええ。』
その声が聞こえた直後に目の前にメディが。
「ピーナさんもうだいじょぶです!メディ、怪我は?大丈夫?」
「私は大丈夫、でも、ここはどこ?」
「ピーナさ...。創造神様の家かな。」
「え!?」
「でも、メディが元気でよかったよ。」
僕はメディの頭を優しくなでる。
「アンタに心配される程軟じゃないわよ!」
と、プイッと向こうの方を向いてしまった。でも心なしか嬉しそうにしていたのは気のせいではなさそう。
「結局、あの時はどうなったの?」
「あの時はね....。」
*
時は少し遡り。
「メディ!」
これはちょっとどころじゃなさそう。私はそう思いながら吹き飛ばされ氷のかけらに沈められた。
『ゴメン。ちょっと撤退する。』
レイにそう言い残して私の領域に転移した。
「痛たた...。」
血は流れないけどその代わりのように魔力が漏れていくのでふらふらする。
とりあえずベッドに横になり休む。ワンピースはボロボロだけど、そのうちに治るから大丈夫。
私の領域は私が初めてレイと出会い、そして契約した場所。
勿論住みやすいようにいじってはいるけど、ここに来ると心が落ち着く。
そんなうちに瞼が重くなってきたと思ったころには眠ってしまった。
「にゅ...。」
そして何とも間抜けな声を出して起きた私はある程度回復したのでレイの所へ行こうとした。
「嘘。念話がつながらない!?転移もできないし、感覚もつかめない...。」
私達精霊は契約主の気配のようなものを勝手につかむ、そして感覚で転移すれば着くのだけれど、
その感覚がつかめない。その理由として第一に上がったのがレイの死。
あの時私がやられていなければ、私が好き勝手に行動しなければ...。
いくらでも反省点が浮かんできた。それはまるで自分で自分をひたすら責めていた。
その時はレイが生きていることを必死で願った。
しばらくした後念話がつながり転移をして今に至るという感じ。
「(心配して損したわ。)」
「メディなんか言った?」
「何も言ってないわ。早くケリーの所へ行きましょう。」
「あ、忘れてた。行こうかメディ。」
「ええ!」
*
僕の人生の空白の5ページはまさにこんな真っ白な空間で特訓していたからだと思うけれど、
僕は、その時はとにかく強くならなくちゃとひたすらに思っていた。
その努力が実ったかどうかは分からない。一つ言えることは、この物語は一つの本のように、
おとぎ話のように決められていない、たとえ脇役であろうと、少し選択肢を変えるだけで、
僕の未来もいや登場人物の未来も変わるだろう。僕の物語は進み続け、
僕なりの答えを決め、その物語を進め続けるのだから。
凄い意味深な終わり方ですが、ちょっとした伏線?みたいなものです。回収はたぶんかなり先なので気にしなくても大丈夫です。その時になればわかるので。
固有名詞紹介 大陸王
その名の通り大陸の王。そう言えるだけの戦力を持ち、
国一つなんて余裕で落とせるレベルの戦力だ。しかし、トータガイストには大陸王はいない、
代わりに天と地の峡谷を境にそれぞれの東西南北の大国の代表を集めた会合がある。
その二 エルダー
変異種がガイアエルダーと言い、エルダー自体は森を基本的な住処にする種族。
同族以外はとことん警戒し、危険を感じたら別の森に引っ越すということを繰り返す。
ガイアエルダーは変異種だが、生まれた時から使命が決まっており、
古代遺跡などを守っている。基本的にはどちらも無害なので、エルダーのみ誰も気にしていない。
それ以外の古代種族は比較的好戦的だったというのもある。