ショッピング
次からは安定した長さを書く時間ができるので、お許しください。
僕が勝った後、表彰式などは無かった。
代わりにこんなものをもらった。
勇者祭優勝者 レイ様
火車の月の二の土の日に王城までお越しください。
優勝報酬をお渡しいたします。
勇者祭 大会運営
といったものだった。
勇者祭が終わったのは火車の月の二の木の日だったから、今日は風の日、なので明日。
こんな感じなのは、本来は勇者が勝つはずだったからかもしれない。
少し罪悪感を感じるけど、別に悪いことはしていないので気にしなくていいや。
ちなみに、この手紙はさっきの試合で残っていた最後の四人。
つまり、僕、ルナ、ミュー、クルンの四人。
四人だけと言うのは勇者が四人だからに違いない。
そんなわけで今日、風の日は暇になる。
少し体を休ませたいので、起きた時の軽い素振りとランニングだけしてきた。
汗をかいた後のお風呂は気持ちいいね。
「メディ!いる~?」
汗を流した後、部屋まで戻ってきてノックする。
メディが出かけようと言っていたので着替えているんじゃないかと思ったからだ。
「うん。いるわよ。」
恐らく許可だと思うので開ける。
メディの姿を見てから気づいたけど、精霊って着替えなんかしないよね。
「ん~するわよ。必要ないけど。」
「え!するの!?」
メディはいつもと変わらぬ空色のワンピースだ。羽がどう見ても服を貫いているようにしか見えない。
髪型もいつもと変わらないサイドテールで、髪色もって、そこまでは変わらないよね。
「ケリーはよく着替えるわよ。いつもはあのワンピースだけど。」
基本的に、精霊、勇者カイトが呼び出していたフェーノラースもワンピースで、
属性に似た色をしている。ケリーもあまり呼ばないけど銀色のワンピースだった。
「あの服しか見たこと無いけどな~。」
「基本的に、精霊がつけているワンピースは戦闘服みたいなものなのよ。」
「ふ~ん。」
「アンタこそ、着まわしているって言っても、その白い衣か、マント付きの服しか見ないわよ。」
「だって、そんなにたくさん持てないから...。」
「そうね....。お金はそこそこあったわよね。今日は服を買いましょう。」
「別にいらないよ~。それに、このポーチとリュックはもう入らないよ。」
「ポーチ型のマジックバッグを買いましょう。それなら大丈夫よね。」
「お金が...。無くなる....。」
「すぐにたまるからいいでしょう!」
「はいはい、分かりましたよ。」
こうして、僕らは服を買いに行くことに決まった。
*
「メディ~どこに買いに行くの?」
「え~と...。商業区画か、王宮区画の近くにも服屋はあるわね。」
王宮の近くなんていかにも高そうな服屋がありそうだ。貴族ご用達の服屋とか。
「じゃあ安そうな商業区画で。」
「いいけど、王宮区画の服屋にも行くわよ。」
「僕はお金出さないけど、そのつもりで言ってるの?」
「まさか、そんなわけないでしょう。自分の服ぐらい自分で買うわよ。」
「ならいいや。」
「決まりね。まずは商業区画の方に行きましょう。」
「了解。」
*
メディ発案で、勇者祭で優勝したから、注目を集めるかもしれないので、
顔を隠していかないかという物。
僕は昔使っていた帽子を少し深くかぶり、顔を隠すものをと言いたかったが、そんなものは無かった。
仕方がないので、いまは軽く下を向きながら道の端を歩いている。
メディはケリーから借りたという、銀色のパーカーを着ている。
それに、フリルの付いたスカート。これも銀色。勿論フードは深くかぶっている。
ただ、こんな見るからに怪しいのが二人並んで歩くと何か起きそうなので、お互いに
左右の端によって歩いている。会話は念話で可能なので、今のところはうまくいっている。
『ねえ、次はこれいかない?』
今日4回目のこの言葉、そしてこれと言われた店を見ると、女性物しか売っていない服屋。
これも4回目。そういえば、お父さんが、お母さんと買い物に行ったときに、
珍しくバテバテで帰ってきたときがあった。その時に、
女と買い物行くときは気をつけろよレイ。特に服屋は....。
といってベットに倒れ込んでいた。
いまさら思い出してもとっくに遅いが、問題は、メディが3店舗も回ったのに
その手には何もないことだ。別に、ひと通り見たら次とかではなくて、
一つ行くたびにじっくりと見てから行くので、もう出発してから3時間ほどたってしまっている。
お昼を告げる鐘が鳴ったので、そろそろ何か食べたいが、次の店
を見つけたメディはその目を光らせてじっくりと服を見比べたりしている。
「メディ、時間かかるなら、先にお昼食べとくよ。」
「ん...。これはちょっと派手かな....。でもこっちは地味だし、でもこれは色が...。」
メディさんは服の狙いを悩んでいるようなので勝手に行っちゃおう。
*
「食べ歩きって楽しいな~。」
僕は両手に串焼きを二つずつ持ち、それらをほおばりながらのんびり歩いている。
一応自分用の服は二つ買った。あとポーチ型マジックバックも買ったので、
持ち歩きも楽になるだろう。たしかリュック八つ分だ。
服はブルーウルフの皮で作ったちょっとふさっとした肘を覆うかな、ってぐらいの青いシャツっぽい奴。
もう一つは、胸当てが付いた動きやすい軽鎧。前者は普段着、後者は戦闘服だ。
一応、下は普段着は生地が少し厚めの綿布でできたものと、戦闘服の方は、
鋼の膝あてが付いているが、それ以外はそれほど動きを妨げないように生地は薄めになっている。
とりあえず、荷物整理も兼ねて宿屋に戻ろうと地図を見た時に念話が飛んできた。
『レイー!今どこー!』
『えーと、商業区画の南西の開けた場所。』
地図を見ながら答える。周りにはベンチぐらい。店はあるけど、少し遠いのでこの説明にした。
『わかった。ちょっと待ってて。』
『でも、もう僕宿屋に戻るよ?』
『すぐ行くから待ってて、お願い!』
『そ、そこまで言うなら。』
何かあったのかな。素顔を見られてつけられているとか。
でも、メディはしっかりしているからそんなことは...。
だとしたら何だろう。今は2時30分ごろなので、僕がメディと別行動をとってから
二時間ほどたっている。服を選び終わったからかな。
トントン
右肩を叩かれ思わず振り向く。
「わっ!!」
そこにはメディの顔があって思わず飛びのいた。
「どうよ、この服は。」
どうだと言わんばかりのメディ。
いつも道理の水色のショートカットと氷のような目は変わらないけど、
その冷たそうな目に反して動きやすそうな空色のブラウスと黄色のショートパンツは、
メディに活発そうなイメージを与えている。メディらしいと言えばメディらしい服装だ。
「似合ってるけど、どうして黄色なの?」
メディは比較的寒色を好む。だから、その反対である暖色を選ぶのは意外だった。
「たまにはこんな色もいいじゃない?」
ただの気分らしい。
「他にも何か買ったの?」
「買ったわよ。でもまた今度ね。」
今度ね、と言った時に軽く微笑んだメディに少しドキッとしてしまった。
このことは秘密にしておこうと思いながら二人で宿屋へと戻ることにした。
固有名詞紹介
マジックバック
なんとなくわかる方もいるかもしれないが、簡単に言えば、物がたくさん入る魔道具。
仕組みはとにかく圧縮した魔力で中の空間を押し広げるもの。
力業にも見えるが、やみくもに押し広げたら、袋となる、バッグなどは破けてしまう。
一応、リュック十個までなら、それなりに魔法の心得がある魔法使いなら練習すれば作れるレベル。
それ以降は、マジックバッグを作ることに専念した物のみが作れる領域。
絶妙な魔力加減を覚えるため、地味に魔力制御だけなら魔法使いに勝ててしまったりする。
勿論バッグやポーチとなる素材も入れれる容量によって、全然変わる。
部屋一つ分となってくると、☆8、☆9の魔物の素材を必要とする。なんてこともある。