消えた感情の色 sideフーラ
私が生まれたのはとある農村で働く一家の娘。
別にそれほど苦しい生活を送っていないので私は順調に育った。
まだその頃は、私の両親は私をとてもかわいがってくれた。
そして、私が5歳のころ弟トーテが生まれた。
私も弟ができたことは嬉しかったし、やはり下の子の方が
可愛がられるのは別におかしくはないし、その分だけ私に向けられる愛情が
減ることは当然ともいえるだろう。
そんな生活は8歳まで平穏が続いた。
裏を返せば、悲劇は8歳の時、確か、多忙の月。
魔物が多くなり、私も見学という形で連れていかれた。
一応、余りものの細剣があったので一応持っていたが重くて振れそうになかった。
しばらくは狩りは順調だった。
しかし、ある時、私たちの後ろから襲ってきたゴブリンに一人殺された。
ちゃんとした戦闘の経験を持たない人が多く、隊列はバラバラに、私は真ん中あたりだったので、
安心していたのだが、バラバラになったことでそれは意味をなくし、
まるで潮が引くように私までの道が開け、ゴブリンと目が合った。
そしてゴブリンは気持ち悪い顔で笑った後、私に向かって走ってきた。
殺される。
嫌だ。
いやだ。
どうすればいい。
かんたんな事。
殺せばいい。
「魔法剣・ソニック」
自分で言ったのかと疑うほど抑揚のない声で唱える。
細剣に風が纏わりつく、私が振れるほどの軽さになったから、
それを必死でゴブリンに向けて突き刺す。
8歳の少女が放った一撃とは思えないほどの速さと威力がこもった一撃は、
ゴブリンを容易く貫き、返り血は私を赤く染め上げた。
その後、一人死んだので帰ることになったが、その間歩いてるときは、
行きより私から離れて、行きはしゃべりかけてくる人がいたのに、それもいなくなった。
そして、追い打ちをかけるかのように、私を見るみんなの目は恐怖に染まった目だった。
それからは私にとっては地獄で、村のみんなは無視するわけではないが、
私に対しての対応は、一つ離れた態度だった。
両親も一層トーテを愛し、私には目もくれなく、会話は事務的な物のみ。
私もみんなに心を閉ざし、朝ご飯を食べれば、昼は食べないと言って外に出て、
夜ご飯前に帰ってくる。そんな生活を送るようになり、
感情を表情に出すことも減り、声の抑揚もほとんど無く平坦だった。
魔法剣は色が付くが、その頃の私の感情の色は白色。下手をすればないかもしれない。
その生活は3年続いた。
これもまた、裏を返せば3年で終わったとも言える。
あの時も普段と変わらなかった。
「じゃあ、行ってくる、昼はいらない。」
バタン
響く音はそれだけ、両親から返される、行ってらっしゃいの声は無い。
今日も近くの森へと向かい、魔法剣の練習をする。
ただそれだけ。
のはずだった。
それは、私がいつもやっている魔法剣でひたすらとゴブリンを仕留めていたとき。
「お嬢さん、こんなところでどうしたの?」
久しぶりに相手からかけられた声。それは女性の声。
誰かなと思い振り返ると、この辺りでは見ない服装をした女性だった。
「修行。」
いつもの癖で必要最低限の事だけを返してしまう。
そしてその声に抑揚は無い。
「......。」
コツン。
いきなり私の頭に向かって頭突き程ではないけれど、頭をコツンとぶつけられる。
「っ!」
いきなりの事に驚き後ろに飛んで細剣を構えた。
「いきなりごめんね。でもわかったよお嬢さん。苦労してきたんだね。」
その言葉に反応できなかった。否。理解できなかった。
「魔法剣を8歳から使える天才。しかし、余りにも異端ともいえる珍しく、
かつ強い魔法剣を持った少女。恐れるのもわかるけどかわいそうだね。」
「っ!!」
何故分かった。その言葉が頭の中で繰り返される。
しかし、その答えはすでに出ている。理解はできるけど納得は出来ない。
何故か、それはどう考えても頭をぶつけられた時しか考えられないからだ。
「そして、3年間同じ村人から恐れられ、しかも両親にさえも恐れられた。
そして、今のせい「やめて!」
「もうやめてよ!」
森に響く少女の悲痛な叫び。
「けれどもう大丈夫。」
その言葉が聞こえた時には、私は抱きしめられていた。
それは私が欲しかった人の体温。そしてぬくもり、愛情。
「私があげてあげる。お嬢さんの欲しかったものを。」
「ぐすっ、うわーん!」
私は泣いた。それはとても長い間、30分は泣いていた。
その涙は、今まで閉じられていた3年分の感情だったのかもしれない。
ただひとつわかることは、私は求めていたのだろう。人の愛情を。
あれから、私はその女性がこの学校に入れてくれたので、そこに通うことになったが、
知らぬ人ばかりの新天地とも呼べる場所で私は村の事を思い出し、
あの時と同じ感じになった。
しかし、それは3人の仲間があの時の女性の時のように私を癒してくれた。
そこからまた私が感情の色を失うまでの3カ月の中で、
とあることがあって、意識するようになった一人。
レイ。
詳しいことは恥ずかしいことがあったので、伏せておく。
どんなことかは想像に聞いてほしい。
私が楽しく過ごせた3カ月はあっという間に過ぎて、あの悲劇が起きた。
それは推定☆8のレッサードラゴン。
それはあまりにも強大で、私は死を覚悟した。
でも、それはレイが身代わりとなるかのように相打ち気味に倒してしまった。
私は自分を責めた。自分の魔法剣という力を持ちつつも、
私の大事な仲間を失ってしまったことを。
エインがあいつが帰ってくるって聞いたと言っていたけど、
そんなのウソに決まっている。
あんな底も見えないところに落下して無事でいるはずがないし、
仮に生きていてもあの谷の底にいる魔物にやられるだけだ。
だけど、私はその可能性にすがるしかなかった。
だから私は待ち続けることにした。
そして私はまた彼が帰ってきたときに彼を守れるように、
あの時のように魔法剣の修練を重ねた。
あの時とは違って、今度は明確な目標がある。
その違いは大きくて、私は2カ月でエインやマナを軽く超えた。
そして、3カ月たった今。グラン先生に互角の戦いができるようになった。
しかしその代償は大きくて、私はエインやマナ以外にはあの時と同じ。
心を閉ざし感情の色が無くなった私の姿をさらすこととなった。
私の感情の色はいつまで消えずにいられるんだろう。
コンコン
ノックの音が聞こえた。
今は夜の9時の鐘が鳴った後のはず。
こんな時間にだれが.....。
ガチャ
「はい。」
とりあえず私は応じる。
扉の前にはマナが立っていた。
「ちょっと勝負しない?」
私達はこっそりと寮から出て、準備をしている。
とりあえずビュルンデルの空き地に来たが何をするんだろう?
「いった通りだよ!勝負しよ?」
「いいけど....。」
実力差がという言葉は呑み込んだ。何か策があると思ったからだ。
「行くよ。一応魔力気力無効フィールドはくすねてきたから。」
それ、ヤバいんじゃあ...。
「....分かった。」
「ファイヤーボール!」
マナは火属性ならすべて無詠唱を使えるようになった。
だけどファイヤーボールぐらいなら私は切り落とせる。
現に今、魔力を纏わせた細剣で切り落とした。
「魔法剣・ソニックストーム」
高速の突き。
「っ!」
しかしファイヤーウォールを唱えられ、それは出来なかった。
「ねえフーラ。こんなのはどう?」
と言いながら大爆発を引き起こした。
それは私に避けれる程ではなく、まだまだ修練が足りないことを思い知らされた。
だけど、悔しさという感情はよみがえったかもしれない。