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007   新生地球、理想と現状

「アフリカ宣言が事実上、形骸化しているのは否めまい?」

 キースは、爽やかな空気を鋭く突き抜ける太陽の下、涼しい顔で言った。

「結局、民族と経済の壁を取り除くのは、困難だということさ」

「いや、経済的には良好と見えるが…」

「不動産って、厄介なの知ってるか?」

 彼らはジープタイプの車で、暇つぶしに広大な航空基地の滑走路を走っていた。

 もうすぐ輸送機が着陸するため、滑走路のゴミを確認して歩く。

「民族ってのは、大体が大地に根付いているもんだ。それが土地の領有権を主張始めたときに、戦争が起こる。付随する富を食うためにな。…まったく、マンション(土地なし)暮らしの俺には関係のない話さ―――ええと、土地は誰のものでもない、与えられるものでもないといってたのは…」

「どっかの先住民だったと思うが」

 やや乱暴だが。内容からして自己満足的な民主主義であるらしい。

「それと、アフリカ宣言がナンなんだ」

 話が当初に戻った。

「ウォクトワイスは高尚過ぎるって事だ」

 強引な帰結にいたる。

 

 ――かつて、いくつかの経済大国が、彼らの搾取により疲弊し破産した国々を買い取って、国境を消していった。それを可能にしたのは、各国にまたがって利益を吸い取る多国籍の軍産複合体である。

 その巨大企業が、先行していた宇宙開発と共に、目玉事業として着手したのがアフリカの緑化計画だった。

 新しく希望に満ちた未来をイメージさせて、「新生地球」を華々しく宣伝し、そのうねりに乗じたように通称アフリカ宣言と呼ばれる「無国境化ボーダーレス宣言」を行ったのであった。

 しかし、買い取られたかつての国々が、経済的立ち直りを見せると、いわゆる民族主義ナショナリズムが台頭してくる。我々固有の伝統や歴史は、独立によって未来へ残すものである――独立運動は武力をもって立った。

 そして戦争へ。

「おかしいよな。人類は雑種化してるんだぜ?」

 世界的な混血化については、ボーダレス推進にとって良い原動力となるだろう。

 キースは、ざっと回った滑走路から本舎へ向けてハンドルを切った。

 遠目に、ヘリポートへの着陸が認められ、既に幾人かヘリに向かって走っていた。

 誰が来たんだ、と嘯きながら野次馬的に挨拶すべく、車を滑らせる。

 ローターが回ったままのヘリから降りてきた、一人の人物に見覚えがある。

「よぉ!」

 太陽を背にしたキースを眩しそうに、振り返った男はにこやかに笑った。

 バランスの取れた長身に、紺のスーツ、陽の光で赤く輝いて流れるブラウンの髪を押さえて、笑顔はさも優しそうに、彼の雰囲気を整えていた。

「キース?」

「クライン! どうした、スーツも似合うが民間企業人になったのか?」

「いや、会社は変わらないよ。ウォクトワイスから命令でね……もしかしたらサラリーマンになれっていう辞令かもな」

「緊急か?…だが何にせよ久しぶりだ。今日のことは日記にちゃんと書いておくさ。――ウォクトワイスよりは、前線基地のほうが楽だろうに……」

「ハハ……お気遣い無く。本国には君が最前線勤務希望だと、強く進言しておこう」

 優しげな青年は、踵を返して片手を挙げ、キースに「また」と挨拶した。

 ヘリが吹き降ろす風が、また彼の髪を乱した。

「オトモダチは、ちゃんと同僚にも紹介するもんだぜ。誰よ?」

「昔の同僚…と言うか上司と言うか――」

「上官?いいねぇ。あの若さで、高級軍人まっしぐらじゃないか」

「クライン・カノーヤー大尉だ。いや、もう少し偉くなったかな」

「カノーヤー?」

「知ってるだろ。将来を考えるならオトモダチは大事にするもんだ」

 キースはウィンクして、別の飛行機に乗り換えるクライン一団を見やると、再び車を走らせた。

 もっともクラインは、そんな付き合いをする男じゃないが。―――戦場を共に駆けた人間になら、少しは理解が出来るのだった。

 

   ◇    ◇     ◇  

 

 ウォクトワイスは、黒海沿岸に建てられた半ば水上都市にも見えるメガロポリスである。

 二人の建設者の名をとって付けられたこの都市は、水面に飛び出た部分を中枢(エリア)と呼び、そこから放射状に橋やパイプラインが伸びている先をサイドタウンという。

「――造船ドックが火災にあったそうだな」

 エリアの政庁舎の一室。

 あまり公にしたくなさそうな雰囲気で、二人の男が立っていた。

「支障は無い。他の工場に空きがあるから、ラインを移すつもりのようだが」

 興味のカケラも無さそうに、ユロは応えた。

「物を載せるだけの船を造るよりは、次世代マシンの開発が大事だろう。予算も組んでいるし、役員会の承認も得ている」

「それなのだが……暫く凍結できないものか? ブルーネットのポンプ修理に手間取りすぎる」

「あれはもともとレンロウの受注区域ではない」

「委員会が懸念している。行政官の私としても決議に拘束される身だから、こうして“お願い”している」

「ゲルハルト……実権の無い政府に、物言う口があったとはな」

「企業が法治国家を目指した結果ですよ。私は調整役だ」

 精悍で堂々とした態度の男は唇の端を僅かに歪めた。

「それでなくても、ハーレイ・クラファへの供給は滞ってる……先日投入された第五世代(フィフス)チームの戦力を見てから決議に遵守するか、時間を掛けてもよいだろう」

「サハラ計画が経済的理由で行き詰まりを?」

「利潤の追求が商売の基本だ。それをコントロールするのが政府ではなかったか」

「売国奴まがいの行為は慎む、良い模範になっていただきたいですな。第五世代(フィフス)のアフリカ投入もレンロウの意見を尊重した。」

「その言い方、まだ地図上に国境線を引いているように思える」

「少なくとも、あなたにはなさそうだ」

 ゲルハルトに、いくらかの和らいだ空気が流れた。

 レンロウ・グループの暴走は食い止められると判断したからだ。

 世界統一の夢を追う、ウォクトワイス連邦の潜在的な離反は避けたい。

「自分の利潤には疎いのが妙な官僚だ。ゲルハルト・カノーヤー」

 食えない顔で、ユロが友人を評した。

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