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ボーリングアビリティ  作者: 失恋たきこみ
9/20

出逢いまでの奏鳴曲(ソナタ)5

レニー=オイコット過去編です。

敗北とはその中に自身が濃くある程に辛く、苦しいものである。

脳に針を刺すように、

脳を握り潰すように。

それは苦汁で、

それは辛酸。


私は首筋に流れる汗に、嫌な粘りと温度を感じてユニフォームの裾を顔に被せそれを紛らした。



私、レニー=オイコットは子供の頃からバスケをやっている。いつだったか小さい頃に誰かにバスケットボールを貰ったことからだった。


才がある訳ではなく、どちらかといえば全くない方だった。リジンズの血が混ざっている事もあってなのか身長も小さく、体力もなかったがそれでも私はバスケを続けた。


私より後に始めた子にどんどん追い抜かれていくのを私は小さいながら悔しさを感じ、溢れ出る涙を他人に見せたことがなかった。


私は悔しくて涙を流した時は涙が枯れるまでバスケをした。涙でゴールがよく見えなくて打っても入らなかったが、私は涙が枯れるまでバスケを続けた。


いつも涙が枯れる頃には辺りは暗くて、太陽が地面に埋まって真っ赤に燃えるのがいつも切なくて、でもそれが私に力を与えていた。


夜遅くまでバスケをするのは種族が違う両親の中が悪く、いつとばっちりを受けるかわからない私にとっては家に居たくない口実にもなった。


家で嫌なことがあった日にはバスケにのめり込んだ。何も考えられないほどに汗をながし、練習をした。


私は中学生になった時もやはりバスケ部に入った。

部活は遅くまでやることが多々あったし、私にとってはとても良い環境だった。


あれは3年の夏のある日だった。

いつものように休憩で水道に顔を洗いに行っている時だった。


「せんぱーい!」


と元気な声で私を呼ぶ少女ーーーナルレア=ビグレイアが走ってこちらに向かってきていた。


「どうしたのナル?」


「いえ、ちょっとお話がありまして」


彼女は汗に濡れた腕を横に振り、私を呼んだ。

彼女、ナルレアは私の一つ下の後輩で2年生の中でも一番上手だった。彼女は勿論私より上手で私はたまにアドバイスを貰ったりしていた。


「さっきの練習で気付いたんですが先輩はちょっとループパスが多い気がするので減らした方が良いと思いまして…」


「なるほど」


そう言われると確かに多用しているかもしれないと思った。私が同意した様にウンウンと頷くと彼女は少し照れ臭そうにしながら


「その、少し離れているくらいならバウンドパスかチェストパスで大丈夫だと思います」


と少し恥ずかしそうにして言った。

私は彼女は少し自分に自信がないのかなと感じたので


「なるほど、ありがとう。ナルは上手なんだからもっと自分に自信を持ちなさい」


と生意気にも説教みたいなことを言った。

私は内心「似合わないなぁ」なんて思いながらちょっと先輩らしいことをしてむず痒い気持ちに恥ずかしさを感じた。


彼女はその言葉にぱぁっと顔を明るくし後ろに結んだ小さなポニーテールが大きく揺れるくらい勢いよく頭を下げた。


「ありがとうございます!」


私はそれのおかしさに少し笑いながら


「ありがとうを言うのはこっちだぞっ!ありがとうね」


と彼女と顔を合わせた。


「二人共ー、休憩終わるよー」


とキャプテンのレイザの声に私とナルレアは「はーい」と返事をして体育館に向かった。


私は基本的に部員とは仲が良かった。

知らない人ともすぐに友達になれるし、他人を特に軽蔑する訳でも贔屓するわけでもなく皆が好きになれた(まあ、例外もあるけど)。


そんな私のことを特に慕ってくれたのがナルレアだった。バスケがすごく上手で、入部当時からスタメン(スターティングメンバーの略)に入っていて、その頃の3年生からも一目置かれていた。彼女はバスケが上手いながらもバスケがそれほど上手くない私を慕ってよく私の後に着いてきていた。

彼女はとても明るい子で多くの者に好かれていながらも私の後をついてきた。


彼女はポニーテールの赤みがかった茶色の髪を揺らしながら私よりも少し高い目線でよく話しかけてきた。

リジンズの血が混ざっている私は身長が小さく154cm程度しかなかった。ナルレアは174cmと中々に高身長で話すときに首が少し疲れた(まあ、それに関してはナルに限らないんだけど)。

そんな彼女は同級生にも慕われていて、勿論後輩にも慕われていた。だが、それでも彼女は私に着いてきた。


色々な話をした。

「好きな食べ物はー?」とか「苦手な教科ある?」とか、そんな他愛もない話だったが、家族のことを聞かれた時だけは少しはぐらかして「母がリジンズで父がニィーラルだよ」とだけ答えた。そういうと彼女は


「なるほどー!だから先輩は医療機器の扱いが上手なんですね!」


なんて私をおだてた。

私は確かに医療関係にはとことこん強かったので周りから「医学に進めば?」とはいわれたが、なにぶん勉強が苦手だったのでそれは遠慮していた。

医学の学校はニィーラルの血を引いていれば特別扱いで学校に入れたが勉強出来ない私が行ったところで周りの人に多大な迷惑をかけるから、というのが私の言い訳の常套句だった。本当は傷ついた人を見たくないというのが本音で、逃げだった。


私はそんな立派な生き物でもないし、立派な考えが出来るわけでもなかった。

自分を客観視することは出来ないが多分私は自分が不幸だと思いたかったんだと思った。自分が不幸だと思うのが私の逃げ場で汚い心の表れだった。

そういう話をするだけでも私はナルレアに「私はそんなに慕われるような立派なものじゃないんだよ」と内心思っていた。だが彼女に嫌われるのが怖くて言えないままでいた。


彼女は私の両親のことを知らなかったために私の両親の人物像が中々美化されている様に感じた。

家族について質問攻めをされたときには特にそう感じた。私はなるべく嘘をつかない様に彼女の質問に答えると彼女はキラキラとした眼差しを空に向かってしていた。

私は少し居心地の悪さを感じつつも彼女のその姿に頬が緩んだ。そんな日々が私の楽しみだった。


そして月日は流れ私の引退試合の時だった。この試合に勝てば私の学校は初めて大きな規模の大会に出ることが出来る試合だった。

相手はこちらは因縁がある学校でよく練習試合をしていたが遂にこの日まで勝つことはなかった。特に5番の背番号を持つ彼女に一方的にやられてしまうのがいつもだった。彼女はカラーシャと呼ばれていて、とんでもなくバスケが上手だった。

彼女のマークマンはナルレアだったがそれでも彼女の方が上でナルレアはよく試合後に悔しそうに涙を流していた。


私はナルレアの方をそっと見てみるといつもとは違う顔つきだった。

私は試合開始直前までその集中仕切った彼女の顔をぼーっと見つめていた。

レイザが立ち上がり


「よしっ!いこう!」


と言うと私とナルレアを含む他のスタメンの四人が立ち上がった。

私達はコートに並び挨拶の後自分のマークする番号についた。

ジャンプボールはナルレアとカラーシャ。彼女らは身長差はさほどなかったがいつもナルレアは勝てていなかった。


しかし、今日は違かった。


審判がボールをあげ、二人が跳ぶと空中で少し競り合い、ナルレアがボールを弾いた。

先行は私達ボールで始まりベンチがワッと湧いた。そして私達は相手とギリギリの戦いを繰り広げた。


4クウォーター目(試合を4区切りした最後)、私達達は59点、相手は60点で残り時間は35秒の相手の最後のタイムアウト。

私達は自分のマークマンを離さず、ファールをしないことをレイザに言われ、それにウンウンと頷いた。

ナルレアも頷いてはいたがいつもよりカラーシャと競り合っていた彼女はもうかなり消耗しきっていた。

タイマーがなり、とてつもなく早い1分を終えると私達は再びコートに戻り自分のマークマンについた。

相手はボールを長くキープし、24秒(その間にゴールを決めなくてはいけない時間)をきっちり使ってきた。相手のメンバーが一人、24秒ギリギリでシュートを打った。ボールはゴールに弾かれたが24秒はリセットされ、リバウンドを飛び込んできたカラーシャに取られた。ナルレアはしまった、という顔でカラーシャのシュートブロックに向かった。私はその瞬間にゴール下まで駆け出した。

カラーシャはナルレアが跳んできたのを見てリバウンドからシュートではなく、そのままコートに降りた。私はその瞬間を見越した様に降りてきた彼女のボールを掴み引き抜いた。


時間は残り9秒。それを見たナルレアは降り立った瞬間に走りだした。カラーシャもナルレアを追いかける様に走りだした。

私はサイドにパスを出し全力疾走をして前でリターンパスを貰った。

自分のディフェンスを振り切りハーフコートに入る瞬間ナルレアが走っているのが見えた。

そこで私は、ループパスを出した。

いや、出してしまった。

彼女の教え通りにチェストパスをするのではなく、ループパスをしてしまった。

私はその時何かがぽきりと折れる感覚を味わった。


ナルレアは空中でボールをキャッチし、そのままシュートに向かった。

カラーシャはナルレアの正面に入っていてナルレアも彼女がブロックしてくると思っていただろう。

しかし、そこは彼女が一枚上手だった。

彼女はシュートブロックをせず、そのままナルレアが突っ込んできたところを後ろに倒れこんだ。

審判の笛が鳴り、宣告されたのは。


オフェンスチャージング。ナルレアのファールだった。


私達はそのまま試合に負けた。



ナルレアは泣いていた。

試合後に皆で集合した時にも泣いていた。

誰もナルレアを責める部員は誰一人としていなかった。勿論、私もそうだった。

しかし、私達の雰囲気はかなり気まずいものだった。ナルレアを責めることはないが、最後のシュートが決まっていれば……という雰囲気がひしひしと伝わってきた。

その雰囲気に耐えきれなくて、恐怖から目を背けず私は「あのっ!」とみんなを呼んだ。

そして頭を下げ、


「ごめん!私の最後のパスが悪かったから……、だからナルのファールになっちゃって……。本当にごめん!」


と皆に顔が見えない様に頭を下げた。

私は泣いていた。

恐怖からではなく、

悔しいからでもなく。

私はナルレアが泣いていることに泣いていた。


すると私の肩に手が置かれた。

私は涙を拭きその主を見た。レイザだった。


レイザは目に涙を溜めて震えた声で


「今日の試合は皆全力を尽くした!皆が主役で誰もが悪役じゃなかった!私達は試合では負けたけど選手として、勝とうという気持ちで相手に勝った!じゃなかったらこんなに悔しい涙は出てこない、そうだろ?」


と皆に言い聞かせる様にいった。

その言葉に皆が抑えていた涙があふれ出た。私も悔しさで涙が出てきた。

私達は抱き合って泣いていた。


帰り道、ナルレアは珍しくついて来ることはなかった。

丁度8時頃に家に着いた。そこに待っていたのは現実だった。

怒号が飛び交うその中で私は一人自分の部屋で小さくなっていた。

その声に怯え、早く終われと祈った。

違う。そう思った。

今日私が学んだのはこうやって逃げることじゃない、恐怖に立ち向かえば報われるんだと、そう思った。

私は両親のいる部屋に入り、


「もう止めてよ!」


と言った。

しかし、そこにあったのは辛い現実だった。

父は私のことを睨むと私の側頭部に


「お前は黙ってろっ!!」


と平手打ちをした。

私は壁にぶつかり視界がぐらりと歪んだ。


「……っ!」


頭が痛み手で押さえるとその手が真っ赤に染まっていた。壁にぶつかったときに頭を打ったのだろう。私はその現実に恐怖した。

私は助けを求め、外に出た。外に出てすぐに人がいた。そこにいたのは……。


「あ、あの……、せん、ぱい?」


ナルレアだった。

彼女は頭から血を流す私に酷く怯えた様子だった。

彼女は私を見つめはっとして


「び、病院に行きましょう!」


と私の手を掴んだ。

しかし、私はそれに助けを求めず腕を振りほどいた。

私は彼女がこの恐怖に晒されてしまうのではないかと不安になってしまっていた。

本当は助けを求めたいのに、彼女を巻き込みたくはなかった。

私は


「ナ……貴女には関係ないことだから……。私の問題だから放っておいて……」


と言った。

素直に助けを求めず、

素直に相手を切り離せなかった。


ナルレアはショックを受けた顔で私を見た。

私はそこでもやはり素直になることが出来ず


「だから関係ないって言ってるでしょ……っ!はやくどっかにいってよ!」


と両親と変わらぬ、怒号を彼女に浴びせていた。


(違う、違うの。私は貴女を……ナルを私のことにまきこみたくなかったの……っ!)


私は内心そう思いながらもナルレアを拒絶した。

ナルレアは気力を無くした様にフラフラと立ち上がりそのまま去って行った。

私はその後ろ姿を見ながら違う、違う。と涙を流した。そして、自分の真っ直ぐに伝えられない気持ちに悔しさの涙があふれ出した。



私が引退するまでナルレアが部活に来ることはなかった。皆不思議に思っていたがナルレアが学校を休んでいるのを聞いてきっと何かあったのだろうと安堵していた。


帰り道、私はナルレアに悪いことをしたと自分を責めた。私はイライラして近くに転がる空き缶をゴミ箱に向かって投げた。いつもなら届かないはずの遠くのゴミ箱に空き缶が真っ直ぐ飛んでいき入った。私は少し違和感を感じた。そして私は特殊能力を手に入れたことを理解した。


私はお陰で受験勉強をせずに学校に行ける特許権を手に入れた、これを機に学校近くへ引っ越そうと思った。両親はあの後離婚して私は母方に行き母の実家があるザン帝国に行くことになっていた。しかし、私は母と二人になっても気が合わず少し窮屈な生活をしていた。だからこの生活を変えてみたかった。最初は寮にしようと思ったが寮よりも安いアパートが近くにあったので母にそこに一人暮らしをすると伝えた。

母はお金はどうすると聞いてきたが、バイトをして稼ぐと言うと月でお金を送ってくれると言ってくれた。

母も多分私といて居心地が悪かったのだろう、意外と簡単に承諾してくれた。

母は働いていたし、実家には姉と兄がいて生活に困るといったことはなかった。

だから私も安心して母の気遣いに素直にありがとうと言うことが出来た。


クレスモントに引っ越して荷物の整理が終わった時、私は近くにある公園に来ていた。

そこにはバスケットゴールがあり、そこでシュートを打っていた。

シュート、ドリブル。

私はそれをしている時に自分の中にナルレアがいるのを感じた。

私が突き離した彼女はここにいて、私の中に残っているのに私は胸をうたれた。

シュートをしてネットがパサリと音を立てるのを聞いて自然と笑みがこぼれた。


そして今、バスケの雑誌を見ながら思う。

ナルレア=ビグレイア。

彼女にまた会うことがあったらきちんと真っ直ぐ、素直に謝ろうと。

「この小説の投稿ペースには法則がある。」※ありません。


はい。前に比べれば大分はやいだろぅ(言い訳)?

これにて過去編は終了です、お疲れ様でしたあ。

次回からはどんどんキャラが増えてくるので楽しみにしていて下さい!(楽しみにしている人が居るとは言ってない)


次回は新しい章に入りますが読んで下さる方、これからもよろしくお願いします!


え?次に投稿されるのはいつかだって?その謎を解く鍵はもう見つけているはずさ。


感想やアドバイスなどもして頂けると嬉しいです!ただ、投稿の催促をされるt……アババババbbbb

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