出逢いまでの奏鳴曲(ソナタ)2
書きたかったから書いた、悔いはない。
レニーは先生に廊下を走るなと注意を受けながらそのまま走って戻っていった。
「相変わらず落ち着きがないな。まあ、そこがいいところではあるのだがな」
「そうよねー、あんたはああいう元気な子が好きだもんねー!」
ミノアはむっとして早足に教室に戻っていった。ミノアは何故すぐに嫉妬をするのか…。あれでは俺が非を感じてしまうではないか、周りに女が寄ってきてしまうのぐらい考慮するべきだな。
俺は頑固なミノアにもそんなところが女らしいではないかと少し笑みがこぼれた。
☆
何故こうなった。
目の前では笑顔が怖いレニーと明らかに敵意を剥き出しにするミノア。
「私のお弁当を食べてくれるよねリク君」
「まさか私の方を選ばないわけじゃないわよねリク」
二人が俺に弁当を作ってきたのだが二つは食べられないと言ったら争い始めてしまい今に至る。
「と言ってもだな。この俺であっても大食感ではない」
そう言うとミノアはため息をつき自分の弁当をしまおうとした。
「そうよね…。まあ、無理強いしても仕方ないことだし今日はレニーのを食べて」
ミノアは引っかかる言い方をする。まるでミノアらしくないその発言にこの俺の心が揺れてしまう。
俺ともあろうものが女を悲しませるのか?否、俺はそんなに薄情ではない!
「まて!ミノア、弁当をだせ」
俺はミノアの肩を掴み弁当をしまうのを止める。その瞬間ミノアの口角がニヤリと上がった気がした。
ミノアはこちらを振り返ると弁当を手に抱えていた。その顔は少し心配そうな表情をしていた。
「本当に?食べてくれるの」
「む、ああ。俺に二言はないからな」
すると俺の左腕はがしっ、と掴まれた。
「私のは…?」
う、上目遣いだと?くっ、狼狽えるな。例え金髪セミロングの美少女が上目遣いの涙目でおねだりしてきてもこの俺がそんなことに臆することは許されないのだ。しかし、この俺を動揺させるとは中々の破壊力ではないか…。
「す、すまないな。今日は諦め…」
「私のは駄目、なのかな?」
認めよう、俺の負けであると。
「二つとも頂こう…」
「え…?本当に?」
レニーは驚きと喜びを合わせたような表情をしていた。本当にこの娘には敵わないな、とありえないことを思ってしまうほどの破壊力だ。
「二度同じことは言わないぞ」
レニーは顔を上げぱあ、と輝かせると
「ありがとう!」
と言ってニコリと笑った。
俺はその笑顔に少し、いや中々動揺してしまった。前言撤回したほうが良いかもしれない、この娘は俺唯一の天敵かもしれん。
「「では召し上がれ」」
俺の目の前に出されたのは二つの弁当だった。レニーは当然であるがミノアの弁当は付き合いが長かったが食べたことがなかったなそういえば。
まずミノアの弁当から。
料理は大学芋に春雨サラダ、ブリのエスニック焼きにきんぴら。中々のレパートリーではないか、白飯も中々良く炊けているように見える。
次にレニーの弁当だ。
玉子焼き、重ねかつに菜の花のおひたし、春キャベツの炒め物、鰯のマリネ。こちらも中々どうして美味しそうだ、白飯に合いそうな飯ばかりだな。
「では、頂きます」
まずはミノアのからいこうか。最初に目にとまった大学芋にしよう。
「ーーー!!」
口に含んだ瞬間気付く。甘い!甘過ぎる!ていうか食感以外はもう砂糖の味しかしない。まさかミノアは料理が…。
いやいや、決めつけるには早過ぎるだろう。次はブリだ、ブリを頂こう。
「あむっ、ムグムグ」
ミノアがこちらに期待の目を向けている。感想を求めている、だがこれは…。
カレー粉を使ったのだろう、凄くそれがわかる、なのだが。逆に言えばそれしか味がしないのだ。しかしそれはこの二つに限るものではなかった。
酸味が強すぎる春雨サラダ。
辛すぎるきんぴら。
白飯はまだ普通だったもののとにかく味が偏りすぎていてびっくりした。
「リク、どうかな?」
いつもならばここは直球で返すのが俺の主義ではあるが流石にこれをミノアに直球でいうのはあまりに酷すぎる。
「あ、ああ。中々だがまだ研究の余地はあるぞ、これからもっと上手になるのが楽しみだな」
ミノアはその言葉に顔を明るくして「うん、そうね」と笑顔になった。
流石俺、ミノアを傷つけることなくフォローをしてやれたぞ。良いアドバイスもできたことだしな、やはり俺は天才だと実感する。
では、次にレニーの弁当だが。ミノアの料理があったからか斜に構えて食べようと思うため大分腹が溜まってきた気がする。
「では、頂こう」
まずは定番の玉子焼きから。
どんな味が来ようと動揺せずいようと恐る恐る口に運ぶ。
「ーーー!」
こ、これは!
「うまい…!」
これはだし巻き玉子だったか!白だしをいれてあるのだろう、昆布の香りが口の中に広がりふわふわとした玉子と非常に合っていて美味しい。
春キャベツの炒め物はキャベツの歯応えを残していて、ごま油と絡み合いとても優しい味になっている。
あまりの美味しさにレニーの方を見るととてもソワソワしていた。そんなに心配しなくても大丈夫だぞ、と思いながら次の料理に手をつける。
玉ねぎの甘さと程良い酸味が鰯の良いアクセントとなっているマリネ。
重ねかつは間に青じそと梅肉が入っておりあっさり食べられるようになっている。
菜の花は余計な手を加えず最低限必要な調理をしているため香りの良さを残しつつもしつこい苦味を感じないものになっていた。
「うむ、とても美味かった、レニーは料理が得意なんだな。この俺も感心したぞ」
そういうとレニーは恥ずかしそうにえへへ、と笑った。
「口に合ったみたいで良かったよ」
一時はどうなるかと思ったが料理が美味しいので箸が進み全ての食べきることが出来た。流石俺というところか、俺が寮で作ってきた弁当は無駄になってしまったが良い食事をさせてもらった。
「ご馳走様。二人とも感謝しよう、そして俺に食べてもらったことに二人も感謝すると良いぞ」
「あんたは相変わらずね」
「本当にね」
む、失礼な二人だ。この俺に食べて貰ったと言うのに感謝もせんとは。それになんだその「偉そうに」とでも言いたげな目は、俺に対する無礼は謹めとあれほどいったのに。
「二人とも感謝をしないとは何事だ?」
「はいはい、ありがとう」
「リク君ありがとう」
二人は仕方ないと言うようにそう俺に告げ二人目線を合わせると何かを思い出したようにこちらを向いて俺に問いかけた。
「「で、どっちの方が美味しかった?」」
もう勘弁してくれ。
どうでもいい回でしたね、はい。
次話も早めに投稿します故に!
お願いしまう