輪舞曲(ロンド)の始まり6
最近調子いいです
「ファズーは行ったみたいだな」
リク=アイネスは極めて優秀かつ秀逸、佳良な人物であり、この世に百、いや千に一度の天才なのだ。
その俺に少女を懐柔し全てを最良の結果に持っていくことなど実に容易く、まさに赤子の手を捻るという言葉がパズルのピースのようにぴったりとはまる。
しかし天才故に苦悩もあるのだ。
それはこの寛大な精神の持ち主の俺であっても目に余ると思ってしまう行動をとる人間に分かりやすく、その行動の間違いを説いてやることだ。
俺は天才故に凡人の気持ちや考えが理解出来ないことがあるのだ。物事を暴力で解決しようとする者のことは本当に理解出来ない、出来ないが為にそういう者達に理解させるにはこちらも実力を行使する他ないのだ。ごく稀に話が通じるものも居るが、さて、この愚者はどうか。
「何なのですか、貴方」
「まずはその担いだ女性を下ろせ、話はそれからだ」
「それは無理な頼みですね」
話が通用しないようだな。
やはり。
「やはり力尽くで取り返すしか無いようだな」
「やる気ですか、最近は好戦的なユークが多い様ですね」
金髪の女は担いだ女性を後ろに居る赤毛で長身の女に投げ渡すとこちらを睨みつける。
「ラークナーに刃向かったことを後悔しなさい」
ラークナー?
こいつらがあのラークナーとはな、世界的機関というものも堕ちたものだ。
「ラークナー……!?」
レニーは少し腰が引けてしまった様で、目の前に居るその女達に恐怖した様に少し縮こまってしまった。
それに対しミノアはすこし落ち着いたような表情をしていた。
「珍しく落ち着いているな、ミノア」
「え?まあ、あの中に能力者喰いが居ないからかしらね」
なるほど、それはいい情報だ。
それを聞いたウォルフも少し安心した様な表情をしてから、また気を張り直した様に険しい表情をした。
目の前の女から目を離した瞬間、俺の身体に強風が打ち付けた。
「ぐ、お!?」
何とか踏みとどまったがさっきの女が俺のいた場所に長い金髪をなびかせ、その手に扇を持って立っていた。
女が扇を持った手を上にあげ、振り下ろすと扇から強風が吹いた。それは扇から放たれるようなレベルの風ではなく、地面を軽く抉るような強風だった。
しかし、その風は急に方向を変えて女の方に戻っていくと女は驚いたような表情を見せて横に扇を振り下ろしその横に飛んで避けた。
「リク君大丈夫かい?」
ブラフガが後ろから声をかけてきたが、その声は、いつものブラフガの声ではなく少し強気な声だった。
「残りの幸運は?」
「さっきのが今日初だよ」
ならあと2回か。
風が木をなぎ倒して収まると金髪の女の横に先程の長身の女が並んだ。
「アルナ、力を貸そう」
「すみませんリグ、力を借ります」
「あら、私達は力を貸さなくてよろしいですか?」
後ろにいるパーマがかかった金髪ショートの女は表情は笑いながらも少し真面目そうに聞いた。
「大丈夫です、2人でいけるでしょう」
こちらは6人居るのになめられたものだ。
長身の女は抱えた女性を木の陰に置くとこちらに向き直り構えた。
リグと呼ばれた女がこちらに飛び込もうという瞬間、彼女の身体は横に吹っ飛んだ。
そしてその先程まで普通だった光景に違和感がでる。
その場所にさっきまでは普通だったが、今は異質なものがはっきりとわかる。
「女性には手を出したくないんだが、こうなると別だからな。悪いが先手を打たせてもらった」
アルナと呼ばれた女は自分の横に立っているレダに驚き横に飛び退いた。
しかし、次はレダがこちら側に吹っ飛んできた。
俺は能力を発動し、レダが地面に落ちた時の影響を無くす。
そして向こうでは先程まで後ろにいた金髪パーマの女がその表情を崩すことなく手に持った鉄製バットを振る。おいおい、普通に危険人物じゃないか、この女は。
レダは恐らくバットに殴られたのだろうが、何故か一部分を殴られたというよりも全身を風に飛ばされたような感じだった。
「あらあら、思わず手を出しちゃいました」
「……アルナ、リグ、フォエルエ、誰か来る。ここは一旦退いたほうがいい」
長い黒髪で片目を隠した女が木の陰に落ちている女性を担いだ。
その言葉を聞くとアルナと呼ばれた女はリグと呼ばれた女を担いで後ろにさがる、フォエルエと呼ばれる女も後ろにさがる。
森の奥に逃げようとすると彼女らに向かって何かが飛んで行った。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
飛んで行った何かはブラフガであった。
ブラフガは地面すれすれを真っ直ぐ落ちることなく飛んで行く。
ブラフガが飛んできた方向には息を切らしたミノアとレニーがいた。
「な!?」
ブラフガは幸運にも担がれた女性を捕まえ、幸運にもよく撓る木の枝にぶつかってこちら側に戻って来る。
「うぐぐぅ……、今日は厄日だ……」
「ナイスよっ……!」
「はぁ……成功するとは思わなかったねっ……」
森の方を見るともうそこには4人組の姿は見当たらなかった。そしてザザザ……と音がすると左右と後ろから影が飛び出してきた。
左からは先程の牛面2人、右からは猪面の2人組、後ろからは巨大な狼のような生物が現れた。
「国王様!ご無事でありましたか!」
「ああ、ダゴラ、ラウズ、デルデ、ダルダ、ファズー。心配をかけたようですまなかったの。すまないファズー、手間がかかるかも知れないがこやつらを儂の家まで運んでってやれないか?」
狼はたちまち姿を変え、俺達の知っている怪鳥の姿となった。
「ファズー、お前変態出来たのか」
俺だけでなく他の3人も驚いたようで、ブラフガは「狼状態の毛も触りたい」と呟いていた。
俺は気絶したレダを担いでファズーの首に跨ると他の3人も背中に乗った。
ブラフガは重そうに女性を背中におぶっていたがファズーの背中に彼女を降ろす。
ファズーはばさりと羽ばたくと、ぐんっと急上昇した。
先程よりは速度をかなり落として飛行していると女性が目を覚ました。
ぐらりと頭を上げる女性にミノアとレニーが手を貸すと「すまない」と頭を押さえながら身体を起こした。
「ここは?」
「ファズーの背中の上です。気を失っていたので」
「……!あの4人組の女はどうなった!?」
女性は少し頭を押さえると、ハッとして思い出したようにミノアに掴みかかる。
「っ!か、帰って行きました」
ミノアが痛みを堪えるような表情をすると「す、すまない」と女性はパッと手を離した。
「そうか……。くっ!あの金髪の女にやられてしまうとは情けないっ!……見苦しいところを見せてすまなかった、助けてくれた君達には感謝する」
ばさりと少しずつ降下していくとマリリンが入り口で待っているウッドハウスに帰ってきた。
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!グレーちゃん!」
「姫様!ご迷惑をお掛け致しまして大変申し訳ありません!」
「無事ならよかったです!本当によかった……!」
そう言ってグレーのもとにいくとマリリンは跪いたグレーの頭を胸に抱いた。グレーの背中には薄い黄緑色をした羽根が現れていた。
しばらくしてウッドハウスの中に入っているとウォルフが何処からともなく現れた。
「なんだ、まだおったのか」
「居ては悪いか?というか俺達はもともと別の件でここに来たんだがな。そこから何故か巻き込まれたのだからこちらの我儘も聞いてもらうぞ」
「貴様っ!国王様に対してなんという無礼なっ!」
興奮するグレーをよいよい、となだめると「で、我儘とはなんだ?」と少し気を緩めて聞いてきた。
「もともと歴史を調べるためにここに来たわけだが、もう疲労と時間的に不可能だからな。一日ここに泊めてほしいのだがいいか?駄目だと言っても無理に聞いてもらうがな」
それを聞くと、ウォルフはがははと笑い俺達を見た。
「あれだけ派手にやりながら、何かと思えばそんなことか!まったく面白い連中だの。いいぞ、泊まっていくといい、一日と限らずうちにはいつでもよいからの」
「しかし国王様!」
「儂がよいと言っておるのだ、それにこやつらは悪い奴らではないことを主も知っておろう。助けられた恩を忘れるなど貴様自身が許さんだろう?」
ぐうの音も出ないようでグレーは「申し訳ありません」と引き下がった。
☆
夜も更けて暑さが和らいだ。暗い中少し外に出てみると気持ちのよい風が頬を撫でて少し気分が安らぐような気がした。
やはり何処か気をはっていたのだろう、その風に撫でられて私はそれを改めて感じた。空には都会で見られないような星空が広がっていてそれを見ているだけでその無限に広がる斑点の空間に風と一緒に吸い込まれていくようだった。
「レニー?」
ミノアが私の名を呼ぶ声がして足が木の板についたようにふっと意識が戻る。
「レニーここにいたの。わあ、綺麗ね」
「……うん」
「いつもとは違う景色ね。今日色々あったけどそれが全部小さく見えるわ」
そうだね、と私はミノアの顔を見た。
それはやはり先程のミノアよりも力が抜けたような表情をしていた。それは普段の彼女の表情と変わらないものだった。
なんか即興になっちゃって、内容うすくなっているかもしれません。(元から薄っぺら)
次回も早めにあげたいですが、私のインスピレーション頼りになると思います。
読んで下さりありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!