輪舞曲(ロンド)の始まり5
インスピレーションが凄いです。
1分だろうか、一時間だろうか。
ゆっくりと時間をかけて流れていく汗を意識しなくとも認識してしまう。
「……んぅ」
唐突にこの静寂の泡を破った小さな声に4人はびくりと反応した。
徐々に状況が整理出来たのか今までしていたのかすら怪しい呼吸をする。
声の主はゆっくりと身体を起こすと少しボーッとして俺達を見つめた。
しばらくボーッとしているものだから流石にミノアが彼女の傍に行き「大丈夫?」と声をかけるとハッとして俺達に再び目を向けた。
「お爺様は!?」
「き、北に行くって……」
「ダメ!」
ミノアにそう伝えられると少女は立ち上がりその幼い顔からは想像出来ない剣幕で叫んだ。
「あっちに行っちゃダメなのに!」
そう言って少女は家を出ようとした。
そろそろ俺の出番かな。そう思った俺は家を出ようとするマリリンの肩を掴んだ。
「まて、俺も連れてけちびっ子。あのジジイにはまだ聞かなきゃならんことがある」
「き、聞きたいこと?」
少し気を緩めた少女がやはり年相応の可愛らしさを取り戻してふっと笑みがこぼれる。
「宿題が残っているのだ。やらなければ今来ている脅威よりも恐ろしい教師に雷を落とされる」
「雷は嫌いです。怖いから……」
「俺も雷嫌いなんだ、だから手伝ってくれないか?」
「うん……わかった!」
マリリンは先程のような緊張が解けた顔で元気にそう言うと、ポケットから葉を出して「ファズーを呼んで」と呟くと背中から薄いピンク色の羽根を浮かび上がらせ軽く羽ばたき風を起こした。
起こされた風に乗って葉が飛んでいくがひらひらと舞うことなく海を泳ぐ船のように真っ直ぐ飛んで行った。
「ちょっとリク!何勝手に決めてるの、私達は厄介ごとに巻き込まれるのは勘弁よ」
「だが気になるんだろう?」
「そ、それは」
ミノアは図星で何も言えないようで後ろの3人に助け船を求める視線をちらちらと送っていた。
レニーは私も気にかかると苦笑いし、ブラフガとレダは何かに目を奪われていた。
俺がその視線の方向を向こうとする瞬間。バサァッと大きな羽ばたく音が聞こえそれに加えて先程とは比べ物にならない風が吹いた。
その視線の先を見ると大きな鳥が飛んでいた。
怪鳥。まさにその言葉が相応しい生き物だ。
マリリンはその鳥の頭を撫でると首に足を跨いで乗った。
「ファズー、お爺様のとこまで連れてって。場所は行きながら教えるから。お兄ちゃん達も早く乗って!」
「ああ。そう言うわけだからお前ら、さっさと乗るんだ」
「え、私達も?」
ミノアがそう言っている間にレダとブラフガとレニーはもう乗ろうとしていた。
「おぉ、フカフカしているな……」
「僕もこれ触りたくて……」
「二人ともちゃんと乗ってね?」
約2名動機がおかしいものが居るがそれでもミノア以外は全員乗った。
「置いてくぞ」
「……わかったわよ」
そう言って渋々ファズーの背中にミノアが乗る。マリリンは全員乗ったのを確かめると「お願い」と再び前を向いた。
俺達よりも小さな女の子に助けてもらうのは少し情けなく思ったがファズーが羽ばたき風を切る音しかしなくなるとそんな考えも裂けていくようだった。
☆
ニュファーリンとは感情のエネルギーによってその容姿が変化する。
激昂。
落胆。
嫉妬。
萎縮。
歓喜。
憎悪。
羨望。
渇望。
驚愕。
憐憫。
個体個体によってその感情による変化のトリガーが異なる。
例えるならばマリリンは興奮がトリガーとなり薄いピンク色の羽根が現れる。
生えるというよりも現れると言った表現の方が近いだろうから、現れる。背中に現れるそれは謂わゆるオーラだとか霊気だとかそういうものである。
この現象は「ベゼハイト」と呼ばれていて、一部の者達には神の加護を受けているとされている。それはニュファーリンを信仰対象とする宗教団体「アザドバエバス」の信者達なのである。
ニュファーリンは太古の昔から「開花の神霊」と呼ばれる大樹の下で生活しておりその「開花の神霊」を中心として文化が発展して言ったのがアーフヴァイク王国であり、そのアーフヴァイク王国に古き伝承の中に伝わる宝具、神具と呼ばれるものが「アーフヴァイクパキシーム」である。
ユークの始まりとはニュファーリンであるためこの宝具が関係しているのではないかという研究がされてきたが、ここ数百年でニュファーリン以外の人種のユークがありえない速度で増加している。
ユークの持つ特殊能力はほとんどが不完全な下らないものが多い。
植物と会話する能力は会話はできるがそれ自体は言葉ではなく、植物からはその植物から見える風景をイメージとして直接脳に届ける能力なのである。
他にも上から下へ行くものの影響をなくす、選択肢が現れる、物を真っ直ぐ飛ばす、凡庸な物に変える、1日3回幸運をもたらす。
そして、このアーフヴァイク王国を統治するウォルフもまた能力を持っていた。「物体の上に瞬間移動する能力」
木の枝から木の枝へ瞬間移動し北へと向かうその小柄な老人は背中に4枚の薄い赤の羽根が出現している。
憤怒。
激昂。
彼のトリガーは怒りであった。
その怒りを表すような赤い羽根は木の葉の間から溢れる木漏れ日を赤く塗り、地面を点々と彩っていた。
(あれは、4人組の……女か?)
老人とは思えぬ驚異的な彼の視力が捉えたのは4人の白い服を着た女だった。
彼が次に消えた時にはその4人の目の前にいた。
4人は驚く様子もなくただ無表情の冷徹な仮面を被ったような冷静さを保っていてその内の1人が彼の前に一歩踏み出した。
「こんにちは国王様。こんな陽気な日に物騒な守護を置いているのは何故だかお聞かせ願いましょうか?」
「彼女は我々のことを攻撃してきた。これは立派なルール違反だ、ユークの管理はしっかりとしてほしい」
そう言って4人の中で一番小さな少女が自分よりも大きな女性を担いでいた。
「グレー……!」
それは北の守護を任せていたリリーグレーであり、その姿は彼女の薄い黄緑色の羽根が割れた硝子のように痛々しく荒々しいものになっていて、長く伸びた緑褐色の髪が攻撃的なまでに鋒鋩を立てた槍のようになっていた。
「我々は別に戦闘をしにここにきたわけではない。質問があってここにきたのだ」
「質問だと?」
「我々ラークナーとしては穏便にことを済ませたい。簡単な質問だ、アーフヴァイクパキシームはどうした」
「何故それを……!」
国外には伝わっていないはずだが、そう思ったがウォルフは諦めた。
ラークナー。
この組織は謎が多すぎるのだ。それ故にどんな情報を持っていてもおかしくはない。
そしてこのラークナーとアーフヴァイク王国はとことん相性が悪い。アーフヴァイク王国はユークの数が多いためにラークナーに常に警戒される立場であり、『能力者喰い』がいる限り下手に手を回せないのだ。
「もう一度いう。アーフヴァイクパキシームはどうした」
「盗まれた、情けないことにの。犯人はわかっとらん」
「そうか、それだけ聞ければ十分だ」
そう言うと何か確信したような態度をとって踵を返しラークナーのメンバーと思わしき4人が帰ろうとする。
「まて、犯人は誰だか検討がついているような言いかただのう」
「……Neラッセンスだ」
「聞いたことないな」
「そうだろうな、奴らはアグノバードを母体とした組織だ、そんな簡単に名前を明かしたりはしないだろう」
アグノバードとは、数十年前にユーク達による地位向上の為の革命軍であった。
それが今になって何故復活をしたのか、ウォルフには理解出来なかった。
「それでは我々は帰るぞ」
「いや待たんか」
さらに呼び止めてウォルフは担がれたグレーを指差した。
「それは、返して貰うぞ」
「駄目だ、こいつは立派なルール違反者であるためにこちらで身柄を確保させてもらう。……忘れていたが」
小さいラークナーの女はウォルフに向き直りその腰まで伸びた金髪が横に大きく広がる。
「襲うよう仕向けたのは貴様か?国王よ」
ウォルフはこれはもう逃げ道がないと悟り、臨戦態勢をとった。しかし、ウォルフは向こう側に恐怖を抱かざるを得ない。何故なら『能力者喰い』がいるかもしれないからであり、もしいるとしたら負けると確信しているからである。
どちらかが動き出そうとした時上空から1人の男が音も立てずに地面に降り立った。
「ジジイ、この俺から質問があるんだが」
この出来事に流石に驚愕の念を拭えない2人に構わず男は続けた。
「あのちびっ子はどうすりゃいい?」
突拍子もない発言。この場の空気破るような一言にがははとウォルフは笑う。
「安全な場所へ帰してくれ」
その発言と共に降りてきた怪鳥の上から4人の男女が降りてくる。それに合わせて男は言った。
「ファズー、そのちびっ子を家まで帰して来てくれんか。この俺の頼みだからな、聞けないとは言わせんぞ」
ピイイィ!と大きく鳴くと怪鳥は首に跨った少女を乗せたまま上空に飛び立った。
少女が困惑した表情で地上を見つめるがそこは既に遥か上空であり次の瞬間にはその上から移動していた。
男は対峙する4人の女の方を一瞥すると、ふっと笑った。
「老人は労わるものだが、知らなかったのならこの俺が直々に教えてやろう。光栄に思え」
最近投稿早いけど偶々ですから!
なんか最近インスピレーションが凄いです。
すらすら書けて自分でも怖い(歓喜)
このままだと次回も早く投稿できそう!(フラグ)
次回もよろしくお願いします。