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ボーリングアビリティ  作者: 失恋たきこみ
13/20

見え始める助奏(オブリガード)1

カリン=クロモンド編です。

弱々しく鳴る目覚まし時計に重たい腕を伸ばし少し強めに叩く。


春とは何故こんなにも眠気を誘うものなのかと冬眠から覚める熊に問いかけてみたい。


カーテンを開けて見える麗らかなその空は朝から悩む私を指さして笑う様な陽気さを含んでいてすぐにその場を離れたくなる衝動に襲われた。


もう見慣れた部屋だが私の場所ではないと本能が言い聞かせ、気怠さを含んだ溜め息を一つこぼした。



私が朝食を終え学校の制服に着替え終わった頃、自動扉が開き一人の女性が入ってきた。


その女性はフリルのついた赤が主体のドレスを着て室内にもかかわらず頭が丸い、リボンのついたハットを被っていて明らかに

異質であり

歪であった。


「おはようカリンちゃん」


手振りながら私の名前を呼ぶ彼女はその整った顔に妖艶な笑みを浮かべて部屋に入ってくる。


「あの、ここのドアロック掛かってたはずなんですけど」


「まあまあ、そういうことを気にしちゃあダメだよ」


「なんでいつも私に絡んでくるんです、『奇苺』」


『奇苺』とは彼女の通称だ。

彼女の名はリーナ=ラットフラムガ。真っ赤なドレスに真っ赤な帽子を着ていて、その妖艶で奇妙な見た目から『奇苺』と呼ばれている。


「だから、そういうことを気にしちゃあダメだよ、『能力者喰い』」


彼女は口端を釣り上げニタリと笑ってそう言った。

その様子にゾクリと背中に悪寒が走る。

まるで全て見透かされてる様な不気味さとその恐ろしいまでの美しさに寒気がする。


「……で、何のようなんです?」


彼女は私の問いに今度は少年のような笑顔を作ると


「いやぁ、カリンちゃんの制服姿ってどんな感じなのかなぁって見に来ただけだよぅ」


頭が痛くなってきた。


「いやぁ、可愛いね。うん、似合ってるよ。私もラークナーに就職すれば制服姿をいつでも見られるのかな?」


リーナは別に何かに所属しているわけでも味方している訳でもない。彼女は彼女が言うには中立の存在だそうだ。


彼女は相談のプロフェッショナルと名乗っていて、何か相談があれば誰であろうと引き受ける。

胡散臭い話だが彼女は未来が見えるらしい、胡散臭い話だが、胡散臭い話だが。


「何で私が褒めても仏頂面やめないの?私貴女に何か嫌われるようなことしたっけ?」


「いつもいつも何かと私の前に現れないで下さい。そのストーカーのような行為に不快感を抱きます」


「ずいぶんと大胆なストーカーだねぇ」


減らず口め。


私は相手にするだけ無駄だと思い彼女の横をすり抜け部屋を出た。


「じゃあ学校行くので」


私がそう言い残して立ち去ろうとすると彼女はくつくつと笑った。


「ここーーーラークナーの監視下から離れられるから?」


私はその言葉に少し苛立ちを覚え彼女の方にぐらりと首を傾けると少し睨みをきかせ


「そんなことはないわ」


とくつくつと妖艶な笑みを浮かべる彼女に言い放ちその場を離れた。



カリン=クロモンドはクレスモント地区第3学校に通う1年生である。

元々中等部にいたのでこの学校の人物のほとんどを知っているだろう。


この学校はアグノバードが起こした事件後に建てられ、ユークの保護と監視を目的として建てられたものでありその為政府から金が入ってくる。

ユークは監視されていることと引き替えにこの学校に特別枠で入ることができる。学校の近くに住むことを強制されるがその他の学費などは一般の生徒よりは安くなっていて引っ越しや寮に入るといったことにお金を回せるよう配慮がある。


このクラスの2割はユークであろうと私は少し机に向けた視線を教室の中に向けた。


何個かのグループになって話している者。

机に一人突っ伏している者。

本を読んでいる者、勉強している者。


誰がユークなのかは分からないがこの中にユークがいることに間違いはないだろう。


もしも彼らがユークとして事件を起こすようなことがあれば私が手を下すのだ。


いつものように。

または、

6年前のアグノバードの時の様に。


私は少し憂鬱な溜め息を吐くとまた一人、勉強をする作業に戻った。

この姦しい場所で私に前も今も居場所はないのだと窓から小さく見える廃工場を遠目に見た。



「クロモンドさん今日暇かな?」


放課後、同じクラスのナヴェロ=トーニクが私に話掛けてきた。

彼はたまに私にこの様に話掛けてくることがある。私は勿論暇ではない為いつもの様に「今日はちょっと……」と返した。彼は残念そうに肩を落とした。

しかし、直ぐに顔を上げ


「クロモンドさんって何処に住んでるの?」


と聞いてきた。

そんなこと聞いて何になるんだと思いながらも私は冗談めかしてもうすっかり朱色に染まった空の見える窓の向こうに見えるラークナー本部である都市一高いビルを指差し、


「あれだよ」


と言うと彼は困った様に笑い


「クロモンドさんは冗談が上手いんだね」


と頭を掻いた。

私は「帰るわ」と言って教室を出た。その時彼が何か言っていた様な気がしたが私には聞こえなかった。



「「お帰りなさいませカリン様」」

ラークナーのビルに裏口から入ると同じ顔、同じ背格好をしたラークナーの組員達に迎えられる。

その異様な光景に慣れてしまった私は彼女らを無視しエレベーターに向かう。

エレベーターの中のエレベーターガールも勿論先程の彼女らと同じ顔、同じ背格好をしている。

私が何も言わなくても彼女は私の住む階のボタンを押す。


部屋に戻るとちゃんと鍵が掛かっていた。どうやったか分からないが奇苺は私の部屋にロックをして行ったらしい。


私が机の上にあるタブレットを確認すると案の定仕事が来ていた。

部屋の隣の更衣室に向かいながら情報を確認する。

その際タブレットの画面上部に表示される時間を見て憂鬱な溜め息が出た。


17:45

早めに投稿出来て本当に良かった。


読んで頂きありがとうございます。

今回は最近影が薄くなっていたカリン=クロモンド編でした。

見え始める助奏(オブリガード)は連投ではなく別の章の節目に挟んでいくスタイルで行きたいと思います。

カリン=クロモンドとリク=アイネスでは視点が被ることは無いのでカリン=クロモンドの日常や過去をこの章で度々挟んでいく形となります。カリン=クロモンドの戦闘などはリク=アイネス視点で進めていくことになるのでその点ご了承下さい。

「日常編とかいらない」といった方には申し訳ありません。

え?そんなことより投稿ペースについて謝れ?

その点に関しては見逃して下さいお願いしますすすすSsss…

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