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8.蘭の一日目 後編

 でこぼことした道を行く。街中の人込みを避けるのとは別のしんどさを味わった蘭は無事目的地に着いた。

 道中、モンスターに幾度か出くわしたが不思議と襲われることはなかった。チュートリアル中だからだろうか。てってこ歩くプーの後をぜぇはぁ言いながら着いていくだけだった。

 さて、目的地には着いたがこれからどうすればいいのか。プーは毛づくろいを始めてしまった。

 丘には特にこれといった物がない。同じ背の低い草があちこちで揺れているだけだ。よく見ると小さな黄色い蕾が沢山ついていて愛らしいが。

 丘の周りはぐるりと一周木しか見えない。

 「ねぇ、私はどうしたらいいの?」

 しゃがんでプーに尋ねてみる。

 プーは毛づくろいを止めて肢体を伸ばしてくつろぎだした。

 「……」

 「……」

 プーはじっとこちらを見ている。

 「…………ニャー」

 「えっと……」

 どうすればいいのだろうか。

 そっと手を伸ばすと避けられた。

 ……撫でろじゃなかったか。実はずっと狙っていたのに。

 とりあえずプーの隣に座り込む。

 それを確認したプーは前足に顔を乗せて目を閉じてしまった。

 「え」

 「…………」

 「…………」

 「……ここで待っていればいいの?」

 「ナ~」

 「わかった」

 仕方がないのでプーを眺めながら時間を潰す。

 それにしても美人さんだ。それに鼻がツンとしてて可愛い。いくつだろう。若く見えるけどその割に落ち着いてる。毛並みが綺麗だ。つやつやしてる。触りたいけど触っちゃダメだろうか。さっき避けられたし……でもさっきのは私と意思疎通するためだった。今なら触ってもいいかもしれない。よし、もう一回……

 「ん?」

 手を伸ばそうとした蘭は、ほんのりとした違和感に気づいて辺りを見渡す。

 なんだろう……ムズムズする?

 何か小さくて軽いものに全身つつかれてるような……。

 辺りに変化はない。体にも何も付いていない。

 プーも変わらず目を閉じている。

 そうしている間に違和感は大きくなっていく。

 ……引っ張られてる?

 全身ムズムズするが、どうもいくつかの方向に強く引かれる感じがする。

 なんだかとても落ち着かない。

 「プー……」

 少し不安になってプーを呼ぶと片目を開けてこちらを見た。

 「いつまでここに居ればいいの?」

 プーは起き上がるとひょいっと蘭の膝に上がった。

 「ナ~」

 可愛い。

 蘭はでれっと顔を崩した。

 プーをそっと撫でてみる。プーはこちらをちらっと見た後、勝手にしろというように目を閉じた。

 ありがたく触らせていただこう。

 プーのもふもふを堪能していると、ムズムズがムズムズどころの騒ぎじゃなくなって来た。ざわざわする。

 体の表面を彷徨っていたざわざわはどんどん身に染みて、ぞわぞわと内側を侵食していく気がする。

 洒落にならない。

 「プー!」

 焦って立ち上がろうとすると爪を立てられた。

 「座ってろって?」

 「ナ~!」

 この殺人毛玉!可愛いなこんちくしょう!

 可愛い猫様のお願いである。覚悟を決めて、もう一度どっしりと腰を据える。

 ぞわぞわはどんどん奥に進んでいく。

 「…………え」

 体の奥、ずっとずっと沈んだところに箱があった。

 ぞわぞわはそれを目指しているらしい。

 ぞわぞわが箱に辿り着くと、ぴっしり閉まっていた蓋がずれて、そこから気体のような液体のようなものが溢れ出た。

 流れ出た何かはぞわぞわに誘われて運ばれていく。

 一、ニ……行先は三か所あるらしい。一番近い行先は……。

 「……プー?」

 ぷいっと顔を逸らされた。お前だったのか。

 ぞわぞわの犯人が分かってほっとした蘭はプーの毛並みを思う存分堪能することにした。ついでに残り二つの行先も追いかけてみる。

 もふもふ……もふもふ……ん~?。


【技能、〈魔力探知〉を会得しました】


 「わっ」

 アナウンスと共に視界に文字が表示された。驚いた蘭はびくりと体を揺らす。

 その拍子にプーが膝から降りてしまった。

 

【 蘭 Lv.1】【〈生命力〉■1】【〈魔力〉■■■■■□□□□□□22】▽


 プーを未練がましく見つめつつ視界の左上を確認すると魔力が随分減っている。


【 蘭 Lv.1】【〈生命力〉■1】【〈魔力〉■■■■■□□□□□□22】

【基本能力値 ◆筋力0 ◆素早さ3 ◆抵抗力0 ◆魔力22 ◆器用さ5 ◆業100】

【技能 〈魔力探知〉】!

【称号 〈軟弱な体〉〈虚弱体質〉】△


【〈魔力探知〉……魔力を探る能力 《!技能取得ボーナス 魔力or器用さに+1》】


 「おお」

 ボーナスでステータスが上げられるようだ。嬉しい。

 手に入れたのは魔力探知…………魔力……ざわざわと感じるこれのことだろうか。

 考えていると、プーが草花を器用に銜えて持ってきた。可愛い。

 「ン~」

 「くれるの?ありがとう!」

 蘭は喜んで受け取り、プーの頭をぐりぐり撫でる。

 「綺麗だね~!」

 黄色い蕾が開いた草花の花弁は柔らかな白だった。風が吹くと鱗粉が淡い黄色に輝きながら運ばれていく。

 「きっと暗い場所で見たらもっと綺麗だろうね……」

 ぐるりと周りの草花を見る。変わらず黄色い蕾を揺らしていた。

 「やっぱり……」

 その中で一つだけ淡く輝きながら開きそうな草花があった。

 未だに細く引き出される流れはそこに向かっている。

 蘭をざわざわさせていた犯人。プーと、手に持つこの草花、それから光っているこいつ。

 蘭は草花に近寄って、体内から草花へ魔力押し出すようにイメージをした。

 「咲け~咲け~」


【技能、〈魔力操作〉を会得しました】


 「よし!」

 蘭は白く開いた草花をもう一本手に入れて帰路に着いた。


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