4.琴の一日目 前編
七が初めてプレイした日、入れ替わるようにして琴は『移ろう世界で』の世界に降り立った。
「ふむ」
体を動かすと随分軽い。
【 琴 Lv.1】【〈生命力〉■■■■13】【〈魔力〉■■8】▽
視界の左上にステータスが表示されている。
端にある三角はなんだろうか。
見つめていると三角が下にずれた。
【 琴 Lv.1】【〈生命力〉■■■■13】【〈魔力〉■■8】
【基本能力値 ◆筋力6 ◆素早さ5 ◆抵抗力3 ◆魔力3 ◆器用さ3 ◆業100】
【技能 まだありません 】△
ここでステータスを確認出来るらしい。便利なものである。もう一度三角を見つめると元に戻った。
それは置いておくことにとして、きょろきょろと辺りを見回し、パタパタと体を叩く。
一通り終えて、琴は困ってしまった。他には何も表示されていない。
「武器がない」
防具は、まぁ、貧弱だがいい。始めはこんなものだろう。
しかし武器が見当たらないのはどういうことだろう。ナイフすら持たせてくれないのか。せめていい感じの木の棒を。
「拳でいけと?」
それはそれで乙だが、ファンタジー系RPGといえば剣だろう。大きな剣を振り回してこそだろう。というか手ぶらなのは酷過ぎやしないか。お金らしき物はあったが。
「探してみるかー」
大通りをずんずん歩いていくと商店街と思われるエリアに出た。同じような商品を扱う店で固まっているらしく分かりやすい。
武器屋の看板を見つけて入る。
店内には沢山の武器があった。並べられた木箱に同じ種類の武器が差してあり、店の奥の方には武器が一つずつ立て掛けてある。その内の一本で目が留まった。
見た目は刀に近い。湾曲した細見の刃が鈍く反射している。隣に立てられている鞘は木製で、鞘の口と先を金属で装飾してあった。違うのは持ち手に椀のようなガードが付いているところだろうか。
「いらっしゃいませ」
目を奪われている間に店員が近くに来ていた。驚きながら目を向けると以外にも若い娘だった。看板娘だろうか。
「何かお探しでしょうか?」
店員の質問に我に返る。
「剣が欲しいんです。このくらいでありませんか?」
歩いている間に対応を考えていたのが功を奏す。巾着からお金を取り出して店員に見せた。
硬貨を確認した店員は考えるように店内を見渡す。
「そうですね、こちらはどうでしょうか」
そう言って案内してくれたのは、入口の近くの二箱。長い剣と、短めの剣が入っている。
店員は短めの剣を手に取って見せてくれた。
「一般的なショートソードです。質もそこそこ良いですよ。銅貨七枚です」
店員の言う通り、剣と聞いて想像するような一般的な剣だ。しかし琴の求める剣は大剣である。
「隣の長い剣は?」
「こちらはロングソードですね。重いですが……あなたなら扱えそうです」
琴を見てにっこり微笑み、それから困ったように眉を下げた。
「ですが少し予算を過ぎてしまいます。こちらは銀貨一枚と銅貨二枚になります」
手持ちでは足りないらしい。
「そうですか……ちなみにあれは?」
指差したのは奥にある一本。先ほど見ていたものだ。
「サーベルですか?銀貨一枚と銅貨五枚です。あちらは片手で扱うのですが、重い剣でして。お客様でも振るのは難しいと思います」
残念ながら欲しい剣はどちらも買えないようだ。
「ありがとうございます。お財布と相談して来ますね」
冗談めかして言うと店員は笑ってくれた。
「ありがとうございましたー」
明るい声を背に店を出る。
武器を買うだけで、少なくとも銅貨二枚足りない。
「稼ぐかぁ」
店員は外から小さく聞こえた声に、くすりと笑みを零した。