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3.七の一日目

 真っ白だった視界が戻っていく。

 どうやら広場に出たようだ。少し注目を浴びたが、人が突如現れるのは珍しくないらしい。すぐに関心は薄れた。

 高鳴る胸を抑え、自分の体を見下ろす。皮のベスト、丈夫そうな生地のズボン、編み上げブーツ。ベルトには小さな巾着が結ばれていて、感触から察するに硬貨が一枚入っている。

 鏡がないので確認することは出来ないが、自由に作れるキャラクターも自信作。

 満足しながら顔を上げると掲示板が目に入った。どうやら町の大まかな地図らしい。

 低い塀で囲まれている正方形の街。その中心を真っ直ぐ伸びる大通りに沿って目を滑らせていく。

 正門、商店街、役所、ギルドの支部がちらほら。脇道に入れば住宅街に市場もある。

 どこもかしこも大変楽しそうである。何処からまわろうかと視線を彷徨わせると、ある一点で止まった。

 「……図書館ですとな」




 大通りから少し外れた静かな場所に図書館はあった。

 小さな屋敷を改装したようで随分洒落ている。掲示板を見ていなければ『可愛いお屋敷だなー』と感動しながら通り過ぎていただろう。

 開かれた門の先には小さいが手入れの行き届いた庭。彫刻の施されたどっしりとした木の扉の側に立札が建てられている。

 『 図書館【営業時間】土の日を除く二の鐘~十の鐘』

 そっと扉を押してみると開いた。営業中らしい。

 受付には人当たりの良さそうな後年の女性がぽつんと座っていた。こちらに気付きにっこりと笑ってくれる。

 「こんにちは」

 「こ、こんにちは」

 緊張で声が震えた。なんせこの世界での初会話である。

 「図書のご利用でしょうか」

 「はい!」

 今度は上擦ったが、受付の女性は気にした様子もなく笑顔のまま続ける。

 「入館証をお持ちでしょうか?」

 「いいえ、持ってないです」

 「入館証をお持ちでない方には保証料として銅貨一枚いただいています」

 さぁっと高揚した気分が冷めていく。

 「銅貨一枚……入館証はどうすれば手に入りますか?」

 「いろいろ方法はありますが、この図書館は連合が運営しております故、基本的に連合の信用のある者に発行しています」

 「そうですか……」

 どうやら今すぐ入ることは叶わないらしい。

 目に見えて元気をなくした七を見て、受付の女性は初めて考えるように間を空ける。

 「失礼ですが“渡り人”の方でしょうか」

 「あ、はい。そうです」

 「それでしたら、渡り人の組合に入るのがおすすめです。いくつかの組合は連合と連携していますから」

 七はぱぁっと顔を輝かせたが、すぐに思案する顔になる。

 「ありがとうございます。考えてみます。」

 笑顔を向けて軽く礼をすると女性も同じように返してくれた。

 「ええ。またお待ちしていますね」

 「はい!」

 

  図書館から少し離れた場所で七は唸った。

 「ぬーん。どうしようかなぁ……まだこの世界のこと全然分からないんだよなぁ」

 受付の女性と話した中で、通貨の価値や連合、組合という組織のことがさっぱり分からなかった。というか、巾着の中すら確認していなかったことに気が付いた。

 ちょうど人気もないのでベルトから巾着を外して掌にひっくり返すと、鈍く光を反射する銀色の硬貨が出てきた。丸い硬貨の表には左を向いた男性の横顔、裏には右を向いた女性の横顔があり、何故か女性だけ顔の中が描かれていなかった。

 「あれっ」

 もっとよく見ようと顔に近づけて目を見張った。硬貨の縁は蔦のような模様でぐるっと囲まれているのだが、明らかに円がずれている。厚さも均一とは言いがたい。

 「もしかして、手作業で?」

 硬貨の製造方法を知らないが、熱して、型に流して、ぐっと押し付けて。そうやって作られているのだろうか。

 「すごい!すごいよ!」

 胸が熱くなる。思っていた以上にこの世界は細かく作られている。

 ――もっと。もっと、色んなものが見たい。

 「……旅をしたいな」

 幻想的で心躍るものを見て回るのだ。あれこれ推察なんかして、くだらない手記をたくさん残して。

 「旅を、しよう」

 何故か泣きそうになりながら、七は笑顔で宣言した。


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