2.冒険の準備は整った!
短めです。
「ファンタジーがわたしを!待ってるるらら~」
七が台所に立ち、即興の歌と、食器のカチャカチャという音を二人のいない部屋に響かせている。
「ファンタジーがわたしを!待ってるるらら~」
引っ越したばかりで食器を満足に出せていないので洗い物も少ない。
「冒険しようとわたしさ~そ~う~」
すぐに最後の食器についた泡を流し終えると、パパッと手を拭い、くるりとターンを決める。
振り返った七の顔には輝かんばかりの笑み。
「よし!いくか!」
新しいマンションに到着して三人がまずしたことは、一階にある受付でVR機の予約をすることだった。
予約した結果一番早く取れた予約は三日後で、もちろん一番乗りは七だ。
三人で同時に遊べるのは一週間後。それまでに各々で遊びゲームに慣れることになっている。
三人で遊ぶゲームは引っ越す前から決まっている。七のおすすめRPG『移ろう世界で』だ。
【聖と、魔の物。二つが争う世界。】
【衝突し、交り合う内、混沌とする。】
【混沌より、“渡り人”現る】
※渡り人
渡り人はあらゆる可能性を持って地に降り立つが、大変気まぐれである。
何処からか現れ、何処かに去ってゆく。
渡り人が現れた時期と混沌が発生した時期とが重なることから、渡り人は混沌より現れるのだと伝えられている。
“Playroom”の標識がある部屋に入る。カプセル型の機械が四つ横たわっていて、内二つは稼働中だ。
空いている機械に近寄り自分の部屋のカードキーを通すと、シューという音と共に上部が二つに割れた。
内部に『移ろう世界』のソフトをセットし、ヘルメットを被る。
七は仰向けに寝転がり、ボタンを押して蓋を閉めた。
薄暗い機械の中で服の裾をそっと直す。
VR機で遊ぶこと自体は珍しくもないのに緊張する。
しばらくすると視界がだんだん暗くなってきた。
暗くなる。
暗くなる。
まだ。
暗くなる。
どんどん暗くなる。
――落ちる、と思った瞬間上に引き上げられた。
【――接続中――】
【――接続中――】
【――接続中――】
【――接続中――】
【――接続完了――】
【――データを読み込んでいます――】
【――読み込み完了――】
【――〈移ろう世界〉を開始します――】【〈はい〉〈いいえ〉】