第1話 転移した日
「なあ、陽真〜」
「なんだ?」
「駅前に新しく飲食店が出来たの知ってる?行こうぜ」
「おう、別にいいぞ」
「聞いたかお前ら!陽真の奢りだぜ〜!」
「「「よっしゃぁぁあ!」」」
「んじゃあ、陽真頼んだぜ」
「まあ、仕方ないな」
「流石!よく分かってるぜ」
「まあ、な」
俺の名前は伊藤 陽真。高校3年の18歳だ。俺は大企業イトウ金融の御曹司だ。そのせいなのか昔から俺の権力や財力にありつこうとたかってくるやつらがしょっちゅういた。現在はそいつらが来なくなるのは諦めてある程度はつきあうことにしている。
「はぁ…」
俺はため息をついた。正直に言って俺はこの世界に絶望している。他の奴らからしたら贅沢なのかもしれないが、俺にとってはただただ鬱陶しく、邪魔なだけだ。
その時、俺の足元が急に光りだした。
「なんだ?」
足元を見ると幾何学模様の魔方陣?が光っていた。
「おいおい、これってまさか……」
そして俺は意識を失った。
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「報告します」
「許可する。話せ」
「はっ。東の森に『勇者』と思われる高エネルギー反応の出現を感知しました。これが勇者ならば召喚は成功したと思われます」
「ほう、急ぎ其の者の存在を獲得せよ」
「はっ。仰せのままに」
「『勇者』か。ふん、精々役に立って貰わないとな」
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「痛つつ、なんだったんだ?」
俺は光っていた魔方陣?を確認した後、意識を失った。これが俺の予想通りならここは異世界だ。魔方陣ということは本来なら召喚だが、転移の可能性もある。周りは見たこともない木々が生い茂り、日はあまり当たっていない。おそらく、召喚場所からは離れているのだろう。
「これからどうするかなぁ」
実を言うとかなりワクワクしている。それは何故か。俺は別に亜人や魔法などというファンタジーに期待をしているのではない。いや、全く無いとは言えないが1番の理由はココが異世界というところだ。人によっては?を浮かべる人もいるだろう。そう、俺はここで1人の人間として普通の生活をしたいのだ。前の世界ではイトウ金融の御曹司や、成績優秀な生徒。または容姿端麗なイケメンとしての外面を期待され、俺という一個人としては誰も期待しなかった。だからこそ、俺は俺としてこの新しい世界で生きていこうと思う。
「まあ、どうするにしても取り敢えず休める場所を探さないとな」
俺は立ち上がり、歩き出す。しばらく歩いていると洞窟を見つけた。
「お、これはいいな。取り敢えずここを拠点にするか。雨は防げるし丁度いいだろ」
そう思って、俺は中に入った。中は特に変わったところもなく、過ごしやすそうだ。
俺は取り敢えず火を起こすための枯れ木と尻に敷いたり身体にかけるための葉っぱを探すことにする。
枯れ木を集めて持っていたジッポライターで火をつけた。そして葉を地面に敷いて横になる。
「お休みなさい…」
誰に言うでもなく呟いて目を閉じた。
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ザッザッザッザッザッザッザッザッ
「っ⁉︎」
俺は目を覚ました。そして近くから聞こえてくる大量の足音を警戒する。
なんとなく、段々と近づいてきている気がする。
「くそ、なんだってんだよ。取り敢えず離れるか?」
「その必要はない」
「っ⁉︎誰だ⁉︎」
「私の名はガレイ。ドルト帝国、帝王親衛隊隊長。貴様が『勇者』だな?ついてこい」
目の前には漆黒の鎧を身につけた壮年の男と100はいるであろう鎧騎士が並んでいる。
伊藤 陽真。彼はまだ、自分の運命を知らず、争うすべも知らない。