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ドラゴンさんは友達が欲しい  作者: 道草家守
魔石編

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【番外編】魔族様、童貞を殺すセーターにて出陣す

こちらは以前投稿した番外編「ドラゴンさんが童貞を殺す服に出会ったら」のアフターストーリーです。

調子に乗った作者が全力で遊んだお話となっておりますので、楽しんでいただけましたら幸いです!


 


 しまった、と思った。



 この状況は、完全に私の自業自得だった。

 絶対こうなるって簡単に想像ついたのに、ついうっかり口を滑らせてしまったのだ。


 なんで我慢できなかったんだ。数分前の私!


『そんなにいうんだったら着られるの?』なんて言ったら、リグリラなら、絶対に、絶対にぃ……!


「ラーワ、よそ見をするなんて、着飾った女に失礼ですわよ」

「はひ!」


 はっと、意識を取り戻せば、目の前には鮮やかにほほえむリグリラがいて、いたずらっぽく紫の瞳をきらめかせながら小首を傾げた。


「さあ、あなたのために着たのですから。存分に、堪能して下さいまし?」


 リグリラは魔術なんて使っていない。

 なのに、その言葉に操られるように、私はリグリラの顔で固定していた視線を、ぎこちないながら動かしてしまう。


 そうして見えたのは、匂やかないで立ちのリグリラだった。


 華奢な首筋を彩っているのは、セーターのハイネック部分だ。


 若干ボリュームがあるそこから、縄模様が縦に走るセーターは、ゆったりと腰回りをおおっているけれど、予想通りというか案の定というか、裾は太股の付け根をようやく隠す程度だった。


 しかもリグリラは、黒のガーターベルトで吊ったストッキングを履いた上で、かかとの細いハイヒールを合わせていた。

 そのせいで、長く肉感的な脚が惜しげもなく晒されている。


 セーターの役割と真っ向から対立するノースリーブからは、むき出しの肩がのぞいていて、しかもそこから体の線に沿っている。

 だからリグリラの胸の形をしっかりと反映していて、豊かさがより強調されていた……っててててゆうかはみ出してないかい!?


 それだけでも破壊力抜群なのに、リグリラはあろう事かその場でくるりと回ってみせたのだ。

 

 金砂の髪が流れ、遠心力でわずかにセーターが浮き、なめらかな背中から続く見事にくびれた腰と、蝶のモチーフでかざられた白い臀部が目の前を通っていく。


 再びリグリラが私をみたとたん、愉快げに唇がつり上がったことで、自分がどんな顔をしているか、いやと言うほど理解できてしまった。


「うふふ、どうでして。ラーワ?」

「あ、ぅ……」


 顔が熱い、火が出そうだ。


 これ以上見てはいけないと、思いきって目を閉じたが、かえって脳裏に焼き付く白い姿が鮮烈によみがえって逆効果だった。


 一度、リグリラの体中をくすぐった事があったけど、どうしてあのときはあんなに平然とさわれたのだろうと思う。


 予想以上に胸があったのだとか、それなのにきゅっと引き締まった腰だとか、レースに飾られたなめらかな太ももだとか。

 リグリラを構成するすべての要素が女性を主張していて、一挙手一投足に匂い立つような色香が含まれていた。



 端的にいえばエロい。

 もう、なにもかもがエロい。



 一応私は精神的には女に近いはずなのに、リグリラの姿に心臓が飛び出そうなほど跳ね回って落ち着かない。

 このままでいたらまずい気がした私は、目をつぶったまま震えかける声を張り上げた。


「も、もう十分わかったからリグリラ、き、着替えていい……へひゃ!?」


 突然、肩のあたりを押されて、体勢を崩してしまった。

 後ろは柔らかいソファだったから衝撃だけですんだが、その拍子に目を開けてしまう。


 柔らかい薫りがした。

 甘いけれどきつすぎないリグリラの薫りは私の全身を包み、頭をしびれさせる。


 うまくものが考えられず、私はソファに押しつけるようにのしかかってきていたリグリラの、ひどく嗜虐的で艶やかな顔を見上げることしかできなかった。


 だって、下を見たら、たるんだセーターの間からすっごく見えちゃいけないものが見える気がするんだ!


 だからってどうすることも出来なくて、ぴきっと固まっていると、リグリラは頬を薔薇色に上気させ、紫の瞳を弓なりに笑ませる。


 ちろり、と赤い唇をなめたその仕草に、なぜか背筋が震えた。


「ねえ、ラーワ」

「はひ」

「どう、でして?」


 その問いかけで、なにを求めているか0.1秒で理解した私は、全力でまくし立てた。


「とととととてもすてきだとおもいます! これならどんな殿方も落ちるんじゃないかな!?」

「ふうん」


 思ったことは本当だ。

 声はうわずったが何とか言い切れば、リグリラは満足げな顔をしていて、私はほっと息を付いたのだが。


「なら、あなたも落ちまして?」

「ふへ」


 思わず間抜けな声を出してしまったが、リグリラの整えられた指先でついと頬の輪郭を撫でられて、またぞくぞくとした震えが走る。

 そのまま私の顎をとったリグリラは、すうと、顔を近づけてきた。


 さらりと金砂の巻き髪がふれてくすぐったくて一瞬気を取られたが、脚の間にある柔らかい感触にはっとすれば、いつの間にか、リグリラは私の脚の間に自分の脚を割り込ませていた。


「りりリグリラさん、その脚は何ですか!?」

「あなたも、殿方になりますでしょう? ならば、実際に殺せるかどうか、試してみるのもいいかと思いまして」


 私の動揺なんて全くスルーで、リグリラは赤い唇からこぼした単語に目を点にした。



 状況を整理しよう。


 その1、私はふっかふかのソファの上に押し倒されている。

 その2、リグリラは私の上に伸し掛かっている。

 その3、リグリラはありていにいうのであれば男性を誘う服装をしている。


 そこから導き出される「試してみる」の意味とは。



 と、理解がおよんだ瞬間がっと顔に熱が上った。


「リ、リグリラ、じょ冗談だよね?」

「あら、わたくしは魅力的ではありませんの?」

「いっいやそういうわけではないけれども!! こういうのは仙さんに見せたほうがずっといいんじゃないかな!?」


 ひどく悲しそうにけぶるような金のまつげが伏せられて、あわあわと否定を返した。

 そうして思いとどまってもらおうとなんとか言葉を操ったのだが、なぜかリグリラの表情がこわばった。

 え、思ったのも一瞬で、リグリラはすぐに切なげな表情に戻ると、私の片手を手に取った。


「わたくしは、あなたに真名まで差し出した身ですもの。抵抗なんていたしませんわ。こうして」


 持ち上げられた私の手が、その豊かな胸へ吸い込まれるように導かれた。


「好きにして、いいんですのよ?」


 ふわっとしたセーターの越しの、沈み込んでしまいそうな柔らかな感触に、私の指はしずんでいた。



 ふにゅっと。

 あるいはもにゅっと。




 あ、もう、むり。




「うにゃああああああ!」



 火が出そうなほど熱い顔を気にする余裕もなく、私はなりふり構わずリグリラの手を振り払って突き飛ばした。


 その際またふにゃっとした手の感触を努めて無視して、驚くリグリラをソファに残し、私はドラゴンスペックの限りを尽くして部屋のドアへ高速で走り寄りノブに手をかける。


 瞬間、扉が勝手に開き、ぼすっとぶつかったのは、独特の衿合わせの服だ。


「なにやら悲鳴が聞こえたが。どうかなさったか、ラーワ殿」


 はっと見上げれば、案の定困惑した表情を浮かべている仙次郎だった。

 その心底私を案じる灰色の瞳に見下ろされた私は、今までリグリラとしていた事が脳裏を駆けめぐり、こみ上げる羞恥と罪悪感に爆発した。


「ごめん仙次郎未遂だから――――――ッッ!!!」

「ラーワ殿!?」




 すてみになったびじょこわい。

 こわい!




 自分でもなにを叫んでいるのかわからないまま、私は仙次郎の脇をすり抜けて全力で走ったのだった。









 *








 走り去っていくラーワを見送ったリグリラは、少々不満を持ちつつ、とすりとソファに腰を下ろす。

 そうして、扉のほうをねめつければ、困惑気味に灰色の狼耳を動かす仙次郎がたたずんでいた。


「なんですの、仙次郎。せっかく良いところでしたのに」


 見ているのも腹立たしくて、肘掛けに頬杖をつきつつ視線を逸らせば、空気の動く気配で、仙次郎が室内に足を踏み入れたのを感じた。


「リグリラ殿、ラーワ殿をむやみにからかうのは良くないでござる」


 仙次郎は音もなく動く。

 それはリグリラでも感心するほどだったが、今はそれすら気に障る。


「ラーワは素直に誉めてくれただけですわ。どこかの誰かさんと違いまして」

「……やはり、それがしが気にくわなかったのでござるか」


 反応するのも業腹で、リグリラはぐっと、手に力を入れて我慢した。

 仙次郎に見せるべき、とラーワは言ったが、そんなものとうにやっていた。


 それも、ラーワよりもずっと念入りに、全力で迫ったのだ。

 その結果といえば……


 と、考えた矢先、ふわりと肩に布がかけられて、それが仙次郎の使う羽織であると気づいたときには、困ったような仙次郎がすでにそばに来ていた。


「リグリラ殿、かような格好では風邪を引くでござるよ」


 なのにこの朴念仁は、あろう事か平然としたばかりか感想も言わずに、こんな風に気づかわれ、完全にスルーされてしまったのだ!


 リグリラは己の人型が、人族の男性にひどく魅力的に映ることを知っている。

 より美しく見えるよう、試行錯誤の上に完成した姿であったから当然だ。


 なのに、一番反応して欲しい仙次郎には通じないのが、悔しいと同時に……そう、認めるのも嫌だが傷ついたのだった。


 だから、万が一、億が一にでもリグリラの姿に魅力がないのかという可能性も含めて……ちょっとの楽しみも併せて、ラーワに迫ってみた。


 ネクターという伴侶がいるにも関わらず、初すぎる反応には別の心配がわいてきたが、変わらず魅力的に見えるとわかっただけで十分だ。


「わたくしは魔族ですから、風邪は引かないと言っているでしょうに」

「それでものう。そこまで肌が露出しておると、少々心配になってしまうのでござる」


 のほほんと、困ったように苦笑する仙次郎だったが、今回も、そこに色めいた照れが見えないことが、リグリラには忌々しいほど悔しかった。


 仙次郎は、恋人になりたいと言った。

 むろん、伴侶となるのは仙次郎がリグリラに勝つことが出来てから、だが、それでも愛している女が着飾っているのだから、多少はうろたえたって、揺らいだっていいではないか!


 腹が立ってきたリグリラが立ち上がると、仙次郎の首筋に腕を絡めた。

 その拍子に、肩にかかっていた羽織が、すとりと落ちた。


「ねえ、わたくしの姿は魅力的ではありませんの?」


 存分になじってやろうと思ったのに、こぼれた言葉は、力がなかった。

 驚きに見開かれた灰色の瞳には、すがりつくように頼りない己の表情が映りこんでいて、またプライドが傷つく。


 こんな顔をしてしまうのは、すべてこの男のせいであるのがひどく忌々しい。


「あなたにだけはさわらせて差し上げる、と言っているのに。わたくしが、これほど誘っているのに無碍にいたしますの」

「それは……」


 どれだけ迫っても押しつけても、この唐変木は途方にくれた表情で立ち尽くしたまま、リグリラの腰に腕を回しもしない。


 経験上、相手と親密になるのであれば、肉体接触は重要な意味を持つはずだ。

 成人男性ならなおさら。

 なのに一応若くて健康な人族の男の仙次郎は、興味すら示さない。

 顔色一つ変えずに、尻尾ですらこ揺るぎもしないのは、さすがの己でも応えるのだ。


 独り相撲に虚しさすら感じてきたリグリラは深く、息を付いた。


「もう、いいですわ」


 あきらめて絡めていた腕をはずして離れようとしたが、ぐっと胸板に押しつけられた。

 面食らったリグリラだったが、ご丁寧に素肌にふれないよう袖でくるむようにされていることに気づいて、驚きは怒りにかわった。


「っ急に今更なんですのっ!!」

「その、すまぬ。これには訳がござってな」


 思いっきり腕をついて、身をよじりかけたリグリラだったが、仙次郎の胸から聞こえてくる心音に気を取られた。

 

 抵抗するのも忘れて、反射的に、耳を寄せてみる。

 衿合わせの布越しであったが、脈打つ鼓動は恐ろしく早い。


 目をぱちくりとさせて、リグリラが顔を上げてみれば、こちらを見下ろす仙次郎に相変わらず照れた様子はないが、どこかばつの悪そうな顔をしていた。


 もう一度、耳を寄せてみる。


 せわしなく刻まれている鼓動は、明らかに緊張と動揺を表していた。

 これは、つまり。


「あなた、意外とうろたえてまして?」

「……好いた女子にこのように迫られて、動揺せぬ男子がおればお目にかかりたいでござる」


 とうとう白状した仙次郎は、注意深くリグリラを引きはがした。


 腕の分だけ距離を置かれたリグリラは不満を感じたが、さっきまでの怒りは若干引いていて、その代わりにわいてきたのは疑問だ。


「その、だな。それがしはリグリラ殿に勝利をおさめるまでは、あなたにふれぬと己に誓っていたのでござる。だがあまりに艶やかでござるのでな、少々こらえるのに苦労しもうした」

「少々、ですの?」

「今日まで培った、すべての忍耐を動員しておる」


 気恥ずかしげにしっぽが揺れるのを感じて、リグリラはならばと問いかけた。


「実際は、どう思いますの?」

「……天女のようかと」


 そこだけ、ほんの少し顔を赤らめて目をそらした仙次郎だったが、ふいに真剣な表情に戻った。


「だが、できれば、かような格好をするのはそれがしの前だけにしていただきたいでござる」


 強いまなざしに、リグリラは全く度し難いと、あきれたため息を付いてみせた。


「わたくしの誘いに応じるつもりがないくせに、わたくしの服装に口を出しますの?」

「あいすまぬ。弁明しようもござらんが、その……気が気ではない故」

「ふうん?」


 リグリラは、仙次郎の灰色の瞳と、その頭頂で伏せられる狼耳をみて、少々考え込む。


 平然を装っていただけ、というのは理解できた。

 内心はどうやら、リグリラが迫るたびに、動揺し通しだった、ということも。


 頼んでもいないのに耐えようとするなんて、愚かとしか言いようがないが、そういう律儀で頑固なところもらしいと思ってしまう自分も大概だ。


 その忍耐の牙城をこのまま強引に突き崩す、というのもなかなかそそられたが。

 仙次郎の正直な胸の鼓動と、あきらめたように嬉しげに揺れるふさふさのしっぽに免じて、またの機会に持ち越すことにした。


「仕方ありませんわね」


 肩をすくめてみせれば、仙次郎がほっとした表情になる。


 だが、このまま終わってしまうのはリグリラの気が収まらない。


 不意を付き、また首筋に腕を絡め、背伸びをして、その驚いた顔の唇に口づけを一つ。

 そのときに、思いっきり胸を押しつけることも忘れない。


 反射的に、リグリラの腰に腕が回されたことに、仙次郎の本心がかいま見えた気がして、愉悦と甘やかな喜びがわき上がってくる。


「っ!?」

「今日は、これくらいで許して差し上げますわ。……でも」


 すぐに体を離したリグリラは、虚空から愛用の鞭を取り出して、瞳に闘争の光を宿して笑んでみせた。


「代わりにこちらをつきあって下さいまし」

「そちらなら、存分にお相手いたそう」


 すぐに切り替えて、願ってもないといわんばかりにうなずいた仙次郎だったが、ふと気づいたように問いかけた。


「リグリラ殿、着替えぬのでござるか?」

「あら、あなたの前だけでしたらこの格好でいいのでしょう? 軽いですし、動きやすいですし。まさか、服装で戦う相手を選ぶ、とは言いませんわよね?」


 まあ、あきらめるからといって、このままですませる気は毛頭ないのだった。

 この自分を振り回した罰だ。存分にうろたえるがいい。


「い、いやだがそれはあまりにも殺生で……っ」

「問答無用ですわ! さあっ、存分に殺りあいましてよ!」


 意趣返しに成功したリグリラは、目に見えて狼狽する仙次郎をつれて、うきうきと二人っきりの戦場へ転移をしたのだった。



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