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ドラゴンさんは友達が欲しい  作者: 道草家守
精霊喰い編

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第30話 そしてドラゴンさんは日常に戻る

 



 ぽかぽか陽気な山岳地帯の一角。

 私の現在の仕事場である。

 ぽかぽかと言っても、澄み切った空気に遮るものがない分、日差しは紫外線とかやばいんじゃないというレベルでぎらつくように降り注ぎ、標高も背の高い木々が生えない程度には高く、普通の人じゃ徐々に体を慣らさないとまずい感じの環境である。


 まあ、ドラゴンな私とか精霊なネクターなら問題なく、むしろ、一帯の魔力濃度が濃いおかげで過ごしやすいくらいだ。


「あーもう、カイルのコミュニケーション能力はありがたすぎる。

 あのほぼ終末気分のドワーフの村に行って、安心させた上で注意事項をしっかり説明出来ちゃうんだもん」

「カイルは昔から、人心を掌握することに長けていましたからねえ」

「しかも、その後一緒に彫金の工房見学した上宴会まで開かれるって、ねえ一体何したの?ってレベルだよ」


 その後魔族になってもお酒には弱いカイルがドワーフ特有の火がつくレベルのお酒を勧められてぶっつぶれ、ドワーフの女の人がカイルを介抱する権利をアームレスリングで決めてたのには笑ったわー。

 何となくやばそうだったので優勝者が介抱に行く前に回収したカイルは、ただいま二日酔いで家で寝てる。


 ともかく、ドワーフの村はもう大丈夫そうだ。

 私が攻めあぐねていたものを、たった半日で納めてしまうなんて、やっぱり元政治家は違うわーすごいわー。


 たぶん、これからカイルは壊滅的にコミュニケーションがへたくそなドラゴンたちに頼まれて、人や精霊との折衝をしに行くことになるだろう。

 几帳面に避けている今でさえ、近くに人里があるドラゴンも少なくないみたいだから、交流とは行かなくても、穏便に済ませたいドラゴンたちが私に知恵を借りに来たように。

 後何十年もすれば、きっとドラゴンたちはカイルを頼りにするようになるだろう。

 ……私でさえ、ちょっぴり良いなあと思うもの。


「もう、カイル無しには生きていけないかもしれない……」

「ラーワ」


 思わず心の声を漏らしたとたん、名前を呼ばれた。

 微妙に低いトーンに、びっくりして見れば、ネクターはちょっと困ったように淡く微笑んでいた。


「冗談とはわかっていますが、妬けてしまいますので、ほどほどにしといてくださいね?」

「なに言ってるんだネクター」


 その妙に真剣な口調がおかしくて、くすくす笑った。


「カイルは今でもベルガに一筋だよ? 私がネクターだけなのと一緒でさ」

「頭ではわかっていても、もやりとするものですよ。ラーワは私は他の人族の女性と一緒にいたら、感じませんか」


 問いかけられた私は、ちょっと考えて胸の内を探ってみる。


「ないかなあ」

「どうして、ですか」

「だってネクターが私以外のヒトに惚れる情景が思い浮かばない」


 ちょっぴりいたずらっぽく微笑んでみせれば、ネクターは薄青の瞳を丸くした後、しどろもどろになった。


「そ、それは、その通りですけど、なんだか釈然としませんね……」

「それくらい、愛されてる自信はあるからね」


 にんやりと笑った私はネクターの白い肌がじわじわと赤く染まっていくのをにやにやしながら眺めていた。

 うむ、最近やられっぱなしだったから一矢むくいた気分である。


「あなたはドラゴンだからそうかもしれませんけど、それでも、人であった私は、ちょっぴり心配になるんですよ?」

「そういうもん?」

「はい。だから、カイルでしたら許しますけど、あまり他の男性にはじゃれつかないように。特にうらやましいからって仙次郎さんのしっぽはだめですよ」

「むっ……はあい」


 まじめに頼まれた私は、不承不承うなずいた。

 私がつるつるだから、あのふさふさしっぽはいつかさわらせてもらいたいなあとか思うんだけど、あきらめた方がよさそうかなあ。

 美琴ちゃんは女の子だしなあ。

 ……いつかお願いしたらさわらせてくれるかな。


 ちょっぴりよこしまなことを考えていると、ネクターが私の頬に手を伸ばしてきたので、自然と引き寄せられた。


 ドラゴンの口先や側面に寄せられる口づけは何百回としているはずなのに、やっぱり何度やっても照れる。

 それだけで暖かくて、幸せな気分になる。


「……訂正、していいかい?」

「なにをですか」

「やっぱりこうするのはネクターだけがいいや」


 なんとなあく、もうちょっと近づきたくなった私が人型をとってすりよれば、ネクターは艶やかな笑みで応じてくれた。


 そうしてさっき以上に近づいた距離でネクターとふれあいかけたそのとき。


『おお、おまえさんがた、百年たっても熱いのう』


 その声に私はネクターから音速で離れた。

 振り返れば、すげえいじわるげに微笑む半透明のおじいちゃんがいた。

 いやね、確かに精霊樹のひと枝を使って通信待ちはしていたけど!


『おおおじいちゃん!? い、いつのまにきてたのかな!?』

『その不肖の弟子が、おまえさんにキッスをするあたりかのう。じゃまするのも悪いかと思うてな、こっそりひっそりしていたのじゃが』


 マジうろたえで問いかければ、ひょうひょうと答えられて、真っ赤になった。

 そんな高度な隠匿術式かけてまで出歯亀って何してるんだい!?


『……弟子よ、わしに忘却の術式を向けてどうする気かの?』

『……くっ、やはり御師様には通じませんか』


 ふてぶてしいおじいちゃんに見とがめられて、発動寸前の忘却術式編んでいたネクターはやめていた。

 いや、何でそんな悔しそうなの。


『……ちっ』


 舌打ち、今舌打ちした!?


『ふん、未だ殻を付けた身でわしをどうこうしようなど3000年は早いわい』


 ぞんざいに言い放ったおじいちゃんは、一転私を上から下までまじまじとみた。


『全体の魔力の流れに乱れも無し。あの石頭共に拘束されたと聞いておったからどんなものかと思うたが。ふむ、大丈夫なようじゃの』


 ああ、そうだった。

 ネクターがおじいちゃんに本気でドラゴン討伐を持ちかけたから、おじいちゃんは今回の概要を知っていて、様子を見に来るって言っていたのだ。


『心配してくれてありがとう』

『わしも駆けつけられたらよかったが、なにぶん不自由な身じゃからの。弟子も枝でわしを呼べるというのに事後報告しよって。わしだってドラゴン共に文句の一つや二つあると言うのに』


 ぶつぶつというおじいちゃんの真剣さにちょっぴり驚きながらも、自分のために怒ってくれると思うと嬉しい。


『次かような機会があれば、わしも呼ぶのじゃぞ?』

『うん、ありがとう、おじいちゃん』


 ネクターとおじいちゃんがそろったら、それこそドラゴンたちが泣くんじゃないかと思うんだけど。そこはまあおいとこう。

 にへにへと笑えば、ネクターがちょっぴりおもしろくなさそうな顔をしていた。

 それに気づいたおじいちゃんが、いきなり私を抱き寄せる。


『なあに、かわいい子等の為じゃ。老骨の一枝二枝も折ろうぞ』


 いつの間にかネクター並みに若い外見になってたおじいちゃんは、私の髪にくちづけるとか器用なことをやって見せた。

 おう、ネクターが呆然とした後、あまりの怒りに口を開け閉めするだけになってる。


『……おじいちゃん。あんまりネクターをからかわないでくれるかなあ』

『おや、亭主の嫉妬する姿を見るのはおもしろかろう?わしは愉快じゃ』


 そんなぶっちゃけてどうすんの。


『私は家族のおじいちゃんにそういう風やられても微妙というか……』


 まるでお父さんが無理して映画俳優のワンシーンを再現してかっこいいところを見せようとしてるみたいで、スキンシップとしてもかなり痛々しいというか。

 私の微妙な視線に気づいたらしいおじいちゃんは地味にショックを受けたみたいだった。


『わしだっての、昔はあまたの美人にモテモテでの。そりゃあブイブイ言わせていた時期があるのじゃよ……』


 いや、確かに私からしてみてもおじいちゃんは美老人だし、今の若いのを見てもやっぱりもててただろうなあと思うよ?

 でもそれとこれとは別なんだよなあ。


 ちょっぴり傷ついた風でおじいちゃんが腕をゆるめたので解放されたのだが、すぐに再起動していたネクターによってぐっと引き寄せられた。


『当然です! ラーワは私にしか反応しないんですっ!』

『ネクターそこで張り合ってどうするの』

『ええもん、わしにはアールがいるからの。いつかおじいちゃんと結婚すると――』

『とはいってなかったよね?』

『そうじゃったな……』


 ネクターの腕から抜け出した私が、なんだか哀愁漂うおじいちゃんの背にそっと手をおくと、おじいちゃんは気を取り直したようだった。


『それよりも黒竜よ、アールの様子はどうかの』

『うん、精霊喰いに絡まれたときの一時的に大量に魔力を喪失した疲れはもうとれてるよ。私の側で魔力の補給もしたし。もういつも通り学園に通ってる』

『ふうむ、いつかのぞいてみたいものじゃな。魔導の学び舎なぞ、わしの頃はどろっどろしておったからなあ。アール坊が並みいるらいばるをバッタバッタとなぎ倒していくところなぞ見てみたいわい』

『いや、今の学校ってそんなにひどくないからね。それに良い友達が出来てるんだあ。かわいい友達と良い先輩に恵まれてねえ』

『ほう』

『先日の騒ぎで、アールがドラゴンだってばれちゃったんだけど、それでも今まで通り接してくれるんだ。しかも、エルくんの方はなんだかアールを意識してくれちゃうみたいだから私までわくわくしちゃって』

『……ほう?』


 うん?なんだかおじいちゃん声のトーンが低かったような?


『ちょ、ちょっとまってくださいラーワ、エルヴィー君がなんだというのです!?』

『え、ネクター気づいてなかったのかい? エルくん、この間アールを迎えに来てくれたときにアールが男の子でも女の子でもあることに気づいたみたいで、ワンピース姿にどぎまきしてたんだよ。こりゃあもしかしたらなんかあるかもなあ、なん、て?』


 なんだか殺気立った空気に思わず言葉がとぎれた。

 みればネクターもおじいちゃんもごっそり表情が抜け落ち、不穏な気配が陽炎のように立ち上ってる気がする。


 え、なに?


『弟子よ。そのエルとやらは、どんな人族かの?』

『御師様、彼は私の親友の曾孫ではあり、一体のドラゴンと自力で友情を結ぶほどの度量のある少年ですがまだ15歳。若すぎます』

『……弟子よ、絶対に阻止せよ。かわいいアールに色恋沙汰など百年早い』

『言われずとも、全力で』


 目がマジな親バカ二人に、天を仰いだ。

 あーもう、まだほにょりとしただけでどうして過剰反応するかねえ。


『ねえおじいちゃんそんなこと良いからさあ』

『そんなこととはなんじゃい。思春期の男子というものはな、おしなべて変態と決まっておるのじゃ。アールにもしものことがあればわしは何をするかわからぬぞ!』

『いやね、エルくんは常識的な男の子だから、自分より5歳も年下の子供にそういう気持ちにならないよ』

『……いえ、わかりませんよ。カイルは10歳以上年下のベルガに惚れたのです。そういうけが血縁的に伝わってるとしたら……』

『なんと、それは直ちに抹殺すべきではなかろうか』

『ああもう二人とも何バカなこと言ってるんだよ!そーゆーこと言って干渉してアールに嫌われても知らないよ!』


 今にも呪い殺さんばかりの顔をしている彼らに言ってやれば、そろって愕然とした顔をする。


『そ、それは』

『困る、のう……』

『それに、当の本人たちすら気づいてないものをとやかく言うもんじゃないよ。もしエル君に手を出そうとしたら私とアールが許さないから。いいかい?』

『……下手に手を出して、気づかせてしまうのもどうかと思いますし』

『逐一監視、のみで手を打とうかのう』


 黙り込んだ末、ぼそぼそとネクターたちが言い合うのに、やれやれと言う気分である。


『あーじゃあ、本題に戻すよ。おじいちゃん。たしか古代魔道具についても詳しかったよね』

『まあのう。わしが現役だった時代に限られるが』

『じゃあ、音楽で魔術を無効化するような楽器型の魔道具って知らないかな。特徴とか知ってたら教えてほしいんだけど』

『楽器型の魔道具、じゃと』


 片眉を器用にあげて見せたおじいちゃんに、ネクターが補足した。


『それを持った犯人が、シグノス学園内に侵入し、カイル……私の友人のものだった杖をはじめいくつかの魔道具を盗みました。その際に使用されたのが、「すべてを眠らせる」作用のある魔術のようで。さらには魔導施設の復元まで行った可能性があります』

『……ふむ』

『なにかわかる?』

『わしがぶいぶい言わせていた頃に、詠唱以外の方法で魔術を繰るのがはやっていた時期があってな。もしかしたら、その時期に作られたものかもしれぬ。魔術と演奏技術の両方が必要じゃったが強力でな。中には杖代わりに楽器を持ち歩くものもおるくらいじゃった』

『へええ』

『ちなみに、目撃されたのはどんな楽器かの』

『正確には、前に構えて演奏する6弦の楽器、証言によるとリュートに見えたということです』

『……ほう』


 ひょうひょうとしていたおじいちゃんの雰囲気が変わった気がした。


『何か、わかる?』

『いんや、なんにもじゃな。リュート型はようはやっておったしのう。現存しておっても不思議はなかろう』

『そっかあ』


 ちょっぴり期待を込めてみたのだが、あっさりとそういわれてガクリとした私に、おじいちゃんが付け足した。


『ただ、気をつけるが良いぞ。一時的にでも壊れた魔導施設を現世に引き戻せるような魔術など、こやつの腕でようやっと出来るくらいじゃろう』


 ネクターを示しながらの言葉に私はいっそう気を引き締めていると、おじいちゃんが魔力の流れを気にするように虚空をみた。


『そんなもんかの、ではそろそろ時間切れのようじゃな』

『あ、うん。ありがとう』

『なあに、興味深い話も聞かせてもろうたしの。たまにはアールの顔でも見せにこい。そうじゃ、監視を怠るでないぞ』

『はい、もちろんです』


 そうして付け足された言葉にネクターが強く相づちをうつのに苦笑しつつ、消えていくおじいちゃんを見送ったのだが。


「……?」

「どうかしましたか」


 媒介に使った精霊樹の枝を拾ったネクターが、私を見て不思議そうにした。

 最期の一瞬、おじいちゃんの表情がとても険しかった気がしたのだけど、たぶん、気のせいだろう。


「いいや、なんでもない」

「そうですか?」


 んーと伸びをした私は、ぼんやりと考える。


「結局強力な魔術師って以外は手がかり無し、かなあ」

「いえ、そうでもありませんよ。その犯人が持っていた楽器が御師様の言う楽器型の杖だったとすると、相当な演奏者でもあるはず。ならば必ずどこかで高名な演奏家に師事しているはず。魔術師でなおかつ音楽家、となれば相当絞れるはずですよ」


 たしかに、両方に熟練してなくちゃいけないのは目立つか。


「じゃあ、それをセラムに教えたらひとまずこの騒ぎは終わり、かな」


 魔導装置を復元できる力ってのはちょっと気になるけれど、カイルの杖がこちらに戻ってきたから、強いてその犯人を追う理由はもうないのだ。


「そうですね。個人的には少々気になる点はありますが、次は組織力が役立つ場面です。私たちの出番はここまででしょう」


 うんよし。じゃあ……


「……ええとネクター、なにかな?」


 ふんわりと私を抱きしめてきたネクターにちょっと予感を感じ問い掛ければ、ネクターはやんわりと微笑んだ。


「さきほどは良いところで御師様に邪魔をされてしまったので、再開してみようかと」

「いや、でもそろそろアールが帰ってくる時間じゃないか」

「二日酔いですけどカイルもいますし、ほんの少し遅くなったとしても大丈夫ですよ」

「ひうっ」


 ネクターの手があらぬところをさまよい始めたのに、一気に心臓が早鐘を打つ。


「最近、カイルが家にいますからちょっとラーワ成分が足りないので、補給させてくださいね?」


 成分ってなんだよ成分って!

 とつっこみたかったが、薄青の瞳で見つめられれば抵抗する気力も萎えてしまう。

 そりゃね、私だって、ぎゅーっと触れあいたいときはあるんだよ?


 だけれどもそれを素直に出せばネクターが調子に乗るのは目に見えているので、牽制のためににらみあげてやる。


「ちょ、ちょっとだけだからね」


 とたん、ネクターの笑みが怪しい色を帯びた。


 ……あれ、失敗した?


 とりあえず、夕飯までには何とか間に合ったとだけは付け足しておこう。


 ドラゴンに生まれて幾星霜。良き伴侶と子供に恵まれ百数年。

 親友まで生き返り、この頃の私はなんだかんだで幸せなのでありました。




 ……ちょっとネクター自重しよう?










これにて精霊喰い編はひとまず完結です。

続編も予定しておりますが、少し間が空きます。

気長にお待ちいただけたら嬉しいです。

感想、コメント、いつも有難く読んでおりました。

ご愛読ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
二人めの子供が出来たりもっと兄弟姉妹増えてワチャワチャするところみたいですo(^( 〃▽〃)
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