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ドラゴンさんは友達が欲しい  作者: 道草家守
精霊喰い編

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【クリスマス番外編】~ドラゴンさん、サンタになる!?上~

大切な方と過ごした方も、一人の時間を楽しんだ方にも。


 


 クリスマス。

 それはリア充な人々にとっては祝福となり、だが一部の人間には地獄とも言える日。


 もちろんぼっちな“わたし”は後者だった。クリスマスなんて家族としか過ごしたことないやい。ぐすん。


 だけれどもこっちの世界には新年祭はあっても、冬に聖人の誕生日を祝う習慣なんてないし、もちろん赤い服着てトナカイの引くそりに乗ったおじさんが子供達にプレゼントを配ることもない。

 いないのだが――……


「ええと、リグリラ?」

「よくお似合いでしてよ、ラーワ。やはり、わたくしの目に狂いはありませんでしたわ」


 鏡の向こう側で満足げに頬笑むリグリラの前には、いつもより小さめサイズの私がものすごく微妙な顔でこちらを見返していた。


 新年にはまだ早い、真冬のある日のことだ。

 リグリラの戦闘ではないお誘いに嬉々として家を訪ねたのだが。

 挨拶もそこそこ、試着室に引き込まれて子供型になることを迫られ、なんだと思っているうちに、この服を着せかけられたのである。


 そんな私が着ているのは、真っ白でふあふあなファーやぼんぼん飾りのついた深い赤のワンピース。

 頭にはご丁寧に同じ赤に白いぼんぼんのついたとんがり帽子がちょこんと乗っている。

 その姿は、まさに。


「サンタコス、だよねえ」


 質は違えど、どこからどう見てもクリスマス会で着るようなサンタクロースコスプレだった。


「さんた、とはなんですの?」

「……いや、なんでもない。リグリラ、どうしてこのデザインなんだい?」


 小首を傾げるリグリラを振り返った私が聞けば、リグリラはふふんをと自慢げに言った。


「一度、あなたに赤を着せてみたかったんですの。

 ですが、ただ赤いワンピースというだけではもの足りませんもの。なので雪をイメージした純白のファーをあしらってみましたの。わたくしの予想通り、愛らしさきわだって素敵ですわ」

「え、えとありがとう?」


 そうか、先入観さえなければ、このデザインは普通にかわいいのか。

 前世の記憶がある私はこの組み合わせを見るだけであのふとっちょさんを思い出してしまうのだが、こっちには固定観念はないわけで、微妙な顔をする私の方が変だよなあ。

 べた褒めされた私は、ちょっぴり照れて頬をかいたが、疑問が残る。


「でもどうして子供型に合わせて作ったんだい? 別にいつもの体型でも良かったのに」

「もちろん、基本形のものも仕立ててありましてよ?」


 外見年齢には合っているとはいえ、さすがにこのふりっふりのサンタコスを着続けるのは実年齢うん百歳の私にきつい。

 基本形サイズがあるんなら是非そっちをお願いします!

 私が期待を込めて見つめる中リグリラが指を鳴らせば、すぐさま使い魔のイルちゃんが現れてトルソーにその赤い布地を着せかけた、のだが。


「こちらはよりぐっと大人びさせて、背中をぐっと見せるデザインで。さらにドレスのスカートには大胆にスリットを入れ、ストッキングの黒が美しく見えるようにしてみましたの。これで、あなたの魅力を存分に……どうかしまして、ラーワ」

「……私、今着てるこれがすっごい気に入ったから、それはいいや」


 嬉々として説明するリグリラの隣にある、そのエロいサンタコスに、私はひきつった笑みを浮かべた。





 **********





 その後なんとしてでも着てほしい言うリグリラとの攻防は、お客さんが来たことによって崩れ、私はリグリラたちが応対に出ている間に全速力で逃げた。

 あんなえっろいサンタコス着るくらいなら、こっちの方がいい!


 元の服に着替える間もなかったから、私の服装はふりっふりのサンタコスだが、まあ、外見年齢と合っているから問題ない、はずだ。

 そう、削られるのは私の精神力だけだよ……(遠い目


 と、言った感じで衝動的に逃げてきてしまったものの、実は行く当てなかったりする。

 この後はネクター達のところへ行く約束になってるけど、誘拐未遂事件以降、ネクターの前で子供型は禁止されてるから、このまんま会いにはいけないし。

 それに今はまだ午前中。しかも平日。ベルガに早めにつく連絡もしていなかったから、正直訪ねて行きづらい。


 うわあ、私、結局リグリラのところに戻らなきゃだめな感じじゃないか。

 適当な壁に手をついて落ち込んだが、まあ仕方がない。


 きっとリグリラすねてるだろうなあ。

 なんか喜ぶようなもの持って行ってなだめるかあ。


 と、考えたところで、ふと思いついた。

 それならせっかくだしみんなの分何か用意しようかな。

 いっつもお世話になってるし、だって、今の私はサンタの格好してるし、うんうん。


 幸いにも前回ハンター業(アルバイト)で貯めたお金がお財布ごと亜空間にしまってある。資金は十全!


 では、ドラゴンサンタによる、サプライズプレゼントと参りましょうっ!

 一気にテンションがあがった私が右拳を空に突き上げて決意をしていると。


「あんた、そんなとこでなにやってんの」


 後ろから声をかけられた。

 びくうっ!と肩を震わせた私が、恐る恐る振り返れば、明らかな不審な人物をみるまなざしの10代後半くらいの女の子がいた。

 癖の強い赤毛を無造作にくくり、白い肌に散ったそばかすがかわいい子だ。

 いや、問題はそこではなく。


「み、みてた?」

「あんたが、ぶつぶつつぶやきながら拳を突き上げるところまで」


 無情に言い放った赤毛の女の子に、自分でも顔が真っ赤になるのがわかった。

 サンタコスでもあれなのに一人でテンションあがってるところを見られるとか、自業自得だけど恥ずかしいっ!


 固まっている私に対して、大きな籠を持った女の子ははあとため息をつきながら言う。


「ここはスラム街に近いから、そんな上等ななりしてたら一発で身ぐるみはがされて売り飛ばされるよ」


 そういえば、と見渡せば、ぜんぜん見たことない通りだった。

 どことなく薄汚れていて、寂れた感じがしている。

 ぼうっと歩いているうちにかなり遠くの方にまで来てたらしい。


「ほんとだ、ぜんぜん知らない場所だ」

「あんた、親はどうしたよ」

「ひとりだよ」

「……家は」

「(ここには)ないよ?」


 どうしてそんなこと聞くのだろう、と首を傾げたところで、今は子供型なことを思い出した。

 慌てて説明しようと思考を巡らせてるうちに、赤毛の女の子は顔をしかめたかと思うと、深くため息をついた。


「ああ、そうかい。あんたもどっかのバカ親に捨てられちまったくちかい」

「あ、いやっそのっ!」


 ちがうんだよ!?私うん百歳だから!?

 だけど、妙な方向へ納得してしまった彼女には、私の慌てぶりなど目に入らないようで、女の子は一人うなずきながら、算段をつけてしまう。


「新年も間近だってのにスラムデビューはかわいそうだ。しょうがない、あたしのところにおいで。生意気なクソガキどもばかりだけど、寒さと雨をしのぐ家だけはあるよ」


 あ、もう無理だ。

 私じゃ誤解を解ける気がしない。


「あたしはアニタだ。じゃあ行くよっ」


 そうして冷や汗をかく私は、にっかりと笑ったアニタに連行されることになったのであった。





 **********





 アニタの目的地はそこから歩いてすぐだった。


「お姉さん、ここって」

「一応王立の孤児院ってことになってるけど、国から補助金がでたって話は聞いたことないね。まあ建物だけは頑丈で雨漏り一つないってのがじまんさ」


 確かに見た目はあれだけど、まだまだ現役っぽそうだ。

 ほかの建物とは違い、広い敷地をとって前庭まで作られている。

 アニタは私を連れて建物の表玄関ではなく、畑になってる庭を伝って裏手に回った。


 裏口からはいるとそこは台所だった。

 古びてはいるけど広々としていて、真冬の寒さが深々と入り込んでいる。

 私はあんまり感じないけどアニタはぶるりと震えながら、テーブルの上に買い物かごを重そうに乗っけた。


「ふう、つっかれた。あんた、寒くないかい? 今かまどに火を入れるからね」

「ううん、大丈夫。ところで、このかごにはなにが入ってるの?」

「ああ、新年に売るためのビスケットの材料さ。このビスケットの売れ行き次第で、新年に食べられるご飯の量が決まるからね。気合いも入るってもんだよ」


 アニタがかまどに火を入れようと火打ち石を使っているのをみた私は、そろそろと近づいて、タイミングを合わせて魔術を使う。


「おや、珍しいね、すぐついた」


 とたんに勢いよく火の回り始めたかまどに、ちょっぴり驚いた顔をするアニタはテーブルに戻ってきて材料を広げ始める。

 すると、ばたばたと騒々しい足音とともに、室内の扉が開け放たれ、子供達がなだれ込んできた。


「あー!アニタ帰ってきてたのかよ!」

「まだあいつらきてねえよ!」

「またクッキー作るの!?」

「そのこだあれ!?」

「ああもう、あんた達、いっぺんにしゃべるんじゃないよ」


 一喝されて黙り込んだ子供達に、アニタは一つ一つ答えていく。


「ジョッシュ、ただいま。ケン、わかったよ、来たらすぐに教えてくれ。マリア、クッキーを作るから手の空いている子を呼んできてくれ。マイン新しい仲間だよ。仲良くしてやって」

「「「「はーい!!」」」」


 とたん散らばっていった子供達のうしろ姿を眺めながら息をついたアニタは、ボー然と立ち尽くしていた私を振り返って言った。


「うちは働かざるもの食うべからずだからね。新入りのあんたにもめいっぱい手伝ってもらうよ?」

「う、うん」


 この少女が、ものすごくいい子ってのはわかる。あれだけ子供達に慕われているんだから、よっぽどめんどうみがいいんだろう。

 それだけに、どうやって穏便に抜け出そうか悩む。

 とりあえず、クッキーづくりは手伝うか、と私は言われるがまま手を洗い始めた。



 まもなく集まった10数人の子供達とともに、一斉にクッキーづくりが始まった。

 子供達は慣れたもので、わいわいがやがやしゃべりながらも手は止めなかった。

 ボウルでバターと砂糖が練り合わされて、ちょっとの卵が加えられ、小麦粉を投入だ。

 別のボウルでは、ナッツやドライフルーツも取り混ぜられている。


「さっくりだよー、ねっちゃだめだよー!」

「う、うん」


 (外見上は)同年代の子供達に教えられながら、私も恐る恐る作業に加わる。

 はじめは混ぜ合わせる係だったのだが、へっぴりさが見てて危ないと言うことで、型抜き係に。

 でも手が遅いと言うことで持て余され、微妙に落ち込んでいたところで、アニタの薪運びを手伝ったらバター練り係に抜擢され、ひたすらバターを練ることになった。


「わあ、あっという間だねー!」

「すごいすごい真っ白だ!」


 どうやらバターという奴は砂糖と混ぜてよく練ると白っぽくなるらしい。

 ひたすらぐりぐりやってたら子供達にめちゃくちゃ誉められた。

 ……結構嬉しい。


 そんな感じで作業は進み、生地ができあがれば打ち粉をした台に出されて、ちょっと大きい子達によって薄くのばされていく。

そうして、小さな手で次々に型抜かれて、天板に次々に乗せられていった。


 それをアニタが温まったかまどに入れて、数十分後にはこんがり焼きあがったクッキーがテーブルに出される。

 台所はとたんにバターとお砂糖の焼ける甘い香りで満たされた。


「おなか空いたぁ」

「今日の晩ご飯なにかなあ」

「スープぐらいあるといいねー」


 物欲しそうに見つめながらも、おいしそうに焼きあがったクッキーに手を伸ばす子は一人もいない。

 そんな子供達に、かまどの前で汗をかきながらまた天板を出していたアニタが快活に言った。


「こいつの売れ行き次第だよ。後もうちょっとだ、頑張りな」

「「「はーい」」」


 元気に返事をした子供達は、用意されていた紙袋に手際よく詰め始めた。

 再び、バターを木製のへらで柔らかくしていた私は、そんな子供達を悲しげに見つめるアニタの表情に気づいた。


「お姉、さん?」

「ああ、あんたか。ずいぶん力持ちだねえ。いつもよりずっと楽に作業できて。助かるよ」

「あ、うん。このクッキーどれくらい売れるの?」

「妙なこと聞く子だねえ。子供達に手分けしてもらってるから、だいたい――……」


 アニタにこっそり近づいて聞くと、彼女はちょっぴり驚いた顔をしつつも答えてくれた。

 だけどその額は私のおおざっぱな計算でもこの数の子供達を養うには足りない。


「まあ、これでも場所代は払ってない分だけ実入りは多いんだけどね。残りはちょっと年齢が上の子供やこの院で育っていった子達の仕送りでまかなってるよ」


 苦笑するアニタは、疲れたようにため息をついた。


「院長先生も、お偉いさんに何とか補助金を出してもらえないか掛け合ってるんだけどね。なかなか理解してもらえなくて、挙げ句の果てには子供をへらせとまで言ったらしい。子供を守るための孤児院だってのにお偉いさんはなにを考えてるんだか。……と、いっても子供のあんたにはわからないか」


 そこまで言ったアニタに、私が口を開こうとしたとき、軽い足音とともに扉が勢いよく開けられた。


「アニター! あいつらが来たっ!」

「っ!やっぱり院長先生がいない時間を見計らってきたね」


 その男の子の必死の形相にアニタの顔が厳しく引きしまる。


「院長先生は」

「キッド達が呼びに行ってる!」

「よし、わかった。ジョッシュ、かまどの面倒よろしく」

「う、うん」

「いいかい、みんな、作業を続けるんだよ」


 台所を満たす緊張した空気の中で、無言でうなずく子供達を順繰りに見渡し、アニタはにかりと笑って扉の向こうへ消えていった。


「大丈夫かな、アニタねーちゃん」

「だ、大丈夫だよ! たぶん」

「ねえ、誰が来たんだい?」


 不安げに言い交わす子供達に聞けば、口々に話してくれた。


「怖い人たち」

「いつもクッキー売りに行くときに脅かしてくるの」

「ここは自分たちにお金を払わなきゃ売っちゃいけないんだって」

「ほんとうは自由に売っていい場所なんだ。でも街のみんなは怖いからあいつらにお金を払ってる」

「でもね、あいつ等、私たちがクッキーを売ったお金までとっていくの」

「だからねアニタおねーちゃんも院長先生も、もう払わないって言ったんだ。そうしたらここにまではらえーっておしかけてくるようになったの」

「いつもは院長先生が追い払ってくれたんだけど……」


「……あれ?」

「あの子、どこに行ったのかな?」






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