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第9話 幕間 朗らかな災厄

本日は、二話連続で投稿しています。こちらが最新話になります。

 


「うん、この辺りはとてもいい流れだ。ここにしよう」


 シグノス平原の奥、背の高い植物の茂る中で立ち止まった男は、背中の大きな荷物を地に下ろし、大きな布を取り出すと、平らな地面に敷いた。


「さーてと、今回はどうかなあ」


 そうして、広げた布の上に古びた魔道具の数々を地面に広げ始めた。


「うーん、これもダメ、これも弱いなあ。やっぱり古いだけじゃあだめなんだよな」


 ぞんざいな言葉遣いの割に、その扱いはまるで友人をもてなすかのように丁寧だ。

 地面に座り込んではいるものの、魔道具を置くのは広げた上等な布の上、扱う手先も繊細に、細心の注意を払っている。


「それにしても、あんな風に飾っておくなんて失礼だよなあ。壊れているんならきちんと処分してほしいし、使えるのなら使い倒してもらった方が嬉しいのにさ」


 男は独りごちつつまた一つ、魔道具を置き、最後の魔道具を手に取る。

 すると、先ほどまで曇っていた表情がぱっと輝いた。


「おお、君は有望そうだね」


 その身の丈の半分ほどの武骨な杖を並べ終えた男は立ち上がると、背負っていた洋ナシ型の胴を持つ楽器リュートを前に構えた。

 そのつま弾く妙なる調べと共に、男は歌い始めた。

 

 それは、祝福の歌だった。

 古い、今はほとんど忘れ去られた言葉で生まれ落ちる者を言祝ぐそれに、周囲の魔力が共鳴を始める。


 いつの間にか広げられた布には魔術陣が浮かび上がり、並べられた魔道具が魔力を帯び始めていく。

 多くは、魔力を帯びてもすぐにその光は消えて沈黙するが、男は構わずリュートを奏で、歌い続けた。

 すると男が「有望」と評していた杖だけは光を増していき、やがて収束する薄もやが立ち上っていく。

 やがてはっきりとわかるほどの人型を取ったそれに、男はにこりと微笑みかけた。


『ヒトに忘れ去られた道具よ、新たな役目を授けよう。僕の仲間になっておくれ。わが主の願いの為に僕とともに来ておくれ』


 男の低く美しい声が語り掛けながら、一層高らかにリュートをかき鳴らす。

 だが。

 薄靄の人型が、顔をわずかに上げた途端、リュートの弦が一本はじけた。

 当然、曲は止まり、男は不思議そうに首をかしげる。


 この状態ではまだ意識はあっても、意志はないはずだった。

 だからこそ、男が語り掛ければ、うなずくはず。

 だが、この杖は今、明らかに拒絶した。


「すでに精霊化が始まっていたのか……でも、あんなところに閉じ込められていたのにそんな力どこから」


 事実、リュートの演奏と男の歌がなくなっても、その人型はその場にとどまっている。

 訝しげに靄ではなく、杖の方を眺めた男は、初めて顔をしかめた。


「何だよこいつ、忌々しい竜の気配がするじゃないか。どうやって手に入れたんだか」


 男は、恨めし気に実体のない茫洋と佇む男の人陰を一瞥する。


「あーあ、これじゃあ仲間にしても旦那様が嫌がるから壊される。せっかく強そうな仲間になってくれると思ったのになあ。ボクも次に行かなきゃいけないし、どうしようか」


 ひどく残念そうにつぶやいた男は、ふと、周囲を見回した。


 そこは、草に埋もれかけていたが、丁寧に石で舗装されていた。

 だからこそ、男はそこを広げる場所に選んだのだが、よく見ると人族の使う呪文字が刻み込まれていた。

 だが、ところどころ壊され、施設としてはすでに原形をとどめていない。

「そんなに古くはないようだけど何かしてたのかなあ? でも、これはいいな」


 楽しげに笑う男は、確かめるように歩き、その基礎部分の中心を見つけると、男はリュートをかき鳴らす。


『さあ、戻ると良い。あるべき姿へ、あるべき機能へ』


 一音、一音が拡散されるたびに、呪文字は活性化し、まるで時を巻き戻すかのように欠けていた部分が浮かび上がり、列柱群まで浮かび上がる。

 見る間に列柱まで復活したその施設の中心部に、男は仕上げとばかりに、武骨な杖を突き刺した。


「よしっと。じゃあ、後は君の運しだいだ。うまく精霊になれるといいね。あ―良いことした!」


 満足げに笑った男は、残った魔道具を丁寧に袋へ詰め直すと、鼻歌を歌いながら去っていった。





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