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第5話 ドラゴンさんはナンパする

 




 群生地だったこともあり、日が中天を少し過ぎるころには採集目標を達成した私たちは、ちょっぴり休憩をとった。


「ノクトさんは不思議な人ですね」


 街にいる間に買ってきていたサンドイッチをかじりながら、エルヴィーが唐突に言うのに私はちょっと驚いた。


「なんでだい?」

「クインティプルのハンターなのにガキの俺にも丁寧だし、近寄り難いくらいきれいな顔をしてるのに、話してみるとものすごく気さくだし。なんか、訊かれると何でもしゃべりたくなります」


 何とも照れることを言ってくれるなあ。


「まあ、私はただのハンターだからな。偉ぶる理由がない」

「最高位ってだけで、ただの、ってレベルじゃないんですけど」

「まあ、そこは気にせずに」

「ほんと、変な人だなあ」


 苦笑したエルヴィーは、ふと、思い出したように言葉が途切れる。

 少し考えた後に、ぽつりと言いだした。


「ノクトさん、クインティプルになったからには今までたくさんの幻獣とか魔物の討伐をしてますよね」

「まあ、そうだね。幻獣はともかく、魔物はほぼ専門とか言われるようになるくらいには」

「じゃあ、遭遇したことありますか。精霊を喰う魔物に」


 さり気ない声音に比べて、エルヴィーはひどく真剣な表情で私を見ていた。

 その、鳶色の瞳の中に、揺らぐような感情を垣間見た気がして、自然と答えは慎重になった。


「……話にしか聞いたことはないが、なぜ、君はその魔物のことを知っているんだい」


 「魔物」というのは基本、不定形だ。

 いくつかの性質によって区分されるとはいえ、個体によってまるで姿かたちが違う。

 だけど、力をつけてしまった魔物は不思議と性質が固定されていき、個体、と呼べるほど性質が同じになっていく。

 そんな魔物が人里に現れると“通称”が付けられることがあるが、そこまでになると人族にとってはとても手強いものとなり、人族の間で“通称”が付く魔物は軒並み第1級の危険種に指定されている。

 通称がつけられるほどの魔物は魔族が相手にするので、すべて把握されているわけではないが、それでもいくつかハンターギルドの資料図鑑にも乗せられていた。

 エルヴィーの言う精霊を喰う魔物はそれこそ、第一級以上のそれだ。

 ハンターギルドの図鑑にも、それこそ参考程度にしか載せられていない魔物のはず。


「俺が遭遇したことがある、って言ったら、信じてくれますか」


 その鳶色の瞳はどうしても嘘を言っているようには見えなくて、返答に躊躇していると、エルヴィーはふいに笑みを浮かべる。


「すいません、戯言です忘れてください」

「いやだが……」

「じゃあ、ノクトさん、帰りましょうか」


 構わず、いつの間にサンドイッチを食べ終わっていたエルヴィーがそう言い出したのに、私は驚き、話はうやむやにせざるを得なかった。


「まだ日没まで時間はある。今度は君の採集をする番だろう?」

「いえ、このままだと日が暮れます。俺が必要なものは街でも手に入るんで、帰りましょう。安全が一番です」


 至極まっとうな言い分だが、私は胡乱げにエルヴィーを見つめる。


「それなら、どうしてその必要なものを最初から街で買おうとしなかったんだい?」

「ええと、それは……ちょっと値段が高かったというか、でも大丈夫です!このバイト代で賄えるんで!」

「さっき職員さんに生活費が足りないって言ってたよね。それはまずいんじゃないか?」


 ぐっと言葉を飲み込んだエルヴィーに、私は、ため息をついて言った。


「今、君と私はハンターとして対等だ。

 ならば私は君に案内された分だけの報酬を君に与える義務があるし、君は案内した分だけ私に要求する権利がある。だから、申し訳ないからってだけならやめてくれ。私はその条件で依頼が遂行可能と判断したんだ。遠慮しなくていいんだよ」

「……すみません」


 ちょっ真面目な顔で言うと、エルヴィーは少しうなだれた。

 うむ、わかってくれたのならそれでいい。


「よーし、じゃあ何が必要なんだい?」

「ええと、カッシアっていう植物の根なんですけど。大体3本分ほど」

「ん? 何か金属の強化でもするのかい?」


 カッシアの根は、たしか武器職人や魔道具職人が金属の強化をするときに使うものだったはずだ。昔、ベルガが魔道具制作に使うんです、と言っていたのを覚えている。


「よくご存じですね。俺、課外活動で魔術機械制作をやっているんです。その資金を稼ぐためにこのバイトしているようなもので」


 実は知ってます、という必要はないので、普通に相槌をうつ。


「そうなんだ」

「まあ、それも部活動の主軸じゃないんですけどね」


 困ったように苦笑するエルヴィーに、ん?と首を傾げた私だが、それよりもまずは、カッシアの根が優先だ。


「んじゃあ、ともかくやりますか。君の生活費のためにもね」

「ありがとうございます。でもカッシアは群生しませんし、地上部は見分けがつきにくいんで、1本でも見つけられればいい方ですよ」

「そうかい? でも、このあたりに生えているんだよね」

「ええ、まあ。ってノクトさん?」


 突然、地面にしゃがみ込んで、両手をついた私に、エルヴィーの訝しそうな声が聞こえたが、かまわず、意識を集中させる。


 いつものようにレイラインとつながれば、とたん、様々な植物の根が絡み合う地下部の様子が脳内に広がった。

 ほんと本物を見たことがあってよかったなあ、魔力波から選別できるから。

 ええと、カッシア、カッシアっと。


「……見つけた。ここから10時の方角に1本と3時の方角に2本生息しているよ」

「見つけたって、え? どうやって!?」


 面食らった様子のエルヴィーに、私は意味深に笑ってみる。


「まあ、それは秘密で。よかったな、そんなに遠くない。さあ堀りに行くか!」


 そうして歩き出した私にエルヴィーは半信半疑だったようだが、間もなく、カッシアの葉が出ているのを見ると、驚きと喜びに目を輝かせた。


「すごいですよ!ノクトさん!」


 専用の器具らしい細長い棒の先端に小さなスコップを付けた様なシャベルを組み立てだしたエルヴィーに私はその、カッシアの生えている地面に手をかざして、一言。


深耕(コティベーション)


 魔力を込めて古代語を唱えれば、術式が発動し、カッシアを中心に硬い地面が一気に柔らかくなる。


言霊魔術(ソウルワード)……」


 その声があんまりにも寂しそうなことが意外だった。

 振り返ると、エルヴィーは羨望と、あきらめの入り混じった眼差しに驚いた。


「少年?」

「……あ、いえ、ノクトさん、言霊魔術が使えるんですね」

「まあ、これでも魔剣士だからね。初歩的な魔術ならいくつか」


 使えることにしてます、なんだけど。


「これで、掘るのがちょっとは楽だろう?」

「はいありがとうございます、じゃあ、ノクトさん、もう一つの方へ行ってもらっていいですか? 俺は掘るの慣れてますし、二手に分かれたほうが早く終わりますから!」

「だが……」

「大丈夫です! 自衛の手段はありますから」


 その場に一人で残すのをためらった私だが、早くも地面にシャベルを突き立てだしたエルヴィーに続けられ、結局折れた。


「不測の事態になったら、そうだな、笛か何か大きな音がするものは持ってるかい?」

「はい、あります」

「なら、もし幻獣にあったらそれで助けを呼ぶこと。万が一の合流地点はさっきの雪消草の群生地だ。いいかい」

「はい!すぐ追いつきます」


 そうしてエルヴィーからもう一丁シャベルを受け取り、後ろ髪引かれつつ、もう一つのポイントへ向かった。


 同じように古代語を唱えて地面を柔らかくし、腰ほどはある見事な根を堀りだした私が、もう一方へ行こうとした矢先。


 こっそり張り巡らせていた探索術式に何かが引っ掛かった。

 感触からして、それなりの大物。

 しかもやばい、そっちはエルヴィーがいる方向じゃないか!!


 エルヴィーから借りたシャベルを手に持ったまま、私は全速力でその方向へ引き返す。

 間もなくして、森の木々の合間からこちらへ歩いてくるエルヴィーが見えた。

 だが、探索術式からするとあっちの方が早い!


「しょうね――……っ!!」


 腰の剣を抜きながらありったけの声を上げて、警戒を促そうとしたその時。


 エルヴィーがふいに足を止めたかと思うと、いきなりはじかれたように地面を転がった。

 その瞬間、先ほどまでエルヴィーが立っていた地面を突き破り、何かが飛び出してくる。


 それは、巨大な蛇……いやミミズだった。

 体表はヌメッとした赤黒い土色をしていて蠕動を繰り返す胴回りなんて1メートル以上ありそうだ。

 きしょい、めちゃくちゃきしょい。


 奇襲に失敗したでっかいミミズは、口にぐるりと生えた牙をいらだたし気にぎちぎち言わせている。

 どう見たって穏便じゃないそれは、あと数拍遅かったら、確実に胃袋の中だっただろう。


「アースワーム!?」


 あっけにとられているエルヴィーに、またアースワームが鎌首をもたげて襲いかかろうとしたのに、私は、全力で手に持つシャベルを投げつけた。

「離れろ、少年!!」


 ドラゴンの剛速球で飛んで行ったシャベルはアースワームの首筋に突き刺ささったが、ダメージはそれほどではない。

 その証拠に私へ標的を変更したアースワームは、怒りの奇声を上げて凄まじい勢いで迫ってきた。 


 地上でも早いなっ!ミミズなのに!!


 だがすでに腰の剣を抜いていた私は、ずらりと牙の並ぶ口を開けて飛び掛かってくるアースワームを紙一重で避け、片手の剣を振りかぶる。


「っは!!!」


 振りぬいた剣がアースワームの頭部を両断した瞬間、その切り口から炎が立ち上った。


 金属の擦れる音のような凄まじい悲鳴と共に地面を振動させながら落ちた頭部の脇に私は着地したが、すぐ反転する。

 まだ生きている尻尾に顔が生まれて、襲いかかってくるのを迎え打とうとすると、


「ノクトさん、伏せて!」


 エルヴィーの声に反射的に身を低くかがめた途端、破砕音と共に魔力の塊が頭上を通り過ぎていった。


 え、ちょ、今の炸裂音って!!


 ざっと振り仰ぐと、アースワームに着弾したそれは術式展開特有の甲高い音叉のような甲高い音をさせながら、着弾点を中心に魔術陣が展開し、魔術攻撃の初歩となる衝撃波となってアースワームの顔を吹き飛ばしていた。


 慌ててまき散らされる体液から逃げると、アースワームは地面を振動させながら倒れ伏し、完全にこと切れた。


 私はそこでようやく大きく息をついて、木と金属でできたソレを構えているエルヴィーを振り返った。


「助かった。怪我はないかい?」

「いえ、むしろ俺の方こそ助けられました。ノクトさんこそ、大丈夫ですか」

「ああ、無傷だよ。それよりもごめんな。案内人の安全を確保するのも契約の内なのに。危ない目に遭わせた」


 子孫のエルヴィーを危険にさらしたとあったら、カイルやベルガに顔向けできないよ。


「いえ、俺が迂闊に単独行動なんか提案したから悪いんです! ノクトさんに助けられてなければ、今頃あのでかいミミズの胃袋の中でした」


 心底恐ろしそうにぶるりと震わせたエルヴィーにちょっと笑いつつ、気になったことを突っ込んでみた。


「だけど、あのアースワームが地中から出てくる寸前に、気づいて避けたよな。どうしてわかったんだい?」


 アースワームはヒポグリフと同等の第3級の危険種とされている。

 知能は低いものの地中から音もなく忍び寄るから、魔術で索敵でもしていない限り、奇襲を避けることはとても難しい。

 だけど、エルヴィーは確かに私の声が届く前に察知していた。

それに――――


「ああ、なんか、そう言うのに勘が働きやすいらしくて。自分でもよくわからないんですけど、命の危険があったりあぶないものが迫っていたりすると、ぞわっと胸の奥から嫌な感じがするんですよ。それで咄嗟に動くとギリギリのところで避けられるんです。昔は偶然かなと思ってたんですが、重宝してます」

「……まあ、ともかく、無事でよかったよ」


 あっけらからんと言うエルヴィーに、私は悩んだ末に結局あきらめた。

 自分でもよくわからないのだ。

 あの瞬間、君以外の魔力の気配がした。なんてさ。


 それよりも私は、エルヴィーの持つその細長い銃が気になった。


「魔術銃なんて珍しいものを使ってるね。それにさっきの衝撃波は軍用並みにすごい威力だったな。魔力量は大丈夫かい?」

「ええと、それは……」


 ベルガが不二子ちゃんスタイルで太ももに括り付けていたものによく似たそれを懐かしく思いつつ、ちょっと心配して聞くと、魔術銃を腰に括り付けているホルスターにしまおうとしていたエルヴィーは面食らった様に言いよどんだ。


 昔は、詠唱破棄ができるというだけで、魔術師にしか使えない代物だったが、改良が重ねられた結果、魔術銃自体に使用者の魔力を自動的に吸収する機能が付けられ、魔術式を入れ込んだ「弾丸」を装填することによって、必要な魔力量さえあれば普通の人でも魔術を使えるようになった。

 が、威力の強い攻撃魔術を組み込むのは技術がいるし、何よりとても魔力を消費するので、魔術師にしか使えないという本末転倒なことになっているほどなのだ。


「その、大丈夫です、俺、魔力量だけは魔術師並みにあるらしいんで」 


 エルヴィーが困ったように言ったのに、私はアールの“魔力はあっても魔術が使えない人”という言葉を思い出した。

 エルヴィーの様子も疲れた感じはないから、本当なのだろう。

 エルヴィー少年の顔もなんだか、気まずいというか聞いてほしくないような雰囲気があったから、とりあえず話題を変えた。


「へえ、そうなんだ。でも、弾丸に込められた術式はかなり無駄がなくて精密だったよ。ずいぶん高価だったろう?」

「それは、自作のものなんでそれほどでもないですよ」

「自作って……自分で作ってるのかい?」

「はい。それが俺がやってる課外活動の一つなんで」


 目を丸くして聞き返した私に、エルヴィーは照れたように頬を掻いた。


「ええと、魔術銃も弾丸もむちゃくちゃ高いじゃないですか。

 魔術銃は古いやつをハンターの人から譲ってもらったんですけど、弾丸は消耗品なんで、術式の設計をして刻んだ後、魔術が使える仲間に魔力を注いでもらって作ってます。

 それでも弾丸一つ作るのに俺の稼ぎの4分の1ぐらい吹っ飛びますし、ぼろい銃なんで一発撃つたびに整備が必要なんですよ」


 確かに、詠唱を限りなく減らすことのできる「言霊魔術」の登場によって、最大の利点だった術式の詠唱破棄の有用性が低くなったから、ハンターたちの中でもかなりマイナーな位置づけだ。

 だからなかなか銃本体や弾丸の値段が下がらず、弾丸一個で安い剣が3本買えるという代物になっていた。


「ほんとにお守りみたいなもんなんですけど。こいつのおかげで俺は、まだ夢を見られて、何とかやっていけるんですよね」


 決して使いやすい武器ではないのに、そんな風に言いながら、エルヴィーが武骨な銃を眺めてほほ笑む姿は、昔のベルガに重なった。


「そうか。すごいな、君は」

「ノクトさんに褒められるほどのことでもないんですけど。森の中で火を使った時はどうなるかと思いましたけど、魔剣の炎をあんなに自由にコントロールできるなんて、やっぱ普通のハンターとは違いますね」


 首筋に突き刺さっていたはずのシャベルが、無傷で地面に転がっているのを回収しながらエルヴィーが言うのに、あいまいに微笑む。

 自分の炎だから、できないほうがやばいです。


「まあ、さすがにこの銃はがたが来てるんで、今は新しい銃の設計を……」


 と照れ臭げに言ったところで、エルヴィーはぎくりとした。

 あーはいはい。そうなんだよねー。

 攻撃性のある魔道具を作るには資格が必要で、見つかったら問答無用で牢屋行き、下手すると縛り首だったか。

 未成年だからもし見つかっても大目に見てくれるだろうけど、まあしゃべっちゃまずいわな。


「とととと、と言っても、市販されてる魔術銃のパーツを組み直すだけで、ああ改造も不味かったか、で、でも自己責任で使用するものなんで、違法なことをしたわけじゃなくてですね……あ、いやすれすれですけど、悪い事には使わないんで!?」


 大いに慌てながら一気にしゃべったエルヴィーの不安そうな顔を前に、私はどうしようかと考える。


 常識のある大人なら、ここでやめときなさいとたしなめるんだろうなあ。

 でもまあ、人族じゃないし、私ドラゴンだし。

 エルヴィーが、銃について話すときのきらきらした顔は、そりゃあいいもんだったしなあ。

 よし、ここはひとつ。


「……まあ、弾丸を作る、っていうのも一つの節約手段として定着しているらしいし、武器を自分で改造(カスタム)するというのは普通のことだしな。ついでに、君のその銃で助けられた身としては立場が弱いわけだ」

「でも、ノクトさん、俺が撃たなくてもアースワーム倒せてたみたいですし」

「むしろ私が頼りなさそうに見えたばかりに君の稼ぎの四分の一をふっとばしちゃったわけだしねえ、ちょっと強く言いづらいかなあ」

「でも……」


 喜びと、良識の間で揺れるエルヴィーに私はにやりと笑って提案した。


「なら、君のその新しい銃ができたら、私に見せてくれる、ってことで一つどうだい?」

「ノクトさん!?」

「掘り出していたカッシアの根は君の銃の強化に使うんだろう? どうせなら自分の関わった仕事が仕上がるのを見てみたいじゃないか。

 それに、昔の友人に銃使いがいてね、すこしなつかしくなったんだよ」

「そう、なんですか……」


 ベルガのことを思い出して少し遠い目をする私に、エルヴィーが何かを察した顔をした。

 うん、君の曾祖母(ひいおばあちゃん)だから、もう会えないんだよ。

 ちょっぴりしんみりしたが、エルヴィーは今まで手に持ってた銃を腰のホルスターに納めて、勢い良くうなずいた。


「わかりました。じゃあ、出来上がったら必ず見せに行きます」

「ああ、楽しみにしているよ。完成したらそうだな、ヒベルニアの西地区にある、「ドリアード」って薬屋に伝言を頼むよ」

「はい」


 よし、これでもう一回会う口実ができた!

 穏便にナンパに成功した私は内心拳を握って喜びつつ、平静な顔のまま、一足早く暗くなってきた森の中を見回す。


「……日も暮れてきたな、このあたりで切り上げよう。アースワームの討伐部位は、確か牙だったよな」

「はい、あと、体液が薬の原料になる、とか聞いたことがあります」


 ほう、それはもしかしたら、ネクターのお土産にいいかもしれないな。

 そんなことを思いつつ、討伐したからには有用に使おうと作業はじめると、エルヴィーが、ほんのり残念そうな顔をしたのを見逃さない。


 あわてず騒がず討伐部位の回収を終えた私が、背のリュックから2本のカッシアの根を取り出すと、エルヴィーが目を丸くしていた。

 ふふん。最強種族は伊達ではないんだよ。

 地精とともにザクザク掘らせていただきましたとも!


「これで、足りるよな?」

「はいっ!ありがとうございます!」


 目を輝かせて礼を言われた私はちょっぴりどや顔をしながら、森を歩きだしたのだった。





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