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ドラゴンさんは友達が欲しい  作者: 道草家守
精霊喰い編

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第2話 ドラゴンさんちの子ドラゴン

 


 ご飯を食べ終えた後に出てきたデザートは、ネクター特製のフルーツタルトだった。

 もうこれだけで疲れがふっとぶほどおいしくて、ネクターの主夫レベルをカンストしているんじゃないかと思われるほどだ。


「マドレーヌもいいけど、やっぱネクターのお菓子は最高だよ……」

「おいし―……」

「二人のようにおいしく食べていただけると作り甲斐がありますよ」


 フォークを握りながらアールと共に幸せのため息をつくと、ネクターはうれしそうに微笑んだ。


「とうさま、今日の食器洗いはぼくがやるよ! まかせて」

「そうですか?ではお願いします」


 さてせめて食器洗いをと思ったらアールに先を越されてしまい、私はすごすごと椅子に戻り、眺めることにした。

 アールは意気揚々と、床に置かれた踏み台に上ると、汚れものの積み上げられた洗い場に両手をかざす。


『みんな! よろしくね』


 アールが古代語で紡いだ途端、水や風の精霊たちが集まり、食器を巻き上げていく。

 やっぱりアールのドラゴンとしての魔力が心地いいんだろう、どの精霊たちも楽し気だ。


 綺麗になった食器から順々手に置かれて行くのをのんびり見ていたアールだったが、どんどん積み重ねられる皿で前方が見えなくなり慌てだす。


『わ、ちょ、ちょっと待って!!』

「わっ、アール!?」


 バランスをとろうとした途端、アールは踏み台から足を踏み外し、お皿が盛大に空中に投げ出された。

 私は急いで影を走らせ、つるっと宙を舞ったお皿が叩き付けられる前にすべて受け止めた。

 アールのほうは、そばで作業を見守っていたネクターがしっかりと受け止める。


 私がふう、と息をつくと、アールを立たせ直していたネクターが、固まっている精霊たちにむけてにっこりと笑った。


『あなたたち、熱が入るのは結構ですが、お願いされたことはきちんとやりましょうね』


 途端、ズビシッ!! と最敬礼(の雰囲気)をした精霊たちが、私の影から食器を取り上げると、奇麗に食器棚に並べ始めた。


 わあ、日が浅いとはいえ、やっぱり高位精霊のネクターは怖いんだねえ。

 ん? 怖さでいったらドラゴンである私の方が上じゃないかって?


 いや、そのね。

 前に私が言った時は効きすぎちゃって、この周辺がひと月くらい謎の無精霊地帯になっちゃったんだよねぇ。

 精霊がいなくなったことで魔術が使いづらくって国から調査が入ったりしたし、何よりアールが滅茶苦茶寂しがって、私がもう怒ってないから帰っておいでーと、周囲の精霊たちに言い聞かせてようやく出入りが再開したくらいだったから、精霊に関してはネクターに一任してる。


「あーあ、失敗しちゃった……」


 最後の一枚を収めて食器棚の扉が閉じ、精霊たちが散開した後、きれいに掃除までされた洗い場を拭きながら、アールがしょんぼりと言った。


「今回は、なんだか精霊たちが張り切ってたから妙なことになっただけだよ。アールはよくやったよ。ご苦労様」

「かあさまにいいとこ見せようと思って頑張ったのばれちゃったかな」


 慰めようとしたら、アールが照れたようにそんなことを言ったもんだから、頭を撫で繰り回してみた。

 かわいすぎるだろ、うちの子。


「そういえば、アール、学校はどう?」

「うん。あ、そうだ、とうさまと一緒にかあさまに見てほしいものがあるんだ。ちょっと待っててね!」


 するとアールは、ふきんを魔術で乾かすと、たたたっと自分の部屋へ駆けていった。


 今年の秋からカイルの設立した「シグノス魔導学園」に入学したアールは、1学期が終わり冬休みの真っ最中である。

 ついこの間入学式だと思ったのに時間が経つのは早いなあ。


 アールは普通とは違う生まれ方をしたせいか、ドラゴンとしての知識は持っているけれど、魔法で記憶を制限することもなく、精神面も肉体面も、人族と変わらないペースで緩やかに成長している。

 そのせいか使える魔力量が少なく、かえって魔力の制御がしやすくて普通に人型になることが出来たから、人族に混ざって学校に通ってみる、なんてことが出来た。


 元とはいえネクターが人族だったし、他のドラゴン達みたいに毛嫌いするのではなく、人族の社会と文化を知ってから自分で決めて欲しいと思ったからだ。

 とはいえ、人里に降りたことはあれど約十年間、木精のおじいちゃんのところや、私の知行地(つまり原野)でしか過ごしたことのなかったアールに、人族に囲まれて人工物の中で暮らせるかとちょっぴり心配したが、アール自身、最初は戸惑っていたもののすぐに順応して“友達を作る!”と揚々と楽しんでいるようでほっとした。


「はいっ、これ!」

「んーなになに……」


 戻ってきたアールがテーブルに広げた用紙を、ネクターと共に覗き込む。


 百年前とは違い、良質なパルプ紙に活字印刷されたそれは、どうやら親の承諾書のようである。

 すでにアールの人族向けの名前である“アール・フィグーラ”は記入済みで、その下には親のサインする項目が設けられていた。


「部活動許可証、ですか」

「うん、そう。単位は足りているんだから、別のことをやってみたらどうって先生に言われたから。ぼくは楽しいから、勉強するだけでもいいんだけど」


 釈然としない風で首をかしげるアールに、思わずネクターと顔を見合わせて苦笑した。

 アールは通っているのはシグノス魔導学園、初等部“教養”科――――俗にいう「普通科」だ。


 カイルの定めた、学ぶ意欲さえあればどんなものでも受け入れる、という教育理念から大陸的にも珍しく、魔術科の他にも教養科を筆頭に様々な専門教科が併設されている。

 魔術科に入ると、魔術師の卵たちや教師たちは、いくら魔力を抑えようとアールの非凡性が人に収まらないことに気付くだろう、ということで、アールと話し合い、人前では魔術を使わないことを約束して、まんべんなく学べる教養科にしたわけなのだが。


 シグノス魔導学園は単位制で、在籍期間中にその学年度ごとに最低必要単位を取らなければ留年というシステムで、大体11歳から18歳の少年少女が学んでいる。

 一応、初めの4年間は初等部としてクラス分けされ、集団授業もあるのだが、それでも、2年続けて留年したら即退学、上限10年の在籍期限までに卒業単位をとれなくても退学だ。結構厳しい。


 逆に言えば理論上は必要単位さえクリアできれば、それ以上いくらでもとっていいし、何をどう学んでもいいのだが、最高学府だけあって、その学年度ごとの最低必要単位を取ることで精一杯。単位を取れずに退学していく子が珍しくないほど、どの授業も高度だ。

 なのに、アールってば、とれる科目を片っ端からとって、しかもさくさくと試験もパスしてしまい、一学期の最終試験で初等部にあたる約4年分の必要単位を収めてしまったのである。


 つまり、ようやく一学期が終わったのに、初等部が終わるあと3年間学校に来なくてもよくなっちゃったってわけでして。


 国内だけでなく、国外からも生徒が集まるシグノス学園は寮生が大半だから、学校生活のほとんどを生徒の自主性に任せるってことで、あんまり親の方には連絡が来ない。

 だから、アールの事情を知る学園長のセラムからこっそり相談されてその事態を知った時は、あちゃあと思ったもんだ。


 そーいや、乗りにノッたおじいちゃんと共に、かーなーり勉強していたな、と。

 ついでに高等部魔術科の学生相手に論破しちゃったと聞いた時には、引きつった笑みでごまかすしかなかったわ。

 ‥‥‥おじいちゃん一体どこまで教えたんだ。


 誰がどんな単位をとっているかは、生徒は相手に直接聞かない限り分からないが、それを知れる立場にある教師たちは、学園始まって以来の事態に喧々諤々の議論が交わされた。

 優秀な生徒は徹底的に伸ばす学園の方針から、高等部に飛び級したうえで、特別に教師をつけてマンツーマンでおしえる、という意見もあったらしい。

 だけどアールが初等部に仲良くなった子が居るから、という理由で初等部に残留が決定。

 ただし、受講に必要な単位が足りていれば、高等部の専門カリキュラムを受講できる特別許可が下りた。


 さらに担当の先生は、アールがあんまり勉強に傾きすぎないように、アレコレ趣向を凝らしているらしい。

 情緒面での成長にも力を入れている学校だから、というのもあるのだろうけど、たぶん、あまり突出しすぎて同学年の子から孤立したり、授業に混ざることで高等部の子から目をつけられやしないかとひやひやしているのだろう。

 社会性とか、人付き合いとか、学校で学ぶ事は沢山あるからね。

 そんなことは露ほど知らず、アールは早くもお友達を見つけてのんびりと学校生活を楽しんでいるようだ。


 その一環で進められたのだろうとありありとわかるこれに、先生の頭を悩ませている姿が目に浮かぶようだった。


「アール、あんまりいっぺんに単位とっちゃうと、すぐに卒業しなきゃいけなくなるよ」


 とりあえず先生の応援をしてあげると、アールは目を見開いて、慌てていった。


「それはすごく困るよ、マルカともっと一緒に通いたいもの!」


 同学年の女の子の名前を出したアールは、決意の表情だ。

 カイルのひ孫であるマルカちゃんとは、私たちが引き合わせなくても入学当初から仲が良く、嬉しい限りだ。


「わかった、ぼく、部活動も頑張るよ」

「うん、アールが楽しそうだな、やりたいな、と思うならやればいいよ。ね、ネクター」

「ええ、もちろんです」


 こういう面については特に心配してはいないから、そんな感じでさらっと許可だ。

 中空から即座にペンを取り出して親の欄に名前を書きだしたネクターが、ふと、アールに尋ねた。


「ところで、アールはどんな部活動に参加するか考えていますか」

「うーん、先生にいろいろ見せてもらったんだけど、あまりいいな、と思うものがなくて。でもね、エル先輩が自分の部活にこないかって誘ってくれたんだ」

「エル先輩って、高等部の授業でよく面倒を見てもらっているっていう男の子?」


 最近、聞き始めたその名前に一応確認すると、アールはこくりとうなずいた。


「うん、エルヴィー先輩。僕も面白そうだから入れてもらいたいなっておもうんだけど、先輩がやってる部活動は、“ひせいき”活動ってやつらしくて、先生が本当にいいの?って言われちゃってさ」

「非正規活動って――……」

「学園側に届け出られていないか、または認められていない自主的な活動のことです。少人数であったり、顧問が見つけられない場合などによく見られます。

 公式活動ですと学園から予算が下りるのですが、非正規ですと学園に何らかの形で貢献するような功績を上げたりしない限り、活動のための資金は自主調達です。

 一応高等部1年に当たる14歳以上なら学生研修という形で就労は許可されていますが、中には違法な手段に出る学生もいるそうなので、あまりいい顔はされません」

「なるほど……」


 こっそりネクターに聞いて納得する。

 要するにマイナーな活動だと、活動費を稼ぐためにバイトをしなくちゃいけなかったりするから、完全にアウトなアールが引っ張り込まれるのは非常に困ると。

 でも――……

 同じことを考えたらしいネクターがアールに訊いた。


「アールから見て、その先輩はどんな方ですか?」

「エル先輩はいつも助けてくれるし、良くないことはちゃんと教えてくれるし、授業で一緒になる人たちにも頼られてるよ。『これは頼られてるんじゃない! 厄介ごとを押し付けられてるんだ!』って怒ってるけど」


 アールの話を聞く限り、なかなかの苦労性気質な子のようだ。

 でも自分の思考をちゃんと持っているようだし、そう言う子はしっかりしているから、もしアールが入ったとしてもあぶないことはさせないだろう。

 そう隣に座るネクターと視線で確認をした後、私は不安そうにするアールに言った。


「非正規の活動でもアールがやりたいっていうんなら構わない。でも、もし、そういうことをやるってことになったら、先生たちにばれないようにやるんだよ? で、本当に危ないと思ったら即逃げること。良いね」

「うん!」


 ぱっと笑ったアールに、わたしはふと気になってつづけた。


「ちなみに、その先輩はどんな部活動をしているんだい?」

「うんとね、エル先輩がやってるのは「魔術機械研究会」って言って、オリジナルの魔術機械を自分たちで作ったり、頼まれたら出張して、魔術機械を直したりするんだって」

「おおう、ずいぶんマニアックだね」


 魔術機械は、この百年で進歩してきた技術だ。

 火をおこすために火花を散らしてみたり、さっきアールがやったように水を操って食器を洗ったり、飲用水になる様に浄化したり、そう言う生活面を支える魔術はネクターの時代からあった。

 けど、洗濯物を乾かすとか地味な魔術でも本格的な訓練が必要で、便利だけど魔術師になるついでに覚えるようなものだった。


 だけど、あらかじめ術式を器物に刻み、固定する技術が生まれたことで、洗濯機や、自動着火コンロ、食べ物保管庫など、魔力の供給さえできれば動く地球の家電みたいな道具が、「魔術機械」として世に出回り始めているのだ。

 これがあれば、魔術が使えない人でも高度な魔術の恩恵にあずかれる、という優れもの。


 ただ、まだ貴族とか裕福な人にしか買えないほどべらぼうに高いし、自分で魔力を補充できなければ魔力を供給する為に魔術師も雇う必要がある。

 だから、利用するのは上流階級やそんな人たちを相手にする職業の人たちばかりで、まだ浸透しているとはいいがたい。

 特に、魔術の使える人が沢山いるシグノス学園では、マイナーなジャンルに入るだろう。


「でも、色んな所から頼まれ過ぎて、何でも屋みたいになってるって言ってた」

「まだ、魔術は魔術師のものっていう意識があるのに、珍しいねえその人。誘ってもらえてよかったね」


 私が感心していると、アールがちょっぴりきまり悪そうな顔をした。


「うん、でもね、僕がエル先輩と同じで“魔力はあるのに魔術が使えない”ことになってるから、そんなにたくさんの人を入れたくないのに誘ってくれたみたいなんだ」

「あ―……」

「それは……」

「エル先輩の時は、珍しがられたり、魔力が余ってるだろうって試作品の魔道具の試験とか頼まれたり、魔術科の人にすごく声をかけられたんだって。

 だから、僕がそういうことに巻き込まれる前に誘ってくれたみたいなんだ。僕は、本当に使えないわけじゃないから、ちょっと悪いなあって思う」


 しゅんとするアールを前に私とネクターは苦く顔を見合わせる。


 教養科に通うため、魔術科に就学義務のできてしまう魔術適性診断をネクターの開発した腕輪型魔道具で誤魔化したまでは良かったのだが。


 どうやらネクターの予測より魔力測定装置の精度が上がっていて、アールの魔力量が正確に測定されたわけではないものの、“使える魔力があるのに魔術が使えない珍しい子”という妙なレッテルが張られ、魔術科の教師から注目されてしまったのだ。


 その腕輪自体に施された隠匿と偽装の術式でばれてはいないが、それでもネクターは近年まれに見る失態だ、とずいぶん落ち込んでいた。

 今も、思い出したのか、ずもんと雨雲を引き連れそうな勢いで沈んでる。


「すみません、アール。私の研究が足りなかったばかりに」

「落ち込まないで。とうさまが悪いわけじゃないし、学校にはちゃんと通えてるもの。――――でも、エル先輩。僕みたいに腕輪をつけてるわけじゃないのに、どうして魔術が使えないんだろう?」

「考えられるのは、魔力基幹が損傷しているか、魔術許容領域が小さいか、あるいは、恒常的に使用され続けているかでしょう‥‥‥どちらにせよかなり珍しいケースですね。ぜひともお会いして調べさせていただきたいものですが」


 途端、研究者というよりもまっどなサイエンティストな顔でわくわくと薄青色の瞳を輝かせるネクターに、私は苦笑しつつたしなめた。


「ネクター、アールがお世話になってるんだから、迷惑をかけるようなことはしちゃだめだよ」

「わかっています。ただ、ちょっと気になっただけですから」


 うん、その目の泳ぎ方からして、本気で手順まで考えていたな。


「まあ、ともかく、腕輪をしている限りは、アールも魔術は使えないし。その先輩も、アールのことが気に入らないんなら、そんな風に声をかけてくるわけないんだ。だからそんなに気にしないで部活動、楽しんできなよ?」

「うんっ!」


 勢い良くうなずくアールの笑顔は、そりゃもう可愛かった。


「ラーワ、今回はどれくらい家にいられそうですか」

「一応知行地周辺に監視術式を張り巡らせてるから、突発的なことでもない限り2、3日はいるつもり。その間に一度ギルドに顔出そうかなと思ってる」

「ハンター証失効期限が近いんですね」


 ハンター証を持つネクターが納得したようにいうのに、私は付け足した。


「まあ、一応“ノクト”は第五階級(クインティプル)で、永久登録にはなっているから必要ないらしいんだけど。定期的な活動地域の報告義務はあるからねえ。

 しばらくはこの街から動かないんだし、こっちのギルド支部と信頼関係は築いておきたいから、できるのがあれば依頼も受けようかなと思ってる」

「そっかあ、じゃあかあさま、あんまり一緒に居る時間ない、かも?」


 アールがしょんぼりと言うのに、ちょっぴり慌てていった。


「やるとしても日帰りの討伐や採集くらいだから、安心して。それに、しばらくは知行地(あっち)にいるけど、ご飯時にはちゃんと帰ってくるし、今は魔力循環も比較的安定してるから、ネクターと遊びに来る分には大丈夫だよ」

「そうなの?」

「だから、向こうでレイラインの修復の練習しようか」

「うんっ!」


 アールが笑顔になったのにほっとして、ネクターの方を向いた。


「じゃあそういうわけだから、明後日あたりノクトで行ってくるね。ネクターはどうする?」

「実は、頼まれている薬の生成がいくつかありましてこれから取り掛からなくてはいけません。残念ですが、一緒に行けなさそうです」


 申し訳なさそうに言うネクターに、私はうん?と首をかしげた。

 あれ、仮にも木精だから植物については抜群の腕を持つネクターがすぐに終わらせられないような仕事?

 するとアールも首をかしげてネクターに訊いていた。


「そういえば、とうさま、お仕事、たくさんもらってたよね?」

「ええ、医院教会から、消毒薬や傷薬の納入と、何人かの魔術師から触媒に使う薬品の生成依頼がいくつか」

「……ちなみに、それらの納期は」

「医院協会からのは定期のものなので明後日なのですが、個人依頼のほうは、その、明日でして。徹夜でも間に合うかどうか」


 てへっと照れたように笑うネクターに、アールと私は同時に身を乗り出していった。


「「わかってるんなら、早く仕事しなよネクター!!」とうさまっ!」

「は、はいいいいいいいっ!」


 私たちの剣幕に、ネクターは脱兎のごとく部屋から飛び出していった。

 こうして暮らし始めてからお約束のようになってしまったことやり取りに、私とアールは顔を見合わせてくすくすと笑ったのだった。




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