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ドラゴンさんは友達が欲しい  作者: 道草家守
精霊喰い編

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第1話 ドラゴンさんは今日も元気 

ドラゴンさん続き、はじまりますっ!



 私はドラゴンである。




 すらりと長い首と尾っぽが美しい、黒い鱗に覆われた流線形の体。

 強靭な爪の生えそろう足は、何よりも早く大地を駆け、

背に広がる赤々とした皮膜の翼は空を自由に駆るばかりではなく、実は水の中でも高速潜行ができる優れもの。

 燃えるようなたてがみと二本角に彩られる頭部には、黄金の瞳がはまり、長い口には鋭い牙がきらりと並ぶ、

 陸海空のすべてを制覇するドラゴン様である。


 ここではない“地球”という異世界で女子大生だった“わたし”は、何の因果かその前世を持ったまま、ドラゴンに転生したわけなのだが。

 一応、爬虫類嫌いだったわけでなし、要の竜、魔力循環の担い手、最近は古代神竜(エンシェントドラゴン)とも呼ばれるドラゴンは、この世界の頂点に位置するほぼ非の打ち所のない最強種族、ということで、私も大方あきらめて受け入れた。


 唯一、他の生物とほとんど一切かかわらない、ぼっち上等な、引きこもり種族であることを除けば。


 いくらめちゃくちゃ強いぜ、食物連鎖も超越してるよ!などと言われても、ぼっちな大学生活に終止符を打つべく、コンパに行く途中でバナナの皮を踏んづけてすっ転がる、というまことに情けない死に方をして転生をしてしまった私にとっては、到底受け入れられない事実だった。


 人じゃなくてもいいから、社会性のある生物が良かった、と思うのも無理はなかろう。


 ドラゴンの役目はこの世界の魔力循環の守護だ。それは変えられない。

 それでも、どうしてもあきらめきれない私は、なんとしてでも友達を作ってやる!と、ぎゃん泣きしたせいで噴火した火山の中で決意した。

 木精のおじいちゃんから教わった言葉が古かったせいで言葉が全く通じず途方に暮れても、お世辞にも友好的には見えない威圧的な容姿を見た瞬間、人族に逃げまどわれてもめげず―――――いや、多少めげた時期もあったけれども、たゆまぬ努力とちょっとの偶然と幸運に恵まれて、友達が沢山できた。


 そして、かけがえのない大事な人も。


 ……昔はぼっち万歳最強種族と自嘲し、涙を呑みつつ打ちひしがれたこともあったけど。

 大切な人たちとの交流で根付きかけていた苦手意識も克服し、自信を持った私は人族の近くでの魔力循環調整も何のその。

 言葉の壁も乗り越えた今なら、いきなり人族に出会っても大丈夫。

 今回も友好的に、



「こんにち――――……」

『うわあああああああああッ!!』



 友好、的に……




『ドラゴンが出たぞおおおおおお!』

『村はもう終わりだあッ!』

『早く、女子供だけでも逃がせえええええっ!』




 あ―そっか、この山岳地帯に住んでいるのは地底人(ドワーフ)だったか。

西大陸語じゃ通じないよねえ。




 ……言葉が違うのつらたんです。

 とりあえず、襲いに来たわけじゃないから逃げないでよう。




『こいつを倒せば、良い魔道具作れんぞ!気合い入れやがれ野郎ども!!』

『『『おうっ!』』』




 あれ、なんか強面の小さいおっさん達が戻ってきて、妙に血走った目で武器を構えてきたぞ?

 え、もしかして思いっきり狩ろうとしてる!? 狩ろうとしてるの!?



『かかれ―――――!!』

「お願いだから人型になる時間ぐらい頂戴いいいいいっ!!!」



 容赦なく飛んでくる魔術やら投石やら槍やらに涙目になりながら叫んだのだった。




 ドラゴンに生まれて幾星霜。

 こんな感じでメンタルばかすか削られつつ、今日もお仕事に励んでます(泣






**********







 何とか地底人(ドワーフ)達の前からほうほうの体で逃亡した私が空間転移(テレポート)を発動させれば、そこはもう、我が家の中だ。

 転移時の玄関と定めた一室に人型に変じた私がたどり着くと、エプロン姿のネクターに出迎えられた。


「ただいまあ」

「お帰りなさい、ラーワ。おつかれですね」


 亜麻色の髪の毛先に薄紅色の乗った、優男の形容詞が似合う柔和な顔立ちのこの青年は、修行の結果、精霊化した元人族だ。

 自分で言うのも照れるが、私の旦那である。


「知行地はいかがでしたか?」

「……なんか、近くにドワーフの村があってさ。ちっさいおっさん達に追い掛け回された。あれは狩るものの目だったよ」


 その場にしゃがみ込みながら自分でもわかるくらい虚ろな声で言うと、ネクターが慰めるように背中を撫でてくれた。


「ドワーフは種族的に手先が器用で、魔道具制作に長けていますから、彼らにとってワイバーンなどは宝の山に見えるはずです。すみません、私も共に行ければ多少なりとも役に立てたでしょうに」

「いいよ、今日は不意打ちだったしさ。それにネクターには薬屋経営があるんだし、その上家事まで任せちゃってるし。要は、近づかなきゃいいわけだし。大丈夫、なんとかなるよ」


 申し訳なさそうに言うネクターに私はそう返した。


 私の方が時間がありますから、と言って譲らないネクターは、王都から一日ほどのところにある街、ヒベルニアに構えた店舗兼用の家で、薬屋を営む傍ら家事の一切を取り仕切ってくれている。

 私も合間に掃除くらいは手伝うのだが、もうネクターの主夫っぷりが見事過ぎて、特に料理はひれ伏してお願いしますな状況である。


 今回はうっかりドラゴンの姿を見られてしまったからパニックになっただけで、人型になれば、また違うだろう。

 だが、残念そうにするネクターに、私はふと先の言葉が気になって続けた。


「もしかして、ドワーフの言葉、知ってたりする?」

「ええあいさつ程度ですが。昔、カイルが魔道具制作に関して学んでいた時に付き合ったことがありましたので。今は国家間の文化交流が盛んになったおかげでテキストも充実していますから、一緒に学びましょうか」

「ありがと、ネクター」

「どういたしまして」

 

 “一緒に”という言葉に、思わず顔がほころぶ。

 同じ時を生きるために人から高位精霊にクラスチェンジまでして、そろそろ100年がたつけど、ネクターは変わらず私のことを想ってくれる。

 頼ってもいい人がいるって幸せだなあと思いつつ、ネクターの手を借りて立ち上がると部屋のドアが開けられ、小さな人影が飛び込んできた。


「かあさま、おかえりっ!」

「アール、ただいま!」


 駆け寄ってきたその亜麻色の髪に炎のような紅色の房が混じったその子を、私は思いっきり抱きしめた。


 この子、アールは約十年前に生まれた、私とネクターの子供である。


 肩口で切り揃えられた亜麻色の髪を揺らして、腕の中から嬉しさいっぱいに見上げてくるその顔立ちはネクターに似てるなあと思うのだが、ネクターは私に似ていると言って譲らない。

 似ているのは、私と同じ黄金色の双眸くらいなもんだと思うのだが、アールが可愛いことには変わりがない。


 一通りぎゅっとしたあと、私から離れたアールは、くるりとネクターを振り返って言った。


「とうさま、浮かれるのはわかるけど、いくらかあさまが帰ってくる気配がしたからって、お鍋を火にかけっぱなしで出ていったらダメだよ!」

「すみません。アール」

「かあさまがひと月ぶりに帰ってくるからって腕を振るったお料理でしょ? 気を抜いちゃダメだよとうさま」

「はい、ありがとうございます」


 むんと腰に手を当てて怒るアールの追い打ちをかける言葉に、ネクターが赤面しながら肩を縮めていた。

 うむ、アールに行動を把握され、すでに頭が上がらないネクターである。

 にしても、ネクターが腕を振るった料理か、それは楽しみだ。

 私も、照れるネクターを覗き込んで笑ってやる。


「ありがと、ネクター」

「ええと、その、……はい」

「ね、かあさま、はやく行こう! 今日はぼくもお手伝いしたんだ!」

「そうなんだ、ますます楽しみだよ」


 しどろもどろになるネクターという嬉しいものを引き出してくれたアールが、私の片腕をとって促すのに、私はにっこりうなずきながら従ったのだった。




 台所に置かれたテーブルで、ネクターとアールが腕を振るったという料理を囲んだ。

 私たちは全員、生きるのに物を食べる必要がないから娯楽でしかないんだけど、こうして家族と食卓を囲むっていうのは、料理のおいしさだけじゃない、心の栄養みたいなものをとり込める気がする。


 それは、人族の真似事でしかないのかもしれないけど、家の一室に空間転移の魔法陣を常設して、よく行き来する場所と“道”で結び、比較的レイラインの状態を気にせず転移できるようにするだけの価値はある。

 アールにも、人族がどんな風に過ごしているのか、教えてあげられるしね。


「んー!おいしいっ」

「ほんとう!?」

「うん、びっくりしたよ。すごいねアール」


 鳥肉のトマトソース煮込みをほうばった私が素直に目を見張ってうなずくと、身を乗り出したアールが嬉しそうにした。


「えへへ、とうさまの薬草採りのお手伝いの時にね、ルク鳥が飛んできたから仕留めたんだよ!」


 あれ、お手伝いをしたのは料理じゃなくて、材料調達の方だったのかい?


「ええ、気が付いたら一対一で取っ組み合っていましてね。さすがに驚きましたが、おかげでメインを買わずに済みました」

「……そりゃあすごいねえ!」


 ネクターの補足に私が感心しながらアールの頭を撫でると、嬉しそうにはにかんだ。


 ルク鳥って人族社会では第3級の危険種、目立った魔術は使わないけどでっかい鳥で、普通だったら5人パーティがかりでかかるような相手だったか。

 そこら辺は流石にドラゴンの血を受け継いでいるだけあるなあ。


 正確にはアールは半霊半竜。

 基本は精霊だけど、ドラゴンとしての名前を生まれ持つほど、ドラゴンとしての性質も色濃い子だ。

 そもそも、私が本気で子供を生み出すとは思っていなかったらしくて、この子が生まれた時は全ドラゴンが珍しくほぼ全員参加で議論するほどの大騒ぎになったなあ(遠い目)。


 まあ、無事生まれた時点で、この子の存在は世界に受け入れられているわけで、更に、アールはドラゴンと許可した者にしかアクセスできないドラゴンネットワークに自力でアクセスできたから、一応受け入れるというか、傍観する方向で意見がまとまったんだよねえ。


 それはともかく、まだちびっちゃいとはいえ最強ドラゴンなわけだから、たいていの幻獣や魔物は一蹴できるわけだけど、誰に似たのか、我が子ながらなかなかアクティブな子なのであった。





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