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ドラゴンさんは友達が欲しい  作者: 道草家守
幼女編

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【番外編】 ドラゴンさん、春を楽しむ

ショートストーリー。

ラーワとネクターのある日の一コマ。

バロウ国にも春がやってきた。

 まだ空気はほんのり冷たく澄んでいるが、お日様の光にぬくぬくとした気温が絶妙で気持ちが良い。


「ふわぁ~あ」


 陽気に誘われて私が思わずあくびをすると、机に向かっているネクターが顔を上げた。


「退屈ですか?」

「ああ、そうじゃなくて、気持ちの良い陽気だなあと思ってさ」


 素直にそう思っていったのだが、ネクターはさらに涙目になった。


「すみません。もう少し、待っていてくださいね。あともう少しで終わるんですっ!」

「いや、いいよ。ゆっくりやってくれ。無理を聞いてもらったのは私の方なんだから」


 ネクターは私と会話をする間も書類を高速で処理していっている。

 というか手元見てない?

 いつもカイルんちじゃつまらないからと、ネクターの仕事部屋で待つことにしたのは私の方なのだ。

 本人から二つ返事の許可をもらっているとは言え、むしろ、気が散ってないか不安になっているのだが。


「何でしたら、眠っていてもかまいませんよ。悔しいですけど、あと一刻ほどはかかります」


 ……いや、その机に積み上がっている書類をそれだけの時間で処理できるってのはかなり人間離れしてると思うのだけど。

 座ったネクターが隠れるほど積み上げられた複数の紙の束にちょっぴり顔をひきつらせつつ、私は首を横に振った。


「いいよ、無理してミスが増えても困るだろう? こうしてちょっと窓を開けて春の陽気を味わえるだけ良いもんだ」


 なにせ、知行地向こうは草一つ生えない荒野だからなあ。

 わずかな変化で季節を感じるのもおもしろいとは言え、こう目に見えて春!って感じのもやっぱ良い。


「そう、ですか?」


 窓から見える庭の色とりどりの花や、遠くの木々の若葉を目の端で眺めていれば、釈然としないネクターに聞き返された。

 そよ、と室内に流れてきた柔らかな風に乱れかける髪を押さえて、にこりとわらってみせる。


「それに、君がそんな風に仕事している姿はかっこいいから、眺めてるのも結構楽しいもんなんだ。誰かのためにがんばってるってわかるからなおさらさ」

「……っ!」


 息を飲んだネクターは、大きく薄青の目を丸くした。

 かと思うと、がたっと椅子に座り直して、猛然と書類を片付け始めた。


「すぐ片付けますから、春の花を見に行きましょうね!」

「え、あ、うん?」


 いきなりさっきの倍速でペンを滑らせ出すネクターに戸惑いつつ、座り直した私は思念話を受け取り、そっと片耳に手を当てて応じた。

 相手は、ネクターと同じように仕事をしているカイルだ。


 《どうだ、ネクターの様子は》

 《とりあえず仕事に集中してるよ? なんか、ものすごい勢いで。》

 《すまないな、ラーワ殿。今回はめちゃくちゃ決済書類がたまっていたんでな、どうしても逃がすわけにはいかなかったんだ》

 《いや、かまわないよ。ネクターの仕事場には来てみたかったし、仕事しているネクターを眺めるのも楽しいし。……でも、何で私が居るとはかどるんだい?》


 カイルから、ネクターが仕事から逃げ出さないように監視をしてくれ、といわれて了承したものの、未だに謎なのだ。


 《そりゃ、まあ、男は見栄を張りたい生き物だからな》


 思念話の向こうのカイルは、ちょっぴり詰まったあと答えてくれたが、やっぱりわからない。


 《とりあえず、今ある書類を全部整理し終えたら、あとは休みにしてかまわん。渡した許可証で通行は自由だから城の庭でも眺めていってくれ》

 《ありがとー》


 それでカイルとの思念話を終えた私は、改めて窓の外と、猛然と書類を片付けるネクターを眺める。

 いつの間にか、亜麻色と薄紅の髪をぎゅっと一つに縛り、真剣な表情で一つ一つの文字に薄青の目を走らせるネクターの横顔はきりりとしてて飽きないな、と思う。

 そういえば、部屋の隅には簡易の茶器があって、お茶がすぐに入れられるようになってるんだよな。


「ネクター、お茶でも入れようか」

「ラーワのお茶ですか!ぜひ!」


 声をかけたとたんこっちを向いて目を輝かせるネクターに苦笑しつつ、私はソファーから立ち上がって、ポットをとった。

 その後一刻と言っていたのに、その半分で仕事を終わらせたネクターにびっくりすることになるのだが。


 私は魔術を使ってお湯を沸かしながら、窓の外に広がる晴れ晴れとした空を見上げて伸びをする。

 やっぱり、春は良いものだ。


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