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番外編:ドラゴンさん、幼女になる 1

本編からこぼれましたあれこれな幼女編まいりますっ!

時系列としては「ドラゴンさんと彼らの日常」の前になります。

 

 気持ちのいい陽気だった。


 いつもの様に森の中に転移した私は、まず自分の首や顔をてのひらでなぞって腕にも足にも鱗がないことをたしかめると、ちょっぴり服の衿を引っ張って覗き、胸の中央に埋まった透き通るような赤が揺らめく竜珠を確かめる。

 ばっちり魔力を制御していることを確認した私は、心地よく乾いた空気を胸いっぱいに吸い込んで、うーんと伸びをした。


 頭上にはぬけるような青空が広がっていた。

 初夏の柔らかな涼風が肌を滑り、黒に炎みたいな赤の混じった髪が空を遊ぶ。

 青々とした木々の深緑も目にまぶしい。

 本当に今日は、


「絶好の城壁破り(やまごえ)日和だねっ!」


 まあいつでも破りますけどっ!

 というわけで私は、煌めくような日差しに揚々と照らされる前方の城壁に向かって足取りも軽く走り出したのだった。






**********






「あっラーワ様、いらっしゃい。ちょうど良いところに」

「やっほう。奥さん!……ってどうしたの?」


 本日も無事に警邏隊を振り切って王都の侵入に成功した私はカイルのお家の扉を叩いたのだが、間髪入れずあけられ、カイルの奥さんであるベルガにほっとした様子で出迎えられた。

 外出用の落ちついた色合いのドレスを着て麦穂色の髪を綺麗に結い上げたベルガの手には、何やらふきんの被せられたバスケットが下げられ、もう片方の手には長さが腰辺りまである杖が握られている。


「実はカイルがお弁当を忘れていってしまったんです。けどちょうど息子たちも学問所や道場から帰ってくるころですし、あなたもいらっしゃる頃だったからどうしようかと思っていたところで。申し訳ないんですけど、留守番をお願いしてもいいですか?」


 出会ったころは全力でビビられたけど、今ではぐっと打ち解けてこんな頼み事までしてくれるようになった。

 二つ返事で了承しようとした私だったが、その前に名案を思いついた。


「じゃあ私が友人くんの弁当を届けてくるよ。奥さんはお家でお子様たちを迎えてあげて」


 私の提案にベルガは麦穂色の瞳を見開き、慌てて言った。


「とんでもないっ! そんなことされなくても!」

「気にしなくていいよ。前々からネクターたちの仕事場を見てみたかったんだよね。極力気配を抑えれば誰にも気づかれないうちに帰ってこれるだろうし。フード付きのマントだけ貸してくれるかな?」


 葛藤するようにしばらく悩んでいたベルガだったが、


「正直助かります。特に下のセラムのほうは最近何かに悩んでいるようで心配でしたから。できるだけ迎えてやりたかったんです」

「うん、子どもを迎えてあげるのはお母さんの特権だからね。それは私じゃ代れないから適材適所だよ」


 私の言葉にベルガはおかしそうにクスリと笑った。二児の母なのに少女みたいにかわいい笑顔だ。


「いいえ、あなたに出迎えられればあの子たちはきっと喜びます。あなたが来る時はもう、興奮しっぱなしなんですから」


 まあ、確かに小さいころと変わらずに懐いてくれているのは知っているけど、ねえ?

 嬉しいやら恥ずかしいやらでぽりぽりと頬を掻いた。


「そうかなあ」

「けど、本当にお願いしてもいいんですか」

「任せて。ちゃんとお昼ご飯を友人くんに届けるよ」


 遠慮がちなベルガに私は胸を張って答えた。





 **********






「と、いうわけで来ちゃった」


 ベルガがフード付きマントよりも自然だと貸してくれた、メイドさんが被るような縁飾りのついた縁なし帽(ボンネット)に髪を入れ込み、地味な色合いのドレスを着こんだ私はにっこりと笑った。

だが、カイルは差し出したお弁当のバスケットを受け取ることもしないでその場で頭を抱えていたかと思うと、声を荒らげて言った。


「まさか本当に来るやつがあるかっ ここは中枢から外れているとはいえ王宮内だぞ!? あなたがいる事がばれたら今までの苦労が水の泡になるのがわかっているのか。俺が表まで出迎えなかったらどうしてたんだ!?」

「だから前もって友人くんたちに思念話で連絡したし、奥さんにはきちんと通行許可証貰ってきたんだよ? ついでに魔力も思いっきり押さえて人並みにしたんだ。まあ、衛兵の人にはいつもと違う人だねってずいぶん付きまとわれたけど」


 こうしてカイルの執務室兼研究室らしい広々とした部屋に連れ込まれた途端怒られたけど、ちゃんとやることはやったんだよ? と胸を張ると、とうとうがくりと肩を落とされた。


「そこまで手をかけてまで見たかったのか……」

「だってものすごく面白そうじゃないか。忘れたわけじゃないだろう? 私には人の暮らしのすべてが珍しいんだ」


 なんせ、私、ドラゴンだから。

 そういうと、カイルは鳶色の瞳をちょっと見開いてから「そうだったな」としょうがないと言わんばかりに笑った。

 まあ正確にはこの世界の人の暮らしがなんだけど、と内心付け加えていると、ふとカイルが訝しげに首をひねった。


「いや、まて、友人くん“たち”ということは……」


 まさに嫌な予感がするとばかりに顔をひきつらせたカイルにこたえるように遠くからあわただしい足音が響き、私たちのいる部屋の前で止まったかと思うと、パン! と風船が破裂したような音と共に勢い良く扉が開けられた。


「ラーワっいらっしゃい!」

「やあネクター、遊びに来たよ」


 いつもの様に亜麻色に毛先に薄紅の乗った髪をゆるく編んだネクターが、私を見つけた途端満面の笑みで駆け寄ってこようとする進路をカイルが塞いだ。


「おいネクター」

「どうかしましたか? カイル」

「俺の部屋には魔術錠がかけられていたはずなんだが、お前、どうした?」

「あ、」


 言われてはじめて気が付いた様子でネクターは扉を振り返り、そこに痕跡すらないことを確認して顔をもどし、爆発寸前のカイルに曖昧に微笑んだ。


「壊しちゃった、みたいです」


 てへ、という擬音が聞こえそうな答えに、私は確かにカイルの堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた。


「一応保安レベル5の鍵を簡単に壊すんじゃねえっ毎回コッソリ直すのにどれだけ時間がかかると思ってる!!」

「す、すみまっ後で直しギブギブギブ!!!!」


 怒っている割にはとても楽しそうなカイルにあっという間に膝十字固めを食らって悲鳴を上げるネクターをおいて、私はとりあえずお昼ご飯を広げるスペースの確保を始めた。

 というかネクター、初犯じゃなかったのか……







 ベルガはこの事態を見越していたようで、私が着替えている間にネクターや私の分までバスケットに入れてくれていて、お昼ご飯の量は十分にあった。


 若干よれたネクターがのんびりとパンをちぎり魚のフライやゆでた野菜をつまむ私たちを時折羨ましそうに見ながら、せっせと魔術錠と結界を直していく。


「ああっ! そのマリネ残しておいてくださいっ」

「そういうんならとっとと直せ」


 情けないネクターの懇願にもにべもなく言い放ったカイルは容赦なくご飯を腹に収めていく。

 基本ご飯はいらない私はちょっとずつおいしいぶんだけを味わいながら、カイルの嬉しそうな顔に感心して言った。


「いい食べっぷりだねえ。やっぱり奥さんのお弁当は格別かい」

「当たり前だ。それに仕事が立て込んでいてな。辛うじて家には帰れているが、最近は外ですませてばかりだったんだ。ベルも気を使ってくれたんだろうな」

「いい奥さんだね」

「だろう?」


 私は照れ臭げに笑うカイルがまぶしいような気がして、目を細めた。


 さっきよりも数段性能を上げて結界を張り終えたネクターも加わり、ありがたくお昼ご飯を綺麗に平らげると、まだ時間があるからとネクターがお茶を入れてくれた。


「ところで仕事が立て込んでいるのと、この魔道具の山とは、何か関係があるのかい」


 私は広々とした部屋に並べられた木箱から顔をのぞかせる古びた道具や、壺、奇怪なオブジェにしか見えない何かをわくわくと眺めた。

 さっきからずっと気になっていたんだよね!


「ああ、まあな。先日摘発した密輸業者から押収した違法魔道具の一部だよ。古代魔道具(アーティファクト)ってふれこみで貴族や裕福な商会や神殿の生臭坊主に売り込んでいたんだ。大半は偽物をつかませていたらしいが本物が混ざっていたらまずいと、こちらに鑑定と目録作りを押し付けられた。これのせいでもう一週間もまともに帰ってない」


 忌々しげにガラクタの山を見るカイルの横で、ネクターも言った。


「私のところでも、魔道具に施された術式を解析して術師の特定を進めています。ですがこの国の優秀な魔術師はたいてい兵団出身ですから、他国の魔術師がかかわっている可能性が高いとみています」

「ほとんどほかの連中にやってもらったから、ここにあるのはどうしても判別がつかないものだけなんだがそれでもこの数だ。一つずつ術式を解読しているから難航中だよ」

「にしても、ずいぶんいろんなものが詰め込まれてるねえ」


 そういえばまともに魔道具を見るのも初めてかもしれない。

 ネクターの拘束衣は思いっきり壊しちゃったから、気をつけないと。


 それでも好奇心を抑えきれず、私はわくわくと近づいて木箱の中身を覗いた。

 外から覗く分には雑多に見えたが、木箱ごとに刀剣類、装飾品、食器などに分けられ、恐らく解読が終わったものには丁寧にラベルが結び付けられていた。

 見た感じどの魔道具もそれほど魔力を内包していないようだったが、ふと、なんとなく目を惹かれて、装飾品の集められた木箱から一つを手に取った。


 それは透明な石が使われた数珠に見えた。

 ただ紐の代わりに恐ろしく細かい鎖で珠を繋いでいて、珠の表面にびっしりと古代語が刻まれている割には妙にその数珠の内部に魔力が少ない。

 と、いうかほぼゼロだ。

 そのせいか刻まれた古代語もかすれて読みづらくなっていた。


「『吸収』『放出』『還元』『抑制』……あとなんだろ」

「どうかしましたか」

「んー古代語で彫り込まれているんだけどよく読めなくて」


 ネクターの声が聞こえたけど、目の前の物に気をとられて生返事を返した。


 わっかになっているんだから、きっと何かに通すんだよね。

 数珠に見えるし、やっぱ――――腕?


「よっと」

「ラーワ殿!? なにをっ」


 私が左腕に数珠っぽいものを通したのを見たカイルが血相を変えて立ち上がった。


「いや、刻まれた古代語が読めないから、いっそのこと魔道具を起動させたほうが早いかなあって。でも何にも起こんないね。魔力を込めて初めて動くものなのか、それとも壊れているのかなあ」

「何が起こるかわからないものをそう軽々しくやらないでくれ!」

「あはは、ごめん」


 カイルの抗議ももっともだと、好奇心を爆発させかけていた私はちょっぴり反省した。

 だけど、謝りながらその数珠もどきを外そうとした所で、ゆるかったはずの数珠がぴったりと締まり、石に刻まれた古代語が黒く染まっていることに気が付いた。


「ラーワ?」


 異変に気が付いたネクターが私に近づこうとした矢先、その数珠もどきを中心に空間を震わせるほどの勢いで魔術陣が広がると、目の前が真っ白に染まった。


「うわっ!?」


 魔力が大量に変換された時に起こる反応光に視界が潰されたのだ、と理解した瞬間体内の魔力が一気に流出しようとするのを感じる。

 即座に数珠を中心に封鎖結界を張ろうとしたら、ぴき、と嫌な音が聞こえた。

 咄嗟にレイラインを封じるのと同じ要領で流出しようとする魔力の流れだけ強制的に制限した。

 その一連の作業を数瞬で終わらせるとその発光も収まっていたのだが、突然の出来事にびっくりして思わずその場にしりもちをついた。


 視界がちかちかするのを目を瞬かせることでやり過ごし、ふいーと大きく息をつく。


「いやあ、びっくりした、あ?」


 後ろが恐ろしく静かなことがちょっと怖いと思いつつ誤魔化そうと声を出したのだが、妙に声のトーンが高くて驚いた。

 そーいえばなんでこんな沢山の布にくるまれているんだろう?


「……ラーワ殿?」

「ん? ああ友人くんごめんね、なんか妙なもの発動させちゃったみたいでさ。ってどうしたのそんなに驚いた顔して」

「ラ、ラ、ラ、ラ、ラーワ、か、か体がち、縮んで……!」

「え?」


 カイルもネクターも驚愕を顔に張り付けているのをおかしく思いながら私は立ち上がろうとして、そこでようやく己の異変に気が付いた。

 大量の布がさっきまで着ていたドレスだということに。

 視線がものすごく低くなっていることに。


 よーするに縮んでいることに。


「おうふ、なんてこったい」


 ずりと、ドレスの肩が落ちたことも構わず、私はぴったりサイズになっている数珠もどきのはまった、可愛い感じにちっちゃくなった手を呆然と眺めた。


 一番初めに我に返ったのはネクターだった。


「大丈夫ですか、どこか痛むところなどは?」

「それは平気。体が軽くて頼りないけど」


 駆け寄ってきたネクターの手を借りて立ち上がった私は、冷静に見えるその姿にさすがだなあと感心していたのだが。


「年齢的には七歳前後でしょうか、何時もよりも髪の質が細く柔らかくなっているようですし肌の質もどことなく違うみたいです。こんなに華奢でかわいらしい姿を見ているとなんだかこう胸の奥からほわほわとした感覚が湧き出してきて、これが巷に言う“萌え”という感覚でしょうか!? なんだか新たな扉が開けそうです!! ああすみませんラーワそんな姿ではいけませんね、まずは服の調達が必要です! ひとまず私の部屋に」


 ……あれ、なんか不味くね?

 重いはずのドレスごと軽々と抱き上げられた私が、なんだか目を爛々と光らせて荒い息遣いで迫るネクターに顔をひきつらせていると、いつの間にかカイルが背後に無言で歩み寄ってきていて、


 スパ――――ンッ!!


「その新たな扉とやらを今、すぐ、未来永劫凍結しろ」


 鋭く振りかぶられたハリセン(・・・・)が、素晴らしい破砕音をさせてネクターの頭部に炸裂した。

 

 それでネクターの腕がゆるんで何とか脱出できた私は、でっかいハリセンを慣れた調子で片手にひっさげ、ぐいと容赦なくネクターの首根っこをひっつかむカイルを呆然と見上げた。


「ええ、と」

「とりあえず、ラーワ殿。そこの引き出しに泊まり込み用に常備している俺のシャツがあるから着替えてくれ。俺はこのネクター(馬鹿)と話がある」

「う、うん、いってらっしゃい」


 有無を言わさぬ勢いに飲まれた私がうなずくのを見るや否や、カイル達が別室に消えていくのをただただ見送ったのであった。





**********





 と、いうわけで泊まり込みようにいくつか常備しているというカイルのシャツを引っ張り出して着てみたのだが、何分男物だ。

 更にいえば、カイル自身男性としても規格外の体格だから、今の幼女な私の体格にはぶっかぶかである。

 彼シャツなんて可愛いもんじゃない。普通に寝巻でイケるサイズである。

 それでもちっさい手に四苦八苦しつつなんとか袖を手が見えるぐらいにまくり上げて、ウエストを適当な紐で絞めて何とかみられる感じになったころ、別室から二人が戻ってきてびくっとした。

 のだが。


「中身がラーワだから外見は関係ないのです。小さくなってもドラゴンの本性から人の姿に変わるのとなんらかわりがない、そうですあれはラーワ、何も変わらないんです」


 戻ってきたネクターの目がうつろなのに対し、カイルはごくごく普通の顔をしていたのがちょっぴり怖かった。


「すまない、時間がかかった」

「いや、それはいいんだ」


 私は内心冷や汗をかきながらふるふると首を横に振った。

 そりゃもう、ナイスタイミングでしたから。

 儀式用の鏡を見つけてちょっと覗いてみたら、おおなんかかわいい! と思わずきゅるんっ♪ とかきゃらん! とか擬音がしそうなポーズをとって遊んでたところだったんだ。我に返ったところで扉があいたから危なかった。

 大丈夫、ばれてないばれてない。


「あ、そうそう。これ対精霊魔族用の封印具だったみたいだ」


 ついでにカイル達がいない間に今や真っ黒に染まった数珠もどきの魔力の流れや術式をざっと解読していた私は、その結果を伝えた。


「封印具?」

「たぶんね。

 対象者の魔力を強制的に吸い上げて、恒久的に周囲に還元するように設定されているから、魔力で動いている精霊や魔族は身動きができなくなるよ。片っ端から吸い上げられるから、魔術を展開させることもできない。

 しかも数珠に仕込まれた術式の維持は吸収された魔力で賄っているから着けられたものの魔力が多ければ多いほど強力になる。

 えげつないけど、ものすごく効果的だよ」

「つまり、それは古代魔道具か」

「正解。良かったねえ、君たちがつける前で。私は魔力を吸い上げられても体が縮んだだけで済んだけど、なまじ魔力が多いから君たちが解読しようと魔力を流した途端、魔道具も反応して一瞬で魔力を吸い上げられて死んじゃってたか、良くて昏睡状態になってたよ」


 本当に、私でよかったわ。

 魔力を吸われて干からびる彼らを一瞬想像した私がぶるりとふるえていると、虚ろだったネクターが生気を取り戻し、血相を変えた。


「ラーワはそれで魔力を吸われ続けて大丈夫なんですか!?」

「ああ平気だよ。そもそも私の魔力を還元させ続けてたらここら一帯とっくに魔窟化してるって。一時的にレイラインとの接続を切って、体内魔力に切り替えて、数珠をつけてる左腕を中心に流れる魔力量を制限してるからしばらくは付けたままでも平気だよ」


 そういうと、なぜか二人が深刻そうに沈黙した。


「元のドラゴンには戻れそうか」

「んー、体が小さくなった時の魔力消費量で固定されちゃってるから、これ以上大きくなるのも元に戻るのもすぐには厳しいかなあ」

「ということは、自力ではずすのは……?」

「外せるよ?」

「は?」

「え?」


 ぽかんとした顔をするネクターとカイルに、私もきょとんとする。

 え、もしかして私が封印されたのかと思ってたの?


「と、いうか、外すだけなら魔力の制限をやめればいいだけなんだ。さっき封印のために魔術を使おうとしただけでひびが入ったから、魔力を意図的に流せばすぐに封印具の容量を超えて勝手に壊れてくれるもの」

「そう、なのか?」

「うん、一応私もドラゴンだからね」


 これが普通の精霊や下級魔族だったらつけられたとたん自力で動けなくなるような代物だけど、今の状態でも魔術も使おうと思えば使えるし、動けるし、伊達に最強種族じゃないんです!


「だけど君たちにとっては貴重な古代魔道具なんだろう? 私のせいでこうなっちゃった手前、出来れば無傷で何とかしたいんだけど、このままだと魔術で詳しい解析もできないから参ったなあって」


 そういう回りくどい作業も嫌いじゃないけど。

 そこで私は難しい顔をするカイルを見上げた。

 立っていても目線が違いすぎるので、自然と上目遣いになる。


「このまま、壊してもいい?」


 カイルはなぜかうっと息を詰まらせた後、明後日のほうを向いて言った。


「……あなたが制限を続けることに負担を感じないのなら、壊すのはやめてほしい」

「これくらいの制限ならあと100年くらいは平気だから。どうしたかい、友人くん?」

「なんでもない」


 なぜかこっちを向いてくれないカイルに私は首をかしげたけど、ともかく話を続けた。


「一番堅実な方法はこのまま自然に任せてこの封印具が取り込んだ魔力を還元させている間に、外部からの解除方法を考えることかなって。封印具の容量が空けば私もちょっとずつ大きな魔術が使えるようになるだろうしね」

「ならば、それまでの解析は私がやります。二人でやれば時間の短縮になるでしょう。ラーワ、体は本当に大丈夫なんですね」


 念を押すネクターには私はうなずいてみせる。


「うん。いつも通りレイラインも見えるし、封印具の反応しない速度で瞬間的になら魔術も使えるし、ただ……」

「ただ?」

「これを壊さないためにしばらく元の背格好に戻れないんだけど、ここからどうやって帰ろうかなあって」


 大人サイズだったお嬢さんがお子様サイズ(しかもぶかぶかシャツ一枚)で出てきてもはいそうですかって通してくれるわけないよねえ。

 ちなみに空間転移は王都内なら行使可能とはとはいえ、レイラインとつながらなきゃいけないから今は無理だ。


「それがあったか……」


 結局頭を抱えることになったカイルに、私は精一杯の反省を込めて手を合わせたのだった。



 




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