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ドラゴンさんは友達が欲しい  作者: 道草家守
原初の竜編

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【番外編】ドラゴンさん、猫獣人になる&魔族様、猫になる

こちらは以前Twitterでつぶやいた小ネタが萌え広がってしたためた掌編です。

おやつ感覚でどうぞ。

 


 アールも知行地に出かけていて、私が久々にお家でゆっくりくつろいでいると、読書をしていたネクターがふと顔を上げた。


「そういえば前々から気になっていたのですが、ラーワの人化は人族限定なのですか」

「んーどういうこと?」

「以前、小さい生物にはなりにくいとおっしゃっていましたが、人もいくつか種族がありますので。森人(エルフ)地底人(ドワーフ)、獣人でも良い中で、人族を選んだ理由があるのかな、と」


 私がソファから身を起こせば、ネクターが補足説明をしてくれた。

 ネクターがテーブルに置いた本は案の定種族の特徴に触れた医学書のようだ。

 ほんとネクターの読む幅広いよなあと思いつつ、私は答える。


「一番の理由は前世の自分の姿だったからだよ。昔はそんなに器用じゃなかったからさ、よく知ってる姿じゃないとむずかしかったわけ。でも今はだいぶ上達したしいけると思う。なんなら今やってみようか」

「ぜひっ!」


 ネクターの薄青の瞳が輝くのに、ちょっと笑いつつ私は軽く立ち上がる。

 だって暇だったし、春だったし。せっかくこの世界にはエルフやドワーフに獣人までいて実際に変化する力もあるのに、なってみないのはちょっともったいないかもと思ったのだ。


 わくわくとした顔をしているネクターの前で、腕をぐるぐる回して体の力を抜いた私は、胸の中央にある魔核に意識を集中させる。

 まずはそうだな。イエーオリくんも知っているし、エルフから。


 すうと、耳のあたりを中心にむずがゆい心地を覚えて顔を上げれば予想外にネクターが近いところにいた。

 せっかくだからと鏡を持ってくれば、そこには耳がとがりすらりとした私が映っていた。

 髪の色は変わらないのに雰囲気はちょっと芸術家っぽくなっているから不思議だ。


「耳の形が違う事は理解していましたが、すこし顔立ちや体つきも変わりましたか」

「かなあ。ちょっとだけ視線が高い気がする」


 完全に研究者の顔になっているネクターが私の周りをぐるぐる回りながら観察する。


「ふむ、少々触らせていただいても」

「うん」


 こそばゆいけどネクターのまなざしは真剣そのもので、耳や骨格を確かめるように触る手つきに色気はないから好きにしてもらった。


「気が済んだなら次行く?」

「お願いします」


 満足そうなネクターがどこからともなく取り出した手帳に書きつけるのを見ながら、また体を変化させた。

 今度は目線が低くなり、ちょっと服がだぼっとする。

 ネクターの目がさらに輝いてかがんだ。

 そう、今の私はネクターの胸あたりしかない。それがドワーフの特徴なんだけれども全体的に丸っこくずんぐりむっくりしていた。


「おお、これが地底人(ドワーフ)ですね、地下や坑道での生活のために体が小さく低く進化したと聞いておりますが、背は低くとも手足はがっしりとしていますね。きちんと成人女性に見えますし」

「感覚的にはすんごく体が軽いかも知れない」

「ふむ。そのあたりは比較できるラーワにしか分からない事でしょうね」


 たぶん筋肉の付き方を見ているのだろう、私の手を取り軽く圧をかけるように撫でて行くネクターは真剣そのものだ。

 何か私もおもしろくなってきた。


「んじゃ、最後いくよ!」

「はい、ぜひ!」


 ネクターが待ち望む中、調子に乗った私はくるっと一回転しておおとり、獣人に変化した。

 ふんわりと耳の位置が変化し、腰のちょっとしたあたりにもぞもぞとした感触を覚える。


 そして鏡に映るのは頭頂部に獣の耳とお尻のあたりから細い尻尾が生えた私である。

 仙さんや美琴みたいな狼人や狐人じゃ芸がないかな、と思って前に東和で遭遇した猫人にしてみたのだ。

 正三角形に近い耳は私の髪色に合わせて真っ黒、同色の尻尾がくねるのがなんとも不思議な気分だ。

 いやドラゴンの時には尻尾もあるんだけど、人型になっている時はまた違った気分なんだ。

 ちょっと尻尾のあたりがきついかなあ。これなら東和の服の構造がこっちとは違うのも当然だよな。


 何だかおもしろくて尻尾をふよふよ動かしていれば、そういえばネクターの声が聞こえない。あれえ?と思って振り返ってみれば、ネクターが硬直していた。

 さっきまでとは打って変わって、ぱっかんと口を開けて呆然とこちらを見ている。


「どうかしたかい?」


 私がゆるりと、尻尾を揺らめかせて首をかしげてみれば、ネクターの顔が一気に真っ赤になったあと真っ青になった。


「これはいけません直ちに玄関と転移陣を封鎖しなければ、特にリリィさんにはばれないように!」


 あ、通常運転だった。

 ネクターが大まじめな顔で部屋から出て行こうとするのを、私は首根っこをひっ捕まえて止めた。人族の時より少し体が身軽な気がするなあ。


「はいちょっと落ち着こうか。急にどうしたの」

「これが落ち着いていられますかっ、種族が変わるだけでこのような魅力が生まれるなんて思っていなかったんですっ」

「大げさだなネクター」

「だってラーワの新たなかわいい姿を発見してしまったんですよ!? 黒髪の中に紛れる黒い三角耳は毛の質感が違って動くのは愛らしいですし、気恥ずかしげに揺れる尻尾なんてドラゴンの時とはまた違った繊細な動きでいつまでも見ていられそうじゃないですか! リリィさんなら食いつくに決まってます! だって!こんなに!かわいい!」

「あ、いや、その」


 全力で力説するネクターに、私はつい真っ赤になってしまった。

 まだ制御が効かない尻尾がふぉんふぉんと勝手に揺れ動いてしまう。

 猫と犬じゃ、尻尾の動き方は違うけれど、興奮したり嬉しかったりするときに動くのは変わらないんだよな。

 おのれ、尻尾め。主のいうこともうちょっと聞いてくれてもいいじゃないかな。

 ぐぬぬとだまネクターがはっとした顔をした。


「なるほど、これは失念してました。スカートがめくれてしまうのですね」


 私はば、とスカートを押さえた。今日のスカート短くて良かったな、とか思ってたけど、人型で尻尾なんて持ったことないから分からなかったのだ。どうりですーすーするはずだよ!


「は、恥ずかしいこと言わないでくれるかな……」

「え、あ、そのすみません……?」


 けしてネクターが悪いわけじゃないのだが、私はスカートを押さえたまま赤い顔でにらむ。

 そのせいか興奮していたネクターも落ちつてはくれたものの、声が小さくなった。

 あ、あれちょっと妙な雰囲気になってしまったな。どうしよう。


 私はちら、と自分の黒い猫尻尾を見る。

 いやこれはあくまで学術的な興味なんだし、と、そろりとネクターの方へ差し出してみた。


「とりあえず、触る?」

「ぜひ。……後で耳も良いですか」


 間髪入れずに応じたネクターの超真剣な顔に、私はちょっぴり早まったかなと思ったのだった。


 帰ってきたアールが、若干ぐったりした私を心配してくれたけど、全力で黙秘権を通したのは余談である。

 ……今度、違う獣人やってみようかな?




 *




「このあいださ、こういうことやってみたんだよ」


 リグリィリグラ、親しい者にはリグリラと呼ばれる彼女は、友であり永遠のライバルである黒熔竜、ラーワが茶飲みの世間話に話してくれた。

 なんでも体を変化させてそれぞれの種族になってみたのだという。

 そんなことして意味があるのかと思ったが、ラーワがほんの少しはにかみながら話してくれた所によると、種族によってずいぶん体の感覚が変わるのだという。

 そう言われててしまえばやってみたくなるではないか。

 もしかしたらラーワに勝つための糸口になるかも知れないのだから。


 厳密に言うとラーワの変身術とリグリラのそれは少々違うのだが、魔術も極めているリグリラである。

 たちまち術式をくみ上げて己にかけてみることにした。

 のだが。


 現在、リグリラは最大のピンチに襲われていた。

 リグリラが選んだのは獣人であった。サンプルは常に近くにいるのだ、せっかくだからとこのために少々改造した服も用意していた。

 変化自体は成功し、服に作った尻尾穴からは問題なく優美な金色の猫の尻尾が伸びている。

 先ほど確認した鏡には、頭頂部に猫によく似た正三角形の獣の耳が生えていた。 

 確かにラーワの言ったとおり、獣人は全体的に五感が鋭敏になっている気がする。

 人型を好むリグリラでもこれは盲点だったなと少し反省もした。


 少し体を動かしてみたいとすら思うが、リグリラは外に出ることすらできず居間に引きこもっていた。

 この魔術は残念ながら時間式である。いくらなんでもほいほい肉体を変えていたら体に負担がかかるからだ。魔術の効力が切れるまではこのままだ。

 やり過ごせればよいのだ。

 しかしながら、その結論に達したときには部屋の扉が開かれていた。 


「リグリラ殿、エーオが心配していたがどうかいたしたのだろう、か」


 鍵をかけるのを忘れていたという致命的なミスに舌打ちしたいのをこらえて、リグリラは見る間その灰色の瞳を見開く狼人の仙次郎をにらんだ。

 所用から帰ってきた仙次郎は、頭には金色の猫耳と腰のあたりには優美な金色の尻尾の毛を膨らませているリグリラを見て驚きと喜色に顔をほころばせた。


「驚いた、魔術とはそのような事もできるのでござるな!」


 いつになくはしゃいだ様子で近づいてくる仙次郎に、リグリラは山のように言いたいことはあったが今は黙ってにらむしかない。

 リグリラが狼人以外の種族を選んだのは、この男を無駄に喜ばせる気がなかったからだというのに全く意味がなかった。


「とても愛らしい耳と尻尾でござる。まるで同族のようで……いや普段のリグリラ殿も申し分なく美しいが、少々嬉しくなり申した。少々立っていただけないだろうか」


 仙次郎はよほど嬉しいのか、普段になく積極的にリグリラの手を取り立ち上がらせた。

 よく見なくても、仙次郎の灰色の尻尾が揺れている。普段はかなり自制が効いているにもかかわらず揺れるのはそれだけ嬉しいからだろう。


「うむ、毛足の長さがリグリラ殿の華やかさによく似合っておられる。ああ、尾の毛並みや耳の形にも美醜があってだな、リグリラ殿のようなここまでの良い毛並みは滅多にないのでござるよ。」


 直接肌には触れないものの、いつにない距離の近さに抗議しようにもリグリラは声を上げられなかった。

 この男を止めるには殴るくらいしか思いつかなかった。しかしこの心底嬉しそうな顔をいきなり殴るのはさすがのリグリラでも気が引けた。

 しかしこれを悟らせたくはない。


 リグリラがふるふると悩んでいるうちに、仙次郎ははにかみながら問いかけてきた。


「見たところ猫人の様子。狼人と猫人では愛情表現はちがうのだが、獣人の間ではお互いの尾を絡める事が愛情表現になりもうす。そのせっかくでござるやってもよいだろうか」

「にゃんですって!?」


 何ですって!? とリグリラは抗議したつもりだったのだ。

 しかしリグリラの口からこぼれたのは、猫の鳴き声によく似た何かだった。

 かあ、と頬を染めて震えるリグリラは、目を見開いた仙次郎にやけくそのように説明した。


「……魔術が妙にゃかかりかたをして、変にゃ副作用が出てるのにゃ。ほっておいてくださいにゃ」

「なる、ほど」

「笑ったら八つ裂きにしますにゃ」


 もはや口を開けることすら嫌だと口をつぐむリグリラに仙次郎は軽く驚いた。

 恥ずかしさに顔を真っ赤にするリグリラはいつもよりもひどく素直に見える。

 おそらく金の猫耳がふせられてより感情がわかりやすくなっているからだろう。

 笑う気など毛頭なかった仙次郎は、つかつかと逃げようとするリグリラを引き留めた。


「リグリラ殿、先ほどの答えを聞いていないでござる」


 答えとはと眉をひそめたリグリラだったが、先ほどの尻尾の話だと悟った。

 そういうつもりで魔術を使ったわけではない。もうこれ以上しゃべりたくはなかったし拒否すれば良い。

 だがリグリラは無理強いはせず、さりとて期待を込めてこちらを見つめる仙次郎になにも言えなくなってしまった。

 ふい、と顔を背けるリグリラの態度に抵抗を感じなかった仙次郎は少し表情を緩める。

 ほんの少し仙次郎はリグリラの華奢な腰を引き寄せて、己の尻尾を絡めた。

 リグリラの表情はいっそ不機嫌に見えるほどの仏頂面だ。

 しかし金の尾は灰色の尾が振れたとたん驚くように上がったが、おそるおそるといった雰囲気ですり寄ってきた。

 そのまま灰色の尾で金の尾をすくい取り絡める。


「うむ、愛らしいでござるな」


 照れくさそうに微笑みながら、頬にすり寄る仙次郎にリグリラは固まった。

 ごく自然に寄せられたそれは、リグリラも東和で何度となくみた親愛を示す仕草だ。

 今までこんなことをしたことはなかったから、おそらく無意識なのだろう。

 後で覚えておくがいい。仕返しは10倍と相場が決まっているのだ。

 リグリラは密かに誓いながら、仙次郎のするがままにさせておく。

 なぜなら、好悪とは別問題なのだから。


 尻尾から感じる未知の感覚にそわそわとなりながら、リグリラは無防備な狼人の男に身を預けてやったのだった。



2025/10/06

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