表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/185

第27話 ドラゴンさん達はどうしてた



 帝さんにお世話になると決めたあの後、アール達が拉致されたことや、蝕についてのもろもろの事情を包み隠さず話せば、帝さんはどう猛に笑った。

 なんというか、獲物をおいつめられたとでも言うような感じで。


『余の民が多大な迷惑をかけた。だが、おそらくさらわれた子供たちは大社で暮らしておるだろう。大社に見知らぬ巫女がいたような気がする、と報告が上がっておったからな』


 その言葉で、私達が安堵したのは言うまでもないだろう。

 真琴が大社に戻ってきたのが1週間ほど前なのだという。


 海を隔てているのに暦の数え方が変わらないのが不思議だけれども、ともかく、そこで自分たちの認識に一週間ほどずれがあることを知った。


『大社に直接行って引き渡してもらうのは、だめそうだね』

『おそらくは無理でしょうね。見知らぬ巫女として居たというのでしたら、ほかの巫女が受け入れていると言うこと。ならば大社全体が関わっている可能性が高いでしょうから』


 ネクターの補足に私はわかってはいても肩を落とす。

 アール達を傷つけないだろうとは思うが、私達が乗り込んでいってどうなるかはわからない。


 それでも、当面の目標は大社へ乗り込むことになったのだが、そこで帝さんから思わぬことを告げられた。


『そなたからの情報も、真に有意義であった。余も前々から大社については思うところがあってな、大社を見つけ出せないかと画策しておったのだ』


 大社に”行く”ならわかるけど、”見つけ出す”って?

 その意味がよくわからなくて見返せば、帝さんは少し意外そうな顔をする。


『ふむ、仙次郎は話していないのか? 大社は行くことはできるが、場所は誰も知らぬ領域なのだ』


 さらっと、言われたその言葉に、ますます面食らった。

 詳しく説明してくれたところによると、大社の正確な位置は大社の巫女以外誰も知らないのだという。


 分社に設置されている転移陣でしか行けず、それも大社に奉られている神様が許可をしないと使えないというのだから相当だ。


『余は、そなたから大社の神が要の竜と知って納得したものだ。神々が総出で探しても見つからぬ場所をなぜ創り上げられたのかも、神々達が誰も話したがらないわけもわかったからな』

『あなたに教えてくださって助かりました。私は契約の下、絶対に自分からは口を割れないことになっていましたから』


 帝さんが納得する傍らで、カルラさんがほっと息をついた。


 なんでも何百年か前に魔族が徒党を組んで大社に攻め入ろうと考えて、ありとあらゆるレイラインを探り通したのだそうだ。

 だが、何十人という魔族が総出でやっても見つけられなかった上、大社の神であるテンによって当時それに関わった魔族は魔核に戻されるという大敗ぶり。


 さらにほかの上位魔族も、東和の神は正体を一切明かしてはいけないと名前を縛られたのだという。

 当時からいた上位魔族であるカルラさんも、契約で話せずにもどかしい思いをしていたのだそうだ。


 まあともかく、目指すべき大社の場所は不明な上、出入り口を使うにも敵の許可が必要な上という、難攻不落っぷりなのだった。


『なるほど、それで、アール達の正確な位置もわからないのですね』

『大社にいる者にパスをつなげているのですか、しかも感知もできると!?』


 ネクターが納得した風に言うのに、カルラさんが目を見開いて食いついた。


『今まで送り込んだ者に付けた術式は一切反応しなかったのですよっ。ぜひ利用させてください! せめて、あの竜に一泡吹かせてやりたいのですよ!』


 あーうん。カルラさん、怖がってはいてもそういうところは魔族だなあ。


『決まりであるな』


 ネクターがそのお願いに返事をする前に、帝さんが声を上げた。


『余は、大社のあり方に、そして東和という国について少々疑念を持っておるのだ。此度のお忍びもそれを調べるためのでな』

『疑念、ですか』


 仙次郎が不思議そうな顔をするのに、帝様は少し複雑そうな顔をする。


『時が来れば話そう。ネクターというたか、そなたは余の術者達と共に、大社へとゆく方法を調べよ。情報と人員はそろっておる。必要なものがあればカルラに頼め』

『は?』

『仙次郎は槍の打ち直しが必要であろう。鍛冶を紹介してやるから、直した後は妖魔の討伐に加われ。手が足りなかったゆえ丁度良い。それで打ち直し分の金子は帳消しにしてやる』

『師匠?』

『そして、要の竜、いや、ラーワ殿とお呼びしよう。そなたにしかできぬ仕事を今思いついた。きりきり働いて貰うぞ』

『へ?』

『余は宿と飯と情報と後ろ盾を提供するのだ。そなたらもただで居候するのは心苦しかろう? 持ちつ持たれつとゆこうではないか』


 三者三様に目を丸くする私達に、帝さんはめちゃくちゃあくどい顔で笑う。

 その後ろで家臣さんとカルラさんが「ああ、またはじまっちまったよ悪い癖……」的な顔になっているのが印象的だった。






 

   *







 そんな経緯で私達は、東和国の首都、華陽で帝さんにお世話になりながら、帝様命名「大社攻略作戦」に協力することになった。

 ネクターは帝さんお抱えの術者集団と共に、大社がどこにあるかと門の開け方を調べている。


 実はちょっと渋っていたのだけれど、帝様に東和の魔族と人の契約と能力譲渡術式について盗めるものなら盗んでみろ、と資料室の出入りを許可されてたきつけられたら喜々として乗り込んでいったね!

 というわけで、朝から晩まで超生き生きしている。


 仙次郎は、対蝕戦で傷ついた槍の補修を紹介された鍛冶師に頼んだ後、仮の槍で魔物……妖魔退治に方々へかり出されていた。

 今の東和は妖魔の活性期というやつに入っているらしくて、魔族と巫女と守人が総出で狩りに出ているのだそうだ。

 帝さんが、禁域なんていう危ないところに出ていたのも、実際の状況をこの目で確認するためだったらしく。


 おかげでどこもかしこも手が足りずに、仙次郎は方々駆け巡らされていた。


 昔の仕事仲間と色々あるんじゃないかとちょっと心配なのだが、仙次郎はとりあえず問題ないとしか言わない。

 まあこっそり帝さんに聞いても大丈夫と返されるから信用するしかないけど。

 ただ、私は手が足りないのならそっちに加わった方が良いんじゃないかと思ったのだけど、帝さんはよしとしなかった。


『そなたには、術者達の研究にも加わって貰いたいのでな。あまり外へほっつき歩かれても困るし、そなたにしかできぬことがある』


 と私に任されたのが、人里に出てくるちょっとおいたが過ぎる魔族や精霊達を成敗するお掃除係だった。

 確か、帝直属の取締役?だっけな。そんな身分を証明する印籠まで貰った。


 んだけど一回難癖付けてきたこっちの貴族である武家の人達に見せたら、その場で土下座されて大騒ぎになったので、なるべく出さないようにしている。


 どこの水戸のご老公と思ったけど、権力怖い……ぶるぶる。


 あくまで人外だけならっていうことで承諾したのだけど、魔族はたいてい悪い人とつながって悪巧みに協力しているから、結果的に悪人も同心さんに引き渡すことになるんだよなあ。

 そんでもって毎度報告に行くたびに、なにが面白いのか笑い転げられるので、もう帝様じゃなくて、帝さんで良いかなと思っている。

 あっちも気軽にラーワ殿になってるしね。

 ……そんなに面白いことしてるつもりはないんだけどなあ。


 まあというわけで、私は帝さんの専属岡っ引きをする傍ら、ネクターの研究を手伝ったり私の蝕を感知する能力の検証に付き合ったりして、すでに一週間が経過していたのだった。




 *




『そんで、通りすがりのお兄さんに、人の形をした者の効果的な縛り方を教えて貰ったんだよ』

『それでかような格好になっておったか……っ!!』


 話し終えれば、案の定今回も机を叩いて笑う帝さんに、カルラさんがもはや言うこともないという具合にため息をつく。

 なんかもうほんとうに残念な感じなんだよなあ……。


 そういえばと思い出して、亜空間からもう一個のお土産を取り出した。


『んで、そこのお茶屋さんのお団子がおいしかったから、お土産に包んで貰ったんだ。おやつに食べるかい』


 竹の皮っぽいものを広げれば、山のように盛られている磯辺にあんこにみたらしの数々に、カルラさんが歓声を上げた。


『わあー! ありがとうございますっ。お茶、用意しますね!』


 うきうきと席を立ち上がったカルラさんをよろしくーと見送る。

 私が帝さんにお仕事を頼まれるたびに、甘いものをお土産に持ち帰るようになった結果、カルラさんはだいぶ打ち解けてくれていた。甘いものは偉大なのである。


 私はすでにたくさん食べたので、お茶だけもらっていると、引き戸が叩かれた。


 この城は全体的に、日本人なら誰しもが想像する和風の内装に多少中華風味が加わっているが、玄関では履き物を脱いだり、基本は座布団に座るスタイルだったりと、生活様式も似ている。


 この執務室も例に漏れないのだが、ほぼ完全防音になっている上、外側からは許可がないと魔族でも開けられないらしい。


 ついでに帝さんには誰が来たかわかるというハイテク仕様だ。

 しかもエレベーターまであるんだよ。この城、ギャップありすぎだろう。


『許す』 


 東和の技術の毎度感心しつつ振り返れば、入ってきたのは、東和の民族衣装を着たネクターだった。

 亜麻色の髪をゆるくくくり、紙束を抱えたネクターは、私を見るなりぱっと薄青の瞳を輝かせた。


「お仕事お疲れ様です、ラーワ!」

「ただいま、ネクター。そっちの首尾は?」

「ええ、上々ですよ。西大陸とは全く違った魔術体系で、掘り下げていけば行くほど興味が尽きません」


 つやつやとした笑顔の雰囲気からして、すごく充実していることは明白だ。

 まあ、城近くの家に暮らしていて、朝晩は一緒だからネクターがどんなことをしているかは全部知っているのだけれど。


「良かった良かった。あ、お土産にお団子買ってきたんだ、時間があるんなら食べて行きなよ」

「ぜひに!」

『そなたら……』


 ちょっと低い声がしてはっとすれば、心底あきれた風の帝さんが頬づえをついていた。

 あ、完全に忘れてた。


『仮にも帝の執務室で余を忘れるなぞ、この城ではありえん光景だな』

『あはは、ごめん』

『よい。かえって新鮮だ』


 姿勢を正した帝さんはネクターに視線を向けた。


『して、何ようだ? そろそろ報告が来るとは思うておったが、桐島はどうした』

『その報告ですよ。桐島様は寝込んでしまわれたので』

『……なに?』


 未だに慣れない風で、帝さんの前に膝を折って正座して資料を渡すネクターに、帝さんは鋭い視線を向ける。

 たしか、桐島さんは帝さんお抱えの術者集団のまとめ役をしていた人のはずだ。


 何度か顔を合わせたことがあるけど、実直そうな、いかにも技術畑という感じの鼠の人だったはず。そんな人が寝込んだってことは……。


『その、「もうやだ。なんで一週間しかいないのに、数十年分の研究を完全に把握されちまうんだ……」とやさぐれて専用の押し入れ?に籠られてしまったのです。ほかの方にも私しか説明できる人がいないといわれまして。ついでにラーワがそろそろ帰ってくる時刻かと思ったので報告に上がりました』

『……なるほど。西大陸の術者というものを、甘く見ていたようだ』


 最後の方に混ざっていた私欲は完全に無視をして、こめかみに手を当てた帝さんに、ネクターが困ったようにしょんぼりとした。


『部外者であるにもかかわらず、皆さんが親切に研究内容を明かしてくれたのが嬉しくて、張り切ったのですが。最近では皆さん涙目なのですよね。寂しいです』


 いや、たぶんそれ、親切じゃないと思うよ?

 おおかた、新参者にはわからないと高をくくって、自分達のペースで進めていったのだろう。

 西大陸の魔術には興味はあっただろうから、その話だけ聞かせてくれって感じで。


 だがあいにくと、魔術に対してのネクターの勘の良さは超能力レベルだ。


 わからないと思った部分は、的確に聞いて一を聞けば十どころか百を知って乾いたスポンジみたいに吸収したあげく、自力でも膨らませていくからね。


 そりゃあ、おいついて追いこすのに、そう時間はかからないさ。

 ネクターも蹴落とせのし上がれなどろどろした研究室から、しのぎを削って高め合うような研究室も経験しているから、嫌がらせについてはそれなりに覚えがあるだろうに、そこには思い至らないのがかわいいんだ。


『まあ、研究ははかどってはいるんだろう? 話を聞きたいな』

『だからこそ、楽しくやりたいと思うのですが……ええ、それはもちろん。あなたに意見を聞いてみたいこともあるのですよ』


 気をそらすために話しかければ、少々落ち込んでいたネクターはまた薄青の瞳を輝かせた。

 なんだって。それ楽しそうだから今すぐ!


『何度でも思うが、ほんに夫婦(めおと)なのだな』


 と、思ったけれど、帝さんが、あきれたように言ったのに私はすかさず言い返す。


『私こそ何度でも言うけど、子供だっているんだからね』

『こうして、そなたらが乳繰り合うのを見ていると納得できような』


 ちょっとわからない単語が出てきて首をかしげたが、帝さんがにやにやしていることからしてあんまり良い言葉じゃないのだろう。

 説明する気はない様子の帝さんが片手を差し出すのに、ネクターがいそいそと持ってきていた紙束を渡した。


 そうしてお茶を淹れて現れたカルラさんと共に、お団子を食べながらの報告会になったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ