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ドラゴンさんは友達が欲しい  作者: 道草家守
東和国編

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第26話 ドラゴンさん、岡っ引きをする



 ぽかぽかと夏の日差しが明るい昼間。

 私は、お茶屋さんの軒先で、はむっと串にささったお団子を頬張っていた。


 そのまま串を引っ張れば、もっちりとした団子が一つ、口におさまる。

 もきゅもきゅとかみしめればパンや麺類とは違う独特の弾力と、甘いあんこの味が口いっぱいに広がった。

 すかさず傍らの緑茶をすすれば、まろやかな苦みと混ざり合い、ほどよい甘みの余韻が残る。


 ……控えめに言って幸せだ。


 はふう、と私が息をつけば、くすくすと背後で笑う声が聞こえて振り返った。


『あんたは、本当に幸せそうに食べてくれるねぇ。茶屋冥利につきるってぇもんよ』


 そこにいたのは東和の標準的な日常着、着物っぽいやつに前掛けをしたこのお茶屋さんの看板娘さんだった。

 あだっぽい雰囲気に、猫耳と猫尻尾を揺らめかせる姿が実に優美だ。

 だって近くの机と椅子を兼ねた床机に座っている兄さん達が、でれっとした顔してるもの。


 私が男でいたらすごい嫉妬の目で見られていただろうなあと思いつつ、おいしいのは本当なので応じる。

 顔が緩みきっているのはしょうがない。


『めちゃくちゃうまいお団子をありがとう』

『いいよいいよ! あんたほどおいしそうに食べてくれるお客は大歓迎さ。茶だけで何時間も居座る野郎どもとは雲泥の差ってもんよ』


 にんやりと猫のように笑いつつ看板娘さんに流し見られたお兄さん達は、そそくさとお金をおいて席を立つ。

 ふん、と鼻を鳴らす看板娘さんにちょっぴり引きつった笑みを返していると、爆音が響いてきた。


『ひゃっはー!! ぱーてぃーないとだー!!』


 ぱらりらぱらりらとどこか古くさいラッパを鳴り響かせながら現れたのは、やったら派手な集団だった。 

 派手さを極限まで追求したきんきら改造荷車に、馬っぽい騎獣を二頭立てにしたものが複数台に乗った人間が街道を爆走してきていた。


 乗っている人達も、猫耳犬耳鹿角人間様々で思い思いに悪趣味を追求しましたか?というかんじで目に痛いし、そこだけ世紀末である。

 和風なのがひどくシュールだ。


『さあてめえら! お大尽様のお通りだああああ!』

『どけどけえぇ!!』


 その改造車の中でもひときわど派手というか悪趣味というか立派な車に、仁王立ちしているのは、顔を真っ白に塗りたく……あ、あれそのまんまなんだ。に赤い線を入れた歌舞伎顔に、きんきら目に痛い着物と袴に身を包んだやつだった。


 あれがお大尽なのかな。んでその周りが子分だろう、ものすごくわかりやすいごろつきだった。

 彼らはわざわざ速度を落として、街道の人達を蹴散らしていく。


 その勢いで、この向こうにある花街に繰り出していって、そこでも迷惑をかけている集団なのだ。

 だいたいのルートは決まっているとのことだったので、そのひとつで張っていたわけだけど、別にここで当たりを引かなくったって良いじゃないか。


 未練がましくお団子をむぐむぐ食べていると、視界に草履を履いた足と派手な着物の裾が入った。


『そこのお嬢さんや、俺たちがいるってのにのんきに団子食っているとは良い度胸だねえ! おお、よく見りゃ良い器量してんじゃねえか!ちょっとおにーさん達に付き合ってくれや』


 顔を上げれば、案の定ごろつきのお兄さん達が、わかりやすいまでにゲスい感じでにやにや取り囲んでいた。

 それはともかくどうやら、通行人や店の人は早々に避難したらしい。


 まあ、好都合と言えば好都合だし、と思っていたら、声を出さない私をどうとったのか、お兄さんの一人が私の腕を握りしめて立ち上がらせようとした。

 あ、これ、普通の娘さんならむちゃくちゃ痛い力加減だ。


 まあでも良い機会なので、逆らわずに立ち上がる。

 だが、ごろつきが乱暴に引くもんで、その拍子にぽーんと持ってた団子の串が飛んでいってしまった。


『私のお団子っ!』


 あと一個串に残ってたのに!


『俺たちについてくればそんな団子より、いっとう良いもん食わせてやるぜ』

『まあ別のもんも頬張って貰うがな』


 絶望的な声を出せば、それがおかしかったのか、ごろつき達がゲラゲラ笑い始める。

 あ、なんか任侠とは別らしい。よく知らんけど、一緒にしないでくれって言われた。


 まあ、しょうがない。お仕事の時間だ。


 私はごろつきに捕まれた腕を、無造作に振り回した。


『はっ?』


 間抜けな声を出して、ごろつきが空中を飛び、そばにいたお仲間を巻き込んで盛大に吹っ飛ぶ。

 食べ物の恨み、思い知るが良い。


 あーあ、後でみたらし食べたいなあ。


『えっ!?』


 背後で看板娘な猫娘さんがあっけにとられた顔でのぞいているのが見えた私は、彼女にお願いした。


『あ、ねえ、追加でみたらし二つお願い。あとお茶ね。できたら冷めたのが良いなあ』


 きっと運動したあとだと、熱いお茶飲みたくないだろうし。


『あ、あいよ?』


 猫娘さんが返事をしてくれたのに満足した私は、顔を真っ赤にして怒るごろつき達に取り囲まれた。


『おうおうなにしくさってんじゃこのクソアマぁ!! ぶち犯すだけじゃすまさねえぞわれぇ!!』

『俺たちについているのが誰だか知ってんのかあぁ!? 八百万の神が一柱のジヘイ様だぞ!』


 あ、名前言っちゃうんだ、まあ知っているのだけど。

 吠えまくる手下たちに応えるように、一番派手な衣装に身を包んだジヘイというらしいそいつが車から降りてこちらへ来た。


『近頃は我の威光も薄れているようだな。そちはどうやら面妖な気配をしておるが、新手の巫女か? 見せしめには丁度良かろう』

『君が、近頃、人里に降りてごろつきの頭領気取ってるジヘイヴヘイヴだね』

『……ぶしつけに我の名を呼ぶとは貴様、命が惜しくないらしい』


 ひんやりと、周辺の空気を凍らせる勢いで、抑えていた魔力を放出したジヘイヴヘイヴに周りのごろつき達も真っ青になる。


 けど、うん。

 リグリラに比べればへでもないし。というかむしろ仙次郎でもいけるんじゃないかな?


『カルラさんから灸を据えてくれって頼まれてるんだ。とりあえずおとなしくついてきて貰うよ』

『なに?』


 魔族の気配にたじろがない私が不思議だったんだろう。

 隈取りをした顔をきょとんとさせるジヘイヴヘイヴがわかるように、私は隠していたドラゴン本来の気配を解放した。


 黒髪に赤の筋が戻れば、たちまち白い顔が青く染まるジヘイヴヘイヴだったが、手下のごろつきたちはわからないのか、あおるように声をかける。


『どうしたんですかい、ジヘイ様! そのお力をこのアマに見せつけてやってください!!』

『要の、竜……』


 ただそれだけつぶやいたジヘイヴヘイヴの声が聞こえて、私が誰か気づいたことを、そして何のために来たのかも悟ったのを知った。

 まあ、盗みに殺しにかっぱらいに悪いことはだいたい網羅してたみたいだから、手加減なんかしないけど。


『うんじゃまあ、覚悟してね?』


 もはや、白いのに土気色になっている魔族と、まだなんだかわかっていないごろつきたちに向けて、私は手の指を鳴らしながらにっこり笑って見せたのだった。









 その後、破れかぶれになったジヘイヴヘイヴを殴り飛ばし、ごろつきたちも死なない程度にお灸を据えた。

 そこで丁度、騒ぎを聞きつけてやってきた同心たち――あ、東和での警察ね、にごろつきの身柄を引き渡す。


 いやあ、近くのお店の人や通りすがりの大工の兄ちゃんとかが、縄を持ってきてくれたり縛るのを手伝ってくれたりして大助かりだった。


『もしかして、神様の一柱だったりするのかい!? まあともかく助かったからさ、お代なんか良いからじゃんじゃん食べておくれよ!』


 機嫌良く尻尾を揺らめかせる猫娘さんにぬるいお茶とみたらし団子だけでなく、海苔巻きにきなこに草餅まで食べさせてもらってお腹も心もほっくほくである。

 それに、影で菱形縛りにして拘束しているジヘイヴヘイヴに、一切動じない胆力も素敵だ。

 今度ネクターと一緒に来よう。


 といった具合で、ジヘイヴヘイヴを引きずって空間転移で戻ってきたのは、東和国の都、華陽(かよう)にあるお城である。

 その通用口の前に降り立った私は、魔力波をたどって、目的の人の元へ歩いて行く。


 あれ、この位置だと、今日はちゃんと執務室にいるんだ。

 時折すれ違う人に、ぎょっとされて、ジヘイヴヘイヴを影の中に入れとけば良かったと思ったが、もういいや。


『カルさん、帝さん、ただいまあ。例のやつ捕まえてきたよ、おっと』


 引き戸を叩いて許可を貰ったので開ければ、机に向かって決済を進めながら、きちんとした身なりをした偉い人の話を聞く帝さんがいた。

 ……いや、白熱しているのは、偉い人の方だけで、帝さんはたぶん聞き流してるけど。


 んで、その傍らには帝様が終わらせた書類を新たな書類に取り替えるという神業のようなことをしている秘書……じゃなくてカルラさんがいた。

 私が騒々しく入ってきたから、その場にいる全員の視線が集まって少々面食らう。


『ええと、お邪魔しました?』

『いっこうにかまわん。カルラに用があったのだろう』

『あ、うんそうだけど……あ、これ、たのまれていたやつ』


 ひょいと、影を操って、ジヘイヴヘイヴを転がしたら、その偉い人は飛び上がらんばかりにびくついて、挨拶もそこそこ、そそくさと退出していってしまった。

 三人だけになったとたん、帝さんはくつくつと笑い出した。


『ふん、魔族を見て逃げ出すのであれば、文句なぞ言いに来なければ良かろうに。ラーワ殿、大義であった』

『それは私が預かりますね。手が回らないもので、助かりました』


 カルラさんが、亜空間から取り出した腕輪を気絶しているジヘイヴヘイヴにはめると、一気に彼の魔力が薄れていく。

 いつぞや、私が幼女になったときと似たような封印具だろう。


 たちまちほとんど人と変わらなくなってしまったジヘイヴヘイヴを、カルラさんは何処かへ転移させた。


『ちょうど手が足りない場所があったんですよ。あとはあちらの者達がなんとかしてくれるでしょう』

『あ、でも、あいつ、たぶん仙次郎なら勝てたんじゃないかなあと思うくらいだから、そんなに役に立たないかも?』

『それならそれで、ほかの魔族の糧になれば良いんですよ』


 ほくそ笑むカルラさんのあっさりとした返答は、さすがに魔族だけある。

 とりあえず、ぼこぼこにしたけど隈取り魔族の冥福を祈っていると、ぐぐっと伸びをした帝さんは、期待に満ちた表情で机に頬づえをついてこちらを見た。


『余も休憩だ。ほれ、ラーワ殿。こたびの報告をするがよい』

『物好きだねえ。帝さんも』


 予想していた私は、おとなしくカルラさんの出してくれた座布団に座れば、帝さんはなにを言うか、という顔になった。


『居候がきちんと仕事をしておるかを確認するのは、家主の義務であるからな。ついでに異国のものから見たこの国を聞けるなど新鮮で面白い』


 どう考えても後者が主な理由だよね、わかります。

 まあいいんだ。お世話になっているのは本当だし。


 だから、今日も帝さんが満足するように本日の報告をしながら、いままでの経緯に思いをはせたのだった。



明日も更新いたします。

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