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ドラゴンさんは友達が欲しい  作者: 道草家守
東和国編

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第12話 ドラゴンさんは手がかりを知る

 


 私達がお昼ご飯を食べて精霊樹から戻ってくる間に、美琴が行方不明になっていた、らしい。


 と言うのも、私達が戻る前に、仙次郎が無事に見つけ出してくれたからだ。


 そんな美琴の顔には、少し泣いた跡が残っていたが、気が晴れたような表情になってもいたので、仙次郎と何かがあったのだろう。


 仙次郎がとってきたでっかいロック鳥のお土産は、ネクターが喜々として捌き、外で豪勢な夕ご飯になった。


 美琴がすごい食欲を発揮して、ロック鳥の3分の1を制覇していたのにはもはや感嘆の言葉しか出てこない。


 しっかり片付けたあとは、今日がお泊まり最終日だったから、夜風呂だー!とマルカちゃんに美琴とアールと露天風呂へとしゃれ込んだ。

 リグリラも引きずり込んだんだけど、露天風呂から直接湖へ飛び込んだかと思うと、本性の羽クラゲに戻って、マルカちゃんや外で見ていたらしいエルヴィーとイエーオリ君を驚かせていた。


 いや、驚かせるのが楽しいのはわかるけど、やり過ぎだよリグリラ……。


 まあともかく、楽しくほこほこ温まると、今までの疲れが一気に出てきたのか、みんな眠たげな顔をしていた。

 特にマルカちゃんは、半分寝ながら歩いていて、大きくなったヴァス先輩の背に運ばれて部屋へ帰っていったものだ。


 明日には学校の子供達が、早々に寝静まったところで、私達大人組は、お酒でも飲もうか、という話をしていたのだけど。


 まだ眠っていなかった美琴と、仙次郎が改まった様子で居間に現れた。


「少し、話がしたいと思ってな」

「いいけど、美琴は大丈夫かい? 明日登校日だろう?」


 ここと、私の家がつながっているから、翌日に帰れば大丈夫だよね!という意見で一致したエルヴィー達は、旅行をめいっぱい楽しむために、制服まで持ち込んでいた。


 けど、それにしたって今日はいろいろあったのだし、早く寝て明日に備えた方がいいだろう。

 だけど美琴は、ちょっぴり眠そうにしつつも首を横に振ったのだ。


「私が、必要だろう、から」

「では、お茶を入れてきましょう」


 ネクターが少し席を立って、美琴用のお茶を持ってきて、思い思いの場所に落ちつく。

 そうして、部屋においてある椅子の一つに座った仙次郎は口火を切った。


「話したいのはほかでもない。”蝕”について何らかの手がかりになるやもしれぬことを、それがしらが知っておるようであることだ」


 いきなりの爆弾に、一気に緊張が走ったのは当然のことだろう。


 蝕については完全に当てもなく、リュート達を追うか、再び蝕が出てくるのを待つか位しか執れる手段はないと思っていた矢先のことだ。

 だが、待つのは心情的に許せない。


 また同じようなことが起きて、同じように納めることができるかといえばわからないと答えるしかないし、蝕が現れれば甚大な被害が出ると容易に想像できるからだ。


 そんな手詰まりの時に、知っているかもしれないと言われれば、驚くと同時にいぶかしむのは当然のことだろう。


 案の定カイルが、少し眉をひそめて身を乗り出した。


「センジロー。何を言っているのかはわかっているのか。手がかりになるかもしれないのなら、どうして今まで黙っていた」

「確信が持てなかったからでござる」


 詰問口調にも動じずに、仙次郎はカイルをまっすぐ見据えて応じた。


「東和国では、”妖魔(ようま)”と呼ばれる害獣が出現する。それを討伐するのが守人(もりびと)や、美琴のような巫女でござる。それがしは今まで、こちらで言う魔物を、妖魔と同じ物と思うて倒してきた」

「そういえば、糸繰り魔樹(マリオネットツリー)の時も、魔物というのは妖魔のことか、と聞いてきましたわね」

「うむ」


 一人がけソファを独占しているリグリラが、赤ワインをたしなみながら言うのに、律儀にうなずいた仙次郎は、ゆったりとした着物の袖に手を入れた。


「だが、蝕を目の当たりにしたとき、既視感を覚えたのでござる。あのときは魔物を倒すので必死だったが、その理由はあとで思い出した」


 そこで言葉を切った仙次郎は、灰色のまなざしで私達を見渡して続けた。


「東和の妖魔は、白いものもいる(・・・・・・・)のでござる」


 しん、と室内が静まりかえった。

 その単語がすぐには頭に入ってこなかったからだ。


「ちょっと待って。白い、魔物? それじゃあまるで……」


 私の脳裏によみがえるのは、蝕のただ中で襲いかかってきた、全身が白い霧で構成された魔物達のことだ。


 そのときの記憶については、蝕から感じた負の思念を伝えたときに記憶を共有したから、美琴以外の全員が、同じ情景を思い出していることだろう。


 いや、それでも驚きすぎてそれ以上の言葉が紡げないでいると、仙次郎は腕を組んだままだめ押しのように言う。


「それがしは間が悪く、白い妖魔には遭遇したことがない。記憶違いという可能性も考えて、美琴に確認したが、間違いはなかったでござる」


 私達の視線が一斉に集まるのに、すこし耳を動かした美琴は、こくりとうなずいた。


「私も、本物は、見たことないけど」


 持っていたお茶を一口飲んでのどを湿らせた美琴は、続ける。


「東和の巫女は、国内に出る、妖魔については、全部学びます。その中にありました。白い妖魔は『無垢なる混沌』と呼びます。ただ、面倒なので、『白の妖魔』と呼ばれることが多いです」

「西大陸語で説明するならば、何にも染まらない、いりまじったもの、でござろうか」


 あれほどの悲嘆と憎悪を響かせるのに、無垢なんて称されるのには違和感がある。

 けど、東和の人の感覚にけちをつけるわけにはいかないだろう。

 真っ白いのはそれっぽいし、うん。


 無理矢理納得させていると、美琴が言った。


「白の妖魔は、東和でも滅多に出てきません。だいたい10年に一度くらい。一体出れば、巫女と守人が神々の助力をこうて総動員で倒すもの、です」

「……あれが、10年に一度ですか」


 ネクターが若干険しい顔でつぶやいた。

 実際に蝕で構成された魔物を相手取ったからだろう、その声は固い。


 でも、ちょっと待って。


「倒せるのかい!?」


 東和に出る「無垢なる混沌」が蝕で構成されたものと仮定すると、魔法しか効かなかった蝕を、魔法を使えない人のみで倒すのは驚異的なことだ。


 というか、まず信じられない。


「一体、どうやって倒すんだい?」

「それは……」


 ためらうように言いよどむ美琴の代わりに、仙次郎が言った。


「それは、東和の秘技に当たる故、美琴には答えることができぬ。それがしも、ご容赦願いたい」


 その言葉にリグリラがちょっとむっとした顔をしたけれど、口を挟むことはしなかった。


「ただ言える範囲で説明するのなら、混沌を倒すことができるのは、八百万の神々と縁を結ぶことができた巫女と守人だけでござる」

「……なるほど。それが、魔族との契約の理由でもあるのですね」


 納得した様子で声を上げたネクターに、仙次郎が苦笑した。


「やはり、ネクター殿はこれだけの言葉でもわかってしまわれるか」

「いえ、原理は全くわかりませんよ。ただ、魔族達があまりうまみのない契約体系を受け入れる理由に、検討がついただけですから」


 その言葉が気になって、私は仙次郎にちょっと遠慮しながらもネクターに問いかけた。


「どういうことだい」

「昨日、仙次郎さんは東和の魔族が求めるのは『縁と霊力』と言っていました。ですが、こちらで魔族が求めるのは『魂と魔力』です。霊力が魔力のことだとしても、東和の言葉で『縁』とは絆、つまり精神的なつながりのことを意味します。そこに食い違いが生まれているのです」


 淡々と説明を始めたネクターは亜空間から、いつも持ち歩くノートを取り出すと、ページをめくりながら続けた。


「だというのに、美琴さんの使った東和の召喚式は、魔族に対してもそれなりに負担を強います。対価に対して報酬が見合わないように思うのですよ。ですので、その『縁』こそが、魂よりも東和の魔族にとって必要不可欠なものなのではと推察した次第です」

「ほぼ、正解」


 美琴が黒々とした瞳を丸くしてネクターを見ていたが、申し訳なさそうに目を伏せた。


「でも、これ以上は、大社の許可を、貰わないと、話せ、ません」

「ええ、かまいません。魔術は軍事的な機密にもなり得ますから、当然のことですよ」


 柔らかく微笑むネクターがそれ以上追求しないことに美琴がほっと息をつくのをみながら、私は感心していた。


 昨日の会話と今日のヒントだけでそこまでわかっちゃうなんて、さすが万象の賢者と呼ばれていただけある。

 ちょっぴり自慢げな気分になっていると、同じように感心していた仙次郎が改まった。


「うむ、つまりだ。それがしも、美琴も実物は見たことはござらんが、『白の妖魔』は東和では過去に何度も出現しておるのだ。ゆえに、もし『白の妖魔』が、蝕と同じものだとすれば、東和の記録に手がかりがあるやもしれぬ」


 そう締めくくった仙次郎に、私はなんだか、どきどきと胸が高鳴るような高揚を感じていた。

 全く手詰まりだった状況に、少し光が見えてきたのだ。


 不確かでも、追求してみる価値はある。


「行ってみよう、東和に」


 私が提案すれば、ネクターもカイルも当然とばかりにうなずいた。


「東和の国に、『白の妖魔』がこちらの蝕と同一か確かめるだけでも価値がありますし、なぜそれが東和にあるのか、も興味深い事案です。何より倒せるすべを知るのは重要なことでしょう」


 ネクターが冷静そうに見えてわくわくと薄青の瞳を輝かせる横で、カイルは懸念するようにあごに手を当てた。


「だが、ミコトもセンジローも今ここで話すことができないことを、国外の俺たちにそう易々と教えてくれるものか。ましてや、バロウは東和国とは国交が開けたばかりなんだろう」

「あら、そんなこと。知る人間を一人捕まえて記憶を引きずり出せばいいのですわ」


 ふふんとリグリラがすまして言うのに、カイルがちょっとあきれたように顔をしかめて言いかけた。

 だけどその前に、美琴が半眼で言い放つ。


「大社の巫女達は、選りすぐりの術者、です。修行を積んでるから、暗示も、洗脳も効きません」

「あら、威勢のいいこと」

「いや、リグリラ殿、真でござるよ」


 美琴とリグリラの間でバチバチと火花が散りかけるのに、仙次郎が割って入った。


「大社の巫女は、神々……魔族達との交渉を一手に引き受けておるのだ。魔族との交渉は玄人でござるし、そのための防備は完璧ゆえ、リグリラ殿でも一筋縄ではいかないと思うでござるよ」

「そこまで言われますと、かえって試してみたくなりますわね」


 爛々と紫の瞳を輝かせ始めるリグリラに、仙次郎がしまったという顔をする。

 リグリラは、困難であればあるほど火がつくタイプだからなあ。


「とりあえず、リグリラ、穏便にしたいからやめて」

「ではこっそりやりますわ、こっそり」


 こっそりって……。


 ちょっと顔を引きつらせたけど、リグリラがとりあえず矛先を納めてくれてほっとした。


 でも確かに、国の重要機密らしきものを、詳しく知っている人は、きっと地位の高い人だろう。

 東和に行ったとしても、見ず知らずの、しかも正体不明の人物がすぐに会えるとは思えないし、ましてや術式をおいそれと教えてくれるわけがないよなあ。


「ラーワ殿。大丈夫でござる。方法も考えてござるゆえ。そのために美琴も同席させたのだ」


 悩み込みかけていると、その前に仙次郎が安心させるように言ったのだった。




明日も更新いたします。

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