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ラインヴァルトがポートリシャス大陸東部湾岸諸国連合第一軍に転勤させら
れてから、まもなくして、アレトリア島救援作戦の火蓋が切って落とされた。
目的は、ポートリシャス大陸湾岸諸国に蔓延る特定の魔物の群れと戦端を開いている地上部隊を上空支援を行うため極めて安全な飛龍離発着場の確保だった。
東部近海のアレトリア島にも連合警備隊冒険者管理局支部は置かれてはいたが、
救援作戦が発動する二週間前から、何度も通信機械から流れてきた悲痛な救援要請が途切れていた。
東部湾岸諸国連合の兵力は、空前の規模だった。
三戦女神の名を与えられた、搭載飛龍機数1000機のヴァハ級超大型飛龍着陸艦10隻、搭載飛龍機数800機のネヴァン級特殊魔術製造型超高速飛龍着陸艦
35隻、61㎝主砲を搭載モーリアン級超弩級戦艦30隻、輸送船を含めて約4500隻の軍艦が投入されるという規模だった。
三戦女神の援護を受ける事を許された参加陸上部隊は19万人。
これがポートリシャス大陸東部湾岸諸国連合が集められるギリギリの兵力だった。
ラインヴァルトは、参加兵力を聞いて、このぐらいの兵力を内陸部諸国に投入してくればどれだけ助かる事かと、口には出さずにそう思った。
しかし、それでも漠然とした安心は出来なかった。
「(幾ら兵力を揃えても、地獄の釜が沸騰すると思うのは俺だけか?)」
作戦開始前夜に出された、分厚いステーキ肉とこれまた分厚いトンカツを眺めながらラインヴァルトはそう思った。
幾ら、三戦女神の名を与えられた艦船の援護を受けようとも。不安は消せなかった。
アレトリア島救援作戦がポートリシャス大陸東部湾岸諸国連合により発令されてから、東部湾岸諸国連合に加盟する各列強国が所有する、戦略飛龍空軍を連日連夜
の猛爆をアレトリア島を含めた近海に加えた。
――――――戦略上重要な目標に対して使用されることを目的とし人の手により軍事的に育成と調教された、全ての生態系の頂点に君臨している「空の王者」と畏怖されている「カイザードラゴン」、
諸要素を踏まえ大陸間爆撃機の航続力と兵装搭載力に亜音速の速度性能を与え、
本質的に堅実な機体の「エメラルドドラゴン」
第三次大陸間戦争の際に先制攻撃や報復攻撃を即時行えるように生産させた次世代超大型戦略飛龍「バハムート」
以上の飛龍がざっと2500機という数で、異常出現した悪魔の群れの勢力圏化となりかけているアレトリア島近海に連続爆撃を開始した。
「上陸軍には、瓦礫処理と一般市民救助以外仕事を残すな!」
管轄する将軍が吼える様に告げた。
悪魔の群れによる損害被害は、130機。
それらの被害は、少なからず大陸東部湾岸諸国連合の首脳部を戦慄させたが、
作戦の延期、あるいは断念させるには程遠かった。
事前攻略部隊は、XX月25日の夕刻に超大型飛龍着陸艦、特殊魔術製造型超高速飛龍着陸艦、超弩級戦艦と共に目標沖合に到着した。
同時にヴァハ級超大型飛龍着陸艦配属されている飛龍の大編隊が、目標地域を制圧し、ネヴァン級特殊魔術製造型超高速飛龍着陸艦から飛び立った飛龍が目標地域に対して徹底的な地上攻撃を行った。
さらにモーリアン級超弩級戦艦の艦砲射撃支援並び高度攻撃魔術支援を目標全地域に叩き込んだ。
アレトリア島上陸戦に先立って行われた爆撃、砲撃、攻撃魔術によって地上にある全てのものがさらに粉砕した。
それから逃れられる悪魔の群れは存在もしないと思われていたが――――。
XX月29日の夕刻、ラインヴァルトがいる東部湾岸諸国連合第一軍を運ぶ輸送船団の前にアレトリア島の陸地が現われた。
だが、すし詰め状態になっている湾岸諸国連合将兵、冒険者、傭兵、冒険者管理職員達はうんざりした表情でそれを眺めていた。
上陸海岸に接近するにつれて、魔物カテゴリーレベル3以上に分類する悪魔の数と遭遇頻度は増し、連日連夜、悪魔の群れは、空から、水上から、水中から、特殊テレポート・ゲート空間から押し寄せ、阿鼻叫喚の地獄絵図を繰り広げてきた。
船団の上空では護衛飛龍着陸艦群から飛び立った飛龍の大編隊が大きな円を描きながら旋回しているが、それらが上空から襲来する悪魔の群れから船団を護ってくれるはずだった。
また船団の四方周囲には、針鼠の如く特殊魔術エクスキャリバー式高射砲、高度魔術式アルティマ型高射機関銃、高度特殊攻撃魔術ギガフレア型三式対空砲弾、
三重四重の特殊補助結界魔術を発動させる護衛駆逐艦が、群がる悪魔の群れから
船団を護ってくれるはずだった。
だが、そんなのは上空、海上、海中、特殊空間を雲霞の如く埋め尽くした
魔物カテゴリーレベル3以上の悪魔の群れは、歯牙にもかけなかった。
特殊攻撃魔術が唱えられ、特殊補助結界が張られ、対空砲火が猛然と雄叫びを上げ、護衛飛龍着陸艦群から飛び立った飛龍大編隊が、上空を飛び回る悪魔の群れと壮絶な空中戦を開始した。
その間隙をぬって悪魔の群れは、超高速で突入を図り、護衛駆逐艦はいつ終わる事もわからない死の追跡劇と特殊魔術オメガ型爆戦術爆雷の投下を繰り返した。
この想像絶する闘いは、数十時間ぶっ通し小休止も無く何度も何度も続いた。
大半が船団に接近出来ずに殲滅させられたが、それでも、艦船、輸送船を含めた
約4500隻のうち、悪魔の群れの攻撃により沈められるか、大破、中破させられた数は350隻。
1万8000人が上陸後の戦闘に関わられる事なく戦死傷者の列に組み込まれ、車輌類が350台が海に沈められた。