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 ――――18か月

「(どうしてこんな事になったんだ?)」

 サラムコビナ連合警備隊冒険者管理局支部点呼室に集まった管理職員達の姿を見ながらラインヴァルトは思った。

 この18ヵ月で日常は終了し、8大陸全域で疾風怒涛状態に陥った。

 それでも、全8大陸の列強国、連合警備隊、冒険者管理局、冒険者、傭兵団といったモノが、次第に力を失いながらも掻き、足掻きながら戒厳令を維持していた。

 列強国正規軍、傭兵団、冒険者パーティ、連合警備隊、冒険者管理局からなる非常時ティームが、一定の手順で大量出現したカテゴリーレベル3以上の悪魔の群れと処理している。

「第一、第二、第三分隊と緊急配置のメンバーは、

 イガル地区をパトロールするから、俺とケヒル三等管理職員長についてこいっ!

 第四分隊はトラックを見張れ!」

 背は低いが、がっしりとしたラウルフの管理職員が大声で告げる。

「静かにしろ!」

 長身痩躯で色素の薄い肌と髪のシャドーエルフの管理職員、ケヒルが怒鳴ったが、ラインヴァルトの周囲では話し声は消えなかった。

 ただ、ラインヴァルトの列の後ろに並んでいた、運よく楽な仕事にありついた第四分隊がケヒルに睨まれて、何処か申し訳なさそうにしていた。

 この場にいる全員が、冒険者管理局が支給している黒のボディーアーマーを着用し、頭部、顔面、頸部を保護するためか目出し帽とフリッツヘルメットを

 被っている。

 冒険者管理局が支給している黒のボディーアーマーなどは、各種族の体格に合わせて製造されているため、体格でしか人間種族か異種族しか判断できない。




「イガル地区をパトロールする者は、油断なく気を張れ!」

 ラウルフの管理職員が続ける。

 影では皆、彼の事を「番犬」と呼んでいる。

「足跡の痕を発見したら、かならず大声で知らせろ!、イガルオソ地区は無差別戦闘地帯だ。

 道路の両脇からの襲撃にも注意しろ!

 武器を持て!、弾を込めろ!、安全装置をかけたら、それぞれ信仰している神様に祈りを捧げろ!、無神論者は恋人や妻などに惜別の手紙を残しておけ!」

 銃口を仲間から反らして持った管理職員達が、セレクター・スイッチを確認する金属音が一斉に響いた。




 ラインヴァルトは、三十ミリの弾倉を取り出す。

 複列式に並んだカートリッジの一番上の一本がギラギラ光っている。

 自動小銃に弾倉を込め直し、セレクタースイッチが「セーフ」になっている事を確かめる。

「(まぁ、俺のはここまで点検なんてしなくてもいいんだけどな)」

 苦笑いを浮かべるのを我慢しながらそう思う。

 ラインヴァルトが手に持っている自動小銃は、「特殊能力」を使い召喚(?)した性能も威力も段違いな代物だ。

「サラムコビナ連合警備隊冒険者管理局支部長により、この地域一帯には戒厳令が敷かれた!

 見つけた民間人は救助、挙動不審者は残らず逮捕、抵抗するなら威嚇発砲も無しに射殺しろという命令だ!、それから、徹底的な武力行使も認められている!!、魔物カテゴリーレベル3以上で特定の悪魔種類と接触した場合は通報し、交戦し殲滅せよ、とのことだ!、

 一列縦隊!、ヒギンズ管理職員、お前が先導しろ!、出発だ!」




 サラムコビナ各地域は炎と煙で大混乱に陥っており、郊外の街の通りから通りへと炎が広がっており、消防隊と連合警備隊にはその勢いを止める事は出来てない。

 連合警備隊と市の危機管理グループが近隣の住民を避難させ、上空では消防の飛龍がどんどん広がっている炎を観察している。

 サラムコビナ連合警備隊冒険者管理局の分隊は、その様な喧騒の中を順調に徒歩で進み、支部を出て二時間後にはもう、イガル地区より少し南の静かな郊外にいた。

 ラインヴァルトがいる分隊は三番で、列の最後だった。




 各管理職員の間隔は十メートル、先頭は三百メートル以上先にいるが、ラインヴァルトは貌の前に細いコードで吊り下げられた一インチの特殊魔術式製造の液晶デジタルスクリーンを通して、先頭にいるヒギンズが眼にしている物を見る事が

 出来る。

 スクリーンとマイクがコードで繋がれ、耳覆いにはイヤホンがつき、ベルトで肩に取り付けられたバッテリー式受信機へとワイヤーが伸びている。

 ラインヴァルトは、道路の両脇を入念に調べたが道路側にはありふれたゴミがあるだけだった。

 キャンディーの包み紙、炭酸飲料の空瓶、砂に半分埋まっている黄ばんだ新聞紙・・・。




「へいっ!、これを見ろよ」

 前方にいるホビットの体格をしている管理職員が言う。

 ラインヴァルトの左のイヤホン越しに声が聞こえてくる。

 ホビットのの管理職員は、ブーツで使用済みの避妊具を蹴った。

「こんな所でも御愉しみだったようだな」

 ノームの体格をした管理職員がぼそっと呟く様に応えると、男性陣の管理職員は変わる変わる笑って一言告げ、女性陣の管理職員は嘲りと呆れた声で何か言いながら、しぼんだ避妊具の側を通り過ぎた。

 ただ、ラインヴァルトは、その様な物に興味もなく、油断なく左右を睥睨している。




 これがもう少しベテランな管理職員なら、無駄な話などはしないだろう。

 ここにいる管理職員は、ラインヴァルト以外は、ポートリシャス大陸の

ハヌヴァスト地域にある冒険者管理局訓練センターから急遽編成されて投入される事になった新人の管理職員達だ。

 今回が初仕事となるその命令が下されたのは、昨日の事だった。

 まだ訓練途中の管理職員を投入しなくてはならないほど、現在は悪化している。




「静かにしろっ!!」

 その騒がしさにヒギンズがとうとう怒鳴った。

 ひび割れた道路にできたばかりの窪みには、気持ちの悪い緑色の水が半分貯まっている。

 それを避けながら分隊は、沈黙し歩き続ける。

「(砲撃か攻撃魔術の跡に違いないな)」

 ラインヴァルトはそう思った。

 ラインヴァルトの腿と肺が焼け付くように、ひりひりしはじめた。

 重装備のせいで、腰と肩が痛み出す。




 支部から遠ざかるにつれて、管理職員の分厚い黒のボディーアーマーの上まで汗が染み出してきている。

 外界と触れる事が出来るのは、ラウルフの管理職員と共に隊列の中央にいる携帯用通信機を背負っているエルフの管理職員を通して、雑音混じりの音が風と共に入ってくる時だけだ。

 人影のいない所に残った他の小隊は、別々の区域にいる。

 中隊長は片方の小隊と一緒だ。




 通信機から半径四キロ以内の場所であれば、指揮官は四つの小隊のいずれもビデオカメラで監視する事ができるため、サボるわけにはいかない。

 だが、この世界規模の騒乱を鎮圧出来るのかどうかは、冒険者管理職員でもわからない。

「化け物共は姿を現さないな」

 ラインヴァルトの隣を並んで歩いていた管理職員が話しかけてきた。

 体格からして、ラインヴァルトと同じ人間種族だ。

 声が酷く震えている。

 ラインヴァルトはごくりと喉を鳴らして、静かに頷く。

「(そのうち姿を現すさ)」

 ラインヴァルトはそう思った。





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