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 ―――――5週間、


「(みんな疲れ果てて、心が折れそうになっているな)」

 ラインヴァルトはそう思いながら、サラムコビナ連合警備隊冒険者管理局支部大会議室の後方の空席に腰を下ろした。

黒色の頭髪と日焼けをした肌、二重瞼の眼の騎馬騎士のような精悍な風貌のラインヴァルトも、何処か疲れ切った様子だ。

冒険者管理局の任務時にで負ったのか、耳から顎に達する細長い刀剣傷がある。

 原因不明の異変が発生して5週間―――――、サラムコビナ連合警備隊冒険者管理局支部に所属する管理職員は地獄めぐりをさせられた様なものだった。

 そのため、一番の古手の管理職員達でさえ緊張して神経質になっている。

 この場所に集まっているのは、ラインヴァルトの様な基本人間種族の他に、ドワーフ、エルフ、ホビット、フェアリー、フェルパー、ラウルフ、ムーク、リザードマン、ダークエルフ、シャドウエルフ、各種の混血種族出身の管理職員の姿があった。

 その誰も彼もが爆発寸前だった。




 特にラインヴァルトの遺品回収ティーム「フォークウィンド」に所属している、

 トール、ベルナルド、クラウディア、エレーナは、連合警備隊冒険者管理局本部からの極秘命令で、それぞれの大陸に出張させられている。

 その4名は、ラインヴァルトと同じように「彗星」以降、オゾンの臭いと空気が電荷を帯びているような感触を感じているメンバーだ。

 その様な違和感を感じているのはこの大陸では、、ラインヴァルトだけだ。




 前方の両開きのドアから、サラムコビナ連合警備隊冒険者管理局支部長ジュリア・ソルビーノが入ってきて、演壇に歩み寄った。

 腰まで長い銀髪を一つに束ね、紺色の女性用スーツを着込んだ、身長140㎝の外見から判断すれば愛くるしい少女だが、その貌は何処か疲れている。

 騒がしかった会議室は、ジュリアが入室すると同時に一気に静まり返った。

 このミューティングには非番の管理職員達まで呼び出されおり、何か洒落にならない事が起きているという噂が盛んに飛び交っていた。

 今朝市長がお偉方を集めて会議を開き、そこには支部長も召集されたという話もあった。

「担当直入に話しますぅ」

 ジュリアが鈴を鳴らした様な声で告げる。

「皆わかっているとは思いますがぁ、この大陸内の全ての街や村、迷宮、遺跡は

 巨大な圧力釜と化していますぅ。

 しかも爆発寸前の危険な状態であり、この街も例外ではありません。

 この二十四時間だけでも五十パーセントも特定種類の魔物による遭遇率が上昇し、

 我々の戦友が10名犠牲になりましたぁ。

 話を続ける前に、ここで殉職した10名に1分間の黙祷を捧げたいと思いますぅ。

 ウルカマティ、グバレル、マイアシヴ、ベレスカ、プロメウヒ、バイアギル

 ナハルリヤ、アトノス、セレネギル、イシスウス。

 10名とも立派な人物でしたぁ。

 彼等の栄誉を称えましょう」

 ジュリアは頭を垂れた。

 この場にいる管理職員が全員それにならった。

 1分間がゆっくりと過ぎた。




「ありがとう」

 彼女は溜息をつき、口を閉じて言葉を探した。

「諸君の中にも――――――諸君のほとんどがぁ、気付いていると思いますがぁ、我々が直面している状況は――――」

 ジュリアは口ごもった。

「――――――――――極めて異常ですぅ。当惑している方も多いでしょう。正直言って、

 私にも何と言ったらいいのかよくわからないのですぅ」

 彼女はまた口を閉じる。

「今朝、市長が緊急会議を開きましたぁ、ポートリシャス大陸は一群の破壊活動分子の標的とされているらしいですぅ」

 それを聞いた管理職員達の間をどよめきが走った。

「(んな馬鹿な)」

 ラインヴァルトは、若干呆れた。

「冗談じゃねぇや」

 獣人系の男性管理職員が小声で言った。

 ラインヴァルトは、素早く彼の方を見た。




「入手した情報によると、テロリスト集団がこの大陸に侵入し、各地域都市で社会的騒乱状態を生じさせていると思われますぅ」

 数人の管理職員が納得できない表情を浮かべながら互いに囁き声を交わしている。

 中年ノームの男性管理職員が片手を上げて、沈黙を求めた。

 サラムコビナ連合警備隊冒険者管理局支部ウィリアム・ハーマン副支部長だ。

「わかっていますぅ。信じがたい話ですが、証拠がありますぅ。

 我々が対処しなくてはならないのはぁ、その様な状況なのですぅ。

 ただ、相手が誰なのか、何なのか、はっきりとはわかってはいないですぅ」

 会議室中にどよめきが走った。

「というわけでぇ、プラウスエルズ冒険者管理局総本部からは全八大陸の冒険者管理局支部に第二種警戒態勢、市長からは休暇の取り消し要請がありましたぁ。

 事態の重大性から見て、男女種族を問わず全員に出動してもらわなくてはなりません」

 会議室にいる全員が項垂れ、呻き声を上げた。




「気持ちがわかりますがぁ、誰だって、そんなことはごめんこうむりたいとは思いますぅ。

 しかしぃ、これは公式の命令ですぅ。

 この街・・・いえ、全ての大陸地域では急速に非常事態に突入しつつ、

 特にプラウスエルズ冒険者管理局総本部があるラーガイル王国首都プラウスエルズは、第三次列強国戦争開戦前夜の状態ですぅ。

 ――――我々冒険者管理局職員には地域住民を護り、冒険者を管理する義務がありますのでぇ、全サラムコビナ支部所属全管理局職員は第二種警戒態勢を取り、大規模騒乱に備えてください」

 大会議室中には苛立たしげな声と困惑が広がる。

「静かにしたまえっ!!」

 ウィリアム・ハーマン副支部長が演壇の脇で大声を出した。

 ジュリアは片手を上げて、静粛を求めた。

「聞いてくださいぃ、確かに身のすくむ様な状況ですがぁ――――」

 ジュリアが告げる。

「馬鹿馬鹿しい!!」

 戸口の近くにいた大きな、でっぷりと太ったムーク種族の管理職員が叫んだ。

 ラインヴァルトは直接会話を交わしたことはないムークの管理職員だった。

「テロリスト?、破壊分子?、一体何がどうなっているんです?、支部長」

 苛々した声で尋ねる。

「静粛にッ!、貴様の意見など聞いてないぞっ、バスケレ!」

 ウィリアム・ハーマンが怒鳴り返した。

「うるせぇぇぇっ!!、みんな嘘出鱈目だっ、本当は何が起こっているんだ!

 テロリストなんか関係ねぇーーー!!」

 バスケレという名のムーク管理職員も言い返した。




「静かにっ!」

 ウィリアム・ハーマンがまた怒鳴った。

「何かとんでもない事が起こっているんだっ!、遺跡や迷宮に施している世界上のありとあらゆる"封じ"の呪文が同じように刻まれ特殊結界が無効化された事と、

 特定の魔物が異常出現している事はどうなるんだよっ!!」

 大会議室は静まり返り、全員がジュリアに視線を向けた。

 その困惑した表情は、突然好きでもない男性に告白された少女の様だった。

「特殊結界が無効化と特定魔物の異常出現・・・・さていったい何のことでしょうかぁ、バスケレ管理職員」

 ジュリアが軽く咳払いをして尋ねる。

「支部長、この5週間で我々が闘っているの地上に異様な数ほど出現しているカテゴリーレベル3以上に分類する悪魔ども――――――」

 バスケレという名のムーク管理職員がさらに言おうとするが・・・。

「いい加減にしろっ、バスケレ!!」

 ウィリアム・ハーマンが怒鳴りながら、バスケレという名のムーク管理職員に向かって行こうとする。

「待ってくださいぃ、静かに、副支部長そこにいてくださいぃ」

 ジュリアがそう告げる。




 ウィリアム・ハーマンは、言われたまま脚を止めたが、視線はバスケレという名のムーク管理職員に視線を向けたままだ。

「カテゴリーレベル3以上に分類する悪魔と特殊結界無効化ですかぁ」

 ジュリアの左眼がかすかにひきつっているのに、ラインヴァルトは気づいた。

「この5週間、我々や冒険者が相手をしているのは、カテゴリーレベル3以上に分類する悪魔ばかりってことですよっ、一体二体という数じゃないっ、何千体・・・いや、下手したら何万体という数だっ!!」

 その発言で、またしても大会議室中大騒ぎになった。

 ウィリアム・ハーマンが静かにしろっと必死に叫んだ。




 ジュリアは両手を上げた。

「頼みますぅ、最後まで話を聞いてくださいぃ」

 ジュリアは辛抱強く話し声を止むのを待った。

「バスケレ管理職員の言う「特殊結界」無効化と特定魔物異常出現はぁ、我々がまだ関知していない非常に強力な解除魔術と召喚魔術によるものなのですぅ。

 私もぉ、詳しくは知らないのですが、最先端の解除魔術と召喚魔術で、これを唱えると遺跡や迷宮内の特殊結界を簡単に解除出来き、幾らでもレベル3以上に分類する魔物を召喚出来るそうですぅ。

 この技術が世間で使われたことが、この5週間の異変の原因ですぅ」

 部屋にいるラインヴァルト以外の管理職員が口々に質問を開始した。

 誰も彼もそのような説明に納得をした表情を浮かべてはいない。

 ウィリアム・ハーマンが真っ赤な貌をして、精一杯の声で静かにしろと怒鳴る。

「そんな技術がどうのこうのなんて、嘘出鱈目だっ!!、相棒がやられたんだっ!!

 第一、魔物カテゴリーレベル3以上の悪魔を大量召喚出来る技術なんてあるもんかっ!!」

 大会議室の話し声が一段と高くなり、会議室に詰めている管理職員達は不安そうに身じろぎをした。

 ウィリアム・ハーマンが呼び手を4度、長く吹き鳴らすと、次第に会議室は静かになった。




「この現況を作り出した首謀者達は極めて危険な連中だと思われますぅ」

 ジュリアは、ウィリアム・ハーマンを無視してゆっくりと話し続ける。

「不審な行動を取る冒険者に遭遇したら、種族・人権・冒険者権利を全て無視し、

 徹底的に逮捕拘留してくださぃ。

 相手が応じない場合は、警告射撃及び射殺も許可しますぅ。

 最後に、魔物カテゴリーレベル3以上の悪魔と遭遇した時は―――――徹底的に

殲滅してください」

 ジュリアは、静かに告げた。

 ラインヴァルトは、その言葉を聞いて生唾を呑み込んだ。

 もちろん、ラインヴァルトは魔物カテゴリーレベル3以上の悪魔を大量召喚出来る技術うんぬんは信じてもいない。



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