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 ポートリシャス大陸西部自由都市サラムコビナ連合警備隊冒険者管理局支部が

 管理している「最高危険区域迷宮」最下層の冒険者遺品回収を主に担当している「フォークウインド」が、現場に到着すると何か違和感を感じた。

 その違和感は、世間を賑わした「彗星」以降感じているものだった。

 嵐の前に鼻をつくすオゾンの臭いと、空気が電荷を帯びているような感触を感じていた。

 その感覚は「彗星」以降の数か月、ずっとつきまとっていた。

 その事を同僚の管理職員に尋ねても、ただ特定の管理職員以外は皆頸を傾げて不定をした。




 目的地の場に辿り着くと、生存者は1人だけ辛うじて生き残っていた。

 迷宮の壁に血が飛び、床には血だまり、大便と胆汁と血糊の臭いは、まるで激戦の戦場を彷彿させる惨状だった。

 この惨状に生き残っている管理局職員は、さきほどからわけのわからないことを

 わめきたてている。

 その場にいる全ての管理職員は、黒のボディーアーマーを着用しており、

 頭部、顔面、頸部を保護するためか目出し帽とフリッツヘルメットを被り、素顔をわからない様にしている。

 ただ体格から判断すれば、人間種族なのか異種族なのかは辛うじて判断が出来る。

「落ち着け」

「フォークウインド」のティームリーダーのラインヴァルトが片手を上げて、相手

 のペースを落とそうとした。

 素顔はわからないが、ラインヴァルトは体格からして人間種族であることが判断できる。




「それはどういう意味なんだ?、「カテゴリーレベル3以上の悪魔が群れで襲いかかってきた」とか、「悪魔以外の魔物が姿を消した」?、おいおい、ここは

「最高危険区域迷宮」だぜ?」

 ラインヴァルトは何処か呆れた様に告げる

「だからそういう意味じゃないっ!、ここの「最高危険区域迷宮」に棲息する悪魔以外の魔物が軒並み姿を消して、代わりに無数の悪魔系の魔物が激増していると言っているんだ!」

 生き残っている管理局職員は、説明しても一向に理解をしてくれないラインヴァルトに苛ついた声で応える。

 同僚の血と魔物の血で汚れた黒のボディーアーマーを着用している、生き残った管理職員の体格は、ホビットの様な体格をしている。

「何だ、それは」

 ラインヴァルトは、うんざりとした声で告げ様とした時、同じ「フォークウィンド」ティームに所属している管理職員が口を挟んでくる。

 そちらも体格は人間種族だが、190㎝ほどの長身な管理職員だ。

「つまり、原因は不明だが悪魔以外の魔物が突如姿を消して、代わりに厄介な常闇の向こう側で棲息する悪魔系の魔物が大量出現し、上級冒険者認定されている冒険者パーティと、もっとも戦闘経験と大きな成功を収めてきている第1線上級冒険者管理局職員遺品回収ティームを一掃したと言う事だ、ラインヴァルト」

 掠れた声で告げてくる。

「そういうことだよ!」

 ホビットの管理職員もそう応える。

「・・・・お前ら、ちょっと冗談が過ぎるぞ、そんな報告が出来ると思うのか!」

 ラインヴァルトは溜息を思わず吐いた。

 その3人の様子を、ヘルメットに内臓されているヘッドホンで通信を聞いていた

 管理職員が声をかけてくる。

 こちらも人間種族の体格だ。




「お話し中もうしわけないですが、そちらの生き残りの同僚の話は正しいですよ」

 その声は、何処か親しみを覚えそうな声だ。

「どういう事だ、トール」

 ラインヴァルトが、話しかけてきたトールという名の管理職員に尋ねる。

「今、緊急通信が飛び交っているんですが、この「最高危険区域迷宮」に潜っている上級冒険者認定パーティ並び第1線上級冒険者管理局職員遺品回収ティームとの通信連絡が全て途絶したみたいです」

 トールが短く応えてくる。

「冗談を言う時は、もう少し時と場所をだな―――」

 ラインヴァルトが、説教をしようとして、トールの雰囲気からして決して冗談を

 言っている様には見えなかった。

「――――――全ての第1線上級冒険者管理局職員遺品回収ティームからの連絡が

 途絶したのか、トール」

 想定外過ぎる出来事に絶句しているラインヴァルトの代わりに、長身の管理職員が掠れた声で尋ねる。




「しかも、異変はここだけじゃないみたいですよ、詳しい事は判断できませんが、

 緊急通信から判断する限り、他の「最高危険区域迷宮」でも、潜っている上級冒険者認定パーティ並び第1線上級冒険者管理局職員遺品回収ティームの幾つか、通信連絡が全て途絶しているみたいです」

 トールが短く応えてくる。

「―――」

 ラインヴァルトは、トールの様子を改めて確認し、決して冗談を言っている様子には見えなかった。

 そのため、携帯無線に耳を向ける。

 ―――そこからは、ラインヴァルトが愕然とするような悲鳴と怒号が混じった通信が飛びかっていた。




「(「スケアクロウ」監視所通信本部へ、至急応答されたし!!、

「スケアクロウ」監視所通信本部へ、至急応答されたし!!

 現在、大多数の悪魔系の魔物と交戦しているっ!!、至急緊急テレポート・ゲートを構築を求む――――)」




「( 「スナッチ」より「スケアクロウ」監視所通信本部へ、悪魔系の魔物の群れに包囲されたっ!!、畜生っ、こいつらカテゴリーレベル3以上だ!!、至急救援ティームを寄越してくれっ)」




「( 「マンフレッティ―ズゴースト」より「スケアクロウ」監視所通信本部へ!!

 もう限界だっ!!、至急安全退避コースを指定してくれっ!、弾薬も魔力も底をついたっ、このままだと嬲り殺しにされちまうっ!!)」




「――――通信から判断すれば、現在、我々以外のティームは大多数の悪魔の群れと交戦中です」

 トールは、愕然としているラインヴァルトに無慈悲な報告を告げる。

 携帯無線からは、繰り返し増援と救援要請、またはそれぞれが信仰している神の名、恋人、妻、母親の名を嗚咽するような金切り声と混じって聞こえてくる。

 それは、一度聞いたら心にそのまましみ込んで、きっと一生忘れることができないような、悲痛な叫び声だ。




「どうやらこれは冗談でも演習でもない様だな。一旦地上に――――」

 ラインヴァルトがこの状況が異常であることを理解したのか、その言葉の途中で

 周囲の空間が震動し、ちりちりと焦げるような電流が空間一帯に広がった。

 その場にいた全員が、それそれが持っている銃器の安全装置を外す。

 全員が向けた銃の先には、大型の荷物などが搬入出来そうな穴を結像させた。

 その穴を結像させるまで一瞬の時間もかかっていない。

 その穴から、蒼く照り返す鋼鉄のような皮膚に身体中覆われ、背中に翼を生やした悪魔が現われた。




 4メートルを超える巨体が、天井を突き破らんとばかり聳えたっている。

 頭部より、奇怪に捻れた巨大な二本の角が生え、その角から凄絶なる暴力の気を発している。

「撤収だっ!!」

 ラインヴァルトがそう発すると、アサルトベストから小型の薬品瓶を取り出す。

 瓶の中身は、ジェリー状の液体が入っていた。

 ラインヴァルトは、小型の薬品瓶を悪魔の手前付近に投げる。

 床に当たって砕けた瓶からは、飛び散ったジェリー状の液体がドロッと広がった。

 ドロッと広がっているジェリー状の液体に向けて、ラインヴァルトは銃の引き金を絞る。

 銃弾は火花を散らし、その火花が液体に燃え移ると火は急激に広がる。

 出現した悪魔は、奇声を発するが炎が邪魔をして襲いかかれない。

 彼等は、その様子を一瞥する事無くその場から離れる。




 ラインヴァルト達が向かっているのは、連合警備隊冒険者管理局専属直通エレベーターがある場所まで向かっていた。

 幾つもの通路から通路へと渡り歩き、できるだけ通路付近は避けて移動していたが、原因不明の異変を肌で感じる事が出来た。

 魔物カテゴリー3以上に分類される悪魔ばかりが次々と具現化し現れ始めたからだ。

 まったく異常な光景が出現しつつあった。

 全ての悪魔系の魔物を無視してようやくエレベーターがある場所までたどり着いたとき、全員がほっとした。

「まったく、一体何がどうなっているんだ?、誰が説明しろよ・・・」

 ラインヴァルトは、そう呟いた。

「これで信じてくれたかよ」

 幸運にも生き残った、ホビットの管理局職員が尋ねてくる。

「信じるも何も、地上に戻ってからだ」

 ラインヴァルトが応えた。



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