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あなたは、星占いを信じるか?
天に現れる様々な現象は、時に吉兆として人々に喜びをもたらし、またある時は凶報を示して人々に訓戒を与える。
それは何千年もの間、世界中の人々が夜空を見上げ続けることで生み出した技術であり、けっして迷信などでは無い。
今なら誰もがそんな台詞に頷くだろう。
夜空を駆け天空を美しい姿で着飾った彗星は、その星占いの伝承の通りに世界に恐ろしい贈り物をもたらし、それは始まった。
その事実を人類が知るのは、事が起きてからしばらく後になる。
そのことは、まだ誰もそれを知らなかった。
いや、正確にことが起きたとき、それを知ることが出来た人間は少なからず存在していた。
全8大陸で生活する全種族を合わせて3000人から4000人。
だが、なぜそれだけの人間が気づいたというのに、人類が彗星のもたらした影響について気づくのが遅れてしまったのか?
それは、その決定的な瞬間を確認した冒険者及び冒険者管理局職員、正規軍軍人や
傭兵団、一般民間人のほとんどが何者かによって殺害されたからだ。
その先の光景は、駆けつけた各大陸地方地域の連合警備隊職員や冒険者管理局職員、自治体職員らのただ一言『この世の地獄を見た』とのみ記録されており、具体的な被害の規模を知る者はほとんどいない。
そして、その時もたらされたこの世の地獄と遭遇し、なお生き延びた者も僅かながら存在していた。
だが、悲劇はさらに続く。
不幸なことにその現場の調査に当たった者が、彼等の言葉を理解するほどの知性も、信じるだけの度量も持ち合わせていなかった。
「大量の悪魔が出現したんだっ!!、何で誰も信じてくれないんだっ!!」
数少ない生存者の1人が、頭を抱えながら泣き叫んだ。
調査官は、彼等が繰り返し語る話に耳を傾けず、地下迷宮や遺跡内での魔物との度重なる戦闘で、精神に異常をきたした者のたわごととして上に報告を上げた。
後の人々がその時の調査官を"呪わしき石頭"と呼び慣わす事になる。
――――しかし。
地獄から生還した一握りの生存者らが語る話は、紛れも無く事実だった。
そしてそれがいかに恐ろしい真実であったかを、全8大陸の一般市民、冒険者、冒険者管理職員、連合警備隊職員、正規軍軍人、傭兵は、その数か月後にその身で
思い知らされる事になる。
そしてさらに知る事になる。
すべてが手遅れであるという絶望的な事実を。
この世界の全ての種族が享受していた静かな日常はもう二度と戻ってこない。
新聞を読んだり、車を洗い、たっぷりしたランチを食べたり、迷宮や遺跡への探索準備し―――なんであれいつもの日常はすでに失われた。
特に冒険者管理局職員や冒険者、傭兵や正規軍人という職業を生業としている者達には、休みは無くなった。
彗星がもたらした災厄は、日常というかけがえの無い宝を、燎原の火の如く焼き尽くした。
人類よ、嘆き悲しむがいい。
3話・・4話あたりで〆ます。




