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竜の少年  作者: 津田花
9/16

九、ゼン、ゼン、ゼンって何なのよ?

「ゼーン今日も公演なの!!ボディーガードよろしく!」

 

「あぁ。」

 

腰にさびだらけの剣をさげる。

ゼンは今日もトゥールの護衛。

何でも最近女の子をねらうキス魔がいるらしく、この公演期間の護衛を任かされた。

鱗と引き替えに。

毎日の公演。

しかも朝出るとあたしが眠った頃に帰ってくる。

夜も一人でどこかに出歩いてるみたいでいつも眠そう。

 

「この衣装で踊るのよ!!綺麗でしょ?」

 

衣装を身にまとったトゥールはそれはそれは綺麗な体。

やせて胸も腰もないあたしとふくよかで胸も腰もある彼女。

普通、男ならトゥールを取るよね、絶対。

でもあの二人が並ぶと妙にイライラする。

トゥールはどこから見てもゼンにベタボレだし。

あたしは危ないから出るなって言われて宿にずっと一人だし。

宿はトゥールの顔利きの店で無料だから困らないけど。

ゼンの判断に任せるしかないの?

なにかあたしにできることがない?

 

「シーナ。」

 

久々に聴く声。

 

「おはよう。」

 

延びた手があたしの頬をなでて輪郭を作り出す。

その一瞬の手の動きがあたしを天上へと導く。

 

「お、おはよう。」

 

ゼンの柔らかい眼差し。

最近会ってなかったからどう関わればいいか分からない。

心臓が跳ねて目を合わせられない。

 

「行ってくる。」

 

その言葉を残して出ていってしまった。

そうだ!

何で気づかなかったんだろう?

あたしも公演に行けばいいんだ!!

あたしなんて別に誰も狙わないでしょ?

そうだ行こう!!

すぐに公演の会場へ行くゼン達の後を追った。

後ろ姿を追いかけて、追いかけて追いかけて、追いついたのは小さな噴水のある広場。

 

「ゼン!!」

 

振り返ったゼンは、あたしをまじまじと見て…怒ってる?

 

「何で来た!?」

 

「あたしも行く。」

 

「ゼン一人で十分よ帰って。」

 

なによ?

えらそうに!

 

「あたしが足手まといだとでも言いたいの?」

 

「そうよ。」

 

見下すんじゃないわよ!

 

「何ですって?」

 

「わかった。ついてこい。」

 

ほら、あたしだって役に立つんだから。

あれ?

 

「ゼン?」

 

動きが止まった。

 

「鱗の気配だ。」

 

「私の?」

 

肌身離さず鱗を持ち歩いてるあんたの鱗に、ゼンが反応するわけないじゃない。

まあ、あたしのも違うだろうけど。

 

「僕のかな?」

 

誰?

今、気配がなかった。

 

「魔物か。」

 

あたしのすぐ隣に立った人。

赤い髪に赤い瞳。

前のゼンみたいに、あたしの肩にも満たない背格好。

笑顔の青年。

見た目は人でも魔の気が漂う。

 

「魔物?」

 

ゼンの横にいたトゥールの顔が白くなった。

 

「これでしょ?」

 

差し出した手の中には…

 

「ゼンの鱗。」

 

「返してあげようか?」

 

笑顔を絶やさない顔からは気持ちが読めない。

 

「取引か。」

 

「そ。僕ら人型は人間と戦うには強すぎる。」

 

赤い瞳がゼンをとらえる。

そして次はトゥール。

 

「その魔族は魔力なんて無いに等しいし、」

 

ほら!

トゥールの方が役立たず!

って、視線が交わっただけで気絶しそう。

大丈夫かな?

 

「この魔族は自分の巨大すぎる力を扱いきれてないみたいだし。」

 

肩にぽんと手を突かれた。

 

「シーナに触れるな!!」

 

わっびっくりした。

 

「だ、大丈夫だって!」

 

敵意むき出しって感じでもないし。

でも、巨大な力?

あたしに?

そんなわけ無い、でたらめ言ってんの?

 

「だから君の魔力が欲しいな。」

 

「え?それだけ?」

 

魔力なんてすぐに溜まるのに。

 

「良い条件でしょ?」

 

それで鱗が集まるなら。

 

「交渉成立ね。」

 

「だめだ。」

 

慌てて、あたしと赤い笑顔の魔物の間に入るゼン。

 

「なんで?」

 

良い条件じゃん?

 

「こいつがキス魔だ。」

 

えっ?

何を根拠に?

 

「よく分かったね。僕、魔力の回復が遅いから。どこかから調達しないと。」

 

暢気な魔物は一人でペラペラ空に向かって話す。

 

「人型は魔力を口から吸い出す。」

 

ええっ?

 

「知らなかった。」

 

危うく魔物とキスするとこだったよ。

 

「折角だから魔族の女の子とキスして一石二鳥。みたいな感じだよ。」

 

まだ喋ってる…。

 

「それで何人が迷惑したと思ってるのよ。」

 

この町の人にゼンにあたしに一応トゥール!

 

「ま、魔力がもらえないなら良いよ。今回は回復するまで眠る事にするよ。」

 

って、話聞いてないし!!

 

「あ!ちょっと!」

 

移動魔法でどこかへ行ってしまった。

最後まで笑顔。

ああ言う顔なの?

 

「良かった。」

 

ゼン!

 

「良くないよ!!」

 

鱗が!!

 

「よかった。」

 

ガクンと膝を地面に付けて放心。

トゥール、魔物がよっぽどこわかったのね。

 

「シーナ。」

 

「え?」

 

肩が急に重くなったと思ったら、睡眠不足のゼンの頭があった。

 

「ちょっとまって!」

 

だんだん重く…

 

「ゼン起きて!!」

 

あたしそんなに力持ちじゃないから!!

っていうか…

…近い。




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