九、ゼン、ゼン、ゼンって何なのよ?
「ゼーン今日も公演なの!!ボディーガードよろしく!」
「あぁ。」
腰にさびだらけの剣をさげる。
ゼンは今日もトゥールの護衛。
何でも最近女の子をねらうキス魔がいるらしく、この公演期間の護衛を任かされた。
鱗と引き替えに。
毎日の公演。
しかも朝出るとあたしが眠った頃に帰ってくる。
夜も一人でどこかに出歩いてるみたいでいつも眠そう。
「この衣装で踊るのよ!!綺麗でしょ?」
衣装を身にまとったトゥールはそれはそれは綺麗な体。
やせて胸も腰もないあたしとふくよかで胸も腰もある彼女。
普通、男ならトゥールを取るよね、絶対。
でもあの二人が並ぶと妙にイライラする。
トゥールはどこから見てもゼンにベタボレだし。
あたしは危ないから出るなって言われて宿にずっと一人だし。
宿はトゥールの顔利きの店で無料だから困らないけど。
ゼンの判断に任せるしかないの?
なにかあたしにできることがない?
「シーナ。」
久々に聴く声。
「おはよう。」
延びた手があたしの頬をなでて輪郭を作り出す。
その一瞬の手の動きがあたしを天上へと導く。
「お、おはよう。」
ゼンの柔らかい眼差し。
最近会ってなかったからどう関わればいいか分からない。
心臓が跳ねて目を合わせられない。
「行ってくる。」
その言葉を残して出ていってしまった。
そうだ!
何で気づかなかったんだろう?
あたしも公演に行けばいいんだ!!
あたしなんて別に誰も狙わないでしょ?
そうだ行こう!!
すぐに公演の会場へ行くゼン達の後を追った。
後ろ姿を追いかけて、追いかけて追いかけて、追いついたのは小さな噴水のある広場。
「ゼン!!」
振り返ったゼンは、あたしをまじまじと見て…怒ってる?
「何で来た!?」
「あたしも行く。」
「ゼン一人で十分よ帰って。」
なによ?
えらそうに!
「あたしが足手まといだとでも言いたいの?」
「そうよ。」
見下すんじゃないわよ!
「何ですって?」
「わかった。ついてこい。」
ほら、あたしだって役に立つんだから。
あれ?
「ゼン?」
動きが止まった。
「鱗の気配だ。」
「私の?」
肌身離さず鱗を持ち歩いてるあんたの鱗に、ゼンが反応するわけないじゃない。
まあ、あたしのも違うだろうけど。
「僕のかな?」
誰?
今、気配がなかった。
「魔物か。」
あたしのすぐ隣に立った人。
赤い髪に赤い瞳。
前のゼンみたいに、あたしの肩にも満たない背格好。
笑顔の青年。
見た目は人でも魔の気が漂う。
「魔物?」
ゼンの横にいたトゥールの顔が白くなった。
「これでしょ?」
差し出した手の中には…
「ゼンの鱗。」
「返してあげようか?」
笑顔を絶やさない顔からは気持ちが読めない。
「取引か。」
「そ。僕ら人型は人間と戦うには強すぎる。」
赤い瞳がゼンをとらえる。
そして次はトゥール。
「その魔族は魔力なんて無いに等しいし、」
ほら!
トゥールの方が役立たず!
って、視線が交わっただけで気絶しそう。
大丈夫かな?
「この魔族は自分の巨大すぎる力を扱いきれてないみたいだし。」
肩にぽんと手を突かれた。
「シーナに触れるな!!」
わっびっくりした。
「だ、大丈夫だって!」
敵意むき出しって感じでもないし。
でも、巨大な力?
あたしに?
そんなわけ無い、でたらめ言ってんの?
「だから君の魔力が欲しいな。」
「え?それだけ?」
魔力なんてすぐに溜まるのに。
「良い条件でしょ?」
それで鱗が集まるなら。
「交渉成立ね。」
「だめだ。」
慌てて、あたしと赤い笑顔の魔物の間に入るゼン。
「なんで?」
良い条件じゃん?
「こいつがキス魔だ。」
えっ?
何を根拠に?
「よく分かったね。僕、魔力の回復が遅いから。どこかから調達しないと。」
暢気な魔物は一人でペラペラ空に向かって話す。
「人型は魔力を口から吸い出す。」
ええっ?
「知らなかった。」
危うく魔物とキスするとこだったよ。
「折角だから魔族の女の子とキスして一石二鳥。みたいな感じだよ。」
まだ喋ってる…。
「それで何人が迷惑したと思ってるのよ。」
この町の人にゼンにあたしに一応トゥール!
「ま、魔力がもらえないなら良いよ。今回は回復するまで眠る事にするよ。」
って、話聞いてないし!!
「あ!ちょっと!」
移動魔法でどこかへ行ってしまった。
最後まで笑顔。
ああ言う顔なの?
「良かった。」
ゼン!
「良くないよ!!」
鱗が!!
「よかった。」
ガクンと膝を地面に付けて放心。
トゥール、魔物がよっぽどこわかったのね。
「シーナ。」
「え?」
肩が急に重くなったと思ったら、睡眠不足のゼンの頭があった。
「ちょっとまって!」
だんだん重く…
「ゼン起きて!!」
あたしそんなに力持ちじゃないから!!
っていうか…
…近い。




