六、あぁもう!!訳分かんない!
「お前のその反応が見たかった。」
低くて男らしいドキドキするくらい綺麗な声。
笑顔には少年の面影が残る。
あたしより年上の人。
「服が使い物にはならないわね。」
姉様の言うとおり、破れてあちこち裂けてる。
机で下半身が見えないのが救いだわ…。
「しょうがないわね。」
シュリス姉様が目を閉じると一瞬にしてゼンが服をまとった。
「あたしの男友達の古い服。あげるわ。」
姉様は良い年して男女共にたくさん友達が居るのに独身。
こんなに綺麗なのに結婚できないのはなぜだろう?
っていうか、勝手にあげていいの?
似合うけど。
白いシャツに黒い綿のパンツという楽な格好なのに、なぜか気品が漂う。
そしてその髪と瞳の青。
「ゼン?…だよね?」
「ああ。」
「一体いくつなの?」
「二十一歳。」
ヨルス姉様と同じ!?
「なんで?」
いきなり…
「シーナ、ゼンはね…一、バテバリーギに変化で竜にされた」
自慢げに人さし指を突き立てる姉様。
「二、竜にとって能力である鱗を奪われた。」
今度は中指も。
「三、石にされたのよ?」
薬指もたててにこやかに笑う。
「知ってるよ。それで石のまま五百年眠ってた。」
それくらい昔教わった。
「そうね。じゃあ、竜が最も得意とする人間の擬態は?」
え?何だっけ?確か学校で習ったはず…
「あ、"少年"。」
「そう。今までは竜だった。そして今の鱗はゼンの肉体という能力だった。肉体を取り戻して呪いが解けたのね。」
呪いが?じゃああたしは…!
「いや、解けてない。姿は取り戻したが呪いはかけた本人しか消せない。」
「まだ呪いがあるの?」
解放されたと思ったのに。
「鱗だ。呪いが解ければ一気に俺の元へ集結する。それにまだこの状態じゃ、竜の体と人間の肉体を一つの魂でつなぎ止めていることになる。」
えっと…難しくてよく分かんない。
バテバリーギめ、余計なことを!!
「呪いを解く方法はあるわ。バテバリーギはまだ生きているもの。」
「姉様!!」
まさかイユのことを?
「アコンス家は代々一人をバテバリーギに捧げるの。魂の器として。」
「姉様!!」
「今はそれが末娘のイユ。シーナの双子の妹。」
「だめ!」
「でもまだバテバリーギは覚醒前よ。直接話してみると良いわ。」
あたしの反応を無視して淡々と語り続ける姉様。
「バテバリーギ…」
またあの目…
「やめて!イユを傷つけないで!!」
お願いだからこれ以上は!!
「ごめんなさいね。シーナはイユの事となると…」
「…ごめん。」
いつの間にか涙まで落としてしまっていた。
ゼンはそんな人じゃないって分かってる。
「ゼン、とりあえず鱗をある程度集めてからにしなさい。覚醒前のイユはかなりやっかいよ。」
「わかった。」
イユはあたしの双子の妹。
10歳でバテバリーギの器になった。
「とりあえず今日はうちで休みなさい。明日トピシーの家まで飛ばしてあげる。」
移動魔法も使えない落ちこぼれのあたしのせいで、奴に選ばれてしまった。