三、どもるなあたし!!
「ありがとうございました。また是非私共の宿をご利用ください。」
こうも豪華な接待だと調子が狂う。
「は、はぁ。」
原因はもちろんお金。
父様が旅費として無理矢理少年に渡したお金。
でも実際は養育費だと思う。
他人の手助けを嫌う彼は、それをこの宿の主人に全部渡してしまった。
…もったいない。
あたしでもあれほど高額なお小遣いもらったことない。
「あ、待ってゼン!」
突然少年はあたしをおいて駆け出す。
…何か追ってる?
「ゼン!!」
何見てるの?
振り返った少年は、ため息の出そうな顔。
「今、鱗の気配がした。」
「え?そんなの分かるの?」
「強い能力がある鱗ほど分かる。…見失った。」
悔しそう。
「ゼン…」
「何だ?」
「バテバリーギを今でも恨んでる?」
「当たり前だ!!」
少年には似つかわしくないその表情にあたしは恐怖を覚えた。
「…そうだよね。」
そのくらい分かってる。
あたしも奴が憎い。
あたしから妹を奪った。
イユを…。
でもゼンは計り知れない量の時間を奪われた。
目覚めれば家族も友達も知り合いも誰一人いない。
「あのさ、なんて言えばいいのか分かんないんだけど…」
ごめんは変だし、がんばれって何を?
「えっと…」
言葉が出ない。
「おまえが気に病むな。」
「え?」
さっきとは全く違う、優しい顔。
でも先祖が悪いことをしたのに見て見ぬ振りはできないし…。
「おまえみたいな魔法も使えないし人間に気を使ってる奴が、バテバリーギの血を引いてるなんて面白いな。」
少年の無邪気な笑顔。
「なっ!!何よそれ!」
魔法は使えます!
子どものくせに勝手に決めないでよ。
「ほめたんだよ。」
それはどうかな?
「今回の獲物は、北炉の洞窟の白狐。」
ゼンがポケットから取り出した紙。
小さくてかわいい魔物が描かれてる。
「ほくろ?」
「北炉。賞金は二万パシー」
「安っ!!他のにしようよ。」
そんなんじゃ生活できない!!
「それ以外に鱗を持っていそうな奴はいない。」
「それより生活が!!」
「大丈夫だ。行くぞ。」
今まで敵を倒した賞金を合計しても、ぎりぎりの生活なのに。
父様からの教育費だけが頼りだったのに。
「がんばろう…。」