十一、あたしが?
あたしの想いがばれた直後、トゥールはあっさり"じゃあ"と別れを告げて、あたし達をツタ姉様の元へ送った。
それにしても、なんだかよく分かんない奴だった。
恋のキューピットが趣味って変だよ。
ツタ姉様は久しぶりに妹が自分の家に居ることに驚いて、何度か扉を開け閉めしてやっとあたしを認識した。
「なーるほどね。あんたがゼン。」
ツタ姉様は、いつも短い髪を頭の後ろ高くにまとめて赤い額当てをしている。
もちろん姉様はあたしが説明しなくてもゼンの存在を知っていた。
姉様は父様さえも頼ってくる情報屋だ。
でも、確かに頼りになるけど変わってる。
姉様の部屋は、大ざっぱな性格を表すように汚い。
仕事で使ったらしい資料とか武器とか山積み。
「鱗はここ。」
小さな袋からざらりと鱗がこぼれた。
「こんなに?」
アコンス家が渡す鱗は一枚のはず…。
「家が未回収だったものとか、近所の迷惑な魔物とか、その辺からパクってきた。」
姉様…。
相変わらずやることが早い。
「わざわざ悪いな。」
ゼンが鱗をつかもうとする。
「あ、ゼン!」
「触るな!!」
ゼンの手が威勢のいい音と共に弾かれた。
「何だよ?元は俺の物だ。」
「知ってるよ。でも集めたのはあたし。その文の代償はいただくわ。」
にかっと笑う顔は全く悪気のない気持ちが良く伝わってくる。
「さすが、これこそ姉様…。」
「あら、ありがと。」
このさわやかな笑顔。
「代償は何だ?」
でもゼンはそれに全く動揺していない。
「おもしろい情報はない?」
「具体的には?」
「まあ、個人的には噂話が好きだけど、政治の話は儲かるから助かるね。」
「噂ではこの国のプスー大臣は秘書とできているらしい。」
「何それ聞いたことないわ!!詳しく教えてくれる?」
プスー?
あたし政治経済には興味ないからな。
ていうか、その情報は信用出来るの?
五百年眠ってたのに。
二人は話を盛り上がるだけ盛り上げた。
あたしにはさっぱりの話に大満足の姉様は、鱗をすんなり手放して、新しい情報までくれた。
あとで姉様は泣くかもしれない。
「あたし、どうしても倒せなかったんだけど、人型の魔物で確か名前は…。」
「ラークラ。」
姉様の後ろに突如として現れた赤い髪。
「僕の事でしょう?」
かわいい笑顔で細めた赤い瞳。
「おまえは…」
飲み込もうとした鱗を手からこぼすゼン。
気構える姉様。
この前の人型だ。
でも…
「背のびた?」
前はもっと小さかった。
「そうだよ。僕は成長期を迎えて、魔力も右肩上がりだよ。」
相変わらずの笑顔だけど、成長を喜んでるみたい。
「だから戦う楽しさが分かってきて…姉さんが遊んでくれて嬉しかったよ?」
姉様に向けられたその笑顔は挑発?
「おまえ鱗は?」
面倒くさそうに鱗を口に運ぶ。
「あげても良いけど遊んでよ?」
「ラークラ、ここで暴れないでよね。」
まあ、そう言うのはもっともだけど…
「暴れた方が綺麗になるんじゃない?」
「あたしもそう思うわ。」
ラクーラ、成長期をむかえて人の話を聞けるようになったのね。
「うるさいわね。」
「俺はおまえの遊びに付き合う気は無い。」
ゼンが最後の一つを飲み込む。
「竜に勝って自慢したかっただけなのに。」
「俺は人間だ。呪いで竜にされた。」
「うぇ。人間だったの?まずそう…。じゃあいいや。」
ラークラは苦いものでも食べたような顔。
初めて見たよ。
笑顔以外の顔。
「仕方ない。帰る。」
ラークラはあっと言う間に去っていってしまった。