番外、え?……あ、ありがとう。
あるの日宿屋でのこと。
ゼンはあたしをおいて、一人出かけてしまった。
今日はトゥールの公演はないのに。
あたしの部屋に顔を出して、
「ちょっと行ってくる。」
って…どこに?
天気もいいしあたしは散歩にでも行こうかな?
あ、そうか。
変な奴がうろついてるから出るなって言われてたんだ。
「暇だな。」
かといってトゥールと会話を楽しむことはあたしには出来ないし。
また一日中、宿にあるつまらない本を読む羽目になるのかな?
本棚を見るとそれはそれは魅力のかけらもない背表紙が…
"経営者の心得"
"経済力のすべて"
"宿にかける思い"
"季節の絶品料理"
読めそうなのはやっぱり"季節の絶品料理"だけね。
ページを開くと見慣れたごちそうが並んでいる。
はじめのうちは美味しそうだったけど何度も見ると飽きてくる。
あたしが好きな本はもっとこう…物語のある話のものよ。
友情って素敵!!
みたいな本。
…無いわね。
ああ、暇。
突然扉をたたく音。
トゥールかな?
扉を開けるとそこには透き通る青い髪の人。
「シーナ。」
「ゼン!!お帰り!」
やっと帰ってきた!
「遅い。」
「は?たったの10分だぞ?」
え?
時計は確かに事実を示していた。
「まあいい。ほら、おみあげ。」
差し出された一輪の白い花。
「見つけたらシーナに見せたくなって、戻ってきた。」
「ありがとう…。」
手に渡された小さな花。
ふいにゼンの顔が近くなった。
「わっ!!何?」
「何でもない。」
その瞬間頬に唇が落とされた。
「ばか。」
何が何でもないよ!
勢い良く扉を閉めて、赤い顔を隠しているあたしがいた。
手には一輪の花。




