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竜の少年  作者: 津田花
11/16

番外、え?……あ、ありがとう。

あるの日宿屋でのこと。

ゼンはあたしをおいて、一人出かけてしまった。

今日はトゥールの公演はないのに。

あたしの部屋に顔を出して、

 

「ちょっと行ってくる。」

 

って…どこに?

天気もいいしあたしは散歩にでも行こうかな?

あ、そうか。

変な奴がうろついてるから出るなって言われてたんだ。

 

「暇だな。」

 

かといってトゥールと会話を楽しむことはあたしには出来ないし。

また一日中、宿にあるつまらない本を読む羽目になるのかな?

本棚を見るとそれはそれは魅力のかけらもない背表紙が…

 

"経営者の心得"

 

"経済力のすべて"

 

"宿にかける思い"

 

"季節の絶品料理"

 

読めそうなのはやっぱり"季節の絶品料理"だけね。

ページを開くと見慣れたごちそうが並んでいる。

はじめのうちは美味しそうだったけど何度も見ると飽きてくる。

あたしが好きな本はもっとこう…物語のある話のものよ。

友情って素敵!!

みたいな本。

…無いわね。

ああ、暇。

突然扉をたたく音。

トゥールかな?

扉を開けるとそこには透き通る青い髪の人。

 

「シーナ。」

 

「ゼン!!お帰り!」

 

やっと帰ってきた!

 

「遅い。」

 

「は?たったの10分だぞ?」

 

え?

時計は確かに事実を示していた。

 

「まあいい。ほら、おみあげ。」

 

差し出された一輪の白い花。

 

「見つけたらシーナに見せたくなって、戻ってきた。」

 

「ありがとう…。」

 

手に渡された小さな花。

ふいにゼンの顔が近くなった。

 

「わっ!!何?」

 

「何でもない。」

 

その瞬間頬に唇が落とされた。

 

「ばか。」

 

何が何でもないよ!

勢い良く扉を閉めて、赤い顔を隠しているあたしがいた。

手には一輪の花。




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