○○使いエステルたん
○○の中に入れる単語は各自お好みでどうぞ。
ああ、それと少々お下品な表現と感じる方もいらっしゃるかもしれません。ですが作者としましては、どうして差し上げることもできません。
ので!ご気分を害された向きにはブラウザバックを推奨して見たいと思います。
アトロが昏倒してから目覚めるまで、その間の経緯をきっちりばっちり身振りを交えて説明を繰り返すこと三度。ようやく目の前の女ダークエルフが自身がよく知る精霊魔術師なのだとアトロは理解することができた。
いや、正確には理解はできるが納得しきれていないでいる、といったところか。膝にエステルの毛布をかけて胡座をかいたまま、腑に落ちない様子で「いや、しかし……」等と呟いては短く太い腕を何度となく組み直している。
アトロがここまで悩み続けているのがなぜかと言えば、少々大袈裟に言えばエステルの調略にはまったため、となるのだろうか。
説明するにあたって、その内容がひどく主観的で自分に都合の良い事実のみを並べ立てていたのだが、これはひとえに雇主から慰謝料含めた報酬を少しでも多く引き出してやろう、などというよからぬ考えが多分に含まれていたためだ。
尤もそれを指摘すれば妥当な報酬額だ!とエステルは強弁して聞く耳をもたない――フリをする――だろうが。
こうして話は冒頭に戻り、アトロはうんうん唸り続けることになったのだ。
こと損益が生じる商売にかけては特にドラスティックで計算高いアトロでもあるが、根っこ部分は善良でお人好しであったりもする。さらに言えばキレイなおねえちゃんには人並み外れてだらしない、これがエステルのアトロに対する人物評だ。
ちなみにエステルは死んでも口にはしないだろうが、そのアトロに対する評価を概ね好意的な感情とセットで胸の内にしまいこんでいたりもする。
今回、その好感の持てる人間らしい弱点につけこんだ形になっているため、ちくりと胸が痛まないでもないがそこは商売である。受けた呪いは護衛の際に生じた損害として想定内と言えなくもないが、だからといってオールオッケーで全面的に譲ってやれるほどエステルは無制限に善人でないし余裕もない。
「約束通り、取れるべき時、取れる所からはきっちりと取る」
過去にいつだったかアトロが言い放った言葉である。
この際エステルはその言葉に素直に従うことにしたのだった。
こうして、この件についてはどうもエステルの思惑通りにことが運んでいるようだった。
当初はジニー召喚による理想の妻ゲット作戦がうまくいかなかった事を嘆いたアトロだったが、エステルの説明が進むにつれて別の感情がそれを凌駕しだしたようで、しきりに「すまなかった」と謝罪の言葉を口にしだしたのである。
無論これはエステルがそう言い出すように誘導したのは先にも述べた通りで、まさに知らぬが仏状態だったりもする。
ついでに言えば、雇う側、雇われる側だけには留めておけない程度には友誼めいたものが存在して、それがアトロの口を突かせているのかもしれないが。
そういうわけで、現在アトロは見ていて気の毒なほど、蒸気をあげてハゲ頭をフル回転させて考え込み続けている。
混乱している、考えが錯綜している、そう表現してもいいアトロの姿を尻目に、かえってエステルは落ち着きを増して合理的に考えをすすめることがきそうだった。
実際、金色の瞳を妖しく煌かせて微笑みつつエステルの口からまろび出たのは、以前の彼を知るものには噴飯級の猫なで声だった。
表エステル「まあ、なったものはしょうがない。そんな気にしてないから。性別が女になったくらいだし。……あぁ、そっか……精霊力も封じられたっけ……ま、まあ、それはおいおい話し合うことにして、この通り、わたしどこもなんともないし。とりあえずは無事に街に戻ることを考えよう?」
などという悶絶必死の殊勝極まりない言葉だったが、当然そんなものは心の片隅に本当にうすーくうすーくぺらぺらっとだけ存在する塵芥程度だ。それで本音をあますことなく吐露したとすれば
裏エステル「気にしれ! 死ぬほど気にしまくってくれ! 財産なげうつくらい気にしてくれ! こっちは精霊力も奪われて商売あがったりなんだ。相応のものを覚悟してもらうからな! いやぁ、今から街に帰るのがたのしみだなぁ! いっぱいハンコ押させてやるぜー!ファーハハハハ!」
……と、こんなだったりもする。まさに……エステル、なんて恐ろしい子。てなもんである。
しめしめと一人ほくそ笑むもそれをおくびにも出さず、なおも考え込むアトロに時々かける言葉は本音とは反比例して甘く優しくなっていくエステルなのだった。
その都度、長考して……と、いった具合に思考の袋小路に迷い込んだアトロの背中を満足げに眺めやったエステルは、中断されていた作業の続きをやり遂げることにした。雇主の覚醒によって中断されていたそれは、呪いによる心身とそれに付随する変化の確認作業である。
これをきちんと確認しておかないと、今後もそうだが帰りの道中で不測の事態に遭遇したとしても対応しきれないからだ。
よし、と小さく勢いをつけると、先ほど外套の上に広げていた彼の獲物の中から、なんの飾りもない無骨そのものといった体のショートソードを手に立ち上がる。実用性だけを考慮したそれは、長年こまめに手入れをし――時には鍛冶屋へ研ぎに出したりしつつ使いこんできたその感触が、女性へと物理的に変化を遂げた彼にはややもすると手に余るように感じられた。
手から伝わる感触は良く馴染んだかつてのものとは違っており、エステルの眉間に苛立ちを示すしわが刻まれていた。鞘を払って、部屋の照明用に掲げられた松明の灯りを赤々と跳ね返すそれを試しとばかりに二、三度回転させて片手で操ってみる。
……うーわ……予想してたのと違うなー、つーか、それ以上に重っ……
振るえないほどではない。ないが、振るい続けられるか?と問われれば答えは間違いなく「ノー」である。しかもこれは、振るっているというよりも重さに負けて振らされているといった方が近い。
構えを変えて、刀身を地面と水平に鋭く踏み込むと同時に「――ひゅっ!」と裂帛の呼気もろとも刺突を繰り出す。付き終えて三秒ほど静止してみるとよくわかる。細く柔らかくなった右腕がショートソードを支えきれず、その剣先がぶるぶると揺れていたからだ。
鞘へと収める手際の良さは健在だが、そんなものはこの際なんの役にも立たない。「ぁー、もぅ!」と誰とはなく独りごちてエステルは頭をかいた。
実際にためしてよくわかった。そして、ためしておいて良かった。レザーアーマーの寸法――主に胸のあたり――が前とは根本的に違う事。そして、それよりもこちらが深刻なことになりそうだが、この女の細腕で武器を振るい魔物などを相手に立ち回ることができるのだろうか、という事。そもそも、闘うという行為自体に懸念がつきまとう。
なんにせよ、街に戻ったら装備を一新する必要がありそうだ。先ずはそこからだな、エステルはため息と共にそう結論づけた。
この分じゃ、体力面も期待できそうにないしな……
僅かな運動で上がった呼吸が褐色の胸を小さく上下させている。苦笑してそれをなだめつつ、あごへと手をやって考え込んでいたエステルだが、ふと視線を感じて横を見た。首の角度が変わるたびに、それにつられてさらりと艶やかな黒髪が肩からこぼれ落ちるのが今の彼にはうっとうしい。
見れば絶賛うなり中であったはずのアトロが口を半開きのまま、じっとエステルの所作を見つめていた。直感でイヤなものを感じ取ったエステルは顰めっ面を隠そうともせず、じろりと視線を出っ腹に突き刺した。
「……………………なに?」
「いや、その汚物を見るような目つきもある意味格別だが……いや、すまん。わしが悪かった。だから剣は下におけ。な?」
「……つまらないことを言うからだろうが……で、なに?」
「苛立つその表情も……げふんげふん。いや、何と言うか……ちょっと言いにくいんだが、その……」
「だから、なんだよ?」
言い淀むこと数十秒。やがて、ぼそっと
「エステルたん、動くたびにおっぱいたぷんたぷ……ずおぐぇっ!?」
エステルの足元に置いてあったまだ十分に荷物が詰まったナップザックが、空を切り裂いてたるんだ中年男の右半面にめり込んだ。人間の言葉かと疑うような奇っ怪な悲鳴を残してアトロの身体が石畳に沈み込む。
無意識の内にかばうように片手で豊かな胸をかき抱くと、長い耳の先まで真っ赤に染めたエステルは、空いた片手でもって不遜な雇主に鉄槌をお見舞いしたのだった。
「うぬぬぬぬ! 人が真剣に悩んでる時にお前というやつは! 馬鹿か! 恥をしれ! 恥を!」
「……あー、いててて。……まあそれはそれとしてだな、エステルさん?」
「………………あんだよ?」
「そんな真っ赤に照れて胸元をぎゅって強調されるとおぢさんもうたまんない……ぶぎゃろっ!?」
「死ね! 死んでしまえ! 妖精王オベロンにかけて時の果てで朽ちてしまえ!」
ここが危険な迷宮地下である事も忘れて大声で罵倒しながら、手近なものをひっつかんでは投げつけるエステル。
ダミーであるイフリートボトルがハゲ頭に直撃したあたりでエステルの溜飲は下げられた。正確に言うなら、両腕を体の前へだらりと垂らして大きく肩で息をするエステルにはもう余分な事で騒げるだけの体力がないというべきだった。
揺れる視線の先に、投げつけられたナップザックや偽イフリートボトル、その割れた破片で出来た山から二本の短い足が生えていた。
これはさすがにやりすぎたかと心配も束の間、破片の隙間から「……ありがとうございます、ある意味ご褒美でした。ばたんきゅぅ」なんてふてぶてしい今際の言葉が漏れ聞こえたりしたので、エステルは心おきなく放置することに決めた。それは自分にとって雇主であるこの関係を正式に破棄しようと決めた瞬間でもあったのだが。
エステルは小山に侮蔑を目いっぱい混ぜたジト目を投げつけると、それを区切りと再び広げた外套へと向き直った。
くどいが、再三エロハゲに中断された確認作業を完遂するためである。
武器防具の類が今の自分に合っていないという事がこれまでの検証でよくわかった。
これはついでだが、たった今アトロとじゃれあったお陰でいかに体力がないかもわかった。持続力もそうだし、手にした壺は重く投げつけても勢いがまるでない。あまりの貧弱さにエステルとしては泣きたいくらいだった。
だが、悲嘆にくれるばかりではなんにもならない。厳しいが現状をよく見据えた上で今後の方針をたてる必要がある。そしてそうしないと未来は暗いものになってしまうのだ。
エステルは頭をふってネガティブな思考を払った。
気力を奮い立たせて次にとった行動は、肝心要の精霊魔術の確認である。
外套の上に広げられた獲物の中から手の平サイズのナイフを手にとった。鞘に銀の蔦が幾筋も絡みついている精緻な銀細工が目を引くこしらえだ。すっとゆっくり抜いてみる。やや暗い地下の照明の下で細く薄い両刃が青い燐光を放っていた。りぃーん、と独特の振動音がかすかに耳に届く。
今はその打ち手が極端なまでに限られるミスリル銀の一品である。大層高価なものだが、これがないとエステルは術師としての力を発揮できない。
精霊魔術師が精霊の力を使役、行使するにあたって必要なものが三つある。
ひとつは、契約を結んだ精霊の秘められた名前であり、それがそのまま術を行使する際において発露の切っ掛けとなる。そして多数の精霊の名前を知っているという事実は即ち多くの精霊を従えており、実力を備えた精霊魔術師である、という事に繋がる。
もうひとつが、いわゆる自分が内包している魔力だ。呼び出された精霊はこの世界で体を維持するために魔力を消耗し続ける。自身の魔力を使い尽くした精霊は精霊界へと帰っていく道理だが、その滞在期間を伸ばすために術者が魔力を分け与えるという寸法だ。これも当然魔力の多寡が使役する精霊の数と時間を決めている。
最後のひとつが先に述べたミスリル銀である。魔術師が杖を使うように精霊魔術師はミスリル銀製の媒体を使う。これは精霊がこちらの世界にある物質を嫌う性質であるために、本来は精霊界に存在していたミスリル銀を用いるのだという説が有力だ。精霊魔術師はミスリル銀の媒体を介して精霊に名を呼びかけ、命令を伝え、魔力を分け与えるのである。
そのミスリル銀の小ぶりなナイフを左手に、エステルは数秒の瞑目で気持ちを落ち着かせて精神を集中させた。
左手はナイフを握ったまま目線の高さに前へ押し出す。そして右手の人差し指が宙に一筆書きで複雑な軌跡を描く。鋭角を多数含んだ複雑なカーブを辿るそれは炎の精霊王イフリートの紋章である。
「指先にきらめく小さな花火」
ふっくらとしたエステルの唇を押し開けて漏れた精霊の名前は、彼だった頃に頻繁に呼び出していた下級の炎の精霊の真の名前だ。しかし神聖な精霊の名前は虚しくも地下の石壁に小さく残響を残すだけで、一向に術者の意図を発動させるに及ばない。
――やはりだめだったか。
宵闇の女王の呪いを疑ったわけではないが、一応の確認とためしてみたが結果はこの通りだ。舌打ちを小さく、エステルは素早く第二、第三の名前を紡いでいくつもの紋章を描き続けた。
「糸杉を濡れ伝う葉擦れの君」「くさはらをたゆたい渡る小さきものたち」「とどまりある老君」
精霊の紋章をいくつ描こうが、その真の名前を何度呼ぼうがエステルの知る精霊の一人としてそれに応じてはくれなかった。時間と召喚に割いた魔力だけが空しく失われていくだけだ。
次第にエステルの魔力も残り少なくなっていった。今日は次に呼び出す精霊を最後と覚悟をきめて、人差し指が何度もうずを巻くような紋章を空間になぞる。
「名を呼ぶも厭われる仄暗さ」
その名を口にした途端、どくんとひとつ鼓動音のあとで確かに自分の魔力が相手とつながった、と感じられた。いつしかミスリル銀の振動音がきぃーんという共鳴音に変わっている。
青い燐光がいや増すつど、足元の石畳の継ぎ目からこんこんと黒い液体が滲み出たかと思うと、みるみるうちに水たまりを形成していた。右手人差し指の渦巻きが速度を上げるに合わせて、水たまりの表面も波打ち大きく右回りで螺旋を描く。
やがてエステルの魔力を十分にその身に受けた黒い水たまりは、回転の速度を次第に落としたかと思うと今度は一定の粘度を保って小山へと丸くせり上がった。
墨を溶かし込んだように光すら通さない漆黒の粘塊。表面は流れる雲のように絶えず流動しているが、崩れることなくぷるるんと小刻みに震える点がどこかフルーティだ。大きさもエステルの膝頭の高さまであり、上から見れば直径一メートルに近い。
闇の精霊界において最下層を這いずりまわるスカベンジャー。白痴にして無限の食欲を象徴する漆黒の精霊の一般名称はブラックウーズ。
わかりやすく噛み砕いて言うならば魔物としてはスライム、原生生物としてならアメーバとなる。ただし、生物としてのスライムやアメーバではない精霊としてのブラックウーズは前者とかなり異なる性質をもつ。
有機物であれば溶かしてしまえるし、金属も時間さえかければ腐食させることが可能だ。はっきり言ってその一点のみがスライム類と同じというだけで、剣や弓など物理的な打撃は一切通用しなかったり、電気は通さず高温にも耐えるといったある種鉄壁の防御力を備えている。唯一の弱点といえば低温に非常に弱いということだけだ。
ここまで説明するとかなり強力な精霊のように聞こえるが、その用途はかなり限定されたものになる。白痴を象徴するように、知能というものを一切持たないからだ。実際これを呼び出した魔術師や精霊魔術師の多くは、自分が管理するダンジョンや身の回りの掃除役としてのみ活用している。
エステルは苦虫をまとめて噛み潰したかのように渋面のまま、目の前でぷるぷる震える山盛りイカ墨ゼリーに手を伸ばした。エステルの手を握り返そうとするかのように、表面がさざ波だって細く黒い触手がゆっくりと伸びる。
物怖じせずに伸ばした先で、餅でも叩くようにエステルはぺちぺちとウーズを叩いた。滑らかで弾力に飛んだ感触が心地良い。
スライムなどと違って召喚者がそれと望まない限りウーズは何を溶かすということもしない。その点では便利といえば便利か。だがそれがなんの役にたつというのか。エステルとしては苦笑するしかない。
かつての精霊魔術師エステルとしては炎の下級精霊である「小さな火花」を主戦力に冒険者として活動を続けてきた。せいぜいがそれに風が加わる程度で、闇属性の精霊など用いた記憶がない。むしろウーズの名を知っていた事に我が事ながら驚いたくらいだ。
だがその認識もこれからは改めなければならない。ヘカーテの言葉通りに地水火風の主要四属性全てを封じられ、ドライアードとの縁も絶たれてしまったのだ。あとに残るはこの真っ黒スライムのみばかりなり、だ。
右手を薄墨の触手に弄ばせつつ、つらつらとエステルはこれからの事に思いを馳せていた。
装備を整えて、他の存在する闇属性の精霊と新たに契約を結ぶ。その出来如何で今後の身の振り方も考えないと。やらなければいけない事は多々あるのだ。
「んー、何とかなるだろ、じゃなくて、何とかしないとだなー…… ん?」
背後から聞こえるガラガラという音にエステルは上体をねじって肩ごしに振り返った。ハゲ頭に壺の破片を乗っけたアトロが本日何度目になるかわからないが、呆然とした様子で座った姿勢のままエステルを見上げていた。「起きたのか」とかける台詞も再びだ。
「今日はもうここに泊まっていくぞ。迷宮の中だからはっきりとした時間はわからないが、山を降りれば間違いなく途中で日が暮れるだろうからな」
最初にアトロが昏倒してからゆうに二時間は経過している。今から慌てて身支度を整えて外へ出ても、夕闇せまる山道を駆け下りる事になるのは必至だ。麓の村につくのは恐らく深夜か明け方になろう。
それならば四方八方に気を配る必要のある野外の夜よりも、お手軽ではあるが警報装置を備えたひとつだけの出入り口しかない地下の一室で一晩過ごした方が幾分ましに思えた。
そう考えて寝泊りする支度をするよう指示したが、アトロは破片の帽子をかぶったまま身動ぎしない。何かを言いたそうにこちらを見つめたままだ。
「なんだよ、またか……」とエステルの肌は悪寒を感じて粟立った。それでもこのままにらめっこをしていてもしょうがない。根負けしてエステルが口を開いた。
「………………な、なんだよ。何か言いたいなら言えよ」
「……言っても怒らないか?」
「――はぁ、子供か、お前は」
「どうなんだ?怒らないか?」
「…………いいから言ってみなよ」
金色の瞳が猫の瞳孔のように収縮した。目が座っているし、心なしか声のトーンも低い。
何やら危険でも察知したのだろうか。慌ててアトロは人さし指をエステルとブラックウーズとに往復させて、ポロリと口を滑らせた。
「ダークエルフのエステルたんはスライム使いだったんだな。ぬとぬとのべちょべちょ……」
「ぶらぁぁぁぁぁっくうぅぅーずッ! この恥知らずのデブを骨も残さず溶かし尽くしてしまえぇぇぇぇぇぇ!」
「ごめん! エステルさんまじごめん! まじそれ勘弁! ほんと溶けるから!」
この日一番のエステルの怒号だか絶叫だかが地下迷宮に響き渡っていた……
本文中でミスリル銀製の「ナイフ」を登場させたわけですが、本来はこれを「ダガー」としておりました。そこでお聞きしたいんですが、「ダガー」って……ご存知です?知名度が低いかなあと「ナイフ」を選択したんですが……作者としては「ダガー」にしたかったなあと。「ダガー」の方がふぁんたじーとして好みなんですよね。ダメージ値1D4ですし。