火蓋は切って落とされた
個性あふれる装備に身を固めた――悪く言えば統一性の欠片もない独創的すぎる集団が、旧バストール内街エリアにその姿を現したのはエステルとエルハートの二人が初めて顔を合わせてより凡そ一日後。短くなった陽が傾きはじめ、影が長く伸びだした黄昏時だった。
まだ暗い朝早くに現バストールを出発した一行は、外縁部ダウンタウンエリアから一気呵成に第一の城壁を突破して内街になだれ込んだわけである。
ハーフエルフのエルハートに率いられた一行はその実力を遺憾なく発揮。瞬くうちに内街エリアを踏破制圧して、今は大正面門を臨む名も無き戦神像のロータリーにて来るべき決戦に備えてのミーティングを兼ねた小休止中であった。
急造とはいえ、流石は現状で望めるバストール最精鋭で構成されたパーティと言うべきか。僅かに半日程度で一人の負傷者もなくここまで到達できる手腕は十二分に手練に値するものだった。
数人の主要メンバーと後衛職が広場中央に陣取って話し合うこの間も、レンジャーやアーチャーが高所を抑えて周囲の警戒、前衛達が武器を手に等間隔で歩哨にあたっている。
誰彼と示し合わせたわけでもなく、各々が役割を理解して持ち場へと散っているのだ。それを当然のようにさらっと実行に移せるあたり、彼らの経験の豊富さが伺い知れるのだった。
しかし結局のところ、このエルハートが提示したクエストに同行した人数は十八人に届かない十五人にとどまった。
内訳は、タンク(壁役)二名、近接アタッカー五名、スカウト(レンジャー含む)四名、ヒーラー二名 ヌーカー(魔法アタッカー、エルハートはここ)二名の計十五名である。
いずれもどこかで名前を耳にしたことのある猛者ぞろいであるとはいえ、やはりというべきかスペルキャスターの確保数に満足できる成果を挙げられなかった感は否めない。
正直なところ手を上げた人数はこれの倍はいたのだが、そのほとんどが内街エリアもどうにかという低レベルの者たちである。
言葉は悪いが、金魚のフンのように実力者パーティのあとにくっついていってのオコボレ狙い、それが彼らの偽らざる心情だろう。
「クエストの内容が内容だ。足手まといはいらない」
メインタンカーを務めるカミーロはそう突き放した。
『塔の騎士』――その異名の出処であるタワーシールドには無数の傷跡がついている。それは壁役である彼がこれまでに仲間を守った分だけ刻まれてきたのだ。
言い方こそ手厳しいかもしれないが、タンクとしてパーティメンバーを守り続けたからこその発言であった。
だがそれに対して真っ向から抗弁した者がいた。『双刀』のディマジオだ。
二つ名通りのシャムシールを、その逞しい背中に二本背負っている。
「どいつもこいつもあわよくばって連中だ。犬死も覚悟だろうよ、連れていけばいい」
「それに……弾よけになるしな」顔の下半分を覆う髭面が獰猛に歯を剥きだしにして笑って見せている。
仮面の女魔剣士は高レベルスペルキャスターである。ディマジオの提案は非道な一面も持っているのだが、誰もそれに対してはっきりと否定しきれないでいる。対高レベルスペルキャスターにおいてそれは自明の理でもあるからだ。
事実、今のパーティ編成においてもその意図が透けて見える。近接アタッカーを全面に押し出すその陣容をして、いつからか『メイジマッシャー』と俗称がつけられるほどに有効な手段なのだ。
――結局のところ、『秩序ある男神』を信奉するメインヒーラーの青年神官ジャン=ルカが、より人道的であるという理由でカミーロに肩入れしたことでディマジオの意見は退けられることになったのだった。
これによってパーティの方針を含め、運用の方向性が定まった。普段は後衛を中心に前衛がそれを守るように円陣に配置、敵と戦うといったオーソドックスな戦法である。
勿論、目当ての女魔剣士を相手取る際には近接職を全面に押し出して圧殺、後衛職がそれを支援する形をとるわけだ。
それで今はいよいよ本番を前にしての意識の再統一と手はずの再確認が目の前で行われているわけなのだが、篝火の明かりに照らし出された顔はどれもこれも興奮して上気していた。
それも仕方のないことなのだろう。女魔剣士が姿を表してよりのこのひと月。何人もこの黄銅色の大正面門を抜けた者はいないのだ。無論、それ以前においてもここ数年は数える程しかおらず、無事に成果をあげて帰還した者になると更に少なくなる有様だ。
――しかしそれも今日までのことになるやもしれない!
揃った面子と戦力を考えれば、それぞれの胸中を満たすのはそんな期待であり、その先に用意されているお宝の山――バラ色の未来である。
希望的観測にしか過ぎないと、平素の彼らであったのならそう一笑に付していたことだろう。
けれどもこの魔王の在す旧バストールという魔境をここまで容易く攻略できているという事実が錯覚させたのか。内より湧き上がる高揚感を抑えきれずといった体で、真剣に話し合えば合うほどにヒートアップしていくのだった。
対してそれに反比例して少女の薄氷色の瞳は文字通り冷めていた。目の前で展開される光景に侮蔑すら滲ませている。金や名声といった俗物的なものに執着することを嫌悪する――半分とはいえ森の民エルフらしい反応であると言えばそう見えるのかもしれない。
だが彼女の場合は違った。エルハートの欲しいものがそれではないというだけで、この醒めたように見える態度もひとえに興味のあること以外に無関心なだけなのである。
ぶっちゃければ、この用意した現バストール最強メンバーですら彼女の目的を達成するための手段のひとつにしか過ぎない。「あっちへ行きたいのでこの駅馬車にのりました」程度の気軽さでしかないのだ。
当然ながら先の技量の未熟な者たちを同行させるか否かについても、主催者として彼女は意見を求められたわけだが「どうでもいいよ、好きにしたら」と彼方へ責任を放り投げてしまっていた。
以降、エルハートの態度にあきれたパーティメンバーは、単なる主催しただけの人としての立場に彼女を止めおいて、自分たちで実質的に責任を伴うことは話しあってここまでやってきたというわけだった。
ではこのハーフエルフの少女の心を占めている想いは何かと問うてみても、頑なに彼女は口を閉ざすだけだった。
それは余人がそれを知った時の反応が容易に想像がつくからだ。間違いなく、驚き、次いで暫し放心した後で「その……阿呆なのか?」と呆れられて小馬鹿にされること請け合いなのだ。
エルハートは人よりも長く、エルフよりも短い人生経験からそう確信している。そして大事にする価値観は千差万別であるとも理解している。
嘆かわしいことにそれがわからない連中が世には多く、共有意識からはみ出た者に対する「非常識な」というレッテル貼りがとにかく嫌いなのだった。
エルフに非ず、人に非ず。
どちらともつかない、宙ぶらりんなまま故郷を持たない彼女が人の世の残酷さから身を守るため、必然的に持ち得た防衛策なのかもしれない。
ともあれ、故に彼女は小さい胸に全てを秘めたまま、想いの丈を決して口にしようとはしない。ただ一人、この願いを叶える冒険の旅に踏み切れるように背中を押してくれた少年をのぞいて。
それ以外の何人にも理解を求める必要などありはしないのだ。
求めているのは中天に有り続ける太陽のように気高く孤高であること。誰の手も届かず、干渉されず、見上げることしか許さない、それでいてその苛烈さで分け隔てなく全ての人の肌を焦がす絶対的な存在……
「――おい」
それまで腕を組んで押し黙ったまま、遠巻きにミーティングを見守っていた虎髭のスカウトが唐突に口を開いた。
思いがけず一同の視線を一身に集めてしまったのが不快だったのか、男はどこか居心地悪そうに顎だけで大正面門を指し示して注意を喚起した。
「どうやらおいでなすったようだぞ」
どれほどの時間を議論に費やしていたのだろう。場所が場所だというのに、エルハート自身、想いに耽ってしまい警戒心が薄れてしまっていた。
無警戒さを指摘されて気恥かしさを虎髭の男に覚えつつ、小さく謝辞を述べてエルハートは振り返った。
果たして一同が等しく振り返ったその先で、黄銅の正面門脇の石柱の影から女が吐き出された。
それもこの場に居合わせた男どもの口から知らず「ほぅ」と嘆息が漏れる佳い女だ。
細く締まった足首にすらりと伸びる長い脚。その上にはたっぷりとした肉付きのお尻から世の女性が羨むほどのくびれを経て、惚れ惚れするほどの双丘が実っている。
その成熟してはちきれんばかりの肢体が首元から足元までを、ぬらりと黒光りする海獣の皮革にも似た素材でぴっちりと押し込められているのだ。要所要所でのぞく褐色の肌と相まってどこまでも野性的でエロティックであった。
だが、彼女の容姿を完璧に表現するには残念ながら情報の全てが出揃っていなかった。
仮面の女魔剣士――その名前が示す通りに無機質な鈍色のサーリットに頭部が覆われているのだ。しかも通常のサーリットとは違って覗き穴のない、まさに鉄鍋をひっくり返したようなのっぺりとした金属兜である。その表面にはうずを巻く『宵闇の女王ヘカーテ』の紋があしらわれているのみだ。
そんな兜をかぶっていても視界は確保されているのか、足取りは確固としたもので、カツカツとヒールが石畳を削る音も規則正しく、こちらを伺うように見据えたまま女魔剣士は十メートルほどの距離で停止した。
「――! ダークエルフか!」
戦士の一人が忌々しそうに唸った。
言われてみればなるほどと納得できる。日に焼けたような浅黒い肌に大陸では珍しい羽濡れの黒髪。そしてエルフを象徴する長い耳。
サーリットの『ヘカーテ』紋も彼女がダークエルフであるならば当然のことだ。彼女ら、ダークエルフの民は須らく『宵闇の女王』を信奉しているのだ。
元は森の民エルフの末裔にありながら水や風の誼を断ち切って黒き獣の手をとった一族。
呪詛に長け、人を殺めることに比重を置いた技に研鑽を積む一族。
そうと信じる大陸の人々からはおおっぴらに種族差別こそされてはいないが、悪感情しか抱かれてはいない。
ほとんど偏見のない冒険者でさえ例外ではないようで、中でも『秩序ある男神』の神官ジャン=ルカなどは露骨に眉をしかめている。彼の教義から言えば仕方ないのだろう。
ダークエルフであることにも動じず、むしろ喜びを爆発させているのは『双刀』ディマジオとその仲間である三人の戦士たちだ。口笛を吹いて囃したて、どの目も欲望にぎらついている。欲望がそのまま言動に直結しているというわけらしい。
「さもしいことだ……」そう評してカミーロが横で小さく首を振っているのが対照的だった。
さて、こちらが品定めをしている間に彼女も同様だったようだ。女魔剣士の見えるはずのない視線が居合わせる面々を撫でてゆき、最後にほんの数瞬ではあるがハーフエルフの少女にとどまった。
それから明らかに小さくため息をつく女魔剣士にエルハートは違和感を覚えずにはいられない。
自分がハーフエルフだから? 半分とはいえ、同族であることに対してのこれから起こるであろう未来に対しての同情? それとも――?
それは戦闘前にあって瑣末事ではあった。あったが、どんな些細なことであろうともモヤモヤを抱えたままで戦いを始めるのはよろしくない。どんなことが命取りになるかわからないのだから。
だがエルハートが抱いた疑問について問いただす機会は失われてしまった。僅かではあるが逡巡しているうちに先方が口火を切ってしまったのだ。
白桃の唇を押し開いて「大凡の見当はついてはいるが」と前置きした上で女ダークエルフは続けた。
「この先はバストールの正当なる支配者、ベルナトッド大公殿下の居城である。どのような理由あって多勢を率いて近辺を騒がせたのか、納得のゆく理由を聞かせてもらおう」
その妖艶なみてくれからは想像もつかない勇ましさすら感じられる物言いは武人のそれであった。声の大きさ、張りとも申し分なく、この人数を前にして物怖じすることなく堂々と強気に言い切るあたりにも自信のありようが伺えた。
それに柔腰に佩いた白銀のシミターに冒頭からずっと片手を添えている。「返答次第によっては一戦も辞さぬ」言外にそう告げているのだ。
――いい根性ね! 嬉しくなるわ!
エルハートは一瞬であれ、先程までどうでもいいことに気を取られていた自分自身をあっさりと切り捨てていた。彼女の挑発が風になって、冷えた心の奥底にくすぶっている火種を燃え盛らせつつあるのだ。
自然と頬も緩み、薄氷色の瞳に急速に生気が蘇っている。夜の帳が降りた広場にあるにも関わらず、彼女の黄金色の髪は焚かれた篝火よりも赤々と輝きだして美しさを増しているようだった。
ハーフエルフの少女、エルハート。彼女は正しく強者であった。
目の前のダークエルフのように、いや、この世の誰よりも強者に接してこそなお奮い立つ。そして、その力は下にふるわれるのではなく、格上に、少なくとも対等な者に対して向けるべきものなのだ。
彼女の目的を知った者は非難するだろう。自らの損耗を避けるために俺たちを露払いに選んだのかと。
それについては、露払いに選んだ点については、彼女は一切否定をしない。だがその動機付けについてははっきりと言い切るだろう。
「この程度の戦闘の連続で消耗するほどひ弱なわけないじゃない。理由は単純、弱いものいじめなんてつまらないからに決まってる!」
――ワタシのスペシャルはワタシと同じくスペシャルに対してだけのものよ!と。
俄然エンジンの回転数をあげだしたエルハートの前では今も女魔剣士と冒険者パーティとの間でやりとりが続いている。
一応エルハートの提示したクエストは大正面門の撃破とあるがそれは途中経過の話であって、そもそもの目的は何かと言えば城内の探索、及び財宝の取得である。
であるならば避けられる戦闘は極力回避して目的を達成したい。労少なく功多く。冒険者とはそういう生き様なのだ。
この女ダークエルフとの間には意思の疎通が図れそうであり、交渉の余地があると判断したようだ。パーティにあってより中立的であろうカミーロが粘り強く説得にあたってパーティ全員の正面門の通過を求めていた。
傍から見れば女ダークエルフの態度には取り付く島もないことが明確なのだが、ディマジオ一党とジャン=ルカを除いたメンバーはダメ元であろうともカミーロを支持しているため、根気よく交渉は続けられている。
それは伝え聞いた噂の通りであれば、ここで彼女と一戦を交えても無傷で済むとは思えず、何よりも傷ついたままこの世の地獄を詰め込んだと謳われる城内に突入したとしても、良い結果が得られるとは到底考えられないからである。
死んでしまっては元も子もない。骨折り損のくたびれ儲け。
それらが彼ら冒険者が最も嫌う言葉である。
「どうか通してもらえないだろうか。私たちは学術的な調査目的で当地を訪れたのであり、あなたや、あなたの言うベルナトッド大公殿下に害意があるわけではないのだ」
「……『塔の騎士』カミーロ。常ならあなたの言には信を置けるかもしれない」
ため息混じりにそう告げられてカミーロは鼻白んだ。交渉を開始してこれより一度として互いに名乗り合っていないのだ。にも関わらずこの女ダークエルフは自身の名を知っている。
何かの術を掛けられたか? そう自問するも魔道が専門ではない彼には適当な答えが見つかるはずもない。明らかに動揺を隠せないまま「……! なぜ、私の名を!?」と口をついたのは至極在り来りな台詞であった。
そしてそれが呼び水になったわけでもないだろうが、次々と浴びせられた名前に更にカミーロたちは混乱させられることになった。
「――ならば問おう。調査目的であるというなら、欲深き『双刀』を伴っている理由は? それに『秩序ある男神』の神官がわたしや、我が主に害意がないとどうやって証明できるのかも。それに――そこのハーフエルフ、エルハートからは剥き出しの敵意しか感じられないのだが」
交渉にあって彼の持ち味は見た目の爽やかさと生真面目さからくる誠実さのみである。策士とは縁遠い性分の彼であったとはいえ、彼自身それが時には最大の武器になると自覚していた。
だがそれも彼が一人であった場合に限り、ましてやその背景を千里眼のように透かしてしまう相手には虚しいだけであった。
今、カミーロと彼を支持する面々は女魔剣士に敗北したことを悟った。これ以上言葉を重ねて信用を得ようとしても寒々しいだけである。相手が一枚も二枚も上手だったのだ。
うなだれて引き下がるカミーロに代わって黄金の少女が歩を進めた。
交渉が決裂した以上、これから辿る道はひとつしかない。薄い胸を精一杯反り返らせて、自分よりも頭ひとつは背の高い女ダークエルフに傲然と向かい合った。
「ワタシたちがなぜここに来たのか、そんなつまらないことを聞いていたわね」
うずを巻く『宵闇の女王ヘカーテ』の紋を睨みつける薄氷色の瞳の輝きが増してゆく。
「ワタシたちは冒険者。そのワタシたちになぜ遺跡を訪れるかなんて愚問極まりないわ!」
ごぅ!とその小さな躰から陽光に似た金色の魔力が溢れかえり、一言一言発するにつれてヒマワリが花弁を空に向かって雄々しく広げるように迸っていった。
「発見し! 踏破し! 撃破し! 略奪する! この四つ以外に何が必要だっていうのよ!」
女ダークエルフがはっきりと苦渋を浮かべてエルハートから顔を背けた。
エルハートが信条とするどこまでもまっすぐな太陽の苛烈さに背を向けるそれは呪われた出自の業なのか。単純にその眩しさのせいかはわからない。
ただ、それまでの強気な態度はなりを潜め、弱々しいほどに女ダークエルフは呻いた。
「……どうあっても引く気はないんだな」
「それは逆ね、ダークエルフ。あなたが引くか、否かよ」
しゃらん、とエルハートが直刃のショートソードを引き抜いた。
「りぃーん」という振動音とともに刀身が青い燐光を放っている。ミスリル銀製特有の発光だ。
事ここに至っては仕方なし。そう決心したのだろう、カミーロは渋々ながらもシンボルでもあるタワーシールドを引き上げてエルハートの横に並ぶように進みでた。
「そうこなくてはな」舌なめずりを隠そうともせずにディマジオが愛刀を抜き放つ。事の推移を彼なりに我慢して見守っていたがその努力も報われる時が来たようだ。その姿は獲物に飛びかかる猟犬を連想させた。
「それであなたも引くつもりは微塵もないのでしょう? ならこれ以上、時を重ねるのは無駄でしかないわ!」
じりじりと石畳の上で複数のブーツが砂を噛む。俯瞰すれば女魔剣士を中心に、それを取り囲むように戦士たちが鉄環を狭めつつあった。
女魔剣士正面をカミーロ。左にエルハート、右をディマジオが務め、他の戦士たちが脇を固めている。五対一で、さながら鶴翼の陣のごとく半包囲しようというのだ。
二分、三分。
どれだけ経過しただろうか、ゆっくりと間を詰められて女魔剣士もようやく決断したようである。
呼気をひとつ吐きだして、どこか吹っ切れたようにエルハートに言い放った。
「しょうがない、恨みっこなしだからな!」
「もとより!」
それが決戦の合図になった。