第53話 とある双子の調べ事
「一夜一夜、ちょっと散歩に出かけよっか」
「……」
僕と一夜が死んで、五日目の朝。僕は一夜に、そんな提案をした。
「どこに行くんだ?」
「散歩なんだから、まだ分かんないよ。気が向くまま歩くんだよ」
「……」
一夜は無言で頷いた。そして昨日から休職中で、ずっと無表情のまま考え事をしている母さんを、チラッとだけ見た。
「……母さんを放っておいていいのか?」
「今日一日ぐらいは大丈夫じゃないかな。今の母さんには父さんがいるし、昔みたいに自殺なんかできないよ」
「……分かった」
一夜はとりあえず納得したようだった。
「さてさて、どこに行こっかなー」
「……」
僕は一夜より先に、外に飛び出した。もちろん、鍵がかかった玄関の扉をすり抜けて。一夜も同様に扉をすり抜けて、それから僕にこう言った。
「あの交差点に行こう」
一夜はそれだけ言って、僕の返事も聞かずに歩き始めた。
***
「――ねえ、一夜。こんなとこに来てどうするの?」
「……」
僕たちは一夜の希望通りに、あの交差点に来ていた。通勤の時間帯はとっくに過ぎてるからか、車はほとんど通らない。たまに自転車に乗ったお年寄りなんかが通り過ぎることもあったけど、人通りは全くと言っていいほどなかった。
「……ここって、こんなに人がいなかったっけ」
「……」
一夜は何も答えてくれなかった。ただ黙って、信号を、横断歩道を――そして何より、色とりどりの花束で彩られている交差点の一角を、ひたすら睨んでいた。
「一夜、何でここに来たかったの? もう何にもないよ?」
ここにはもう、興味本意の野次馬も、大破したトラックも、そして赤いランプを回し続けるパトカーや救急車も、何もないのに――。
「……兄貴」
「何?」
「帰ろう」
「……え、もう?」
僕の問いかけに、一夜は頷いて僕の左腕を掴んだ。
「ここにはもう、何も手がかりはない。唯一あるとすれば――」
一夜は一旦言葉を切って、こう続けた。
「残酷な現実だけだ」
この時の一夜の言葉の意味を、僕は家に帰ってようやく理解することになる。
***
「――貴方だったのですね。私たちの息子たちを殺したのは」
一夜の言う残酷な現実は、僕たちの家のすぐ前で、すでに始まっていた――。