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とある双子の非日常  作者: 吹雪
第10章 99点の壁
47/55

第47話 とある双子の勉強会

「――始めるぞ、兄貴」



 なぜだか未だかつてないぐらいに気合が入っている一夜は、顔を合わせて早々、開口一番にそう言い放った。


「えー、もう勉強? まだ朝の八時だよ?」


 僕は、ようやく明るくなってきた外を窓越しに見ながら、そう文句を言った。けれど、一夜は顔をしかめるだけで、僕の文句を黙殺した。


 ……何でそんなに勉強したがってるんだろ?


 今日の日付は十二月二十六日。楽しい(?)クリスマスと誕生日の翌日である。本来なら、今日からは楽しいはずの冬休みのはずだ。


 しかも、今日はちょうど(?)平日で、父さんも母さんも仕事で不在だ。だから、今日は父さんの苦手なホラーDVDでも観ようかなぁなんて、ウキウキ気分に浸っていたのに!


「……午前中の方が勉強に適している。DVDは午後から観ればいい」


 僕の脳内プランを察した一夜は、フォローするかのように、しかし有無を言わせないように釘を刺した。


 そして、今朝は珍しく話すなあ……と半ば現実逃避を始めつつある僕に、一夜は尚も言い募る。


「兄貴は要領が悪いだけだ。きちんと勉強すれば、必ず満点が取れるはずだ」

「……一夜くん。キミ、母さんに洗脳でもされたのかな?」


 こんな朝早くからハイテンションな弟くんに、若干引き気味な僕である。


 そんなふうにおだてられたって、前半で僕の痛いところを指摘されているだけに、いまいちテンションが上がらない。


「満点を取りたいんじゃないのか?」

「取りたいよ。取りたいんだけどさ……」


 せっかくの冬休み初日から勉強だなんて、いまいち気が乗らないよ。


 そういった言い訳を寸でのところで飲み込んだ僕は、不満げに一夜を見上げた。一夜は、ベッドに座ったままの僕を無表情で見下ろしている。


 ほんの数秒だけ睨み合った僕たちは、ほぼ同時に目をそらし、溜め息をついた。そして、


「一時間だけだ」

「一時間だけならいいよ」


 ……というふうに、互いに同じように妥協することになった。


***


 僕は自分の勉強机と向き合って、その上に英・数・国・社・理の教科書と筆記用具、そしてノートを置いていた。完全に勉強モードの体制だ。ただし、気持ちの面からすれば、あまり気乗りではなかった。


 そんな僕の右隣には、自室から椅子を持ち込んで来た一夜が座っている。


 一夜は互いに準備万端になったところで、手始めにこう聞いてきた。


「兄貴は何の教科が一番苦手なんだ?」

「え、全部」

「……」


 そう答えると、一夜はガックリと肩を落として机に頭を突っ伏してしまった。……そんなにショックだったのかな?


「全部九十九点なのにか?」

「うん。全教科死ぬ気で頑張ってるからその点数なんだよ」

「……」


 またもや黙り込んでしまった一夜は、呆れて物も言えないと言わんばかりの表情で、頭を抱えていた。どうやら、僕のこの嘘偽りのない返答はお気に召さなかったらしい。


「僕はね、一夜みたいに天才肌じゃないんだよ。それに対し、キミは本っ当に完璧だよね! 僕にもその才能を分けて欲しいよ」

「……」


 僕のその僻みっぽい言葉を聞き、一夜は更に不機嫌な表情になった。そして深い溜め息をついて、呟くようにこう言った。


「完璧な人間なんているわけがない」


 その独り言にも似た一言は、僕にはなぜだか意味深げに聴こえた。


「じゃあ、一夜は自分の欠点は何だと思う?」


 そう聞くと、一夜は少しだけ考える仕草を見せた。けれど、すぐに顔を上げて答えた。


「愛想がない」

「ぶはっ!」


 一夜の予想外の発言に、僕は思わず噴き出してしまった。そんな僕を見て、一夜は眉間の皺をより深くした。


「愛想がないって? キミ、ちゃんとそれが自分の欠点だって自覚してたんだね」

「……」


 込み上げてくる笑いを、腹を押さえて必死に堪えていると、一夜はまたしても溜め息をついた。そして、この話はもう終わりだ、と言わんばかりの様子で机に再び向き合った。


「……まずはスタンダードに数学から始めるぞ」

「はいはーい」


 一夜とは対照的に、ちょっとだけ機嫌が良くなった僕は、言われた通りに従った。


「冬課題に数学のプリントが五枚出されていたよな? それの一枚目は単純な計算問題が二十問ある。まずはそれを解いてみろ」

「分かった。一夜はやらないの?」

「……俺もやる。制限時間は十五分でいいな?」

「いいよ」


 ……そんな会話から始まった勉強、もとい課題は、約十分後に思わぬ結果を出した。


「――兄貴」

「何かな?」

「……これは一体どういうことだ」

「……さあ?」


 二人同時に終わらせた数学の課題プリントを採点し終えた一夜は、驚き呆れた表情で僕を一瞥した。それに対し、僕は取り繕うような苦笑いで応えた。


 二十問あった計算問題。一夜は全問正解、僕は一問目のみ不正解という、ちょっとだけ残念な結果となった。


「……兄貴、なぜ一問目を間違えた。一番簡単な問題のはずだろうが」

「あ、本当だ。何でだろ」

「……」


 一夜の言う通り、一問目は一番簡単な問題で、その次から少しずつ応用に入って難しくなっていっていた。一問目が解けないのに、それ以降の問題が解けるのは、確かに矛盾している。


 一夜は僕のプリントを睨みながら頭を抱えてしまった。なかなかお目にかかれない、貴重な光景と言えるだろう。密かに写メりたいと思ったものの、それをやってしまったら一夜の機嫌が悪くなってしまうのでやめておいた。


「……もう一度だ」

「何が?」

「もう一度解くんだ」


 一夜はそう言うと、ルーズリーフを一枚取り出して、それに電光石火のごとく(言い過ぎだけど)全く同じ問題を二十問全て書き写した。


「あれ、問題の順番変えてるの?」

「ああ。これをまた解くんだ」


 いつもより少し乱雑な字で書かれたその問題を見て、僕は今度こそ全問正解を狙うぞ、と意気込んで、再びシャーペンを握った。


 

 ――ところが。



「……兄貴」

「……はい」

「なぜまた間違えた」

「……さあ」


 今度は最後の問題だけ間違えてしまった。初めて解いた時には正解だったのにも関わらずだ。逆に、最初に間違えてしまった問題は正解だった。


 この結果を見て一夜は、これ以上ないぐらいに深い深い溜め息をついた。それを見て、僕は何だか申し訳ない気分になってしまった。


「一夜、ごめん。僕、もっと頑張るから」

「……問二十の答えは?」

「18xy」

「……解けるじゃねえか」


 一夜はふざけんな、とでも言いたげな様子でそう呟いた。僕はそんな一夜にこう言った。


「僕はね、一夜。きっと何かの呪いにかかってるんだよ」

「……」

「だって、おかしいじゃないか。僕はきちんと問題の意味を理解して解いてるはずなんだ。なのに、僕はどうやっても一問だけ間違えてしまう。これって要するに、僕は九十九点しか取れない呪いがかかってるということだよ!」

「……」


 僕のその言葉を聞いて、一夜はなぜか絶望に満ちた表情で額に手をあてた。そして何度か首を左右に振ると、ようやく顔を上げて、真っ直ぐに僕を見据えた。


「……兄貴の言い分はよく分かった。だから俺も

、兄貴のために精一杯の解決案を出そう」

「え、何々?」


 僕は期待に満ちた表情で一夜を見つめた。すりと一夜は、ひどく面倒そうな表情で僕にこう言った。


「……兄貴がもし、休み明けの試験で一教科でも満点が取れたなら、一つだけ頼みを聞いてやる。これでどうだ?」


 一夜のこの提案に、僕が反対する理由はなかった。この時すでに、僕は一夜に何を頼むのかを決めていたからだった。


「じゃ、じゃあさ!」

「……」


 一夜は物凄く嫌そうな表情をしている。きっと、僕がどんな頼み事をしてくるかを予想してるのだと思う。


 それでも僕は、一夜からせっかく与えてもらったチャンスを逃がすつもりはなかった。だから、もちろん遠慮もしない。


 僕が一夜にした頼み事。それは――



「ケーキバイキングに行きたい!」


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