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とある双子の非日常  作者: 吹雪
第9章 波乱の幕開け
43/55

第43話 とある双子のすれ違い

「――あ、一夜」

「……」


 昼休みも半ばにさしかかったちょうど今、俺は何となく屋上に来ていた。相変わらず埃っぽいそこに足を一歩踏み入れると、正面のフェンスにもたれかかって腰を落としている、一夜の姿があった。


 こんな太陽もない寒空の下で、なんでそんなに無表情でいられるんだか。


 一夜は俺に気づくと、あからさまに嫌そうに眉間に皺を寄せた。失礼な奴だな。


「お前さ、学校来るならちゃんと授業受けろよ。意味ねえじゃんか」

「……」


 大して仲良くないのに馴れ馴れしく話しかける俺に、一夜はさらに眉を寄せた。相変わらず兄貴である千夜以外の奴とはコミュニケーションをとる気がないらしい。つくづく面倒な奴だ。


「なあ、お前ら何で喧嘩したんだ? 千夜は肝心の喧嘩の原因を教えてくれねえんだよ」

「……」


 俺の問いかけに、一夜はふいとそっぽを向いてしまった。おいおい、やっぱりお前も答えないのかよ。


 俺は呆れ半分落ち込み半分といった気持ちで深い溜め息をついた。やっぱり、興味本位でこの双子に近づくのは駄目か。


「……分かったよ。答えなくてもいい。けどな――」


 俺は真剣な表情で一夜にこう言った。


「千夜、仲直りしたがってるぞ」

「……」


 俺のこの一言には、流石の一夜も微かに反応した。ピクリと眉が上がったのを俺は見逃さなかったぞ。


 俺はそんな一夜の反応に満足して、一夜に背を向けて屋上を出て行こうとした。すると、


「……お……るい」

「……は?」


 背後から小さな声が聴こえた。それは確かに一夜の声で、俺は驚いて振り向いた。


 一夜は、なぜか辛そうに顔を歪めていた。


「……俺が、悪いんだ。兄貴は悪くない」

「どういう、意味だ……?」


 一夜の意味深な発言に、俺はそう聞き返した。だが、一夜はそれっきり何も応えなかった。


***


「さて、今日から中国史に入るぞー。中国はやたらと国や皇帝が替わるから、皆気合い入れて覚えろよー!」


 一夜と別れた後の俺は、普通に教室に戻って来て授業を受けていた。


 時限は四限目。世界史の時間だ。世界史と言えば、我が校一の人気教師、姫宮冬夜先生である。


 姫宮先生はいつもの王子スマイルで、女子生徒たちをメロメロにしながら嬉々として黒板にチョークを滑らせている。


 姫宮先生はその容姿と人柄から、殆どの生徒の注目と尊敬、そして人気を集めている。


 俺も初めて姫宮先生を見た時はビビった。あんな美形な先生が存在していいのか、と。あんな先生が教えるんじゃ、殆どの女子が授業に集中できないだろう。先生の存在自体が授業妨害だろ。


 しかしながら、そんな姫宮先生に告白紛いのアタックを仕掛ける女子は少ない。その理由は、先生が妻子持ちの三十五歳だからだ。


 あの容姿で妻子持ちの三十五歳って……リア充爆発しやがれ。


 ……まあ、とにかくそんな訳で、姫宮先生は生徒たちにとって憧れの的なのである。


 そういえば、姫宮先生と姫宮兄弟って名字が同じだし、ちょっと似てるよな。でも流石に親子ではないだろう。三十五歳で高一の父親って、どんだけ早くに子供出来たんだよって話だろ。ないない。


「……あれ、また姫宮弟は欠席なのか?」


 張り切って授業を開始しようとしていた姫宮先生は、ようやく一夜の席が空席なことに気がついた。


「姫宮兄、弟はどうした?」

「……さあ、多分屋上で冷たい風にあたって黄昏てると思います」

「……修行かそれは」


 千夜のつんとした答えに、姫宮先生はあからさまに溜め息をついた。


「ずっと屋上になんかいたら風邪ひくだろうに……」

「……風邪?」


 先生の心配げな呟きを聞いて、千夜は真剣な雰囲気で考えこみ始めた。そして、


「……ああ!!」


 突然そう大きな声をあげて立ち上がった。すぐ前の席に座っている俺は、釣られて大袈裟に驚いてしまった。千夜を窺うように後ろに振り向いた俺は、なぜか半泣き状態の千夜と目が合った。


 ……一体どうしたんだよ。


「父さん!!」

「え」

「ごめん、用事思い出しちゃったから、今日は早退するね!!」

「はあ!?」


 千夜はそう一方的にまくし立てると、自分の学生鞄に教科書などを乱暴に入れて急いで教室を出ていってしまった。千夜が出ていってからの数秒は、痛い静寂が教室内に染み渡っていた。


「……あの……」


 沈黙を破ったのは、たった今千夜に"父さん"などと呼ばれた姫宮先生だった。先生はこめかみをピクピクと痙攣させながら、青筋をたてていた。明らかに怒っている。


「あんの馬鹿息子が!!」


 先生はそう怒鳴ると、教科書を乱暴に教卓に叩きつけ、千夜を連れ戻すべく教室から飛び出していった。そしてまた痛い静寂が訪れた。


「……姫宮先生って、双子の父親だったのか」


 どうりで双子が美形なわけだ。そうポツリと呟いた俺に、クラス一同は激しく首を縦に振った。


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