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とある双子の非日常  作者: 吹雪
第9章 波乱の幕開け
42/55

第42話 とある双子の事情

 "あの姫宮兄弟が喧嘩した"


 この噂は瞬く間に一年全体に広がった。面白いぐらいに迅速で正確な伝言ゲームは、我が一組から末端の八組まで、すぐに伝わってしまった。


 八組に伝わったということは、必然的にあの姉妹がでしゃばってくる。


「千夜さん! あの弟さんと喧嘩したというのは本当ですか!?」


 ほら来た。十月辺りから千夜に絶賛片想い中の女子、綾小路美咲が。


 綾小路美咲は、姫宮兄弟と同じく美術部員だ。そして、こちらも双子だったりする。


「姉さん、そんなに急がなくても、あのムカつく弟がいないんだから大丈夫よ」


 何が大丈夫なんだ、何が。


 綾小路美咲の双子の妹、綾小路美波は、呆れた様子ながらもしっかり姉に付いて来ていた。


 この綾小路姉妹は、十月に行われた芸術コンクールにて、姫宮兄弟に惜敗した。ところが悔しがる姉妹(特に姉)に、千夜があろうことか、天然タラシを発動した。その結果、綾小路姉は千夜にあえなく陥落した。


 以来、この姉妹は昼休みや放課後などに、よく我がクラスを急襲してくるようになった。まったく、迷惑な話だ。


 うちのクラスの姫宮兄弟ファンに睨まれながらも、綾小路姉は全くめげなかった。あの不治の鈍感を患っている千夜に猛アタックする綾小路姉の姿は、正直見るに耐えないものであった。


 そのせいだが、綾小路姉妹は弟の一夜はあまり好きではないらしい。おそらく邪魔なんだろう。一夜もなんだかんだで、兄である千夜のガードは一生懸命だからな。


 長くなってしまったが要するに、千夜が一夜と喧嘩して一人ということは、綾小路姉にとってはアタックのチャンスなのだ。


 ここぞとばかりに千夜に詰め寄る綾小路姉の表情は、嬉々として輝きを増している。そして、そんな彼女に若干引き気味な千夜のひきつった笑みは、普通に見たら憐れで仕方がない。


 仕方がないな。前後の席になったよしみで千夜に恩でも売ってやろうか。


 俺はそんな軽い気持ちで体を後ろに向けた。


 ……が、


「……何よあなた、姉さんの邪魔する気?」

「……いえ、滅相もございません」


 妹の殺気のこもった睨みに負けた俺は、そそくさと体を正面に戻した。


 すまん、千夜。俺はまだ死にたくないんだ。


 何となく雰囲気的に、背後から千夜の恨みがましい視線を感じるが、俺はそれを無視した。


「千夜さん、弟さんがいないなら、わたくしたちと昼食をご一緒しませんか?」


 うわ、性格最悪な双子姉妹に囲まれて昼飯なんて、死んでもゴメンだな。


 さあて、キングオブ鈍感の千夜はどう出るか。


「……どうやったら一夜と仲直りできるんだろ……」


 あれえ、話が噛み合ってないぞ? そこはイエスかノーで応えるところだろうが。何でそのタイミングで独白が入るんだよ。


「……そもそも、何で貴方たちは喧嘩したのですか? 昨日の放課後までは普通でしたのに」


 うわ、綾小路姉が無理に話を合わせてくれた!! 意外にいい仕事をするじゃねえか!!


「……さあ、何でだっけ?」


 そこでボケが入るのか!! 何忘れていやがんだこの馬鹿!! ボケるにはまだ早いぞ!?


「……忘れたのですか?」

「……うーん。多分、僕が悪かったんだけどね」


 なら謝れよ。きっとあの一夜なら許してくれるだろうに。


「でも僕が謝ったら、負けた感じがするからやだなあ」


 ……それじゃ永遠に仲直りできねえぞお前ら。


 キョトンとした表情でとぼけたことを言いまくる千夜に、俺も姉妹も呆れてものも言えなかった。


「どうしようかな……一回一夜とタイマンはってみようかな……ほら、男は拳で語り合うものだっていうし」


 いつの時代の青春マンガだ!! そもそも、お前じゃ一夜の相手にはならないだろうが!!


「あ、でも僕じゃ一夜には敵わないか。僕って何やっても一夜に負けるんだよねえ」


 しみじみとした調子でそう言う千夜は、ある意味兄として情けないものであった。それでも一夜よりモテるんだよな、こいつ。やっぱり性格のほうが顔より重要なのか?


「そ、そんなことはありませんわ! 千夜さんの絵のほうが、弟さんよりも素晴らしいとわたくしは思います!」


 お、姉がフォローした。


 綾小路姉の必死のフォローに、千夜は一瞬驚いた表情を見せた。が、すぐに気を取り直して微笑んだ。


「ありがとう美咲さん。そう言ってもらえて嬉しいよ」

「え……い、いえ。わたくしはそんな……」


 キラキラと効果音がつきそうなぐらいに眩しい笑顔を見せる千夜に、綾小路姉は顔を真っ赤にした。


「あ、ヤバい。忘れてた」

「え?」

「実は僕、先生に呼び出しくらってたんだよね。職員室に行かなきゃ」


 千夜は突然席を立つと、焦っているのかいないのか微妙な表情を浮かべてそう言った。困惑げな姉妹には全く気がついていない。


「ごめんね、お二人さん。お昼はまた今度ね。どうせなら、暇そうな彼を誘ってあげて。じゃあまたね!」


 千夜は声をかける間もなくそう一方的に言うと、そそくさと弁当を片手に走り去って行った。綾小路姉妹はポカンとして呆然としている。


 ちなみに、"暇そうな彼"というのは、俺のことである。俺は千夜と姉妹の会話を聞きながら、自分の弁当をつついていたのだ。


 そんな俺をチラリと見た綾小路姉は、


「……お断りしますわ」


 ……大層ご立腹だった。


 姉妹は不機嫌オーラ全開で、さっさと教室から出て行った。すると、途端にクラスメイトたちから同情の視線をいただいてしまった。それに俺は思わず溜め息をつくと、こう呟いた。


「だから、何で一夜と喧嘩したんだよ」


 すでに不在の千夜に向けて発した俺の一言に、クラスメイト一同は力強く頷いてくれた――



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