第41話 とある双子の喧嘩
今回はクラスメイト視点で始まります。
「――あれ、弟は今日もサボりか?」
「……一夜なんか知らないよ」
我がクラスの名物双子の兄は、絶賛不機嫌中なご様子です。
***
今は十二月初め。期末試験は終わり、もう少ししたら楽しい冬休みやクリスマスなどが訪れる時期である。
うちのクラスも寒さに震えながらも、皆どこかウキウキとした賑やかなムードが漂いつつある。
そんな中で、一際異彩を放っている人物がいた。そいつは一番後ろの真ん中の席に鎮座し、その真ん前の席に座る俺に妙な圧迫感を与えてきていた。
あと五分で朝礼が始まるのだが、まだ余裕があると自分に言い聞かせて、俺は体を後ろに向けた。
それで真っ先に俺の視界に飛び込んできたのは、不機嫌そうに眉を寄せて頬杖をついた双子の片割れ――姫宮千夜であった。
つい昨日席替えをしたばかりだから、まだ千夜とは話したことがなかった。――いや、席替えをしてからは話していない、という意味だ。
とにかく、今日の千夜は機嫌が悪い。いつも明るくニコニコしているあの千夜が、珍しいぐらいに不機嫌オーラをまとっている。
他のクラスメイトたちも、千夜のその様子に気づいていた。たまにチラチラと千夜の顔を窺っているのがいい証拠だ。
だが、それでも誰も千夜に声をかけることはなかった。皆、千夜の不機嫌オーラに圧倒され、できれば関わりたくないという雰囲気を醸し出している。
だがしかし、俺には今、猛烈に気になっていることがあった。俺は自分の席から見て左の窓側にある、一つの空席を横目でチラリと窺い、千夜に声をかけた。
「――あれ、今日も弟はサボりか?」
「……一夜なんか知らないよ」
「……へ?」
千夜の憮然とした答えに、俺は一瞬反応することができなかった。俺たちの会話(?)に耳を傾けていた周りのクラスメイトたちも、皆一様に蒼然としてしまった。
ちょっと待てよ。あの姫宮兄弟だぞ? あの仲良しこよしの双子が分かれて行動しているだけでも珍しいっていうのに、あのブラコンの千夜が、不機嫌オーラをまとって一夜なんか知らないって言ったんだぞ?
千夜がブラコンであるということは周知の事実だ。幸いなことに、変な意味ではない。とにかく、千夜は一夜に対してブラザーコンプレックスなるものを抱いているのだ。
そんな千夜が、あのブラコン千夜が、一夜の名前を出しただけで不機嫌そのもの。
――これは何かあったな。
俺は心の中でそう呟くと、勇敢にも千夜に探りを入れた。
「……千夜、お前、もしかして弟と喧嘩したのか?」
「……」
千夜は何も応えなかった。だが、まるで一夜のごとく焦げ茶の瞳を鋭く光らせたので、俺の考えは間違ってはいないのだろうと判断した。
「……ぶり……」
「え?」
突然、千夜は小声で何かを呟いた。だがよく聞き取れなかったので聞き返すと、千夜は半泣き状態でこう怒鳴った。
「一夜と喧嘩するの、三年ぶりなんだよ!!」
千夜のその怒鳴り声は、廊下にまで届くんじゃないかというぐらいに大きなものだった。
……三年も喧嘩してなかったのか。
寧ろ、そんなに喧嘩してないほうが一般的には珍しいんじゃないだろうか。びっくりだよ。
千夜の言葉には、思わずこの場の全員が絶句してしまった。たまたまうちの教室の前を歩いていた、他のクラスの連中までもが開いた窓や扉から覗いてしまうぐらい。それはもう、びっくり過ぎる発言であった。
「――だから、何でお前ら喧嘩したんだよ」
シーンと静まりかえってしまった教室のどこからか、そう千夜に突っ込みを入れる声が聴こえた――